二日目 オアシス~キャラバンの人々
オアシスで歓迎されたようです。
俺は基本、人見知りではない。
ただ、見知らぬ人に囲まれてへらへらしていられる程の強心臓でもない。
しかも。
それが、美人だったら。
「へえ~、転移で砂漠にね~」
「凄くない?遺跡でも見つかるのって稀なんでしょ?」
「ね、ね、どんな所から来たのっ?緑が一杯ある?それとそれと水に囲まれてるんでしょ?どんな感じ?」
「ちょっと、あんまり一斉に話しかけても答えられないでしょう!!ちゃんと一人ずつ話しなさい!」
「あ、じゃあ、私聞きたい!!それなに!?腕のやつ!ひょっとして魔導機じゃないの?」
「ちょっと、質問の前に、ちゃんと挨拶しないとダメでしょ!!…すいません、この子達、他所の人を見る事が殆ど無いもので…」
「あ、はい、大丈夫です」
5名の美人さんは、それぞれの思いを視線に乗せてこちらを見詰めてくる。
モテている錯覚がするから、これはこれで幸せだったりするけど、一人目敏い子がいるな。
腕時計…当たり前のように付けていたけど、この世界だとどうなんだ?
アクセサリーで済ませるのは無理かなぁ…
「みんな、落ち着きなさいな。しばらくは一緒にいるんだから焦らなくてもいいのよ」
ハイファさんの一声で、五人は渋々一歩下がってそれぞれを牽制し始めた。
「マリカ、年長から自己紹介したらどうだい?」
「あ、はい。では、私から…マリカです。よろしく…」
「ムラクモです、よろしくお願いします」
マリカさんは大学生くらいかな?
周りの子よりも大人びた印象がある。窘めていたのも彼女だ。
髪は肩口までで右側に一纏めにしている。色は薄い茶色…この人達は基本茶系統の色素らしい…肌は皆より少し濃い小麦色かな。瞳の色は濃い茶色…他の子も濃淡はあれど茶系統だ…目は少し釣り目できつそうな感じだけど、顔の造りは少し丸型だから可愛い印象を受ける。スタイルはスレンダーで身長が同じくらいだ。他の子よりは高いけどハイファさんも同じくらいだから、平均は高めなのかもしれない。ちなみに男二人は俺よりも背が高い…俺は173cmだから低くはない…よな?
「じゃあ、次は私だ。3班のバシラだよ、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
バシラさんは高校生くらいじゃないだろうか。整った顔立ちで真面目な印象を受ける。ショートボブの髪型が似合っていて、あどけなさと大人びた雰囲気が混在してちょっと取っ付き難いタイプにも思える。背は160cm前後でこれまたスレンダー。そして首から鎖骨辺りのラインが妙に色気がある…。
「次私だ!私はラティーファだよ。ねえ、その腕のやつなに!?」
「えー、とりあえず、よろしく。これはアクセサリーみたいなものかな」
…嘘はついてない。
「そうなんだー…でも、なんか魔力を感じるんだけど?」
「そういうものです」
「…それ、魔導機じゃん!!」
「ラティーファ、お客さんを困らせるものじゃないよ」
「…はぁい」
「ラティーファ!副隊長に対してなんだその態度は!!」
「ハビールうるさい…」
「なっ!?」
「…いい加減にしなさいね?」
「「…」」
副隊長のエルダスさんの静かな怒りが二人を黙らせたみたいだけど、こういう規律がしっかりしているのは大事な部分だから、個人的には好感度アップだな。そしてラティーファさんはちょっと注意した方が良さそうだ。見た目はおさげの委員長タイプなんだけど…我が道を行く性格は良くも悪くも面倒だからなぁ。それに、目がくりっとしていて可愛いから油断できない。背は150cm前半くらいだから上目遣いが余計に…ね。
「じゃあ次私ね!私はモニールだよ!えっと、外の事知りたいから教えて欲しいな!」
「あ、はい、よろしく。話せる範囲で…いいなら」
「やったー!」
「ちょっと、私には教えてくれないのに!?」
「え、それとこれとは別…」
「なにそれー!?」
この二人、姦しいな。
ラティーファさんとモニールさんは元気っ子だ。
モニールさんの方が少し背が高い。髪はミディアムのボブという感じで色は一番明るく赤みがかかっている。目はくりくりきらきらで好奇心の強さを思わせる。そして、小さめの口が何処か二次元キャラを髣髴させるから余計に可愛いという印象が強い。
「まあまあ、話を聞く時間はあるのだから、ね?」
何ですかその意味深な視線の投げかけは?
…さてはエルダスさんも遺跡の話を聞く気まんまんだな!?
「あの、わたし、アミーナです…あの、よろしくです」
「あ、よろしく…」
端っこで一歩引いてこちらをちらちらと伺っていたのがこの子だ。
アミーナさんは、ロングのゆるふわ系の髪が似合う美少女。肌が他よりも白さが目立っていて少し病弱な印象もあるけど、何気に一番大きい(何がとは言わないけど)のが妙に色っぽい。でもこの子一番年下なんだよな…たぶん中学生くらいだと思うけど。
「それにしてもここで客に会うのは久し振りだよね?」
「そうだね、前回は2年前だったかな?」
「東部は特に…ねぇ」
バシラさんの疑問にエルダスさんが答えると、ハイファさんが渋い表情でそう言った。
「よく無事だったよね!」
「魔物に襲われなかったのは風の導きなんだろうね」
モニールさん、無邪気に刺さる台詞を言わないで欲しい…
エルダスさんは風をやたらと押してくるけど、信仰なんだろうか。
神様とかどうなっているのかは結構重要だし、聞いた方がいいかもしれないな。
「ねえ、それよりも、それなんなのよ!」
若干切れ気味のラティーファ。ずっと腕時計を見ているけど、そんなにか?
これ、スマホを見せたらえらい事になるんじゃ…
{排除しますか?}
…しないで。
{基本的に、マスター以外のものには使えませんので見せるだけなら問題ありません}
そうなのか?
{はい。何かしようとしても、こちらで処分できます}
過激過ぎる。やっぱり穏やかじゃないよスマホさん。
でも、それなら人前で使っても大丈夫…かな?
「ちょっと、無視しないでよ!」
「あ、ああ、ごめん、ぼーっとしてた」
「そういえば、食料も水も尽きてここまで来たんだったね。それじゃあ、チャイを用意するから一息入れようか。マリカ、準備を。それとジャウルンデもね」
「はい、準備しますね」
あー…なんだか気を遣わせてしまったな。
でも、お腹に水以外を入れたいのは確かだし甘えておこう。
…あれ?そういえば、俺、ジャウルンデの実を何処にしまったっけ?
{ストレージに保管しています}
…ん?
{魔力の余裕を見て、ストレージ機能を解放しました。これは魔導術による鞄とお考えください}
わーお。いつの間にか定番の能力が手に入っていたよ。
え、ということは無限に荷物を持てるのか?
{ストレージ機能は常に必要魔力が消費されますので、安全基準を踏まえた結果、今回は一辺が10mの立方体の空間を用意しました。総魔力量が億を越えた辺りで、無限に近い感覚でストレージ機能を使えるようになると試算されていますので、それまでお待ちください}
あ、いや、そこまでは使わないと思うから、大丈夫。
{では、その都度必要な分を拡張します}
よろしくね。
{はい}
…そっかぁ…鞄がスマホと合体するとアイテムボックスに…。
まあ、お気に入りの鞄だったし、無駄にならずに済んだと思っておこう。
しかし、そうなると鞄のポケットに入れた諸々のアイテムもスマホに取り込まれているのか…?
「さ、中へ行きましょう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「…ところで、モニールとラティーファは仕事は終わったのかな?」
「「えっと…」」
「………」
「「いってきます!」」
サボってきてたのか、二人は。
エルダスさんの態度を見るに、いつもの事って感じだなぁ…。
「副隊長、私は漁の方を手伝ってきます」
「そうか、バシラ、ついでにハナンに夕飯を一人分増やすように伝えておくれ」
「はい。では、失礼します」
ああ、なんだか申し訳ないけど、ここは甘えておこう。
それにしても、漁…湖に魚がいるって事か。
この世界の食べ物を食べても、問題ないよな…?
{魔力は死と共に無くなりますので、生きたまま食さない限りは問題ありません}
そうか。生きたまま食べるとか、まず無いから大丈夫だな。
「では、ムラクモ君はそちらへ。さてさて、どこから聞けばいいのか…」
促されるままにテントに入って、着席。
向かいに座ったエルダスさんはニヤニヤと嬉しそうにしている。
余程、遺跡の話を聞きたいらしい…。
右斜め前にちょこんと横座りしたのはアミーナさん。この子は引っ込み思案な印象だけど、ちらちらとこちらを伺う姿勢は好奇心を隠しきれていないようだ。意外とお転婆な所もあるのかもしれない。それに横から見ると、やっぱりその膨らみが主張している。ボイーンとね。…本当にこの表音がぴったり当てはまるなんて凄いと思う。
「うーん、とりあえず、最初に聞いておこうかな。ムラクモ君の生業はなんだい?」
生業…か。
フリーターで通じないよな…となると、なんて言えばいいのか?
「探索者…にしては線が細いから、研究者だと思ったんだけど」
「そうですね、色々と仕事を請け負ってそれをこなす、という感じでしたので…」
「ふむ、契約職員か…。遺跡にも関わるなんて、随分と幅広くやっていたようだね」
「まあ、そんな感じです」
実際、色々と職種はこなしていたと思う。
しかし、話を聞くに、遺跡に関わるのはあまり普通ではないというニュアンスを受けるが…。
「遺跡関連の仕事って珍しいですかね?」
「それはそうだよ。遺跡自体がそれ程多くないし、魔物の影響もあるからね。あ、でも、東方列島だとその辺はまた違うのかな?少なくともこの砂漠周辺だとかなり難しい仕事になるよ」
なるほど。そういう事か。砂に埋もれた遺跡とか発掘するのは大変だろう。
しかも魔物に襲われるとか、かなり割に合わない仕事になるのか。
「ふむふむ、そうするとこちらの仕事も幾つか手伝ってもらって、適性を見て割り振ろうかな」
そうか、色々と分担しているんだな。確か25人、この周辺にいるって事だったから…他の男達は外で狩でもしているのかもしれない。となると、最初に会ったハイファさんは、採集をしていたのだろう。もしかしたら近くに他の人もいたのかもしれないな。
「そういえば、ムラクモ君は何歳なのかな?」
「あ、35ですね」
「…えっ」
エルダスさんが停止した。ついでにアミーナさんも目を丸くしてこちらを見ている。
「年齢…を聞いたんだけど…」
「はい、35歳ですね」
「…」「…」
「うそぉぉっ!?」
えっ、なんでそんなに驚かれているんだ?
{マスターの肉体は改変の影響を受けておりますので、この方々の主観では35には見えないのだと推測されます}
…あ、そういうことなのか。そういえば多少は俺も改変されていたんだっけ?
あー、道理で髭があまり伸びなかった訳だ…。
「あー、まあ、これでも年を重ねているんですよ」
「いやいや、それにしたって…ねえ…20前後にしか見えないよ…」
え、そんなに?
最盛期の肉体になった…のかな?
「でもそうなると…これは…ますます色々と話を聞けそうだね…」
あっ、それは困るな。遺跡の話なんて一つもないんだけど。
…いや、とりあえず地球での話でもして濁しておくか?
「失礼します。チャイをお持ちしました」
「お待たせ~。ムラクモさん、年上だったのね」
マリカさんとハイファさんがお盆にカップを載せてやって来た。
5個あるから二人もここに加わるようだ。ハビールさんはどこに行ったんだろう?
{一人は、テントを離れて行きました}
レーダーか。
そういえば警備みたいな感じだったし、見張り役なのかもしれないな。
「エルダス副隊長と同い年って言われると、ちょっと信じられないわよね~」
「いやいや、彼と比べられたら誰でもそうだと思うよ」
「何か…秘訣でもあるのでしょうか?」
マリカさんの目力に射抜かれております。
「いえ、特にこれといって…」
「…そうですか」
「それで、ムラクモ君、遺跡の話なんだけど…」
「あ、はい」
「ずばり、亡失文明ってどう思う?」
…うん、知りません。
{マスター、亡失文明とは失われた文明で最も古いものと伝えられているようです。魔導機文明とも呼ばれており現存の遺跡で一番古いのが五千年以上前と言われています。何故滅んだのかは不明とされていますが恐らく、戦争で滅んだのではないかと。また、残された魔導機は現在でも使える物が残っており、その技術の高さは他に類を見ないそうです}
…何で知ってるんだ?
{改変の折に、情報が置き換わった影響と考えられます}
置き換わったという事は地球上のデータがこちらの世界のデータに変わったって事?
{はい、それに合わせてマスターの知識と照らし合わせて編纂しています。一般常識に類するデータは今の所60%程度で処理が進んでいますので、会話の流れを困らない程度にフォローができるかと思います}
なんか凄い便利になってる。スマホさんめっちゃ働いてるみたいだけど、大丈夫?
{常に余裕を持って動いていますのでご安心ください}
「…ムラクモ君?」
「あ、はい、ちょっと考えをまとめていました」
落ち着くためにチャイを一口…あ、チャイだ。
ん?そうか、チャイに訳されているんだからチャイなのか。紅茶の苦味とミルクのまろやかさが口に広がっていく。甘みは無い…砂糖は貴重っぽいな。でもシナモンの風味も少しある…香辛料は地域的にそれなりにあるのかもしれないな。
「えー、亡失文明ですが、一言で表すなら凄い、ですね」
「そう!…うんうん、ムラクモ君は解っているね!」
反応が良過ぎるよ…。
「魔導機の文明は他に類を見ない程、高度なものだったようですし、未だに使える物が残っているのはやはり、凄いの一言に尽きますね」
「そうなんだよねぇ…現在の技術では直す事すらままならないんだからね。それで、君が調べていた遺跡はどうだったのかな?」
「あー、それはちょっと…」
「ああ、そうかそうか、記憶が飛んでいるんだったね。ふーむ。転移陣に触れたいとは思うけど、記憶障害の可能性を考えると、考え無しに触れるのは憚られるね」
ふう…記憶障害で何処まで誤魔化せるやら…。
「ねえねえ、あなたの他はどうなったのかしら?」
「あー、どう、でしょうね。普通は触らないと思いますし…」
「はははは、普通は、ね。ムラクモ君は好奇心が強過ぎたんだね~」
「いやぁ…」
苦笑い。
「あの、ムラクモさんはご家族は…?」
「うちは…放任主義でしたし、この年ですからね。それに独り身なので気楽なものですよ」
「そう…ですか」
マリカさん、そんな寂しい表情をされるととても心苦しいのですが。
「ちなみに、この辺りの遺跡に関しては何か知らないのかね?」
「んー、あまり砂漠に関しては…」
「やっぱりそうだよね…、あ、ほら、何か話が伝わっていないかと思ってね」
伝承や御伽噺とかか…
砂漠というとピラミッドを思い出すけどね。
「残念ながら…」
「海の向こうじゃ流石にないか…」
「ねえ、あなたの住んでいた所はどんな所なの?」
「えーとですね…」
………
……
…
それから小一時間程ものらりくらりとぼかして話をしていた。
そして、徐々に皆が揃い、あれよあれよという間に…
歓迎会の開催が決定した。
しばらくはのんびり生活?
※会話が結構入るので文字数が増えます。