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星の栞 -慟哭するひとつの導‐  作者: 白石さくら
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6

 一番組から十番組まで存在する新選組の組織形成の中で、観柳斎は五番隊、原田は十番隊新選組創立以来いるが、彼は隊のしんがりを任せられる最良の人材だ。総司や新八、斉藤といった面子は先手必勝だと考えられるため、それぞれ一番隊、二番隊及び三番隊を任せている。他はどちらかというと近藤の意見を踏まえたりしているためと土方の采配ではないが、その四人だけは、どうしても外せないのだ。一月半ばのこの時期は、まだ隊士編成をしたばかりで、巡察に慣れている原田と共に武田を行かせたのだが…。

 斉藤にしておくべきだったかと、彼の心に一抹の後悔がうまれた。

 近藤をはじめとした総司、新八、斉藤、井上、平助そして原田。すくなくともこの面子は江戸から一緒にいる新選組の幹部だ。だから任せたのに。だのに原田は―――。


「それで、いかがいたしましょう」


 武田の言葉に我に返って土方は、ため息をつき口を開いた

「……連れてきちまったもんはしょうがねぇ。明日、組長を集めて審議を行う」

「わかりました。娘に監視はつけますか?」

「当たり前だ。縛っておけ」

「わかりました」


 そう返すと武田は退室していった。静かになった室内に、土方は座っていた。

 不思議な出で立ちの女。もしそれが、あれのとおりのものならば、もしくは目撃者でも闖入者でもなく、『新撰組』を救うものになる。

 そんなわけがないかと、彼は息をついた。あれを探しているのは自分だけではない。局長である近藤然り、敵である長州や薩摩の奴らもなのだ。それにそれは、決まって短命なのだ。見つけることは不可能に近い。だが、見つけられたならば、相手への布告よりさらに強く、世間へ知らしめることができる。


「……俺も、甘いな…」


 見つかるはずがないと、わかっていても、あの人のために見つけてやりたい。あの人を、もっともっと高い場所まで担ぎ上げてやりたい。しがない道場の師範でも、新選組の局長という地位でもなく、もっともっと、あの人が望む最高の地位へ。

 なんでもできる。あの人のためなら。

 彼は一人で残された部屋の中で机に向かった。先ほどまで手がけていた書を小さくたたみ、障子を開け、空を見上げる。

 金平糖を散りばめたような星空。点々と数えられないぐらいの星が瞳に映る。そして、その中で唯一大きさが歴然と違う、月も。


「水の北…山の南や……春の月…」


 趣味の俳句作りがなぜか出てきた。そういえば久しく考えていなかったなと思い立ち、もう一度紙を出し、筆で先ほどの句を書く。慣れた手つきでさらさらと心地いいほど、筆が滑ってゆく。

 光る空をもう一度見上げ、彼は誰も見ないところで小さく笑い、もう一度自室へ戻った。そしてほどなくして、その部屋に点っていた灯りが、消えた。

 そして闇の静寂が、また一段と、深くなる。





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