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星の栞 -慟哭するひとつの導‐  作者: 白石さくら
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5


「副長、失礼してもよろしいでしょうか」


 灯りがまだ点いていることを確認した武田は、障子の前で正座をし、障子の向こうに向かってできる限り小さな声で、けれど向こうに聞こえるように声をかけた。今は夜半刻。ほとんどのものが寝静まっている時間だ。総司みたいなのが特殊な人種なのだ。


「武田か…。巡察中に何かあったか?」

「はい。報告したい旨がございますので、入室の許可を願いたく思います」


 障子の向こうの声は、躊躇いもせず入れと指示した。武田は失礼しますと小さく呟くように言ってから、障子を開け自分の体を滑り込ませ、すぐに障子を閉めた。

 その様子から尋常じゃないものを汲み取った土方は居住まいを少し正して、武田のほうに視線を向けた。


「どうした」

「はい、巡察の最中『失敗した』隊士たちを追い、粛清いたしました」

「またいなくなっていやがったのか……」


 苦虫を噛み潰したような土方の声音に、武田は小さく苦笑するとすぐに表情を改めた。


「その折、目撃者がおりました」

「なに……?」


 土方の瞳に剣呑なものが混じった。粛清最中の隊士たちを見られるほど、新選組の評判が下がるものはない。また騒動が起きるか、最悪、反幕府派が力をつけるか、と土方が頭を抱えそうになったが、そんなことよりさらに深刻な問題へ話は転がっていく。


「その、目撃者なのですが、妙な出で立ちをしておりまして……」

「妙な、出で立ちだと…?」


 土方の反復する言葉に頷き、武田は再び口を開く。


「町娘かと思ったのですが、洋装なのです。そして、『失敗した』隊士たちは恐れたものの、自分と原田を恐怖の対象にする様子はまったくありません」


 どころか、原田など股間を蹴り飛ばされて使い物にならないですし、少女の体に一発叩き込んでも意識が飛ばないぐらいです。あまつさえ、自分の太刀を指差して「殺してくれる」などと聞いてくる始末。やりにくいったらないですよ、あれは。

 最後は少々愚痴が混じっているがそれを気にしている余裕などないぐらい土方は唖然とした。

 原田といえば、新選組の中でも指折りで体格のいい、なおかつ腕が立つ奴だ。その原田を蹴り飛ばすなど…。しかも男の急所を突いてきたとみた。それは、少し原田に同情してもいいかもしれない。

 少しだけ遠い目をしてそんなことを考えるあたり、鬼副長はただの仮面であることが容易に想像できる。


「それで、その娘を一応屯所まで連れてきたのですが…」

「………………………………………は?」


 聞き逃しそうになったその言葉を土方は全神経を集中させて聞いた。

 なに?

 つれてきた。

 何を?

 娘を。

 どこに?

 この屯所に。

 なんでそうなる…。

 頭を抱えたくなったが、そういえばと考え直す。武田は文久三年末に新選組に入ったばかりだ。まだ文久四年が始まったばかり。いわば年明けだ。なれない巡察に信頼を置いている原田をつけたのに、奴は女一人に撃沈させられる始末。使えねぇったらない。本気で組長の座からおろしてやろうかと土方は思案し始めた。

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