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星の栞 -慟哭するひとつの導‐  作者: 白石さくら
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「あれ? 誰です、それ」


 勝手に女の子連れ込んじゃうと、土方(ひじかた)さんに怒られますよ。

 そう軽く笑うのは猫毛の髪を風に遊ばせたまま、楽しそうに屯所に入ってくる人影を見ていた。


「ばか。新八(しんぱち)じゃあるまいし、そんなことするか」


 心外なといわんばかりに眉を顰める武田を楽しそうに見ていた青年は、あとからついてくる原田の腕の中にある羽織と刀を見咎めて紺の双眸を細めた。


「手遅れでした? 『失敗した』の」

「見りゃわかるだろ。で、そいつは目撃者」


 それと原田が指差した先には、武田に抱えられた小さな少女。ぴくりとも動かないけれど、胸は確かに上下している。


「斬っちゃえばよかったのに」


 心底そう思っているような青年の言葉に、武田が睨む。


「近藤さんに面目がたたねぇだろ。土方さんの意見も取り入れつつ、こいつをどうするかは決めるよ」

「ふぅん……」


 大して興味もなさそうに返事を返してきた青年は、しかし一変して楽しそうな瞳を武田の腕の中の少女に視線を向ける。

 普通の街娘に見えるものの、その服装が少しおかしい。洋装という結構貴重な服を着ているしなにより、下の裾が短すぎる。白いふっくらとした太ももが見えるが、彼女にとってそれはあまり羞恥の対象ではなさそうだ。


「で、総司(そうじ)、なんでいきなり出てきたのだ」

「いやだなぁ、僕が柳斎(りゅうさい)さんや左之さんのお出迎えしちゃいけませんか?」

「気持ち悪いこと言うな、お前がそんなこと心底思ってんなら、明日は天変地異だ。間違いなく」

「俺の名前は観柳斎だ、柳斎じゃない」

「ひどいなぁ、左之さんは。それに名前なんかどっちでもいいじゃないですか。一文字あるかないかの問題ですよ、柳斎さん」


 軽く笑いながら総司はたいしてそう思っていないように原田の言葉に返す。

 少々口は挟んだものの、その間に武田はすたすたと歩を進めている。


「あれ、武田さん、そっちは土方さんの部屋じゃ……――」

「今から副長の部屋に伺ったって迷惑だろうが、しかもこいつも連れて。意識があるならいざしらず、意識も無いのに連れてったって荷物になるだけだ。というわけで原田。こいつの監視よろしくな。一晩中」

「俺かよ!」


 しかも一晩中!? と喚く原田を背にして武田はすたこら歩いていく。言いたいことだけ言ってとっとと去るのが彼の悪いところだ。

 総司はその背中を見送るときに小さく息をつくと、くるりと踵を返して自室へ向かった。





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