蹴っ飛ばした方程式
平日のせいか人気が少なく、閑散としたアーケード街の通りで七歳くらいの少年がブーメランを投げていた。三叉のマーブル模様が空中で旋回して戻ってくる。うまくいかないのか、明後日の方向に飛んで洋裁店のシャッターにがちゃんとぶち当たった。
はぁっ、と落胆が喉から漏れている。ついでにバツの悪そうな顔。静かに歩み寄って屈んだ。
「ぼく、俺はそれを作った会社の人だ。よかったら手本を見せてやろう」
戸惑いがあったがブーメランを渡された。振りかぶり、中腰になってやや斜め上方に飛ばす。コツはどこに戻ってきたとしても慌てずにキャッチすることだ。くの字に円を描いたブーメランをバシリッと手のひらに収める。隣から「わぁっ」と驚いた声。
「いいかい。練習すればきっとうまくなる。友達に自慢できるぞ」
ブーメランを手渡すとさっそく練習を始める。やみくもに投げるのではなく、俺のやり方を思い出しながらやっているのが動作でわかる。
店先で見物していた原田さんが腕組みしていた。ひよこのエプロンに柄物のマフラーを巻いている。
ひょいと俺が手を挙げて挨拶すると原田さんはおかしそうに肩を揺すった。
「あれはうちの製品じゃないんだけど」
「そうでしたっけ。何分、まだ新米な者でして。店先に並んでいる物が全部そうかと思ってしまいました」
「コーヒーでも飲むかい?」
「頂きます」
店内に促される。『幸魔道』の直営店は相変わらず雑然としていて、蓋をしたびっくり箱の中身のように玩具が陳列棚にぎゅうぎゅう詰めになっている。配置が見にくく、隙間に古ぼけた品がわざと置いてある。それがコレクターやマニアにとって一種の宝探しのような楽しみを与えてくれるのだろう。
目についたお宝として『売れ行き好調! 盗〇用』とピンク文字でピックアップされた回転翼機があったが見なかったことにした。ジョークにしても値段がやけにリアルな格安だったので俺も手を出してしまいそうで怖い。
カウンターにはアルバイトらしい女の子が佇んでいた。年齢からしてまだ高校生くらいか。垂れ目で黒髪の大人しめ。
「こんにちわ」
「あ、はい。こんにちわです」
「水森さん、しばらく頼むね」
「はい」
靴を脱いで軒上の狭い廊下に踏み入れる。ギシギシと木板が軋しんだ。奥は居間とキッチンが直結していて、布団とちゃぶ台があった。他に目ぼしい家具はテレビくらいか。柱やふすまがやや黄ばんで色褪せていて年月を感じさせる。
「初々しくて可愛い子ですね。高校生ですか」
「ああ、付き合ってるんだ」
「原田さん。後輩の身上で申し上げにくいことなのですが、一発殴っていいですか?」
「新木君。バレットちゃんと一緒にベッドで寝たそうだね。お互い半裸で、しかもキスまでしたそうだね。本人から聞いたよ」
コーヒーカップとクッキー皿が置かれる。カウンターパンチを食らった俺は動揺を押し隠して棒状の袋砂糖を一気飲みした。ざらざらと流れ、舌の付け根に強烈な甘さが襲ってくる。よし、大丈夫だ。俺は落ち着いているぞ。この調子で平静を保て。
「新木君、コーヒーを飲んでくれないかな。いや、クッキーはコーヒーに投入する物じゃないからね。砕いて飲まなくていいからね。凄いねその飲み方。僕は初めて見たよ」
「こ、高校生と付き合うなんて大変じゃないですか、世間の目とか」
クッキーとコーヒーの混ざった液体を噛み潰して飲む。対面に座った原田さんは足を曲げて膝を胸に持っていく。
「相手の親御さんにはきちんと挨拶しているよ。プラトニックに付き合ってる。たまに僕も愛ゆえに一本槍で彼女の城壁をぶち破って落城させたくなるけど、そういう衝動は一過性の問題さ。夜中に一人でホラ貝を吹くことで抑えてるよ。近所の人にはキレられたけど、事情をきちんと話したらわかってもらえたよ」
だからね、と原田さんは優しく続けた。
「君もホラ貝を吹けばいいんだよ」
部屋の隅にあった荒縄でしめられた立派なホラ貝をむんずとつかみ、ちゃぶ台の上にごとっと置かれる。
事情を何もかも知っているのか。原田さんは同情するような、苦境に陥っている仲間を憐れんでいるような眼差しを向けてくる。
手に取った。ひんやりとしてカルシウムの硬い手触り、いぼいぼの突起と螺旋を描いた曲線。古来より修験者の楽器して扱われるホラ貝。破魔の力があるとされている。俺の心に潜むダークドラゴンを封じ込める聖なるアイテムになるのだろうか。
険しい道を歩くときに必要になるのだろうか――善意が無性に苦しくなって頭を振った。ホラ貝を戻し、代わりに握った拳をちゃぶ台に乗せる。
「ダメです。俺は原田さんとはセッションできません。音楽性が違うんです。それに中学生と高校生じゃかなり差がある。原田さんと違ってご両親に挨拶しにも行っていない」
「バレットちゃんから何も聞いていないのかい?」
「何をですか」
原田さんは下顎をしきりに撫でつける。何かをいうべきかいわざるべきか迷っている表情、俺の無言の問いかけにやがて諦めたように語った。
「彼女には両親はいないんだよ。兄妹も、古くからの友人さえいないのさ。それどころか、本当は自分がどこの誰かもわかっていないんだ」
家に招待されたときに気付くべきだったことだ。
ギン係長の私物以外、他者の物は何一つとしてなかった。家族の話も聞いたことがなかった。
どこの誰かわからない――孤児ということだろうか。何もかもが初耳だった。呼吸ができなくなるほど胸が圧迫されて苦しくなった。
「そんな哀れな娘が伸ばした手を君は弾き飛ばしたのさ。僕に話に来るほど落ち込んでたよ」
同棲を断ったことも知られている――仕方ないじゃないか。いい返したかった。恥の上塗りになるのでいえなかった。
本当は良識ある振りをしたかっただけだ。大人らしい態度を取りたかっただけだ。
会社という大きな組織にびびり、ギン係長を利用しているのが煮え切らず、無意識の内に距離を取ろうとしてしまった。つまらない感情が原因だ。だが、割り切ることができずにいた。
「おい原田。もっとクッキーないかぽん」
カリカリと貪る小動物――『幸魔道』のポムポム社長。
いつの間に現れたのかちゃぶ台に座り込み、げっぷをしながら爪楊枝で歯の隙間を探っている。
「おや、社長。珍しい……すぐに持ってくるよ」
「頼むぽん。さて、直介。お前に話があるぽん。そろそろちゃんと聞くぽん」
居住まいを正した。ギン係長に関することならなんでも聞きたくなった。俺はもう何も知らない振りをすることはできなくなっていた。もうたっぷり関わっちまっている。
「社長は……怪人方式を承知しているのですか?」
「そりゃあ当たり前だぽん。わかっててやらせてるぽん。だけど、魔力どうこうは人間側の都合だぽん。こっちはこっちの都合があるぽん。お前の気にすることじゃないぽん」
「どんな?」
「シルバーぽんにはシルバーぽんの目的があるということだぽん」
ポムポムは目を閉じた。丸っこい身体を揺すり、遠い目を作る。
「話せば長いぽん……あれはそう、四年前だぽん。当時ポムポムが付き合っていたチャイニーズハムスターとの交際を解消し、ぶっちゃけ抱き飽きちゃって捨てようと思ってたけどそこそこケツが可愛かったからどうしようか迷っていた夏の暑い日だったぽん」
ポムポムのクズ話は耳が腐り落ちそうだ。
もしかしてこれがずっと続くのかよ。
「ペットショップで義務的な交尾だけの不毛で渇いた生活を送っていたポムポムは外の世界のネズミと交配したくなったぽん。優秀で高貴なポムポムを遺伝子をくれてやる愛のボランティア活動に目覚めたんだぽん。手段としては脱走するか、屈辱的だが人間に飼われるしかなかったぽん……ポムポムは必死で策を練ったぽん。まず、ハツカネズミのリリーというアホ女を駆け落ちしようとそそのかして死んだふりをさせることで隙を作らせ――」
俺は心を無にしてポムポムの過去話を消化することにした。途中で話が脱線しまくり、コロニーを作って繁殖パーティーを主催し、クスリと性病に苦しんだところでぶち殺したくなったが自制した。
ざっくりポイントだけしぼると以下のような感じだ。
一 路上でギン係長に拾われた。
二 魔法の力で成長させてもらっておかげで喋れるようになった。
三 ギン係長は当時九歳で最初から魔法少女だった。
四 どういうわけか記憶喪失になっていた。
五 自分が誰かわからず、意味もわからず、警察にお世話になったが脱走。
六 魔法で大道芸をして生計を立てたら水原部長に声をかけられた。
七 自分を知っている誰かを探すために怪人と戦いテレビに映っている。
「三年前の東京オリンピックのとき、隕石が落ちたとき、ポムポムはあれを止めるのが不思議で強大な力を与えられたシルバーちゃんの使命だったと思ったぽん。一年間孤独に苦しんだ彼女もそう信じたぽん……だけど、そうじゃなかったぽん。何をしても自分だけは救われなかったぽん。どこかにいる父親にも母親にも会えなかったぽん。やったことが凄いことだった分、シルバーぽんの落胆は並大抵のものじゃなかったぽん」
あの隕石を止めたのギン係長かよ。一人アルマゲドンか――とてつもない話だ。
確かにそこまでやったなら魔法少女をお役御免になってもおかしくない。それ以上のことはきっと成し遂げられない。
「その魔法の力が何にも意味ないなら……ポムポムはせめて、嘘でも『使命を作る』ことにしたぽん。そして人々のために怪人と戦わせるの悪くない話だったぽん。もう三年以上も世間に認知されるために頑張ってきたぽん。でも、シルバーぽんに関する情報はなかったぽん。茶番だとわかっていても続けるしかないことだったぽん」
「クソデブゴミネズミ社長……俺、感動しました。貴方みたいな頭がポンな廃棄物もギン係長のことを考えてくれてたんですね」
「おい、直介。お前いい加減に敬意を払えぽん」
「まぁまぁ社長。それで新木君。君はどうするんだい?」
原田さんの促してくる。既に俺の覚悟は決まっている。
親指を立てて、すくっと立ち上がった。歯を見せて快活に笑って見せる。
「つまり、ご両親という邪魔な存在がいないなら俺がギン係長にあんなことやこんなことをしても何も問題ないってことですよね」
「ちょ」
「なるほど、僕は少し君が羨ましくなってきたよ。そういう解釈もできるんだね。確かに君にホラ貝は必要ない。だから……せめて僕はこの旋律を贈ろう。合戦の前のホラ貝を音色を」
原田さんは両手でホラ貝を構えて吐き出し口を咥えた。ひゅうっと吸い込み、一気に肺の中の空気を送り出す。
ブォオオオオオオオ――ブォォッブォオオオオ!
不思議だ。やってやれって気持ちになってきやがった。足軽兵の俺にできるのは特攻のみだ。いつだってがむしゃらに突き進んできたはずだ。くよくよと悩む必要なんてなかったんだ。奇声を上げながら敵将の首を獲りに突貫するだけなんだ。邪魔するやつはたとえ都条例でもぶっ倒す。
大体、可愛い女の子と同棲なんておいしい話を逃すなんて俺は頭がイカレちまっているのか。毎日が焦らしプレイだって楽しいじゃないか。手が出せなくても明るいギン係長が傍に居てくれるだけでいいじゃないか。
荒ぶる衝動のままに走り出そうとしたところで、ポチッと足がリモコンの電源ボタンを踏んだ。テレビが点く。
<病院からの中継です。本日午前九時半頃、特別指定犯罪者の怪人との戦闘により負傷し、都立病院に搬送されたシルバーバレットさんですが、現在も安否が気遣われております。今回の事件につきまして国会では本格的に災害特務法など法整備が再び検討され、本日午後四時から公安委員長の記者会見が行われる予定です>
☆ ★
表口の門には扇状にマスコミが待機していた。
迷惑そうな目を向ける病院関係者や通院患者。車両の誘導をする警備員。はりきってネクタイを正す白衣の医者――ギン係長の主治医だろう。表に出ると一気に輪にして囲い込み、幾つかの質問に答えていた。
しばらく眺めた後、ハンドルを裏門に向けた。駐車場のチケットを摘まみ取り、虎柄のロープが杭で打ち込まれただけの砂利地の駐車スペースにアコードを止める。
ダイヤルボタンを押し、スマートフォンを耳に当てた。
「水原部長、着きましたよ」
『裏口から入ってエレベーターの五階です。降りたら右手の一番奥です。戸籍上の本名のプレートですがきっとわかります』
「容態は本当に大丈夫なんでしょうね?」
移動しながら会話する。逸る心を抑えつけながら早足で。自動をドアを越えて椅子が幾重にも並列する玄関ロビーを横切って昇降エレベーターを目指す。
『今回の件は私も不本意なのですよ。誰かさんがシルバーちゃんを不幸せにしたせいで、魔法の力が弱まってしまっていたのです』
「非は認めましょう。しかし不安定な出力だと知っていて、危険な目に遭わせたのは誰ですか」
『今回は操作系の怪人ではなかったんですよ。自律起動タイプ、ふわちゃんと同じ型番だったのです。ここまでの結果は予想の範疇を越えています』
「異常だったと?」
『ええ、素体は事後調査のために回収はしましたが、きちんと処分しましたよ。一応、製作班とは部署が違うのでついでに文句はいっておきました』
処分。重苦しい冷酷な響きを伴っていた。
文句。責任逃れの言葉。なんとも組織的な応じ方。
「残酷ですね」
『そうでしょうか。本当に爆発四散させてもよかったんですよ。回収するにも結構手間がかかるんです。閃光弾も必要ですし、ある程度の数のスタッフも配置しなければなりません。一回のバトルでかかる舞台費用も大変なものでして、これがまた』
「電話切りますね。病院の中ですし。それでは失礼します」
聞き飽きてスマートフォンを胸ポケットにしまった。掲げられたプレート名は『銀之奏鳴』なるほど、近代的な和名になっちまってる。
ノックをしても反応がなかった。待ち切れずにドアを開け、様子を窺いながら中に入ると奥にベッドが一つ。
点滴と仰向けに横たわる見覚えのある小さな患者。清潔で真新しい部屋にはシャワールームとトイレ。インターネットに繋がれているパソコンと飾られた有名作者の風景画。
サイドテーブルには山盛りのフルーツにファンレターの束、開封した痕跡がある。幼児のつたない字で快復が祈られている。
「ギン係長」
名を呼んでも反応はない。目を閉じたまま頭に巻いた包帯が痛々しい。
「ギンちゃん……そなたちゃん?」
「何しに来たのよ」
つんけんとしたトゲのある声。目許にしわが寄って猛禽のように険しい。俺はX字型の丸椅子を引き寄せて座り込んだ。
「待って……わかったわ。別れ話でしょ。怪人に敗れて失意に包まれているあたしを更にどん底へと突き落とすために来たんでしょ。わかってるわ。男の人は一夜を共にしたらすぐに素っ気なくなるってクラスメイトの花江ちゃんがいってたもん」
ぷいっと顔を背けられる。どうもギン係長は被害妄想を患っているようだ。精神的に弱っているのか、悲劇のヒロインになりきってしまっている。一応は男女として付き合っている事実はない。キスして抱き合って添い寝をしたがまだセーフのはずだ。誰がどう見てもセーフだ。
クラスメイトの花江ちゃんは実に危険な存在だ。中学生とは思えないこなれ方をしている。
「お見舞いに来たんですよ。具合はどうですか?」
「肋骨二本ヒビが入ったのと二か所の打撲で済んだわ。かすり傷よ。ちょっと安静にしてないといけないみたいだけどね。情けない話よ」
傷跡を見せたくないのか、かけ布団を引っ張られた。顔の半分が隠れて大きな目だけが見え隠れしている。
「ギン係長は頑張ってますよ」
「何も頑張ってない。毎日くだらないことをしてるだけよ。学校をサボって馬鹿と戦ってるだけ。つまんない日が嫌で、寂しい日が嫌で、道端で誰かに褒められて勝手に喜んで、家に帰ったら正気に戻るの。あたしは生活のために戦うショーを見せてるだけ。自分で糸を巻きつけた操り人形になって面白がってるだけ」
「怪人と戦っているのはいいことですよ。世の中のためになっている」
「茶番だってわかってるでしょ。あたしだって馬鹿じゃないわ。もう全部、嫌になってきちゃった」
嘘はとっくに見抜かれている。ギン係長もそこまで子供ではなく、愚かでもない。
厭世的なことを口に出して欲しくなかった。商売だけじゃなくて、子供たちに夢を与えていたから応援されていた。人々に好かれていたから人気があった。
それでも――ギン係長が不幸せならば選択をしなければならない。恐れを飲み下し、腹をくくって大人として別の道を示すべきなのだ。
「だったら俺と一緒に会社辞めちまいましょうか」
「ほえ」
ギン係長は虚を突かれたのか間の抜けた顔で瞠目した。考えてたことの一つではあった。俺は会社の方針に納得できていないし、ギン係長が傷つくのはどんな思惑があったとしても許せることではない。
上半身を起こされ、説得のための両手が広げられる。散りばめられた猫さんプリントのパジャマ姿が露わになる。
「ど、どうしてよ。せっかく社員になれたし、給料だっていいでしょ。仕事だって成功したからボーナスも貰えるわ。これからいい生活が送れるようになるのに」
「そんなものはどうだっていいことですよ。俺はギン係長に幸せになってもらいたいだけです」
動きがぴたりと止まった。かぁっと赤面したかと思えば、次に意地悪な猫のように目が細められる。にやりと口許が緩んでいる。
彼女は勝利を確信しているが、提供してもいいと思える。
「一緒に住むの断ったくせに」
「撤回しますよ」
「部下のくせに生意気よ」
挑みかかるようにネクタイがぎゅっとつかまれた。ぐっと首根っこが引っ張られる。一気に縮まる距離。生暖かい呼吸が俺の頬にかかる。
ぷくりとふくらんだピンク色の唇。興奮のために紅潮した頬が色情を誘う。発散される少女の甘い体臭がじわじわと意識を酔わせていき、青緑色の瞳が瞼の下に消えた。
「いい雰囲気のところ、申し訳ないのですが困ったことになりまして」
突然の闖入者――出入り口から聞こえた声に二人で振り向くと、水原部長は腕を組んで頬に手を当てていた。
「お水。消えて。もう、あんたなんかいらないわ」
ギン係長の簡潔に伝えた。はっきりとした意思表示。指先に柔らかい感触が当たった。そっと指が絡められている。握り返した。
「シルバーちゃん。やり始めたことは簡単には終わらないものよ。何をするにも責任が伴うの。それは貴女の意思だけの問題じゃないのよ」
「あたしの魔法は誰かの幸せのために使いなさいってお母様に教えられたもの。もう、お金や人気取りのためになんか使わない」
「だったら人のために使ってくれるのね。多分、シルバーちゃんが行かないと大変なことになりそうなの」
「水原部長、何があったんです?」
「反旗を翻しちゃったんですよ。眠らせていた怪人たちが全員です。大体百体くらいでしょうかね。つまりまあ、ついに本物になっちゃったというわけです。大災害起こっちゃうかもしれません」
水原部長は可愛くにっこりしたので、俺もつられてにっこりした。ギン係長も俺たちに合わせてにっこりした。
それってシャレじゃ済まないですよね?




