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不運な僕に舞い降りた幸運

作者: 煌星 キラ

 みんなは、新しい一年になったら「おめでとう」って言うけど……僕はそんなの言わない。


 みんなは、4月に新入生が入ることを喜んだり……新しい学校に入ることに一喜一憂出来るけど、僕はそんなに喜ばないししない……いや、正しくは「喜べないし出来ない」…………かな?


 みんなは、夏休みに「プールに遊びに行きたいね」とか「海にいくんだ」とか「おばあちゃんち遊びにいく」とか行ってるけど、それのなにが楽しみなの?


 みんな、誰かのお誕生日には「お誕生日おめでとう!」って言って……言われた人は「ありがとう!」って喜ぶけど、僕は自分の誕生日を覚えてないから誰もお祝いの言葉言わないし……誰かの誕生日を祝うことなんてしない。


 みんな、冬になると雪遊びするけど、僕はそんなにはしゃぐことは絶対にしない。雪なんて冷たいだけだもん。


 みんな、クリスマスにはプレゼント貰ったりケーキを食べたりするけど僕はそんな事はしたことない。


 …………え?何でそんなに否定しかしないのかって?


 ……だって、僕には「トモダチ」とか「カゾク」は居ないから。


 「トモダチ」は僕のことを気味悪がって近寄ってこないしバイキンの様に扱う。


 「カゾク」は親が僕を親戚の家に置いて何処かへ行っちゃって親戚も親戚で僕のことをゴミ扱いしたり僕のことを殴ったり蹴ったりする。


 そんな生活が嫌で、僕は……2年くらい前に親戚の家を飛び出した。詳しい日付は最近見てないから分かんないや。


 ホントなら、行方捜索願みたいなの出されるんだと思うんだけど……テレビ売ってる大手の電器店のテレビを見る限りどうやらそんなものは出されてない様子だし、この前公衆電話から掛けてみたけど……僕は死んだ扱いらしい…………もう、僕のもので残っていたのは処分されちゃってた。


 仕方ないから親戚の家を出た直後に自宅に戻ってお母さんとお父さんが家の中に隠して貯めていったまま忘れていたらしい沢山のお金を持ってたから少しずつだけ使って色んな場所を巡って行った。別に一人でも旅をしている高校生にしか見えないだろうしね……高校には一度も行ったこと無いけど。


 僕は独りで色々な町を巡る生活を送っていた…………


 ある冬日の昼、ふと財布のお金を数えた。すると、もうお札も少なく……カプセルホテルとかに泊まると全部のお金が無くなる所までいってた。


 むしろ、よく2年近くも持ったものだと思う。でも、流石にこのまだ寒い時期に野宿は不味かった。だから、とりあえず暖かいペットボトルの飲み物をコンビニで1本買って、それで暖を取りながらそのコンビニの近くの階段に座りながらどうしようか迷っていた…………


「あれ……荒川…………義也君?」


 そんなとき、ふと何処かで聞き覚えのある声が聞こえて顔をあげると、何処かで見た記憶はあるものの、やっぱり思い出せないとても綺麗な女性が立っていた…………


「……えぇ、荒川義也(あらかわよしや)は僕ですよ。」


「やっぱり荒川君だ! ほら、私だよ! …………覚えてない?」


 少し悲しげな表情を浮かべつつ首をかしげている女性をもう一度じっくり見てみる…………と、少し前に電器店のテレビで見た顔と一致した。


「えと、確か……アイドルのAYAMIさん…………?」


「あ~……覚えてないか~…………でも、お久しぶり! 私は、AYAMIこと立花絢美(たちばなあやみ)って言うの…………覚えてない、かな?」


「立花……絢美…………さん?」


 必死に昔の記憶を少しずつ辿っていく…………と、一つだけ心当たりがあった……虐めに堪えかねて教室を飛び出して屋上へ行って、男泣きしてたときにわざわざ自分を探しに来てくれ……

更には学校が嫌になって無断で休んでいたときに休む度に家に様子を見に来ていた学級委員の女の子…………それが、立花絢美という名だったと…………


「えと、中学校の時……僕のこと屋上まで探しに来てくれてたり無断で休んだときに家にまでわざわざ来てくれてた学級委員の?」


 少し控えめに聞いてみると、絢美の顔はパアッと明るくなっていき……


「覚えててくれてたの!? わたし、嬉しい!!」


 当の本人は、本当に嬉しかったようでピョンピョン跳び跳ねていた……それを見た僕は思わず苦笑いをしてしまっていた…………と、その時


「AYAMIちゃん! そろそろ中継来るわよ!!」


 撮影スタッフらしき女性がAYAMIを探しに来ていたらしく、駆け寄ってきた……と、僕の方を見て


「AYAMIちゃん……この青年は?」


「あ……私の元クラスメートなんです。中学校の時の…………」


「ど、ども…………」


 その説明を聞いたスタッフは納得した様に頷いた…………が、すぐに僕の顔をマジマジと見て……


「もしかして……AYAMIちゃんの…………これ?」


 そう言って女性は握り拳を作って小指だけを上げた……それが何を意味するのかスグに予測がついた僕は少し慌てて否定しようとした…………


「え!?あ、いやそのg「違います。片想いの相手なんです!」…………え?」


 偶然会っただけ……そう言おうとした僕の耳に聞こえたのは彼女のとんでもないカミングアウトだった。

 もちろん、スタッフの女性も驚きを隠せない様子で……


「うそっ!? ……って事は彼が??」


 ……ん? 僕がどうかしたのかな??


「えぇ。でも、昔は告白する勇気も無かったので……言えなかったんですけど…………」


「昔は……ってことは今は??」


「…………」


 女性スタッフはその無言の返しに納得した様子で……


「分かったわ。なら、彼に出演してもらいましょう!」


『え!?』


 女性スタッフの唐突な発言に流石の僕と立花さんも気の抜けた様な声が出た……


「だって、彼……中々顔映りも良いし、服装もそれなりにお洒落でしょ? 「緊急放送! 片想いアイドル勇気ある告白!!」これなら案外良い数値入るわ~! さっ、早く行きましょう!!」


 そう言うと僕たちは女性スタッフ(後で名刺を貰うと職業欄には、ディレクターの名前があったのには驚いた……)に急かされるまま立花さん……否、AYAMIの番組の収録現場へと移動した…………




「……はい、こちら中継先のAYAMIですっ!」


『そういや、AYAMIちゃん……今こっちに届いた情報によると、何か言いたい事があるんだって?』


「はい……実は、今までずっと片想いだった人をずっと探していたんですけど、中々彼の消息が掴めずにいたんですけど、先程偶然再開して……それで、今想いを伝えたいんです」


『ほう、それは素晴らしい事ですね……では、その彼も登場してくれるのかな?』


「はい。……こちらへどうぞ」


「こ……こんにちは…………」


 AYAMIちゃんの言葉で僕はカメラの前に姿を出してそのままAYAMIちゃんの隣に立つ。もちろん、マイクやらイヤホン的なのも着けている。

 ……ってか、まだ僕を探し続けてた人が居たのか…………


『こんにちは、私はアナウンサーの阿倍野です。本日はAYAMIちゃんの告白相手……と言うことで良いんですね?』


「え、えぇ……僕も正直驚いてるんですけども…………本当に突然だったので……」


 そう、本当に突然だった。クラスのマドンナで皆のアイドルだった彼女が本当にアイドルになって……しかも、虐めを受け続けていた僕の事が好きだったなんて……全く気付かなかったし…………気付けなかった。今まで愛情を殆ど受けないで育ってきたから……と言うのもあるけれど…………まだ心臓がドキドキ言ってるよ。


『まぁ、そうでしょうね…………それでは、AYAMIちゃん。心の準備ができ次第……どうぞ』


 僕の心臓の音が、ピンマイクに入ってそうな位の大きさになってきた……そして、AYAMIちゃんは一呼吸おいて僕の目を見て決心したように話し始めた。


「私は、最初貴方を見たときにとても優しい人なんだな……そう感じました。でも、クラスの中ではいつも一人だった……だけど、私は知ってるんだよ? 義也君が帰り道の側にある小道の奥で捨て猫達や捨て犬達のお世話を笑顔でしてたり、私が病院へ行く為に学校休んでた日に学校に遅れるのが分かってて走ってるのに通りすがりのおばあさんの荷物を持って行ってあげていたの…………そんな優しい貴方が大好きです。付き合って……くれますか?」


 最後に笑顔で僕に右手をさしのべるAYAMIちゃん…………いや、絢美ちゃん……スゴいよね。僕の良いところしか言ってないじゃん…………ってか見られてたんだ……なんか少し恥ずかしいな…………


『……では、彼の答えを聞きますか…………どうしますか?』


 ……答えは決まってる。決まってはいるけれど…………その答えを言う前に伝えたい意思がある。


「答えを……言う前に…………言いたい事があるんだけど……」


「……うん。大丈夫だよ」


「…………ありがとう」


 軽く2、3言葉を交わしただけだけど…………やっぱり、僕も彼女が好きだ。でも、どうしても……伝えたい事がある。

 僕は目を閉じて軽く息を吐いて再び目を開けて彼女をジッと見ながら言葉を発した。


「僕が、今まで人から受けた物は……“憎悪”、“怒り”、“蔑み”……そして“決別”。今まで祿な物を受けた事しか無かった僕に、初めて“優しさ”を分けてくれたのが……貴女でした。僕の両親は蒸発して…………親戚の家に引き取られたものの自分はゴミ以下の扱いを受けて冷飯よりも酷いものを食わされ続けてきたし……いや、食べれる物があるだけ幸せだったかもね……。クラスの皆には虐められてそこでもやっぱり酷い扱いを受けて。何度命を断とうとしてカッターナイフを握ったことか…………でも、そんなときにいつも貴女の笑顔が頭の中をよぎっていました。それで、今までなんとか食いとどめてきました。……本当は、男がこんな事言うのは頼りないって思うけど……僕を、これからも精神的に支えていって欲しい…………いや、互いに互いを支え続けて行こう! …………此方こそ、宜しく」


 自分の想いを全て吐き出して、笑顔で絢美ちゃんの手を優しく握り返した。










「義也~! ご飯出来たよ~!」


「ありがとうね、絢美。それと今日のスケジュール簡単に言うね? 今日は…………」


 あれから僕らは結婚した。ちょっと変わっている事と言えば…………僕は婿入りという形になって……荒川義也から立花義也へと名前が変わった。そして、僕は今まで一人で頑張ってきた絢美を少しでも手助けするためにマネージャーとして奮闘しつつ僕自身も、俳優としての活動を始めた。まだまだ役は小さい役くらいしかもらってないけど、それでも全力で演じている。

 それに、心理カウンセラーの資格を取ろうと必死に勉強してる。僕自身、心理カウンセラーの人と関わってたら、また少しは違ってたのかな……って思う事があったからね。


 でも、結婚したと言っても、結婚式を挙げた訳じゃない。単純に婚姻届を出しただけ……だから、結婚指輪もあげれてない。でも……


ピルルルル……ピルルルル……


「……あ、ゴメン。電話…………はい、もしもし……え、本当ですか! ありがとうございます!! はい、分かりました!!」


「どうしたの?」


「実はさ、僕にも主役の話が来たんだ!」


「ええっ! 凄いじゃない!!」


「それでね、そのドラマのヒロインに絢美が選ばれたんだって!!」


「うそ!?」


「本当だよ! これで僕達、2回目の共演だね……」


「2回目……あ、そうだったね。1回目は…………あのプロポーズの時で……それ以来は共演のお話来なかったもんね……」


「うん……さ、準備しよ!!」


「えぇ!」


 それでも……僕達は今、とても幸せだから、それで良い。僕の当面の目標は絢美を新婚旅行に連れていきたい……かな? それと、外国で結婚式をあげて、想いのこもった結婚指輪をあげるんだ。


 まだ、友達と呼べる人はあまり居ない僕だけど、家族が出来ました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 救いがあったよかったです>< 短い文章でよくまとめられていました。 朝から泣きました。
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