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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十三章 魔の手が伸びる時、窮地をいかに利するか
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1.希望の轍

「さて。単刀直入に訊こう。君は〝魔炎〟アジュペイトランクリ率いる『魔物』連合の仲間か?」


 正面に座す皇帝ガランフォルテの率直な質問に対し、宗太はこの築いたばかりの関係を崩さない程度の感情を込める。

 怒り――ただ、もはや虚実に近いそれを匂わせる程度の口調で。


「……そう仕向けたのは、あなたじゃないんですか?」

「どういうことだ?」

「とぼけないで下さい。俺をあの島――ランゲルハンス島に向かわせたのはあなたの命令ではないんですか?」


 ジャックの話を全て信じているわけではない。あそこに記されていたサインも、あの男がガランフォルテのものだと言っただけだ。それにそもそも、偽物である可能性だってある。

 とにかく宗太は今、あまりにも情報を持ち合わせていない。少なくとも、この戦況に於いての有効なものは。

 ガランフォルテの出方を伺うと、彼はしばし言葉を選ぶように沈黙した後に説明を始めた。


「確かに結果としてはそうかもしれないが、私はあくまでも【ローハ解放戦線】の掃討に合意したわけだ。まあ『星約者』に反目しているという点では、ルマエラ・カーナーには親近感を抱いてはいるが」

「あなたの父親は『星約者』のはずでは……?」

「それも知っているのか。父は最期まで『星約』に関することは口にしなかった。だが特段、それを恨んではいな――くもないか」


 小さく笑う彼は、はっきり言ってしまえば王としては危ういほどに内心を露わにしていた。


「説明してくれたのなら、私はこうも翻弄されていなかっただろうからな。だが、亡くなった時に泣き、喪失感に苛まれた程度には慕っていたよ。それに口外することさえできず、独り抱えていたのかもしれない」


 そこまで話すのは、宗太を信頼しているからか。それとも元々なのか……

 まだガランフォルテという人間を把握したわけではないが、きっとそういう人間なのだろうということは俄かに気づけた。


「ああ、言っておくが。そんな理由で『星約者』に敵意を抱いているわけではない。純粋に、このアルトリエ大陸に訪れた未曽有の危機に対し、我ら人類をまるで駒のように盤上から操っている様が気に食わないだけだ」


 それは民を思ってのことなのか。それとも、自身が見えない何かに操られているかもしれないという事態が面白くはないからか。

 本意までは悟れないが、『星約者』を良くは思っていないという点に於いて、宗太も同感できるものであった。


「いつの間にか私が答える側になっていたな。話を戻そう。というよりは、もう結論は出ているようなものか――少なからずそこまで強く繋がっているわけではない、と楽観的に考えていいのかな?」

「ええ。僕としては仲間だとは思っていません。彼らからの距離感は測れませんが」


 ステファニー達との繋がりは、表面上の『自らの命の保身』という点のみだ。

 だが、ソラノアの件を加えれば、宗太は肩入れをせざるを得なくなる。

 真実を知った当初、フェイが『無望の霧』に招いた理由こそそれだと思っていた。

 しかし、彼の反応から察するに、フェイもまた誰かに唆された可能性がある。

 そして、その糸を引いていた者こそ、彼らとの接点を作ったガランフォルテだと思っていたわけだ。


「『魔物』が徒党を組むという意味を。ソウタ、君はどう思う?」


 問われたところで、いくつか考えは浮かぶものの、彼が求める解答ではないことは薄々感づく。

 ガランフォルテは宗太の黙考を数秒待ったあと、続きを話す。


「今、人類は絶対の危機に瀕しているわけだ。『魔法』(イグドラシル・ロウ)の半崩壊。『無望の霧』の拡大。そして、殺し合うはずの『魔物』が手を組む。真実から遠ざけられた場所にいるか弱い一般人達は、その事態を否が応にも関連付けてしまい、こう疑うのだ――」


『『魔物』達は人類を滅ぼすのではないか?』


 否定はせずに黙する。

 それこそが最適解であると宗太は判断した。

 真実を語ったところで、一度生じた疑念は完全に晴れることはない。その発端が()()()()()()()()からだというのなら、なおのことだ。


 ガランフォルテの代弁は彼自身への目下の悩み――それこそ病、ないしは毒のようなものだろう。

 民の不安は国を蝕み、原因が存在しないものであるがため故に、朽ちるまで罹患したままとなる。

 その唯一の解決は戦乱の終焉――しかも勝利での結末しかない。


「状況を察してくれたようだね。だが現状、『魔物』を直接の配下に持たぬこの帝都は、圧倒的不利に立っている。ただでさえ星都はこちらよりも多くの『魔物』を囲っているのに加え、あっちには『勇者』の末裔――大星将マーク・〝ウルストラ〟・キャラウェイがいるからな」


 人類を超越した『魔物』と同等で語れる男。

 報告によれば『魔法遣い』――神々さえも圧倒したという、勇者の末裔……

 俄かには信じられない内容が記述されていたが、その報告主がソラノアであったため嘘ではない。


「君は〝ウルストラ〟をどれほど知っている?」


 まるでこちらの心を読んだかのような問い。

 人智を超えた特異な能力とは対極の、人としての卓越した技術だからこそ為せるものなのだろう。そしてそこれこそが、王としての資格なのかもしれない。


「どれほどと言われましても……」

「ああ。ここからは単なる世間話だ。ないしは私の知識を、ここぞとばかりにひけらかす時間とでも思ってくれて構わない」

「ならもういっそ説明を始めて下さいよ」

「では、そうさせてもらおう。このアルトリエ大陸に遺された伝説の一つ。かつて世界を混沌に落としたという『魔王』がいた。それを討伐するべく、どこからともなくやって来たというのが――」

「『勇者』ウルストラ・キャラウェイですよね。それは知ってます。いずれ来る脅威への対抗策として人造人間(ホムンクルス)を造っていたり、のちに『凶星王』と呼ばれることも」


 かなり初期から語られそうだったので、先に自分の持っている知識を話す。

 といっても、それ程度しかないが。

 ただ話の腰を折られたことに、ガランフォルテはやや難しい顔をしていた。


「なかなかどうして。最近の若者は難しいな――って、()()()若者なのか?」

「まあ最近でいいですよ」


 顎に指を当て眉根を寄せ始めたガランフォルテに、宗太は適当に(気を害していないようで安堵したので)返す。このままでは脱線しかねない。


「このアルトリエ大陸にはいつくかの伝説が残っている――と、君に語るまでもないか」

「というと?」

「君が使う魔偽術(マギス)の数々が、まさにそうではないか。未だ解析できぬ伝説の方が多いが、『〝裁きの氷〟クシェト・エクトの簡略法廷』や無尽頁伝説はこの大陸に残る数多の伝説の一つだよ――知らず使っていたのかい?」

「ご存じだとは思いますが、結局のところ僕は『〝魔人〟の力を継承した一般人』に他ならないですからね」


 自虐はガランフォルテへの当てつけではなかったのだが、彼はややばつの悪そうな表情を見せた。


「ともかく、数多遺る伝説の内、『魔法』(イグドラシル・ロウ)に纏わるものを抜かして有名な物語こそ、『勇者』〝ウルストラ〟の話だ。だが、それら以外も往々にしてこういった語り口から始まる――」


『世界を滅ぼすモノが現出した時、どこからともなく強大な力を持った英雄が降臨する』


 ベタなRPGの始まり。ないしはもはや古典といったところか。

 しかし、伝説というものは大抵、そんなものだろう。


「数多く残る救世の英雄とは、『魔法使い』が仕掛けたカウンターだと私は考えている」

「カウンター?」

「そうだ。『魔法』(イグドラシル・ロウ)を滅ぼす最後の一手であり決定打。『魔物』の力を総べた者――『魔王』が誕生すると同時に、それを殺すための対抗手段として英雄伝説は用意された」

「それって、『魔法』(イグドラシル・ロウ)の半崩壊が一度どころじゃないってことですか?」

「ああ。もしかしたら『魔法』(イグドラシル・ロウ)、世界そのものの崩壊と再生は、姿を変えて何度も繰り返されているのかもしれない。七〇年前に世界が再生した可能性だってある。もっと言えば、『魔法使い』は世界を救うために滅ぼしている節さえあるわけだ――だがその代償は大き過ぎる。受容するつもりは毛頭ない」


 当然、伝説の全てがそうではないだろうが、いくつかはそうかもしれない。ないしは、半崩壊の事実を様々な形で遺したか――そうガランフォルテは最後に加えた。


「何も当てずっぽうで言っているわけではないぞ。伝説の中に一つ例外があるからこそ言えることだ」

「例外というと?」

「ああ。それこそが『勇者』〝ウルストラ〟だ。彼は『魔王』を討つ英雄たる『勇者』の使命を捨て、あろうことかその宿敵と手を組んだ。救世の象徴たる『勇者』から墜ちた故に、『凶星王』と名乗った」


 現アルトリエ大陸は、〝ウルストラ〟が『魔法』(イグドラシル・ロウ)を総べる『魔王』を殺さずに墜ちたお蔭で世界は救われた。

 それ以後の『凶星王』らしい凶行の数々は、いずれ再び『魔法使い』が『魔法』(イグドラシル・ロウ)を破壊しに戻って来る。

 それこそがいずれ来る脅威であり、対抗策を次々思案したのではないかと。


 ただ、これらはあくまでも伝説そのものの内容ではなく、独自解釈が混じっているとのことだ。


「この帝城塔もその対抗策の一つという話だ。〝ウルストラ〟は絶界の傘と名づけ、外界からの防御壁として建造した」

「外界からは守れても、こんなどこからでも見えるほど高い塔に住んで、万が一があったらどうするんですか? 狙撃はともかく、魔偽術(マギス)魔偽甲(マギカ)で狙いたい放題じゃないですか?」

「心配してくれるのは嬉しいが、それは微塵も感じる必要はない。この帝城塔――絶界の傘は、アルトリエ大陸で最も堅固な建設物なのだからね」

「いや、いくら堅いと言っても……」

「そうかい? なら、この建設物が丸々魔偽甲(マギカ)であり、常時起動しているとしたら?」


 それが通常ではないことくらい、魔偽術(マギス)を齧った程度の宗太でも分かることだ。

 魔偽術(マギス)魔偽甲(マギカ)は常時、意志を注ぎ込まなければ偽りの超常を維持できない。

 また、過去に奴隷を酷使したことによる顛末も学んでいる。


「言っておくが、遥か昔に行われた愚行をしているわけではないぞ。この建造物はどうやら、アルトリエ大陸全土の人間の魔力を少しずつ搾取し続けているらしい。まあ原理などは分からないし、〝ウルストラ〟の遺した文献をそのままなぞっているだけなんだがね」


 その〝ウルストラ〟が遺したという文献を見ていないから判断はつかぬが、理屈の分からないものを使うことのリスクよりも、現状の利を取ったということか。

 改めて知るのは、〝ウルストラ〟という人智を遥かに超越した存在は、アルトリエ大陸の礎に根深く絡んでいるということ。


 宗太は〝ウルストラ〟を知るガランフォルテに、とある疑問をぶつけてみた。


「大星将が使ったという力は一体なんでしょうか?」


 大星将マーク・〝ウルストラ〟・キャラウェイに関することは、事件関係者の一部のみが閲覧できる報告書でしか宗太も知り得ていない。


〝只中〟のジャーナンド両断した『平和を捥ぎ取る魔刈斗(マガト)()(ツルギ)』。

 その『魔法遣い』が振るった武器の全てを一瞬にして絡め取り、本体ごと細切れにした『悪意を千切る苦汰刃(クタバ)()(ツルギ)』。

〝朽ち果てるバレイリオの腐〟ガ・ヅゥイド・ハルナレゥを撃ち抜き屠った大弓『鎮魂を植えつける浄迦射(ジョウカイ)()(ツルギ)』。

〝万物の父〟アルファズル(オーディン)が構成した真なる魔偽術(マギス)の術図式を打ち消した『破局を蹴散らす闇赦那(アンシャナ)()(ツルギ)』。


 ソラノアの報告によれば、それらはもはや『魔法』(イグドラシル・ロウ)を偽る超常の力――魔偽術(マギス)とは別次元の「何か」としか思えないということだ。


「あくまでも〝ウルストラ〟が夢描いた計画の最終形――『人造勇者(チーター)』と同等の力だというのなら、それは世界構造そのものを意のままに改竄するのだという」

「世界を……意のまま……」


 宗太は口にするものの、単純に違和感を抱いた。

 もしそうだというのなら、この『魔法』(イグドラシル・ロウ)を巡る争いなど行わなくていいはずだ。

 いやむしろ、『魔法』(イグドラシル・ロウ)そのものを再生できるのではないか?


 できないということは、少なからず『人造勇者(チーター)』なる存在ではないということだろうか……

 それこそ、『魔王』が誕生するまで真に覚醒しないのかもしれない。

 訝しむ宗太に対し、ガランフォルテが頷いてから話す。


「マーク・キャラウェイが僕らが()()()()()()()世界構造の改竄(チート)を使わぬ理由は、恐らく今ソウタが想像していることに近いだろう」

「正解ではないんですか?」

「確証がないからね。最悪を想定しなければいけない以上、楽観は避けておきたい」


 世界を書き換える力があってもしない理由……そんなもの分かるはずがない。人間である以上、永遠に。

 息抜きにコーヒーを飲み干したあと、なんとなく座る位置を変える。

 その時だった。胸に違和感を覚えたのは――そして、すぐに正体を思い出す。


「そうだ。下で揉めていた当事者から、これをあなたに渡して欲しいとのことです」


 上着の内ポケットにしまっていた封筒――カナから託されたそれを手渡そうとする。


「そんな怪しげなものを、あっさり渡そうとするのか?」

「まあ、貴方への敵意はなかったようですし」

「それならソウタ。君が開けてくれないか?」

「いいんですか?」

「いいも何も。そんな得体の知れないもの。私が開けるわけにはいかないだろう?」

「僕がいなくなっても支障はないんですか?」

「まさか。それとも、封一つで〝魔人〟を殺せるほどの何者なのかだったのかい? その手紙主は」


 カナがそんな物騒なものを仕込んでいるとは思えない。最低限、こちらに託したというのなら、宗太が不利になる何かであることはないだろう。

 彼女の全てを信じているわけではないが、敵対関係ではないとは確信できる。

 それでも僅かな躊躇いがあったのは、つい最近、銃弾一つで麻痺させられたからであり、思いの外トラウマになっていたのだ。

 やや緊張気味に、宗太は青く煌びやかな光を散らす藍方石が混ざった封蝋から解く。




 ――部屋が爆発した。

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