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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十二章 訴えを口にする時、情意はどこに伴うか
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2.見覚え

「――っ!?」


『雪城宗太』――その名前を誰よりも聞き間違えるはずがない。他ならぬ自身の名前なのだから。


 だが目の前の幼い少女など見覚えがない。ましてやここは異世界。知り合いなど限られている。こちらの世界で得た仕事上、知らぬ顔に関わることは多いが名乗る機会などまずないのだから。

 面識がないはずの少女が自らの名前を口にしたことを、宗太自身が一番驚き、理解が遅れる。


「ご知り合いですか?」


 訊ねて来たのは軍警察の男だ。よっぽど鬱陶しく、かつ厄介だったのは彼の表情から容易に読み取れた。

 そして、その表情は宗太にも感染する。


「そうなんです」


 だが渦中の中心である少女は色々と構わず、柔らかく微笑みながら足場(ステップ)を使って宗太に飛びついて来た。

 座ったまま咄嗟に受け止めるが、全体重を預けに来ているのにも関わらず想像よりも軽く、不安になるほどに華奢だ。


「他人には言えない関係です」

「ぶっ!?」


 理解が追いつかないところでの発言に、宗太は動揺が隠せない。

 ギュっと抱き着き、彼女の顔は宗太の頬にくっつきそうなほど近い。雨によって冷えた彼女の身体に、宗太のただですら上気した体温が持って行かれる。


 密着する二人。そこに向けられる半眼は恐らく、この軍警察の男だけではないだろう。

 呆れというよりは不潔なものを見るような目でこちらを見ながら、溜め息交じりに軍警察の男は言う。


「オルクエンデ様のご知り合いだったのですか……」

「いや、だから、俺は知らな――」

「ん? アレクセイさん、間違えた……?」

「――っ!?」


 ぼそり、と耳元で宗太にしか聞こえない程度の声であったが、彼の全身を強張らせるほどの強力さが伴っていた。

 アレクセイ。このアルトリエ大陸に召喚されてから、その名を聞いたことは一度しかない。


 そう。『無望の霧』の中――『星約の刻間』にいた老人、アレクセイ・ロンキヤートただ一人……

『星約の刻間』で『天使』がアレクセイに対し、『君達の願いにも支障が生じる』と言い、彼もまた『私達はあなた方の駒とでも?』と言った。

 そのことから、そのような関係者が他にもいるとは考えていたが、このような形で遭遇するとは全く想定していなかった。


 と、ほんの僅かな時間とはいえ考えに耽っていたことを自覚し、ハッとなって真っ先に目が行ったのは、向かいに座るソラノアだった。

 目が合った瞬間、こちらが動揺していることを察したのだろう。


「ソウタさ――」

「ひとまず、離れてくれるかな!」


 心配したソラノアを遮り、少女の両脇を掴んで引き剥がす。

 だが結果として膝の上にちょこんと対面する形で座ることになり、気まずさに冷汗が止まらなくなる。


「おじいさん、元気にしてる?」

「はい。お陰様で」


 少女はこちらの作り笑いの意味に気づいたのか、素直に宗太から離れる。

 ソラノアから見れば、宗太が急に態度を豹変させたように見えただろう。彼女は戸惑いながら、「ええと……」と言葉を探る。


「前にこの子のおじいさんにお世話になったんだよ、ソラノア」

「そうなんですか。でも……」

「ああ分かってる。いくら俺の知り合いでも、さすがに中に入れることはできないもんな」

「それは困ります。まだ皇帝にお会いしていません」


 ガシッと、その小さな手で宗太の胸ぐらを掴む。

 か弱い拘束など宗太の手を煩わせるものではないが、固い意志が伴ったそれを完全に除けるのは容易ではないはずだ。


「というか、どうして入って来られたわけ?」

「それが……」


 軍警察の男の困惑はますます濃くなる。それは自分自身、まだ他者に語れるだけ状況を理解できていないと言った様子だ。

 と、それを説明するかのように少女が胸元から、一通の封筒を取り出す。

 見た目だけで高級だと分かる、その封筒。それこそがこの混乱の要因の引き金であることは、軍警察の男の表情から明白であった。


「正真正銘。【連星会】代表商卿の一人、鉱商卿(こうしょうきょう)パヤダーン・ムシュアウ=リロイの命によって派遣され、書簡を手渡す予定だったの。この封緘印の蝋に混ぜられているのは、大陸北部の竜嘶(りゅうせい)鉱山でしか採取できない希少な藍方石よ」

「一応、この帝城塔にいる【連星会】会員の顧問商人曰く、『封書は限りなく本物に近いが、この時期に商卿が皇帝に他人を寄越すのは考え難い』と言っておりまして。念のためそのような書簡が発行されているか、本国の鉱商部に確認してもらっているですが……それに外の目もありますので中には通したんですけど……」


 本物である可能性も考慮すると、勝手に封緘を解くわけにもいかないのだろう。

 口ごもりながら、何度も軍警察の男は視線をこちらに向けて助けを求めている。というよりは、押しつけようとしているのかもしれないが。


「いや、この子のおじさんにこそ面識はあるけど、そんな肩書の人と知り合いだったかは知らないんだよ。だからそんな目で見られても……」


 際どいバランスを懸命に取る宗太。まだ少女の正体が分からぬ以上、肩入れしすぎるわけにもいかない。


魔偽術(マギス)で巧いこと開けられないのか?」

「中身が魔偽甲(マギカ)である可能性を考えると、避けるべきだと思います」


 ぼそりと呟いたのはほとんど独り言に近かったが、ソラノアが念を押すように指摘する。


「それに今日はもうオルクエンデ様以外に謁見の予定はありませんし。何よりこの名刺に書かれている『特殊史料管理官』という聞いたことのない、身分が不明瞭な者を通すわけには……」

「あなたの知識不足を、こっちのせいにされても困る」

「いやさ。まあ……あれだ。君の訊きたいことは俺が直接、皇帝に訊ねてあげるから。ほら、訊こうとしてたこと、言ってごらん?」

「いえ。これは私が直接訊かなければいけないことで……」

「言い難いこと? なら、二人きりで聞いてやるから――少しばかり場所借りてもいいだろ?」

「えっ!?――ええ。もちろん」


 軍警察の男に振ると、やっと面倒事から解放されると気が緩んだのか、あからさまに明るくなった。

 宗太は苦笑しつつ、ソラノアへ告げる。


「悪いんだけど、俺は一人で向かうから。君は先に行ってザイスグリッツの要件を済ませてくれるかな?」

「でも、ソウタさん……」

「大丈夫だって。少し話聞くだけだし。それに何より、皇帝は俺と一対一で話すことを条件に持ってきたんだろ?」


 心配させまいと普段通りの笑みを宗太は浮かべた。が、ソラノアの同じような感情を抱いて返しであろう微笑みを見、自分もそんな顔をしているのかと悟った。

 互いに腹に一物を抱えていることを感づきながら、相手を気遣っている――つもりでいる。()()()()だ。

 宗太は少女を先に少し強引に降ろし、軍警察が案内する場所へと向かう。心なしか逃げるように。


 二人に用意された部屋は簡素な机が部屋の中央にあり、それを挟むように椅子が二つ。部屋の隅にも机と椅子がワンセット。つまるところ尋問室かそれに近い何かだ。

 ザイスグリッツもソラノアとともに、このあとで同じような部屋に連れて行かれるはずだ。

 この部屋が監視されていないか宗太は適当に探り――されていたとしても、分からないが素振りは見せつける――、そこでようやく軍警察の男を解放した。


 それから少し時間を置き、ようやく疑問を口にする。


「で、君は何者なんだ?」

「私はカナ。カナ・セラフルーウ――こう見えても、君よりそこそこ年上だからね」


 カナと名乗る少女は口調や素振りに年上染みた雰囲気を醸そうとするが、見た目からは全くそれを感じ取ることはできない。

 そして、やはりと言うべきか。全く持って聞き覚えのない名前だ。

 つまり、『天使』に関する者達には、当然のように宗太の名前が知られていると考えていいだろう。


「雪城くん。私達、仲良くできると思うんだよね」

「ナンパ?」

「…………」


 カナは眉根を寄せ、難しい顔をしながら黙り込んでしまった。

 唇に指を当て、時折首を傾げては唸りながら何かを悩んでいる。


「……えっと……それはどういうリアクション……?」

「あっ。えっと、ごめんね。微塵もそんなことを考えていなかったから、ウィットに富んだジョークで返そうと思ったんだけど……全く浮かばなかったので。本当にすみません」


 深々と頭を下げる少女を見て、宗太は「また、個性的な女性と知り合ってしまったかもな……」と独りごちる。

 そんなカナが顔を上げ、「ただ他人には言えない関係というのは、間違いないかと」


「いや、だからさ。その誤解を招くような言い回しはよしてくれない?」

「誤解なんてとんでもない。何せ、この()()()()()()()()()()()()()()()()なんだから」

「………………何を?」

「えっ? だから、私達もまた雪城くんと同じように別の世界から召喚、ないしは転生などでこの地に来訪したんですけど……」


 さも周知の事実かの如き口調で話すが、宗太は俄かに呑み込めないでいた。


「ああ、そうでしたね。私の肉体も『魔物』――〝魔剣〟ビロゥガタイドでした」

「いや! ああもう! ちょっとこっちが話を整理するまで余計な情報を加えないでくれ!」


 さらなる爆弾の投下に参った宗太は、思わず大声で根を上げる。

 オルクエンデや『天使』の言動から『魔法』(イグドラシル・ロウ)に纏わる世界は、宗太が元いた世界と、このアルトリエ大陸がある世界。そして、それら以外の世界もあるというのはなんとなく気づいていた。


 が、実際に第三の世界の住人とコンタクトを取れるとは思ってもいなかった。しかも、心構えも覚悟もしてない不意打ちで、こんなにもさらっと暴露されるとは。


 宗太はカナの発言のいくつかを脳内で反芻させたのち、黙っていてくれていた彼女に問う。


「えっと……さっき『〝魔剣〟()()()』って言ったよね……?」

「はい。私の肉体は十五年前に戦死しました」

「死んだ? なら継承は……?」

「一〇体揃うまでは、器が朽ちたら最接近している『魔物』に継承されるのではなく、『魔物』の魂がそれぞれの星地に留まるの――」


 と、そこでカナがはたと喋るのを止めた。

 宗太をじっと見つめ、顎に指を当てて訊く。


「――って、雪城くんは、どこまでご存じではない?」

「どこまでって……恐らく、君が基本であろうと思っているところからだと思うぞ」


 もはや何が分からないか分からないという状況の宗太は、諸手を挙げるしかない。

 そんな彼にカナは「なるほど……」と頷き、続けた。


「人間というのは、我々の世界――」

「うん。ごめん。俺が悪かった。『魔物』について教えてくれ」


 ボケたわけでもバカにしているわけでもなく、本当に人間について説明を始めようとしたカナを制止する。


「『魔物』化には『魔法』(イグドラシル・ロウ)を物質化する器が必要なんだよ。時には肉体。時には精神。時には両方を触媒にして。そして、アルトリエ外であり『魔法』(イグドラシル・ロウ)に纏わる世界から、器を呼び寄せる」

「じゃあフェイやステファニーも……? でも、そんな素振りを見せたことはないぞ?」

「ええ。だってアレらはあくまでも〝魔弾〟モーフィスシャイトの精神であり、〝魔炎〟アジュペイトランクリの精神だから。元の精神とは全く別物」

「なら、その元の精神はみんな、君と一緒にいるのか?」

「フェイさん――(フェイ)天翔(テンユィ)さんはそうだね。ただ、それでも全員ではないよ。転生者の場合、多くは元の精神が『魔物』の精神に侵蝕されるから。私達は大抵が、肉体のみを奪われた者達ね」


 溢れ返りそうになる情報の量に、なんとか宗太は零さないよう努める。

 気になることが山ほどある。が、この時間があまりない中で、訊ねるべき最良の疑問を選択するのは至難の業だ。

 それでも、引っかかったことをカナに訊ねる。


「肉体のみを奪われたっていうのは?」

「私の場合は、アルトリエに召喚された時にはもう〝魔剣〟に肉体を乗っ取られ、私自身の精神は『星約の刻間』で彷徨ってたの」

「俺みたいに肉体が複製されて召喚されたわけじゃない?」

「そうだね。まず雪城くんという個人そのものには、特別性は一切ない。けど、初めて〝魔人〟オルクエンデの器となった人物であり、唯一肉体を複製された状態で召喚され、しかも『魔物』と精神を同居させているのよ、君は」


 前半の『そこまで言わなくてもいいだろ』と口にしたかった念押しに聞き流すところであったが、自分が特殊で特異な立場にいることを再認識する。


「でも肉体を複製させて、オルクエンデを俺の肉体に入れたのは『天使』だぞ?」

「あくまでも『天使』とは、利害関係が一致しているから協力しているだけだからね。『天使』の腹積もりを看破しているわけじゃないよ。それに召喚されて『星約の刻間』にいる私達だって、それぞれに自分の願いを抱えている」

「なら、君の願いを叶えるために、皇帝に会いに来たのか?」


 カナの望みに興味があるわけではない。

 ただ、新たなる勢力の指針を知られるに越したことはないはずだ。宗太の宿願の障害になる可能性もあるのだから。


「直接は、違うかな? それに本当は詰問と言うより見定め。敵対するか共闘するか」

「それはつまり、君達も『計画戦争』に参戦する?」

「そう。私達は『計画戦争』のバランスを鑑み、帝国側に加担する可能性も想定しているから」

「バランス? 『計画戦争』の?」

「ええ。ただ戦争をするわけではなく、これはあくまでも『魔法』(イグドラシル・ロウ)再生のための争いだからね」

「お前らが戦争を――生死を管理するとでも?」


 癪に障る。というほどでもないが、まるで殿上人のような発言に宗太は反射的に食ってかかった。


「雪城くん。あなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 口調は表情こそ先となんら変わらぬが、そこには今までに片鱗すら見せなかった感情が伴っていた。

 怒りと、嫌悪が。


「確かに親しい人もいるでしょう。想う方もいるのかもしれませんね」


 なんてことはない言葉だったそれに、宗太は彼女の顔をちらつかせてしまった。

 考えないようにしていたこと。ないしは、考えていなかったことであったはずなのに。


「でも、()()()()()()()()()()()()()――」

「さすがにそれ以上は留めるべきだ」


 後方から突然割り込んだ若い男の声に、ハッと振り向く。そこには中肉中背の眼鏡をかけた、東洋風の優男が立っている。

 その顔に、宗太は思わず声を上げた。


「フェイ!?」〝魔弾〟の異能か、と一瞬こそ疑った。が、その眼鏡の奥から覗く憎悪の色が、違うのだということ察しさせた。「いや、本来の(フェイ)天翔(テンユィ)か」

「ああ。そうだ」

「どうやってここに?」

「別に入って来たわけでも、今ここに実在しているわけでもない。カナが説明した通り、僕らはいわば精神体だ」


 そこで彼らの別称を思い出す――〝悪霊(レイス)〟という蔑称を。

 同時に違和感が生じる。どうして、カナは(フェイ)のように皇帝のいる場所に侵入しない?

 しない理由。ないしはできない原因があるのか……

 そして、それを今問うべきか項目か。触れていい内容か……


「カナ。何故『星約の刻間』から雪城宗太を離し、かつアレクセイを選んだのか分かっていないのか? アレクセイがこの雪城宗太と最も接点が遠い人物だったからだ」

「真実から遠ざけるためか?」


 答えたのは宗太。半ば当てずっぽうだが、どこか確信めいたものも抱いていた。


「その通りだ。君が真実を知ることで、僕らの計画に支障が出るかもしれない」

「俺はよっぽど重要な立ち位置にいるみたいだな。そこまで大事なら、ここでいっちょ暴れ回ってお前から強引に訊き出しても差し支えないか?――俺からすれば」


 突き出した腕は、(フェイ)天翔(テンユィ)へ。

 これもまた半分はハッタリだが、場合によっては凶行に出ても構わないという気構えはある。


「無駄だ。僕の生き死になどもはやどうでもいい――それにそもそも、君の攻撃は僕らには通じない。根本から違うからな」

「思わせぶりの台詞ばっか並べやがって。そんなに自分が賢しくないといけないのか? 言っておくが、分からない人間に通じるように説明できて、初めて頭がいいって言うんだよ」


 この脅迫が全く通じない。というよりも、効力が本当にないということは(フェイ)だけでなく、動じる様子のないカナからも明瞭である。


 じっと数秒の間。

 痺れを切らせたのは「くそが……」と吐き捨て、振り上げた腕を下した宗太。ただ自分が思っているよりも、そこに感情は伴っていなかった。

 そもそも時間が限られている宗太に対して、なんの制約もない――少なからず、この状況に於いて――(フェイ)だったのだ。全く持って駆け引きにすらなっていなかった。


「私達は雪城くんに賭けています」

「オルクエンデにじゃなくて?」

「両方ですね。はっきり言いますと、私達の企ては計画と呼べるほど様になってはいません。ただ願いを叶えるために、近づけるために運命のようなものに抗っているだけ。だから不安要素。不確定要素は時が来るまで避けたいんです」


 カナはこの場を収めるためでも宥めるわけでもなく、ただ本心で言っている。

 少なからず、宗太の瞳には彼女がそう映った。信じられるかどうかは置いておいて。


「それに君にその時が来れば、真実など否応にも分かる」

「その時?」

「ああ。わざわざ説明する必要もないだろう? 君にとっての『その時』など限られている」


 (フェイ)の言う、全ての真実に近づくその時――

 それはつまりは……


「『魔物』全てを倒した時か」


 宗太の解答は正しかったのだと、(フェイ)の皮肉染みた笑みが物語る。


「カナ。あまり干渉するのはまだ控えてくれよ――君の願いが僕と違うのは承知しているが」


 そう釘を刺したのは恐らく、カナが皇帝に伝えようとしていた何かを宗太に伝言させないためだろう。

 その彼の姿や輪郭が、すぅっとおぼろげになっていく。

 そして、いよいよ認識さえもできなくなってきた頃に、


「ただ僕も、君が自然と『本来』という言葉を使ってくれたことは評価している。できればカナ同様。仲間になって欲しいね。今のままの君なら」


 残り香のように、そう告げ去った(フェイ)

 もはや表情はおろか仕草さも伺えぬが、それもまた嘘偽りなく発しているのだと宗太は察した。


「そんなわけで、これ以上はお話できないようだね」

「君はこれからどうするんだ?」

「まあ、そうだね。せめてこれを渡してくれるかな?」


 そう差し出されたのは、鉱商卿から皇帝へと渡す予定だった書簡。

 宗太は仕方なしと受け取ろうとするものの、直前でその手を止めた。


「俺がこれを盗み見るかもしれないぞ? 会うのも明日になるし」

「別に見てもいいけど、それを君が有効に扱うのは難しいんじゃないかな? それにはあくまでも、【連星会】の資金の流れとかの情報が書かれているだけだしね」

「俺が使わなくても【凶星王の末裔】が――いや、なんなら聖都に流すかもしれないぞ?」

「そう忠告している時点で、雪城くんはそれはしないってことじゃないかな? それに誰よりも信用できると思ってるよ? 少なからず、ここにそれを君から奪えるモノなんてないんだから」


 そう微笑むカナに、宗太はそれ以上の拒む理由を見つけられない。

 今度こそ観念し、その書簡を彼女から受け取った。

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