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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十二章 訴えを口にする時、情意はどこに伴うか
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プロローグ 見極め

 アルトリエ大陸の三分の一を総べる、帝都オルフィシーの中心。帝都領はおろか、この大陸のどの施設よりも高くそびえる、その塔。

 帝城塔(ていじょうとう)。ないしはタワー・オブ・ジ・アルトリエ。創設者たる凶星王が与えた名前は絶界(ぜっかい)の傘。だが一番しっくりするのは『歪んだ直立の楔』だと、この塔の主、皇帝ガランフォルテ・ヴァンスターク=オルフィスアンは思っている。


 そのガランフォルテは今、朝の定例会議を終えて自室に戻ったばかりだ。

 役人が列挙する言葉の数々を肌で感じるに、世界の大変はもうそこまで迫っている。だがそれを確信させたのは、数日前に寄越された机の上にある一通の手紙だ。

 横目で見たあと、窓の向こうに視線を移す。

 今日は珍しく帝都の空は鈍色の重い雲に覆われ、降りしきる雨も時間が経つにつれて強さを増す。


(随分と待たせてくれたな、ジャック・リスフルーバ)


 雨天の悪路に慣れぬ者が多いこの帝都の道路事情を鑑みるに、ジャック・リスフルーバが寄越した者達の到着は予定よりも遅れるだろう。


(〝魔人〟召喚に成功した際は、すぐさま顔合わせをさせろと命じたというのに……それを後回しにするほど切迫した事態だったのか? 『星約者』どもにとっては……)


 眼下に広がる帝都の街並み。普段に比べて人が少ないが、元々この部屋の周囲から見える景色など限られている。

 城壁の外を巡回警護する軍警察に、遠巻きからこの塔を眺める観光客。それとこちらに向かって、観光客達(・・・・)に自分達の意見のようなものを訴えかけているデモ隊。

 さほど代わり映えのない日常が続いていた中で唐突に訪れた、異変。


(それがどうして、今になってどうして応じるんだ?)


 地平の先。見えるはずのないムーンフリークを見据えながら考える。

 ついに『星約者』が興じている盤の上に、自分の駒が乗せられたということなのだろうか。

 それとも政治的な意味か。皇帝派に優位性を持たせぬために。


(案外、面倒臭かったからか……?)


 ジャック・リスフルーバにそれほどの愛嬌があれば、どれほど助かるか。ガランフォルテは脳内で否定し、苦笑した。


 と、窓を叩く雨音がますます激しくなり始めた。

 観光客が散り出したというのに、それでもデモ隊はこの豪雨の中で風に煽られるプラカードを必死に抑えながら何かを訴え続ける――というアピールに懸命となっている。もはや訴求の言葉に意味などはなく、自らの行為に酔い痴れているだけだ。

 帝都の降水量は比較的低く、ましてや今日のように荒れるのは滅多にないことだ。


 もはや、これは何かの前兆であろうか……?


(だとすれば、俺は随分と世界に愛されていることになるな)


 思ってもいないことを胸中で呟き、その虚しさを自嘲する。

 この無慈悲で非情なる世界が、誰か一人のために何かを兆してくれるわけがないとなどガランフォルテ自身、痛いほど理解している。


(そうだ。父でさえ、私よりもこの世界を愛した)


 それに悲哀や憎悪などは一切介在せず、ただただ事態を把握するための情報の一つだ――しかしながら、重要な要綱でもある。


 前帝であり実父でもあった『星約者』サレノ・アゾウル=オルフィスアンは、息子でさえ認めざるを得ないほど凡庸の王であった。

 常に緊張状態が続くこのアルトリエ大陸に於いて、三〇年以上も帝都を崩壊させなかったのは役人達が有能だったに過ぎない。

 だが同時に、前帝は担がされるのが巧みな人物でもあった。

 世界を安定させるための道具としての役割に徹し、今わの際までそれを貫き通した。


(その信念を抱いたのが『星約者』となる前なのか後なのかは、最期まで分からなかったな)


 五年前。ガランフォルテが三〇歳になる三か月前に、何も遺すことなく逝去した父。『星約者』であると知ったのは、ガランフォルテが皇帝に即位したすぐのことだった。

 それこそ御使いの如く、『天使』は帝都の王に与えられた役目――この世界の贄となることを告げに来たのだ。


(だが、『天使』は俺を『星約者』にすることはなかった)


 父と自分は何が違うのか。

 時代か器量か。それとも運否天賦の問題か……


(まあいい。いくらでも誰のかも分からぬ掌の上で踊ってやるさ)


 ジャックを始めとした世界の中心にいる者達が、何を企てているか。今はまだそこに手が届くことはないだろう。

 だが、予定よりも時間を多く得たお蔭で、こちらの計画もより盤石なものになりつつある。今さら急な横やりが入ったとしても、それが止まることなどない。

 たとえ自分が――王が斃れようとも。


(『天使』や『星約者』達が俺をどう値踏みしているのか分からないが、私は私で測らせてもらうぞ)


 これから来る者が果たして、計画の礎となるのか。

 それとも妨害となり得る障壁か、はたまた道端に転がる小石と変わらぬか。

 そして、それらの内のどれかであった場合、『星約者』がどう有効に使うのか。

 それを見極めるために。

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