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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十一章 足跡を辿る時、語り部から何を見るか
90/112

エピローグ 因果

 宗太は答えを知るべく、歩を進める。

 滅多に足を向けない場所に赴くので多少なりと緊張するが、別のことを考えることでそれから一度目を背ける。

 そして幸いに、頭の中での思考は独りではないので簡単に終わることはない。


(考えてみれば、星隷とかに関してお前に訊けばよかったのか?)


 自分の内に棲む住人――〝魔人〟オルクエンデに宗太は問いかける。


《まあそうだな》

(じゃあなんで、教えてくれなかったんだよ?)

《訊かれなかったからな。悪いが、お前が何が分からないかまで分かるわけないぞ?》


 宗太もそこまでは求めるつもりはない。面倒臭い恋人でもあるまいし。


(なら人星隷ってのはなんなんだ……?)

《……さあな》

(なんだよ、今の間は?)

《いや。気にするな》

(何か隠しているのか? それに『魔法』(イグドラシル・ロウ)の一部のお前が知らないってことはあるのか?)

《…………》


 反応を示さないオルクエンデに宗太ははっきり言う。


(俺は、お前が何が分からないかまで分からねぇんだぞ?)

《……まさにその通りなんだよ》

(ん?)

『魔法』(イグドラシル・ロウ)の一部である俺さえも知らないんだ》

(……もしかして、『魔法使い』が何かしたってことか?)

《もしくは『魔法使い』が隠しておきたい、何か》

(それが今、『天使』の手元に? だとすると、あいつは相当有利じゃないのか?)

《そうだったらの話だけどな》


 宗太の足が自然と早くなったのは、より『星約の刻間』での事実を知る必要性を感じたからだ。

 真実の最先端にいる者がいる場所へ向かう。ジャック・リスフルーバが執務を行う議会委員宿舎へ。


 宗太は【千星騎士団】及び【凶星の王の末裔】の末端という立場ではあるものの、〝魔人〟という重要人物であるためジャック・リスフルーバとコンタクトを取る手段――秘書のシェルリア・クワとの連絡を〔オレイアス〕を介して行うことができた。

 当然、必ず会えるわけでもないし、そもそも宗太自身もこの方法を使うのは今回が初めて。


 人目のないところでシェルリアの〔オレイアス〕に応答を求め、彼女に『ジャック・リスフルーバに『無望の霧』の奥で見たものについて話したい』と伝えた。

 急な申し出であったため、ジャックとの面会どころかシェルリアに通じるかさえ分からなかった。


(それが上手くいったんだから、運が味方したのかな……?)


【千星騎士団】の木っ端の人間がムーンフリーク会議場に独りでいる姿は浮いており、議員やその同行者達の奇妙な視線は痛いくらいに分かっている。

 だが、そんな恥辱など今はどうでもいい。許可も取っている以上、堂々と進むだけだ。

 任務報告などで訪れたことがあるとはいえ、その回数は片手で足りるほど。

 それでも間違えることなくはっきりと覚えているのは、毎度どこかで緊張感を持っていたのだろう。


 途中、単独で訊ねに来たことに対し、訝しむ守衛――ムーンフリーク千星技術学院にいた警備員のおばちゃんとは正反対だ――だったが、あとからやって来たシェルリアと合流すると、すんなり通してくれた。腹に一物を抱えたような表情こそしていたが。

 ここを越えれば、いよいよ目的地は目と鼻の先だ。


 すると、心臓の鼓動が激しくなるのが分かるように。心のどこかに、今すぐ踵を返して走り出してしまいたい自分がいるのも、また。

 そんな己の内にある弱さを押し留め、前を向く。


「ユキシロ・ソウタ様をお連れしました」

『入れろ』


 シェルリアはその場に留まり、宗太だけが中に入る。

 正面のジャックはこちらなど見向きもせずに、ひたすら机の書類と格闘をし続けていた。


「次から報告漏れは書面で済ませろ。私も暇ではないことは理解しているはずだと思うのだがな」

「物質化した『魔法』(イグドラシル・ロウ)の一柱たる『魔物』の問いに答えるのは、暇潰しにもならないのか?」

「いや。お前自身はただの人間だろう?」

「なら初めから許可するなよ」

「不相応の力を持つ子供に、癇癪を起こされて暴れられでもしたら堪ったものではないからな」


 ジャックの視線は終始、宗太ではなく目の前の書類だ。

 それでも構うことなく、宗太は自らの目的をぶつける。


「あの場所にいた人星隷。あいつはなんなんだ?」

「……そうか。そうだったな。お前もあの時『星約の刻間』にいたんだったな」


 まるで今思い出したかのような口振りであったのは、本当に言われて気づいたのか。それとも宗太など眼中になかったのか。

 仮に後者なら、また次の疑問に繋がる。

 宗太のことなどまるで興味がないと示したいのか。それとも〝魔人〟が来たどころではない何か、が伝えられていたのか……


「『天使』曰く、やつもまた『星約者』だ」

「星隷は『魔法』(イグドラシル・ロウ)に縛られているんだろう? 受肉し(しょうかんされ)た存在は偽物なんじゃないのか?」

「さあな。お前の言う通り偽物なのかもしれないし、『星約の刻間』がどこに場所にあるのかによっては本物なのかもしれん」


 瑣末なことと言わんばかりの態度。それは一体誰にとってなのか。それに、そもそもその態度は真意なのか偽証なのか……


「何も教えないんだな」

「お前がその瞬間にいなかったということは、お前が知る必要のない情報と言うことだ。それにそもそも、教えを乞う態度ではないからな」


 ろくすっぽ質問者を見ない人間が、どの口で――言いかけたそれを噤む。

 これ以上、人星隷のことを詮索しても実りはないだろう。それにこれは本題ではない。

 と、心臓が跳ねる。

 それは次に(・・)口にしよう(・・・・・)とした言葉(・・・・・)を意識したからだ。

 だが、もはや躊躇い踏み止まることはできない。


「――なら、ソラノアもか?」


 ジャックの双眸を逃さんとばかりに睨めつけ、宗太は続ける。


「ソラノアは〝魔女〟となんの関係がある?」


 彼女は〝魔人〟の器という運命に悲嘆せず、絶望せず。心折らずに受け入れ、抗った。

 幼き頃から本を読み続けていたのは、己が宿命を乗り越えるため。

 魔偽術(マギス)に関して徹底的に技術を磨き、『魔法』(イグドラシル・ロウ)を学び、己が願いを支えるために心身を鍛えた。

 全ては〝魔人〟召喚の際に、自らが生き残るために。


 そして。

 結果、雪城宗太が召喚された。

 それは召喚の儀式は失敗などではなく、むしろ成功だったのだ。

 ソラノア・リスフルーバの希望(ねがい)が成就したのだから。生きたいという願いが。

 ――だというのに、そんな彼女をまだなお、世界は追い詰めようとするのか……


「見たなら分かるはずだ。あれは〝魔女〟ソラノアに他ならないということだろう? 『天使』の話を信じるなら」


 と、ジャックは万年筆を止め、ここに来て初めて面を上げた。 


「お前があの娘について嗅ぎ回っていることは、すでに報告を受けている。それで何を得た? 求めていたものは聞けたか?――お前自身を慰め、逃避するための都合よく切り取られた現実は?」

「違う! 俺は――!」

「その自らの心に嘘を吐き切れていない様が、何よりの証拠だろう」


 言われ、自然と唇を噛んでしまったことを、宗太は強く悔いた。

 それはジャックの指摘を否定し切れない、認めてしまう自分が確かにいたからだ。


「お前は結局、『自分は真実に立ち向かおうとしている』という素振りをすることで真相から遠ざかり、己が行動を自己弁護をしているに過ぎない。あるはずのないものなのだから、いつまでも自らを正当化し続けられる。それが違うというのなら、ソラノアを呼びつけて直接問い質してやってもいいんだぞ」

「なら――」


 塞き止めていた感情を露わにしながらぶちまけることを決める。もはや、みっともなくとも構わない。


「ならお前がそうまでして、ソラノアの真実を俺に伝えさせたのはどうしてだ!? 『星約の刻間』に入場するために〝魔剣〟の力を手に入れさせたんだろ!? 『無望の霧』に導いたんだろうが!」


 テッジエッタとの会話で口にしなかった、もう一つの(・・・・・)可能性(・・・)に踏み込んだ。

 だが、ジャックは対照的に失笑をするだけだった。


「どうやらお前は、私が諸悪の根源でないと気に食わないようだな」


 嘆息交じりに机の引き出しを開け、数枚の紙の束を宗太の足元に放り投げた。


「それを見ろ。ランゲルハンス島の共同調査を決めたのは【連星会】の伝令ルマエラ・カーナー及びその取り巻きと皇帝側だ。その浅はかさを堂々と見せつけられるこちらの立場にもなれ」


 宗太が拾って確かめてみると、【連星会】と【凶星王の末裔】による共同調査と、【ローハ解放戦線】の共同討伐。その二種類の許可証といったようなものであった。

 記されたサインは達筆すぎて読めないが、少なからず時折見かけるジャック・リスフルーバのものではないことは間違いない。


「だがまあ、いい機会かもしれないな。真実を知りたければその男にでも訊いてみろ」

「誰のことだ?」

「そのサインの主。現皇帝ガランフォルテ・ヴァンスターク=オルフィスアン――お前も見ていただろう? 前帝であり『星約者』の一人でもあった、サレノ・アゾウル=オルフィスアンの嫡男だ。お前の帝都への召喚をせがまされていたからな」


『星約の刻間』でジャックの言葉を遮った、五〇代くらいの男の姿が、宗太の脳内で再生された。

 その子供は果たして、どれまで真実に近いのか……


「さあもう充分だろう」

「充分なものかよ」


 嘆息するジャックは表情こそ鉄面皮のままだが、醸す雰囲気は心底いい加減にして欲しいと言わんばかりのものであった。


「ソラノアを縛りつけるな。もうあんたのものじゃない」

「どうして、私がお前と交渉する必要がある?」

「あんたこそ分かってるのか? その気になれば、憂さ晴らしにあんたを殺せるんだぞ?」

「私を殺してなんになる? ソラノアを連れて全てを敵に回すか?」


 ジャックが試しているわけではないことなど百も承知だ。だが、宗太の脳裏にリーリカネットとテッジエッタの顔が浮かぶ。

 そうだ。彼女(・・)の言う通りだ。


「ああ。やってやるよ。それにソラノアを生かしたいと思う人間は少なくはないんだぜ?」

「ソラノアをお前の補佐にしたという意味を理解しているか? お前が暴走した暁には、お前があの娘に辿り着く前に殺すということだ」

「ソラノアは〝魔女〟なんだろ!? その力の譲渡がもはや誰に行くか分からねぇんだぞ! それでも構わないのか!?」

「そうだな。構わないから殺すのだ」


 その口調と表情は脅しでもなんでもなく、ただの事実としてこちらに伝えている。

 そして、ジャックは淡々と続けた。


「その迂闊さが、お前自身の世界を滅ぼすことを理解しているか?」


 するとジャックは、すーっと宗太からその後方にある扉と移し、


そうだろう(・・・・・)? ソラノア(・・・・)

「――っ!?」

 ――すでに呼んでいた!? いやそれよりも、いつから聞いていた(・・・・・・・・・)!?


 宗太が血相を変えて振り向いた次の瞬間、身体中が痺れ出した。そのまま周りの書斎道具を巻き込みながら、なす術なく大きな音を立てて倒れ込む。

 動悸が激しくなり視界は揺れ、呼吸も不安定になっていく。

 思考もおぼつかなくなる中、頭部に何か圧力が加えられた。


「見てみろ」


 ジャックに踏みつけられていると分かったのは、靴の裏で強引に頭の向きを変えられたからだ。

 宗太の瞳に映るもの。焦点は定まらないが、それでも扉は開いておらずソラノアどころか誰もいないことを理解させられた。


「大袈裟な技など使わなくとも、長けた虚偽などいくらでもできる」


 無力な自分にできる唯一の抵抗は、諸悪の根源を睨みつけることぐらいだ。

 ぼやける視界でなんとかジャックを見やれば、彼の手には拳銃のようなものが握られていた。ただ銃口から硝煙は上がっておらず、銃そのものも玩具のような造りである。


「〝魔剣〟討伐の報告によれば、お前にもソラノアの魔偽術(マギス)程度の毒ガスでも効果があったようじゃないか。それに人体構造も、耐久度があるだけで変わらないともある」


 何度も同じような手をくらい自分の不甲斐なさを噛み締めていると、やや乱暴に扉が開いた。


「リスフルーバ議員!?」


 聴覚もまともな機能をしなくなりつつあるため声質が判断しづらいが、口調からしてソラノアではないのは断言できる。恐らくシェルリア・クワだろう。


「オルクエンデ……まさか……」

「いや、子供が癇癪を起こしたから躾けてやっただけだ」

「しかし――」

「なるほど。私の言葉を信じぬか……」


 ひゅっと息を呑む音は、今の宗太の耳にもはっきり入った。故にどんな顔をしているか、だいたいの想像がつく。


「いえっ! 滅相もございません! 失礼いたしました!」

「何、そこまで恐縮することはない。本当は君の判断の方が正しいのだからな。ただ、今はそれを実行しなくていいということだ」


 鼻で笑うジャックだが、その顔は見えなくてよかったかもしれない。一体、どれほどにまで不気味か。想像だにできないし、したくもない。

 それから沈黙が始まったのは、宗太の症状が悪化したからか。シェルリアが部屋を出たからかは判断がつき難い。

 虚無感をしばし噛み締めていると、声が聞こえ始めた。


「さて。そろそろ撃ち込んだ神経毒も沈静化している頃だろうな。お前の強化されたという肉体なら」


 ジャックの言う通り、それがきちんと聞き取れるようになるくらいに宗太の身に起きた異常は終息し始めていた。

 頭部を再度蹴られたところで、ジャックは自らの机へと戻る。


「察しているな? お前はソラノアを守るどころか、その愚かさで殺していたことになる。もう二度と児戯につき合せるな」


 こちらを見向きもしないのは、構うつもりが一切ないということだ。いやその様は、まるで宗太がもうこの場にいないものとしている。

 そして、それに気づけと無言の圧力が宗太を威迫する。


 宗太は立ち上がり、無言のまま執務室をあとにする。

 結局はジャックの言う通りであった。何もかもが。

 宗太は自らが持つ力を有用に活用し切れない歯痒さと、『雪城宗太』という人間のどうしようもないほどの無力さに、ただ痛むほど強く拳を握ることしかできなかった。

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