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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第二章 魔人が生まれた時、青年は道を進む〈下〉
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プロローグ 灰色の地

 広場の時計台は十五時を越し、これから市場は徐々に賑わいを増す。

 ただ今日は、その喧騒もいつもよりやや早い。

 原因は明白だ――少女は目の前の事態に、腕を組む。


(さて、どうしたものか)


 迎えるべきはずだった少女ソラノア・リスフルーバに、その隣に立つ謎の青年。それらと対峙する【千星騎士団】の団員を、魔偽術(マギス)による騒動ででき始めた人垣の隙間から眺めつつ、テッジエッタ・マラカイトはどうすべきかを思案する。


 彼女、テッジエッタは今さっき来たばかりだが、だいたいの事態は想定できる。

 だから、自分が使いに寄越されたわけだが。


(ソラノアは結局、〝魔人〟にはならなかった。で、あの頼りなさそうな男が〝魔人〟オルクエンデってとこかな? 本当なら、フェフェットさんがここまで一緒に来るはずだったしね)


 それほど身長は高くもなく、膂力も望めそうにない、どこにでもいそうな青年。それがテッジエッタの見立て。

 しかし、物質化した『魔法』(イグドラシル・ロウ)――『魔物』の一柱である〝魔人〟だとすれば、自分の選別眼などまるで当てにはならないだろう。


(んでも。なんでよりにもよって、星将が突っかかってくんのかね?)


 その二人の前に立ちはだかる、殺意を見せつける男に視線を移す。

 黒い牧師のような服の胸には、【千星騎士団】の中でも一師団を総べる隊長――星将の証である天斂(てんれん)勲章がついている。

 星将がいるという点では、さほど珍しいことではない。

 何せここ、星地ムーンフリークは【千星騎士団】が管理し、星都エレル・クロイムァシナの属国ではあるのだから。


(んでも、その星将がこの地で(・・・・)一般人に【凶星王の末裔】と嫌疑をかけて、断罪しようとしている点は、明らかな異常よね)


 ここは確かに【千星騎士団】の管理下であり、【凶星王の末裔】は最大の敵対組織だ。

 しかし、ムーンフリークは星都領の最南端に存在している。アルトリエ大陸南部を支配し、【凶星王の末裔】が主に活動する帝都領は目と鼻の先。境界に位置していると言ってもいい。


 故に他国と比べても特殊で、いつの間にか【凶星王の末裔】の達が隠れ潜む場所となってしまっているのだ。

 もちろん、昨日今日の話ではない。政治にまで食い込んでいるほどなのだから。

 一見、危うい地に見えるが、その事実を多くの者が知っているために、歪でありながら奇妙な治安を構築した。


 誰が真の【千星騎士団】の団員で、誰が隠れ【凶星王の末裔】か。ないしは、その両方か。それともどちらでもないのか。

 それを無理して暴くことの利が、己の安全に直結しないことは考えなくとも分かる。それはどんな人間でもだ。


(何か、別の目的がある?)


 星将を窺うが、何か裏があるようには見えない。

 純粋に、敵に対する殺意しかない。それでもなお裏があるというのなら、よっぽどの役者だ。知れば、演劇界が黙っていないだろう。


(まぁ、ここは信仰の自由を翳して、この衝突を止めることもできるけど……)


 ただそれは、相手がまともな思考をしていれば、だが。

 あとは他の【千星騎士団】ないしは警察に話しかければ、少なからず今よりはマシな方向へとことは運ぶ。

 で、あろうが……


(ソラノアもこっちに気づいていないことだし。折角だから私も見せてもらおうかしら。〝魔人〟オルクエンデの実力ってやつをさ)


 ソラノアの隣に立つ青年を見、テッジエッタは小さく笑う。

 さて。一体、どこまで自分を裏切ってくれるのか?

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