6.伝説
誰もが様々な自分を持っている。
それは当たり前だ。
時として意識的に。時として無自覚に。
魅せる美しさもあれば、隠したままでいたい醜い部分もあるだろう。
そういった様々な側面を持つのが人間であり、純粋無垢、洗練潔白な人物など赤子以外に存在し得ない。生きていく限り。
だから、こちらが知らなかった。思ってもいなかった一面を見たところで、勝手に軽蔑するのはおかしな話だ。
むしろそれを知ることで、より魅力的だと感じる場合だってある。
そう。宗太が知った数々のソラノア・リスフルーバ伝説だって、その一つだ。
(普段の彼女からは想像がつかないのは、ほんとあったな)
宗太は目的地へと向かいながら、そのいくつかを思い出し、独り笑いを堪える。
リーリカネットやテッジエッタにソラノアの過去を聞いた翌日。つまりは今日も、宗太は『誕生日プレゼントの探りを入れている』という名目で、彼女と縁のある人間に目的の地へと向かいがてら色々訊き回っていた。【千星騎士団】の仕事である警邏のついでに。
ソラノアの知人は何も【凶星王の末裔】や【千星騎士団】だけではない。
ムーンフリークの住人にも彼女の顔が知れ渡っているのは、ランゲルハンス島に行く前にソラノアに対し散々悪ふざけをして知ることができた。
(あの時は、あんなふざけたことできたんだけどな……)
昨日、家に帰ったあとはソラノアから直接、生い立ちを訊くことはできなかった。
宗太自身が下手なリアクションを取ってしまえば、関係はますますぎこちなくなるに違いはないから。
とはいえ、宗太がプレゼントを手に入れるために彼女の過去を探っていることは、噂が回ってソラノア当人の耳にも入るだろう。
ただその頃には尾ひれ背びれがついて、宗太の真意などと全く分からなくなるくらい膨れ上がっているはずだ。
(考えてみたら、ソラノアに上げるプレゼントのハードル相当上がってないか?)
一抹の不安を抱きつつも、今はそれにはひとまず目を背けておく。
色々と聞いたソラノアの伝説は基本的には好意的なものが多い。気の遣える彼女だ。嫉妬の類も買うであろうが、そういった話は宗太が聞くことはなかった。
もちろん、その容姿も相俟って色恋沙汰の話もちらほら入った。ただ誰かと付き合ったという話ではなく、交際を断った際の逸話がほとんどだ。
中には〝魔人〟の器としての人生を歩んでいなければ、きっといい恋になってかもしれない。そんなものもあった。
(ま、恋愛なんてしたことない俺の判定だけど)
あとは思わず笑ってしまうものや、正直ちょっと引くもの。勇ましさに惚れてしまいそうなものなど様々。そしてそのどれもが、より彼女を魅力的にさせる。
色々な人の口から紡がれる伝説が、ソラノア・リスフルーバという少女を宗太の中でより確かな存在として肉付けしていく。
――と、宗太は足を止める。
瞳に映るのは、一際高い大楼門。その奥に庭園では時折、術図式の光が浮かんでは消えた。
(それを完成させるには、ここは避けられねぇよな……)
ソラノアを知るためには、このムーンフリーク千星技術学院を避けて通ることはできない。
【千星騎士団】の一員。しかも警邏中なのだから、顔を出す程度なら面倒な許可申請をしなくても大目に見てくれるのは、数度先輩どもと同行したので知っていた。
それでもやや緊張しながら、警備員のおばちゃん――最古参の警備員で器量がデカいことで有名だ――に声をかける。
「どうも。ついでにパトロールに来ました」
「とかいって、あんまり女の子達にちょっかい出さないでよー?」
「しませんよ――というか、してるんですか、先輩の方々は?」
「まあ、可愛い子見つけては軽く声かけてる程度だけどね。とはいえ、釘は差しておかないと。特にあんたは」
「……? なんで俺なんですか?」
「ソラノアちゃんを泣かせるなってことさ」
「その噂。あんまり広めないで下さいよ? 俺、特にこの場所だと超アウェーみたいなんで」
「その割には、ここ通る時には胸張ってないか?」
「まあ、その噂。悪い気はしませんからね」
なんて接客業で鍛えたおばちゃんとの気さくな談笑を終えたあと、宗太は学院内に入っていく。
これと言った目的場所はないが、話しかけてくる生徒や教師、研究者――主にソラノアとの関係を探って来る者達――に、宗太も接客するかのように爽やかかつ、当たり障りのない会話をした。当然、ソラノアの過去に探りを入れつつ。
数十分そんなことを続けていたが、幸か不幸か、ソラノアとばったり出くわすということは今のところない。
(もしかして、俺が来てるの知って避けてたりして……)
それなら少しショックではあるが、かといって会ってしまうのも気まずくなりそうだ。
ひとまず、このまま魔偽術関連の棟は避けるべきか。そんな時に目に留まったのはアルトリエ大陸史の研究室であった。
この世界で一体何があったのか。ソラノアの正体を掴むためだけでなく、自分が元の世界に帰るまで生き残るためには様々な知識が必要だ。
入るかどうか戸惑っている時だった、背後から声をかけられたのは。
「あら? どうしてこんなところに……?」
宗太は肩越しに振り返り――息を詰まらせた。
心臓が止まったとさえ思うほどの驚愕に、瞳はこれでもかというほど丸くなる。
そうなるのも無理はない。何せそこにいるのは――
「急に声をかけただけで、そんな驚かなくてもいいじゃない?」
そこに立っていたのは、紛うことなきフェフェット・フェブラなのだから。
死したはずの。フェイに脳天を破砕されたはずの人間が、平然とした顔で話しかけているからだ。
脳裏にこそ浮かんだ『どうしてこんなところにだって? それはこっちの台詞だ』という言葉も、声として発せられなくなるくらいに宗太は俄かに信じられなかった。
「こんなところで立ち話もなんですから、部屋へどうぞ。ご心配なさらずとも、中には誰もいませんから」
最後の一言が妙に強調されたかのように聞こえたのは、こちらが警戒してしまっているためか。
招き入れられた部屋は図書館のように、無数のほんと棚に埋め尽くされていた。そしてフェフェットの言う通り、人の気配はまるでない。
「先程からどうしました? 何かありましたか?」
首を傾げるフェフェットだが、別人でもなければ記憶を失ったわけでもないと、その双眸がはっきり語りかけてくる。
それをこちらが悟ったことを理解してか、口角を僅かに上げた。
「――と、とぼけてもいいのですが、それでは見殺しにされた私の腹の虫が収まりませんね」
「死んだ癖に生きてんじゃねぇよ」
「死んでませんからね」
なら双子か。それとも影武者か。
(それとも、本当に生き返った……?)
過るが、宗太はすぐにその可能性を潰した。
まだこの世界のことや、魔偽術の全てを把握しているわけではない。だが、死という概念を覆す術を持ち合わせていないことはなんとなく分かる。
もし死を突破する何かがあれば、その切り札の影が〝魔人〟である自分にさえ未だに見えないというのは考え難い。
また仮に蘇生したとしても、『無望の霧』に包まれつつあったランゲルハンス島からの脱出はできるのだろうか。
脱出の混乱に乗じて船に潜り込んだとしても、下船の際に生存者は逃亡者が出ないよう全員確認していた。
いくらフェフェットが【凶星王の末裔】内で上位権限を持っているとしても、その権力外の人間の口まで封じるなどできるはずがない。
(なら、この目の前にいる女は……?)
目の前の彼女の肌の色や瞳を見る限り、〝魔剣〟ビロゥガタイドとの決戦の際に使った『《傀我儡座》による死体操作』でもなさそうだ。
確かな生者が、そこにはいる。
「そんなにじろじろ見て、私に欲情でもしましたか? 年頃ですものね。やめて下さいよ?二人きりの密室でそんな」
「……口調がまるで別人だな」
「そぉーですかぁー? この扇情的な唇もぉー。蠱惑的な声もぉー。寸分違わずぅ私のものでしょー?」
「微塵も感じない点は、確かに本物臭いな」
宗太の返しに不敵に笑うフェフェット。
彼女の空とぼけた様は、それこそ本人であると証明しているようなもの。
そう見せかけるための演技とも考えられるが、これ以上疑ってもキリがない。
故に、真偽はともかく本物の――殺されたはずのフェフェット・フェブラであると受け入れる。
だからこそ宗太は戸惑う。
フェフェット・フェブラもまた、ソラノアを知るためには欠くことのできない重要人物だ。
問題はさらに底が分からなくなった彼女を前に、自分は出し抜くことができるだろうか?
「何か、私に訊きたいことでも?」
「……あんたはサトリか何かか?」
「サトリ?……ああ……覚ですか。どこかの伝説に載る魔物の一種でしたっけ? 人の心を読むとか」
「そうだよ。あんたみたいな化物のことだ」
「でも、覚のように、そこからあなたが何をするかまでは察することはできませんよ?」
博識の印象を与えたいのか。それとも単に、自分が優位に立たないと気が済まないのかは分からない。
口調が間延びしなくても、癪に障る素振りは確かに本物なのかもしれない。
「私が物の怪の類かはともかく。ひとまず情報交換と行きましょう。あなたは私から聞きたいことを訊く代わりに、私はあなたが『無望の霧』で見たものを教えてもらう」
「何も見ていない。覚えてもいない。だから、あんたに教えるものもない」
「いいんですよ? 合法的に『無望の霧』に入ってもらっても」
皮肉染みた笑みを浮かべるフェフェットに、宗太は表情を歪めるしかない。
自分が使った安い切り札が、必殺として相手の手札に回ってしまっていた。
「では。何を見たのか。話してくれませんかね?」
信用できるか定かではないフェフェットに対して、どこまで情報を流していいのか判断が難しい。
逡巡したあと、宗太は声を発するその瞬間まで迷いながらも口にした。
「……『無望の霧』の最奥にある『星約の刻間』に入った」
「伝承にある、あの『星約の刻間』に入場したですって!?」
小さく、しくじったと宗太は舌打ちをした。
ある程度の重要な情報で、かつ相手が持っているであろう些末なものを選んだ。つもりが、予想に反して喰いついてしまった。
「相当、知られたくはない重要な内容が隠されているんですね? 顔に出ていますよ?」
最悪ではないとはいえ、失態には違いない。
まず、今の失言でフェフェットにソラノアの過去を詮索できなくなった。
本当の最悪の事態――フェフェットがソラノアの正体を知らず、かつその真実に辿り着かれるに直結する危険があるからだ。
だが同時に、このミスはうまく運べればこちらが知らなかった情報を獲得できるチャンスにもなり得る。
唾を呑み込み、意を決す。
「あそこにジャック・リスフルーバがいた」
暴露に、さすがのフェフェットも小さく困惑した。
ジャック・リスフルーバの名前が出て来たことに、宗太がこの状況で嘘を吐いているのか測りかねている様子だ。
「やはり『星約者』が集う場所……?」
「そうみたいだな。俺がその他に見たのは、その若かりし頃のジャックに『天使』――」
宗太は記憶を辿りながら、連なる者の名を口にしていく。
どういうわけか、『星約の刻間』で見聞きしたものははっきりと覚えていた。こちらが忘れ去りたくとも。
「サレノ・アゾウル=オルフィスアン。ポワンラーン・ジシュエ・クワイアット。河商卿ナッシュタニア・ドルクリキュに五代目河商卿サラ・キミュラ=ナッシュタニア。剣姫王ティア・チェリオ――」
「ちょっと待って! さすがに処理が追いつかないわ!」
ここぞとばかりに、間髪容れずに続けてやろうという意地の悪さが顔を覗かせつつあった。が、今は一時の気晴らしよりも情報の確保だ。
「前帝に二人の河商卿……? しかも、お伽噺の〝輝石の財の女王〟と伝説の剣姫王ですって?」
「あとはその剣姫王に〝魔剣〟と呼ばれていたアレクセイ・ロンキヤートに――」
話す途中で、〝魔女〟のショックで欠落していた重要人物を思い起こす。
(――『人星隷』と呼ばれていたモノもいた……)
姿形がはっきりと思い出せない、『天使』ともまた違う何か。
あの人星隷と呼ばれていたモノは一体……
(いや、そもそも……)
浮かんだ疑問と同時に、果たして『人星隷』も挙げるべきかという迷いも生まれる。
どう考えても、フェフェットの方がこの世界における知識は豊富だ。
しかし、この重要だと思われる単語を、そう易々と切るべきか。どうしても躊躇いが生じてしまう。
「他に誰かいたのですか?」
その心の隙間を覗くかのようなフェフェットに、宗太は決める。
「……いた。が、名前は出なかったから説明のしようがない」
「そうですか……」
納得はしていない様子だが、彼女からすれば『こちらが隠したくなる何かが在る』ということが掴めただけでもいいのかもしれない。
それもまた、重要な役を作る手札となるかもしれないのだから。
「今度はあんたが話す番じゃないか?」
「ええ……いいでしょう」
「今、俺が挙げた『星約者』達は何者なんだ?」
「簡単に言えば、だいたいの人物がこのアルトリエ大陸の基盤を作り、継続させ、支えている者達ね――中にはお伽噺の悪い魔女だったり主役だったりもいるけど」
唐突に現れた魔女という単語に思わず息を呑んだが、幸いにもフェフェットはこちらを見ていなかった。
それに悪い魔女は、『魔物』の一柱である〝魔女〟を指しているわけではないことくらい分かる。
「にしても、『星約の刻間』とは、世代を超えて一堂に会すことができる場所……? いやそれよりも、このアルトリエ大陸は『天使』の思惑によって造られ、添うように進んでいる?――となると、いよいよ私達は何と対峙しているのだか……」
フェフェットのそれは単なる独り言だったのだろうが、宗太にも共感できた。
それからもフェフェットは独り、ぶつぶつと口にしながら考えをまとめている。
「なあ? 星隷ってなんなんだ? 星隷召喚だって魔偽術の中では特異だ」
「なんですか、藪から棒に。どさくさに紛れて二つ目の質問ですか?」
「別にいいだろ? それに『星約の刻間』がこのアルトリエ大陸の代表なら、『星隷』はこの星の代表であり隷僕で、人柱なんじゃないのか? 月星隷シンナバグハクを星隷擬体する時に、俺はそんな情報が頭の中に流れ込んで来た」
「星隷擬体の施術前にソラノアに訊かなかったんですか?」
「その話が出た段階で、ソラノアとはそれに関する話しかしなかったよ。ただでさえ、星隷擬体の施術儀式は危険だって話だったから」
こちらが必要以上の情報を入れて、ソラノアの不安を増やす要因を減らしたかった。
というのもあるが、同時に宗太が必要以上に知ることを恐れ、かつソラノアが気を遣ってくれていたのかもしれない。
「理解した方が危険度は減りそうな気もしますけどね。それに他の人に訊くとかしなかったんですか?」
「説教ではぐらかそうとでもしてんのか?」
「自分の過ちをはぐらかそうとしているのはあなたのようですけど、まあいいでしょう」
呆れたような長い溜息を一つ吐き(嫌味ったらしい)、フェフェットは講義か演説のように饒舌に語り始めた。
「星隷とは概念統一体。ないしは化身と言ったところでしょうか」
と、そこでフェフェットはこの本の森の中から、一つの書物を引き抜いた。
それを机に置く――その本は……
「辞書……?」
「そうです。あなたにも分かり易く説明すると『魔法』を辞書として、星隷はそこに記載されている単語。それも膨大な意味を内包した」
一拍置き、こちらが話について来ていることを確認した上でフェフェットは続けた。
「そして星隷召喚とは、本来『魔法』の楔として在る星隷を疑似的に受肉させること――そういた意味では、星隷もまた物質化した『魔法』といってもいいでしょう。ただ決定的に違いうのは、召喚された星隷は所詮、偽物であるということ」
「偽物……」
宗太は思わず、視線を下げ自らの右腕を見てしまう。
しかし、それにはフェフェットは構わない。
「星隷召喚が通常の魔偽術と違う点は……まあ見せた方が分かり易いでしょう。連なれよ星々――」
フェフェットが両手を組むと、目の前に数個の光――星印が浮かんだ。ただそれらは宙に停止するだけ。
詠唱の文言からして、これは星隷召喚の術図式ではないことは明白だ。
「先にも説明した通り、星隷とは『魔法』に載っている単語のようなもの。ですから、我々が通常行う魔偽術は、その星隷が内包する意味を一つ一つ取り出す。これこそが星印配置です」
「つまり、この光は星隷の一部ってことか?」
「そう言うことですね。魔力を使い、『魔法』を偽っているわけ」
すると今度は、星印同士が光の線で繋がり始めた。つまり立体交鎖が成されているということだ。
「星隷同士の意味を組み合わせ、このように立体交鎖をさせる。術図式として完成した現象が実在するのだと『魔法』に誤認させています――《停灯座》」
フェフェットは最後の詠唱をすると、術図式は変異して星印よりも大きく、また強い発光をする光球が現出した。
「星隷召喚よりも単純化しているのは、そもそも星隷を駆使している割に術が大ざっぱなものだから」
フェフェットは自らが構成した光球《停灯座》を指さす。
「この《停灯座》もざっくり言ってしまえば『『光』を『浮かせ』、『留める』』の三つの星印を取り出している。厳密にはもう少し複雑ですが、要は主要な意味以外の超常は取り出した星印を逆追した星隷が補完しているということ」
「なら星隷召喚ってのはつまり、星隷の全てを引き出すってこと?」
「いえ。説明として星隷と称していますが、先にも言いましたように実際は『魔法』の一部。そのため星隷の完全召喚は不可能。我々が喚んでいるものは様々な星隷を組み合わせて再現されたもの」
フェフェットが言った召喚された星隷が偽物であるということは、そのことを差していたのだろう。
だからこそ、星隷擬体という義肢などに変化させることができるのかもしれない
「星隷召喚は星隷そのものが莫大な意味を持っていますから、必然的に必要な星隷も増えて行く。さらに膨大な星隷を使う故に余計な意味まで発生してしまうので、それを打ち消す星隷も必要となる。詠唱が長くなるのはそこに起因します」
「それじゃあ、生半可な人間がやっちまうと術図式を組むだけでも廃人になりそうだな」
「その通り。星隷召喚は通常の魔偽術と同様に、術図式さえ完璧に覚えれば基本的に召喚できる。けど、術図式そのものを組むのも、召喚した星隷を維持するたのも多くの魔力が必須となる」
「星隷擬体も例外じゃないよな?」
「ええ。あなたが今、腕のように再現しているだけでも魔力は消費される。星隷擬体が一般化や兵器運用しないのはそのため」
無意識に右腕が震えたことに、宗太は嫌な汗を一つ掻く。
ただの生理現象であろうが、まるで月星隷シンナバグハクが自らの存在を主張するようであった。
「さて。で、あなたが本当に訊きたかったものはなんですか?」
「だから、『星約の刻間』のいた人間の素性と星隷ってなんだよって話だよ」
「本当ですか? 先程の様子だと話す最中で何かを隠して、その時に疑問が生じたように見えましたけど? 特に後者」
「仮にそうだとしても、あんただけが知りたかったものを獲得できて、何も漏らさず済んだんだ。まさかこの期に及んで、道理を通す性格とか言い出さないだろ?」
「……まあ、そう言うことにしておきましょう。あなたはともかく、私には多少の利がありましたしね」
それから宗太は部屋から出、先まで歩んでいた道を戻り始めた。
本来の予定だったら、この後もソラノアの過去についてを訊き回る予定であった。が、それは変更せざるを得ない。
フェフェットの言うように、『星約の刻間』が世代を超えて集まる場所だとすれば。
そして、ソラノア自身が気づいていないとすれば……
(あのソラノアは、未来のソラノア……?)
導いた一つの答えは、果たして深層に近づいたのか。
それとも無意識に背いた結果作り上げた、慰めの虚実か。
(やっぱり直接、確かめるしかないのか)
真実の最先端に身を置く人物を宗太は思い浮かべ、その者がいる場所へと歩を速めた。