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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十一章 足跡を辿る時、語り部から何を見るか
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4.成長

 中に入れば、先に待っていたジンクが目に留まる。黒い簡易戦闘着を身に纏い、やる気充分で準備をしていた。

 今回は激しい戦いになるとでも言いたいのか、ヘッドギアまで着用している。こちらもしないとまずいことになりそうだ。


「おう。遅かったな」

「婚期をまた逃したジアララ警邏部長に愚痴られていたらしいからな。許してやってくれ」


 ノーグの説明に、宗太は「まぁ……そういうこと」と言うしかなかった。

 それから宗太も急いで装備を整え、ジンクの我儘に付き合う準備をする――宗太の鬱憤晴らしでもあるが。

 ノーグが審判としてつき、宗太をジンクが対峙する。


 この訓練の達すべき目的は互いに違う。

 ジンクは格上の敵の殲滅あり、宗太は格下の敵を制圧。しかも宗太の場合は、極力魔偽術(マギス)を使わない。使うとしても手を組んで詠唱する簡易魔偽術(マギス)のみ。加えて負傷も最小限に留めるというハンデまである。


 だというのに……

 号令を待ち構える中で、宗太はどうしても腑に落ちないことがあった。


「さっきから一つ気になっていたことがあるんだけど、訊いていいか?」

「なんだユキシロ? 改まって」


 眉根を寄せるジンク。その彼が手に持っているものを宗太は指差した。


「いや、お前。〔ミョルニル〕使うの? ねえ? 使うの?」

「それくらいで、ようやく釣り合うだろ?」


 にやっと悪ガキのようなジンクに宗太は溜め息を一つ。

 ただここ最近、どこか陰りを見せていたジンクであったので、その普段通りの態度は一安心する。空元気かも知れないが。


「では、はじめ」


 ノーグの合図に宗太とジンクが同時に踏み込む。

 先行を取ったのはジンク。右手に握る〔ミョルニル〕が宗太の左脇を穿たんとする。


「《撃打爆座(ケビヂクゴ)》!」 


 通常なら腕どころか半身が吹き飛びそうなほどの打ち込み。だが、強化された肉体はそれをこらえる。息が止まりかねないほどの激痛を伴うものの。

 宗太が狙うのは武器破壊。戦意を喪失させるにはまずそれだ。


 ジンクの右手首を掴みかかるが、もう一方の〔ミョルニル〕が迫る。

 宗太はさっと手を引き。今度は振るわれた左手首を掴んだ。そのまま右足を軸にして身体を回転させ、勢いを利用して左足でジンクの足を引っかける。

 そして、背中から雪崩れ込むようにして一緒に倒れた。


「《叫震輝座(クアスエャク)》」


 ジンクの声とともに胸部から閃光が放たれる。同時、金切り声のような不快な大高音が脳に突き刺さった。

 宗太は反射的にジンクから離れる。その際に左半身に痺れを覚え、片膝立ちになるのがやっと。

 恐らく触れていた胸部プロテクターが魔偽甲(マギカ)であり、超振動を直に喰らってしまった。


(さっきノーグさんに聞いたばかりじゃないか!)


 ソラノアとの過去話から何も学んでいない、自らの愚かさ。それを自責する暇などジンクが与えてくれるわけがない。

 正面で何かの音――ジンクの魔偽甲(マギカ)の詠唱か?――が聴こえたと思うと、宗太の後頭部が爆発した。

 その直後に顔面に似たような激痛。


(〔ミョルニル〕か!)


 ジンクに〔ミョルニル〕を叩きつけられ、顔面が地面と激突したのだ。

 それでも気を失わないでいるのは、単にジンクの手加減の判断ミスからだろう。

 ジンクの追撃の気配を察し、宗太は真横へ転がってその場を逃れる、


(培った知識をいかに肉体へと反映させるか)


 ノーグの話を思い出しながら宗太は素早く立ち上がり、両手両腕で顔面と後頭部を囲うように守りながら待ち構えた。

 視覚と聴覚、触覚にダメージを負った今、宗太の優先は早期の回復だ。犬ではないため嗅覚は当てにならないのだから。

 急所はがら空きだが、その分こちらもまた攻撃箇所の推測はしやすくなる。


「――ぐっ!?」


 みぞおちに〔ミョルニル〕を撃たれ、息が止まる。

 浅はかさを嘲笑うかのような痛恨の一撃は、こちらの呼吸に合わせ狙い澄ましたもの。

 だが今回も加減が中途半端だった――殲滅が目的とはいえ、大怪我をさせるわけにはいかないと思っているのだ。治療ならいくらでもできるというのに。


(この頑丈さがなけりゃ、もう何度負けているか分からなねぇな)


 宗太は身体を捻り重心を変えながら、ジンクの攻撃を受け続ける。その間、視界や聴覚、感覚の回復を徐々に感じていた。

 攻撃を幾度も喰らい、喰らい、喰らい……

 そこでようやく気づいたのは、手加減がこちらに対する気遣いなどではなく、何かしらが施された新しい〔ミョルニル〕の調整に手間取っているということ。


(こんにゃろ! 俺を実験台にしてんのかよ!)


 相手の技を受ける――模倣する脳内の光景の意味とは違うが、こちらも様々な手を試すにはいい機会だ。


(とはいえ、こっちはジンクを実験台にするわけにもいかねぇよな) 


 意識する右腕。星隷擬体となった月星隷の能力はまだ訓練が足りていない。

 かといって、ジンクを相手にするのはあまりにも危険だ。暴走し命を奪う危険性は拭えない。


「――がっ!?」


 腹部に与えられた一撃。威力こそ今までとさほど変化はないが、内臓や骨などにも響く衝撃だった。

 当たりどころこそ偶然ずらせたものの、ジンクの調整がいよいよ済んだということだ。 

 宗太は決定打を撃たれる前に回し蹴り――というよりもローリングソバットの出来損ないと言った方が正しい――をするが、虚しく空を切った。

 それから、ふらつきながらも宗太は人の気配がする方へ駆ける。


「おい、ユキシロ!?」


 ジンクの声が背後から。

 宗太が走る直線上にいるのはジンクではなくノーグであった。敵を誤認した宗太に彼は慌てて駆け寄る。


(上手く釣れたか……?)


 背中で感じ取るに、ジンクは敵を間違えたと誤解したようであるが油断はできない。

 完全に回復したことと行為の狙いをバレぬように速度を調整しながら引きつけ、ノーグを横切る瞬間に一気に加速をする。

 そのまま壁を蹴り上がり、飛びながら身体を捻った。


 ジンクの頭上。さながらフライングボディープレスのように強襲する。

 ジンクは後方に跳んでかわすが、宗太は着地と同時に彼目がけてスピアー(ショルダー・タックル)をした。

 宙に浮くジンクの腰を抱え――


「連なれよ星々――!」


 ――手を組んで術図式を構成する。

 宗太の構成速度は早くはないが、単純なものならジンクと一緒に倒れ込む間に完成させられた。


「――《叩押座(エカエサ)》!」


 ジンクの背中に移動した星印は、彼の上体を衝撃で跳ねさせた。

 浮いたタイミングを狙って宗太は足首を取り、ジンクの両脚の間に自らの右脚を入れたまま彼の身体を半回転させる。


(胸部プロテクターの魔偽甲(マギカ)がジンクに影響がなかったってことは、一方向にしか影響を与えられねぇってことだろ?)


 そのまま(不細工な)サソリ固め(もどき)を決めにかかる。


「ふむ」


 決まる寸前、なんて呟きながらノーグは〔スキョフニング〕を鞘から抜き――


「――っ!?」


 ――宗太へと横一線に斬りかかる!

 咄嗟にジンクを解放して後方に避けるものの、追撃はまるで緩むことはない。

 ノーグは腰にかけていた鞘を宗太の顔面目がけて投げつけた。

 宗太は空中でそれを掴み、ノーグの剣を受ける。そこでようやく口を開く。


「ちょっ!? ちょっと! なんでノーグさんまで!?」

「不測の事態に動揺するとは、まだまだだなユキシロ――《覇脚座(ケュクヒ)》」


 ノーグの靴が光り、魔偽甲(マギカ)が発動する。

 その勢いが乗った凶刃は宗太の鞘を弾き、顔面を貫かんばかりに突く。

 宗太は顔を傾けてかわしたのは、運がよかっただけ。

 直後。


「《撃打爆座(ケビヂクゴ)》!」


 左脇腹に〔ミョルニル〕が強襲した。

 威力は充分で一瞬だけ息が止まる。

 刹那の硬直。それを見逃すはずもなく、ノーグが突き出したままの剣で首を掻き斬ろうとする。

 強化された肉体が、未だ得体の知れない魔偽甲(マギカ)〔スキョフニング〕に耐えることができるか分からない。


 モーションなしで行える迎撃――魔偽術(マギス)を駆使するか。右腕を解放するか。

 その迷い。

 あまりにも愚かだったと気づかされたのは、剣の腹が宗太の首を折らんばかりに叩きつけられたから。

 視界が真っ白になり、それが晴れた時には宗太は地面に倒れていた。眼前に剣尖を突きつけられて。


「やはり警邏は任せられないな」


 ノーグには見透かされていたようだ。魔偽術(マギス)か星隷擬体の解放。それを単なる二者択一(・・・・・・・)では(・・)なくしてしまった(・・・・・・・・)、自らの覚悟と自信のなさを。

 あの時、両者とも躊躇ってしまったのだ。咄嗟の制御が果たして不殺にまで抑えられるかを。


「迷いは判断を鈍らせる。それは時に決定的な致命傷になる――今のようにな」


 ノーグは果たして、宗太の心理をどこまで分かっているのか。

 そう思ってしまうのは、今まさに迷っている最中だからだ。 




「で、これはどっちの勝ちになるんだ?」


〝ウルストラ〟から地上へと伸びる階段を上がりながら訊ねる、すっかり不貞腐れた宗太。半眼で睨まれる隣のジンクは、ただ苦笑いをするしかない。

 犯人であるノーグは決着後早々に帰ってしまったため、真意を伺うことができなかった。


(まあでも、世の常だわな……)


 どれほどの訓練を積み、実績を重ねても、その全てを理不尽な力は容易にそれを覆すことができる。


(さっきのノーグさんだって、ある意味そうだ)


 血みどろの努力も、結果を伴わずして無為に帰すことなど日常茶飯事だ。

 その現実に直面してもなお、立ち上がる意志。それは求めたいたものを得ることはできずとも、別の何かを手に入れる力となる。


(そうとでも信じないと、やるせないよな)


 鉄扉を開くジンクの背中を見ながら、ぽつりと思う。

 勝手に同情するのは、失礼であり侮辱に近いものだとは分かっている。

 でも、この理不尽が蔓延る異世界――アルトリエ大陸において、人間の限界を極めてもなお届かぬ領域が多すぎるのだ。

 人理を超えた戦いに身を投じ続けるジンクは、果たして何を想いながら鍛錬をしているのだろうか……

 と、ジンクが肩越しに振り向く。不思議な顔をしながら。


「いや、何を突っ立ってるんだよ? 開いたぞ? それとも、なんかまだ文句があるのか?」

「あぁ……うん。ジンクの大きな背中に見惚れてた」

「気持ち悪いから、ほんとやめてくれ」


 うんざりとするジンクに、宗太はにやにやとあくどく笑うだけ。


「あとそうだ。やめてくれついでに、ユキシロさ。俺との訓練を『新人いじめ』って広めるのもやめろよ」

「だってそうじゃんか」

「お前は冗談で言ってるかもしれねぇけど、ごく一部の人間は信じちまうんだよ」

「信じるっていうよりも利用されてんだろ? 『ソラノアとにゃんにゃんしちゃいたいレース』の参加者達に」

「……知っててやってたのか?」

「そうなれば俺、ちょー有利じゃん」


 宗太は「はーっはっはっ!」とわざとらしい高笑いを浮かべながら、ジンクの背中を叩く。


「まあ、それにさ。そういう噂を利用するやつほど信頼失うんだから、お前はお前のままでいれば大丈夫だろ?」

「なら、真っ先にユキシロが信用を失うな」


 ジンクの口調は呆れるというよりも注意に近い。

 歳はそれほど離れていないだろうが、ジンクは時折こちらを後輩というよりも弟といった具合に接してくる。

 宗太自身は一人っ子であるため「兄とはこんな感じかな?」と思う程度だが。

 ただ、そのまま兄貴面されるのも面白くない。


「でーさ。お前がソラノアに惚れたのっていつなんだ?」

「ブッ!」

「いや。正直、今の質問は俺自身、くっそ寒いし気持ち悪いってのは自覚してんだよ。だけど、ソラノアのことをもっとよく知りたいんだ」


 急な話の切り出し方に違和感を覚えたのか、ジンクの真っ赤な慌て顔はすぐに深刻なものに変わった。

 ジンクは歩んでいる廊下や周囲に細心の注意を払いながら、声を潜めて訊ねる。


「……霧で何を見た?」

「なんでもかんでも、それに繋げるなよ」


 何かしらを察しか。それとも当てずっぽうの勘か。ジンクの鋭さに宗太は表には出さないものの動揺をする。

 真実を探られぬよう――ソラノアが『魔物』の一柱かもしれないなど、予想のしようがないと思うが――宗太は慎重に言葉を選ぶ。


「でもまあ……あながち外れてもいないか。言っちまえば悪夢だよ。それこそ、ソラノアを失うかもしれない、最悪なもの……」

「内容は?」

「色んな、さ。いくつもの最悪を何度も見せられた」


 はぐらかす宗太だが、ジンクの性格上、深く追求しないのは薄々気づいていた。

 ソラノアの死に関して、彼女を想うからこそ知りたいはずだろうが。


「戻って来たらさ、改めてソラノアに感謝したいなって思ったんだ。でも、俺は彼女のことを詳しく知らないし、彼女自身もあまり自分から語りたくはなさそうだし……で。そんな時にソラノアの誕生日を祝うなんて話を聞いたからさ――俺にはだーれも教えてくんなかったし」

「悪かったよ。なんというか、ここ最近はそれどころじゃなかったしさ」

「そうだな。お前が悪いな、ジンク。だから罰として、お前の恋バナを白状しろ――まず、出会いはなんだ?」


 真剣な面持ちでジンクを睨むものの、醸す空気に深刻さはない。

 それで観念したのか、ジンクがやや口ごもりながら語り出した。


 ◇◆◇◆◇◆


 ソラノアとの最初の出会いは、彼女が千星技術学院の上位研究生の一人として【千星騎士団】との共同訓練に参加していた時だ。

 その中で最年少十二歳だったソラノアは誰よりも目立つ存在であった。

 彼女に対して一抹の不安を抱き――ジンクもまた例に漏れず――、中には揶揄するものまでいた。

 が、魔偽術(マギス)における圧倒的な才覚は、【千星騎士団】達の信頼を勝ち取るには充分過ぎるものであった。


 ジンクがソラノアと会話をしたのは、初対面のその日から。

 同じく【千星騎士団】側では最年少十六歳であったジンクをあてがわれたのは、自然なことだったのかもしれない。

 聡明なソラノアではあったが、端々からは年相応な未熟さと愛らしさを持ち合わせていた。


 それから数度の共同訓練の内に、テッジエッタとリーリカネットとも知り合う。

 二人と顔見知りになることで、プライベートな時間でも付き合うようになった――だいたいジンクが彼女らに奢らされていたが。

 その当時は、ソラノアは妹というほど親密ではないが、年下の面倒見甲斐がある子という印象であった。


 ソラノアはムーンフリークでは何かと有名であり――義父であるジャックだけではなく、彼女自身が神童であり美少女であること。あとはちょっとした伝説――、惚れる同年代の男子は少なくなかった。

 そんな悪い虫がつかぬよう、年下であるはずのテッジエッタとリーリカネットにはしょっちゅう扱き使われることとなる。

 年上の、しかも【千星騎士団】の団員が傍にいれば、近づき難くなるものだ。


 ジンクがソラノアの役割――〝魔人〟の器となることを知ったには、ほんの一年前。

 ノーグの推薦によって、ジンクも〝魔人〟の補佐の一人に選ばれた時だった。

 絶望的な事実に動揺しないわけがない。彼女を殺すことを補佐しろ、という命令なのだから。

 それでも感情に任せて拒否したり暴挙に出なかったのは、その任にソラノアの意見も含まれていたということだったから。

 召喚の儀式にこそ参加できないが、それでも最期まで。そしてその遺志に自分が必要とされていることは嬉しかった。

 同時に。どうしても抗うことのできない現実に、己の小ささを思い知らされた。


 ◇◆◇◆◇◆


「だから、ユキシロには感謝しているんだ。望んでこの世界に来たんじゃないってことは知ってるけど」


 ジンクに初めて会った日、彼が浮かれていたことに対して少しだけ腹が立った。いくら命が救われたとはいえ、彼女の失敗を祝うなど。

 だが今なら納得し、共感することさえできる。


「――で、肝心のお前がソラノアに惚れた理由は?」

「ユキシロ、お前……ほんとは興味ねぇだろ?」

「お前をいじるのに充分な弱味じゃん」


 なかなか口を割らずに躊躇い、話をうやむやにしそうなジンクを追い詰めていく。


「あーあ! 俺、ソラノアの誕生日祝いで恥かかされそうになってたんだなー! みんなに言い触らせたおっかなー!」

「二年前! 二年前の……だな……」

「今さら何を恥ずかしがってるんだよ? もういい加減、白状しろよ。それとも他人には言えないような犯罪紛いなことをしたのか?」

「してねぇよ! ああもう! その、な!……共同訓練で、海……行ったんだよ……」


 勢いをつけて吐き出そうとするジンクではあったものの、やや失速気味となる。

 だが宗太はそれだけでハッと気づく。


「……まさか、お前……」

「…………」

「見たのか? 触ったのか? やっぱ犯罪紛いな――」

「してねぇよ!」

「じゃあ、なんだよ?」

「訓練が終わったあとにな……………………ほら………………ソラノア…………って、その…………すごいじゃんか……」


 ぼそぼそとジンク。そして恐る恐る宗太を見やると、


「不潔なものを見るような目をするなよ! そうなるから言いたくなかったんだよ!」

「ソラノアってその時は十四くらいだよな……ほほう。ロリコ――」

「断じて違う!」

「まあ、その疑惑はあとにしておいて。にしても、ソラノアの水着姿――というか、おっぱいか――に欲情して以来、年下の子じゃなくて女の子として見てしまったわけか……」

「……みなまで言うな」

「でも、意外にしょうもない理由でなんか嬉しいわ!」

「喜んでもらえて光栄だよ、こんちくしょう!」


 げらげら笑いながら無遠慮に叩く宗太の手を、ジンクはいきり立ちながら払い除けた。


「ユキシロも言えよ!」


 周囲など意に介さず半ばやけくそ気味のジンクに、宗太はちょっとだけ引く。

 それにこちらが教える筋合いはない。

 ただ――


「まあ、俺も隠すほどのものじゃねぇからな」


 宗太はそれから、同じアパートに住んでいた女子大生のお姉さんが初恋の相手だったこと。小中高、それぞれに好きな子がいたこと。などという、どこにでもあるような話をした。

 始まりから終わりまで、特別さは一切ない。

 その全てが付き合うどころか、想いと告げることもなく消滅した。


 それでも。

 この異世界での日常とはまるで真逆な、平凡な生活が愛おしいと思える。

 ジンクにぽつぽつと宗太自身の過去を話しながら、そう実感した。

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