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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第一章 魔人が生まれた時、青年は道を進む〈上〉
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6.【千星騎士団】

 軽食を終えた宗太とソラノアは、テッジエッタ・マラカイトとの合流地点へと向かっている。

 学院の邸内ですでにされたソラノアの説明によれば、ここはアルトリエ大陸の中央部を統制する【千星騎士団】が管理する国。ムーンフリークという星地(せいち)の一つということ。

 星地というのは『魔物』に関わる重要地らしい。曖昧なのはやはりお伽噺の類のようで、大抵は観光地の看板程度としか捉えられていないようだ。


(だけど、ここは本当に伝承通りの場所だったってことか)


 成否はともかく、〝魔人〟召喚の儀式をしたというのに、街は至って穏やか。事実を知るのは限られた者だけということだろう。 


「ところでさ、【千星騎士団】ってのはどんな組織なの?」

「【千星騎士団】は、星都(せいと)エレル・クロイムァシナの王――真星皇(しんせいおう)に仕え、人々を星の加護へと導くことを主としています」

「なんというか、大層な団体だな」


 人々に星の加護へ導くという、漠然とし過ぎてもはや訳が分からない大義の下に自分は働かなければないのか。それの最終目的か過程か知らないが、『外敵から防ぐ』に繋がるのか。

 具体的なことを聞くべきか、宗太は悩む。


 下手に宗教絡みの話になったら、正直面倒だ。何より、この世界の常識を全く知らない状況で、信仰を鵜呑みにするのは危険な気がしてならない。

 なら、他に聞くべきことは何か。


 すぐに浮かんだものは。恐らくは当り前のこと。

 しかしながら、宗太は念のために確認する。できれば否定してもらった方が、色々と楽になるはずの問いを。


「やっぱり、『魔物』に関係する組織は他にもあったりするわけ?」

「『やっぱり』なのかは分かりませんけど、いくつの組織の存在は確認しています。その中でも【千星騎士団】と同等かそれ以上の力を持っているのは、大陸南部を主に活動する世界支配を狙う【凶星王(きょうせいおう)の末裔】」


 随分と物騒な名前だなと思いつつ、宗太は頭の中で漠然と世界地図を描く。


「北部は小国がいくつか乱立していますが、商人達の集まりで結成された【連星会】が大きな影響を持っています。彼らもまた、独自のネットワークを駆使して『魔物』を手に入れようとしています」


 宗太の頭の中に浮かぶアルトリエ大陸の地図――まぁ、詳しい形は知らないので、卵形の楕円だが――に、情報が書き込まれる。当り前だが、それらだけでは空白は圧倒的に多い。


「他の大陸は? 周りを見る限り、大型船とかありそうだけど……」

「いえ。発見できていません」

「どういうこと? 魔偽術(マギス)っていう便利そうなものがあるのに?」

「このアルトリエ大陸は『無望の霧』という、人間はおろか魔偽術(マギス)すら通れない霧のような何かに覆われています。大陸の西部と南部は陸が続いているんですけど、『無望の霧』に阻まれて進むことができないんです」

「もしかして、空も?」

「はい。『無望の霧』が雲の遥か上を鎖しています」


 宗太の頭の中で描かれる地図は、アルトリエ大陸を霧のドームで覆う。


「一体いつから?」

「これも定かではありませんが、『魔法』(イグドラシル・ロウ)に異変が生じてからだと言われています」

「ちなみに、『魔法』(イグドラシル・ロウ)に異変が起きたってのは?」


 ソラノアは「分かりません」と首を横に振る。

 宗太は何気なく腕を組んで顎を摩る。それはソラノアの説明が奇妙だったから。


「じゃあ、他大陸への移動やアルトリエ大陸の調査を終える前に発生したってこと? 異変がいつから起きたのか分からないっていうのはさ?」

「そういうわけではなく、最低でも七〇年以上前から私達は『無望の霧』を、当り前のように受け入れていたんです。そして記憶や歴史さえ、それがあることを前提としたものになっていました」

「全世界で記憶や情報が操作されたってこと?」

「分かりませんが、それに近い状況ではあると思います」

「でも、どうして気づいたわけ?」

「七〇年以上前、最初に現れた『魔物』――〝魔女〟のお告げだと言われていますが……」

「それもいつか分からない?」


 ソラノアが頷く。表情を曇らせて。


「それって、明らかに人為的な感じだよね?」

「はい。ですから『魔法』(イグドラシル・ロウ)の掌握は、その謎の解明に必ず繋がると思うんです」


 万象を総べる法を手にするという話だけで、充分大それた話だ。

 だというのに、この世界の人間でさえ、分からないことだらけとなると前途多難にも程がある。


(というか、これから俺がどうなっちまうのかも、いまいち分かってないんだよなぁ……)


 分かっていることは、五日後にノーグ・チェリオという女性が率いる部隊と一緒に〝魔剣〟を奪いに行くこと。

 ただそれだけ。

 今日の寝床さえ分かっていない。


 テッジエッタ・マラカイトなる人間と合流して、一体何をするのか。それから〝魔剣〟奪取まで何をするのか。 

 ここまでのソラノアとの会話のほとんどが、宗太のいる世界の話ばかりだった。この世界との類似点や相違点を見つけては一喜一憂していた。


(真っ先にスリーサイズを訊いてる場合じゃなかったな)


 自らの浅はかさを嘆きつつ、宗太は訊く。


「で、いまさらだけど、そのテッジエッタって人に会ってから、俺はどうすればいいわけ? というか、何すんの、俺?」

「それは――」

「君が〝魔人〟か」


 ソラノアの言葉を遮るのは、前方から歩いて来る青年。黒を基調とした牧師のような恰好をし、朗らかな笑顔とともにこちらに近寄る。

 果たして、素直に答えるべきか。

 横目でソラノアを伺うと、彼女の柔和な顔には似つかわしくない、酷く険しいものに変わっていた。


「行きましょう。ソウタさん」


 服を引っ張り、ソラノアは横道へと誘導する。


「逃がしはしない。連なれよ星々――」


 青年が黒外套を棚引かせると、その腰に携えられている、穏やかな場所には不釣り合いに映る長剣が映る。

 しかし、それ以上に目に留まったのは。胸にある星を模したような勲章。

 そして、手を組む青年の前に光の粒が浮かんだ。


「――《固時結座(テコズサ)》」 


 青年から離れ、星座のまま宗太へと迫る魔偽術(マギス)

 防ごうと、反射的に宗太は手を突き出す。

 触れた瞬間――感触はない――、星座の形が歪み、弾けて消滅した。


「何っ――!?」


 青年は目を見張るが、宗太自身もどうして魔偽術(マギス)が消滅したのか分からない。

 ただ、その理由を求めるのは後だ。今、確認することは別のこと。


「まさか、こいつが――」

「はい。私達(・・)、【凶星王の(・・・・)末裔(・・)の敵(・・)です」

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