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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第九章 神話が潰えた時、御魂はどこへ還るか
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プロローグ 『勇者』が背負う希求

 戦争の理想的な結末とは、一体どういうものだろうか?


(誰もが幸福を得、二度と争いの起きない未来の獲得……)


 自問の答えは、最初から用意されていたかのように表れる。

 だがそれは当たり前だ。

 人類が誕生し、『恥』という感情を獲得した時には抱いていたであろう。

 しかし、遥か昔から抱いてもなお現実化していないのは、それが究極の矛盾と無理が混じる答えであることを知っているから。


(人は争いの歴史を蓄積して、ようやく今の辛うじて保たれた安寧を享受している……そう思い込もうとしている)


 マーク・〝ウルストラ〟・キャラウェイは、年甲斐のない夢想論を脳裏に描き続ける。

 四〇もいよいよ折り返し、目に見えて白髪が増えてきたことは、もはや気にしないようにしている。

 溜め息を一つ吐き、千星騎士団本部の中央に在る大星将執務室(場所も名前も気に入ってはいない)にて、独り天井を見つめる。机とその周囲を埋め尽くす資料と書類が、視界に入らぬようにしているかの如く。


 この部屋は奥に申し訳程度の仮眠室があり、その部屋とこの執務室を囲うように廊下がある。

 廊下は本部の重要部署に繋がっており、迅速にこの大星将執務室へと辿り着けるようになっていた。その理由から、正面と左右に扉が設けてある。

 この部屋の何が気に食わないかと言えば、通気性が皆無なところだ。利便性を追求したがための弊害なのだが、設計や建設の段階で誰かこの息苦しさについて指摘はしなかったのだろうか。


(まぁ、自分達は一生仕事することのない部屋だからな……)


 あと、名前が嫌いなのは単にダサいからだ。

 マークは遂には瞑目し、考えに耽る。


 誰もが求める。

 真なる平和を。

 誰もが欲する。

 無窮の幸福を。


(誰もが明確な答えを出せず、曖昧模糊な綺麗事を望むだけ……だが……)


 どれほど馬鹿らしくとも。

 どれほど青臭くとも。

 自分は『勇者』などという、具象化した願望の掃き溜めを演じなくてはならない以上、目を背けることはできない。

 誰もが同じ夢を見、誰もが同じ幸福を享受し、誰も争わない世界。

 それを達成させる責務を、生まれた時から背負わされている。


(そんな平和な世界を勝ち取る方法は……ないわけではない)


 単純に、自分達に同意する者以外を根絶すれば、自然と究極の平和へと至ってしまう。


(だがこの戦は、そんな簡単なものではない……)


 アルトリエ大陸では、世界消滅を賭けた戦争が始まらんとしている。

 しかも敵を倒したところで、世界平和に直結するわけではない。

 主役はあくまでも『魔物』。

 人理を超えた人外達の戦場に、人間達は救世の供物として捧げられる。


(ある意味では、生存戦争の始まりでもあるわけだ……)


『計画戦争』――星都と帝都の戦争が始まれば、アルトリエ大陸は一気に戦火に包まれる。それも終わりの見えない、長い、永い時代で。

 救世のための争いと、救われた世界の覇権争いによって……


(世界を救うための戦争か……)


 戦争の真実(・・・・・)も含めた皮肉に、マークは苦笑するしかない。


(戦争によって齎される平和が、一体どんな姿をするのか。まるで分らないのが恐ろしいな……)


 何せ、このアルトリエ大陸では今、夢想の理想が実現化し得るのだから。

 世界崩壊を回避するために、誰かが『魔法』(イグドラシル・ロウ)を御さなければいけないのだから。

 そして、その人外たる誰かの理想は、果たして誰のためのものなのか……?

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