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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第八章 混沌が広まる時、ふるいは理不尽にかけられる
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エピローグ 妬ましき愛

 ――流れ込む。



 この星の……



 代表。

 隷僕。

 人柱。



 ――宗太は自身の視界が暗転していることに気づく。

 手足を動かす実感こそあれど、視界には映らない。

 目を瞑っているのか。開いているのか。自分ですら、もはや判断できない。

 懸命に四肢や瞼、口を動かすことで、自分自身がここにいるという僅かばかりの確証に縋ろうとする。

 ただそれも、希薄になっていく……


《しっかりしろ! 呑まれるぞ!》


 聞き覚えのある、声……


《く……! 聞……ている……か!?》


 意識さえも……薄れていく……


《……シ……ナ……ク……に…………乗……ら…………ら……》


 全てが遥か彼方へ遠のいていく……

 自分の身体、意識、それとこの暗闇そのものが。

 溶け、拡がり、混ざり合う……

 自分とそれ以外の境界が虚ろに、曖昧になっていく。

 すると、どうだろう。

 鮮明になって来るではないか。



〝月〟。

〝月〟。

〝月〟。



 数多の〝月〟の集点。

 仮初の〝月〟の収斂。

 生贄の〝月〟の終焉。



 流れ込む『何か』は、宗太の理解など構わずただ一方的に押し込んでいく。

 まるで意味が分からない。

 何を訴えかけているのか。伝えたいのか。

 怒りか。悲しみか。

 救いを求めているのか。

 滅びを願っているのか。

 何も分からない。

 ただただ、宗太に『何か』が入る。



 救う。

 掬う。

 巣食う。



 全種族を……

 世界を……

 命を……



(……何、が……?)



 ――愛が。



 数多の愛が。

 幾億の愛が。

 唯一の愛が。



 命を貪り。

 世界を貪り。

 愛そのものを貪る。



 それでも愛が愛を喰らい、愛として広がる。

 それでも愛を掬い、救うために、巣食わなければならない。

 それだからこそ、愛のために我らは贄として捧げられ続ける。



 それはまるで、

 暗示のように。

 呪詛のように。

 戒めのように、宗太へと浸み込む。



(これが……星隷なのか?)


 星隷とは何か――それを理解したわけではない。

 ただ、幾億もの『何か』の集合体。

 しかも個々の意志など無関係に、ただただ一つの形に押し固めたような『何か』であることは、漠然とだが分かったような気がした。

 だからこそ……


(この重さ(・・)を、俺は手に入れようってのか……?)


 想像だにできない重圧が、存在しないはずの右腕を縛りつける。

 すると、右腕のような『何か』が、心臓へと浸食していくように訴えかけてきた。



 一つとなろう。

 汝も同じ、(よろず)の内の一つ。

 元より万物は、万象の内の一つ。

 世界と世界を繋ぎ止める連鎖の、輪の一つ。



 右腕のような『何か』を中心に、自分が吸い込まれていくような錯覚に襲われていく。

 右掌の中心で、『誰か』が。『何か』が。喜び、嘆き、憐み、狂いながら、求めている。

 意識が薄れていく。

 そしてより濃く、『何か』を求めるように意識が広がり、放れていく。



 自分が何者か。


「俺は……」


 なんなのか。


「俺らは……」


 なんのための贄なのか、鮮明になって――……



《……ん!?》



 声が、聞こえる……



《……タさん!?》



 悲鳴にも似た必死な声……



《……ウタさん!?》



 聞きたかった声であり、同時に聞きたくはない声……



《ソウタさん!?》



 はっきりと彼女(・・)の叫びが届いた瞬間、宗太は右上腕を潰さんばかりに掴み、


「待ってくれてんだ! 生贄になんかなってたまるか!」


 内に広がる『何か』を、宗太は拒絶した。


   ◇◆◇◆◇◆


「――っ!?」


 混濁した意識の中から、宗太は飛び上がるように覚醒した。


《ソウタさん! 応答して下さい! ソウタさん!? ソウタさん!?》


 声が掠れてもなお振り絞って呼びかけ続けるソラノアに、宗太は心から言う。


「ありがとう、ソラノア」

《ソウタさん……!?》

「ソラノアが呼びかけてくれたから、俺は戻って来られたよ……」

《……よかった》


 くぐもってはいたが、彼女が安堵したことは如実に感じた。

 そんなソラノアに、宗太もまた緊張が解けていく。


「ソラノアが無事ってことは、成功したってことか……?」


 感覚的に右腕を動かしてみると、そこには確かに星隷擬態が成功した証が在った。

 その新しい右腕は、綺麗なほど宗太の右腕に擬態していた。とはいえ、動かしてみると、まだどこか自分のものではないような違和感は残る。


(あれは星隷の記憶だったのか……?)


 星隷擬体の儀式の中で見た景色。

 残った記憶はおぼろげであり、そもそもあの時でさえ情報が曖昧ではっきりとは理解できていなかった。


(ひとまずは、月星隷は俺のものになったってことか……?)

《それは間違いない。シンナバグハクに取り憑かれていたら、今頃は暴れ回ってるはずだしな》


 独り言のつもりだったのだが、胸中の疑惑をオルクエンデが晴らした。

 ふと、宗太は儀式の始まりで、オルクエンデとの繋がりが消えたような気がしたことを思い出す。


(お前は、あの光景は見たのか?)

《あの光景ってのがなんのことか分からんが、それが伝わってないってことは見てないってことだろうな。そもそも、お前の意識が途絶えたら俺は何も分からない》


 あの時見た光景は気になるが、伝えようにも抽象的ではっきりとしない内容だったので、頭の中で思い描くことは困難だ。また当然、口で想像できるわけもない。

 宗太は仕方なしにと諦めて周りを伺う。と、真っ先に、にじり寄るリーリカネットが視界に飛び込んだ。

 その左手には太く大きな杭。金槌を握る右手は、振るった時にすっぽ抜けないよう力強く握られている。

 今にも打ち込まんとする構えを崩さないまま、リーリカネットは口を開く。


「確認だけど、マジでトム吉? マジ吉?」


 訝しむ彼女はおもむろに宗太の胸へと飛び込んだ――杭に自分の全体重が乗っかるように。

 腹の上で馬乗りになるリーリカネットの左手首を、咄嗟に宗太は左手で鷲掴んで制止した。


「刺そうとすんな! 本物だっつうの!」

「止めるだけで殺しにかかってこなかったってことは、モノホン?」

「本物だから、首傾げながら刺そうとすんな!――って、意外に力あんな、お前……」

「先っぽだけでいいからさ? ねぇ? 先っぽだけでやめるからさ!?」

「ベタなこと言ってんじゃねぇよ!」


 宗太とリーリカネットの力が拮抗しているのは、疲労によって力の制御が困難になっており、極力下げていかないとリーリカネットを殺しかねないからだ。

 それを見越して、彼女は悪ふざけをしているのか。それとも単に好奇心か……


「いやだってさ。急にエビ反りになって叫び出してキモかったもん。なんか不快なもの見せられたし、無駄に緊張感と命の危機のあるメンドクセー役目任されたし。殴らないと、気、晴れなくね?」


 憂さ晴らしだった。

 と、おもむろにリーリカネットが金槌を力任せに振るって来た。

 まだ馴染んでいない気がする右手を使うわけにもいかないので、宗太は為すがまま殴られ続ける。


「痛ぇ! 痛ぇよ! もう魔偽甲(マギカ)関係なくなってんじゃねぇかよ!?」

《リーリカネット! さっきから何してるんですか!?》

「ちっ。ソラノアからストップがかかったか。キャットファイト三つ巴線に参戦するつもりないから、こんくらいで勘弁してやるか」

《だから、そんなことしないってば》

「ええー。してよ」


 そのあとしばしソラノアと言い合った(宗太に馬乗りになったまま)結果、リーリカネットはむくれながら宗太から降り、物騒な魔偽甲(マギカ)を片づけ始めた。


「ま。でも、ほんとよかった。暴走したらあたしがトム吉を足止めするっていう『ぜってーこんな魔偽甲(マギカ)じゃ無理じゃん。なんでこんなやつのために、命張らなきゃいけないのさ?』作戦を実行するところだったし」


 万が一の際、何かしらの処置をするとは聞いていた。が、具体的に何をするのかというのは知らされていなかった。

 宗太が情報を入れることで、その記憶を使って対処される危険を考慮してのことだった。

 結果としては、知らずによかったのかもしれない。怖いし。


「言っておくけど、ほんっっっとキモかったよ? 趣味の悪いC級グロ映画見せられてる気分だったんだから――ソラノアに顔見られなくて音声のみでよかったね。キモくて今みたいに心配されずに引かれてたよ、絶対」

「さすがにさ、少しくらいは労いがあってもいいんじゃないのか?」


 念を押すリーリカネットに思わず零すが、最も届いて欲しい人間の耳にはその悲痛な訴えなど全く入っていないようだった。

 宗太は深く溜め息を吐き、少しでも不具合を失くそうと右手を開閉していると――


「うげっ」


 呻いたのは、また何か言いたげだったリーリカネット。

 心底気持ち悪そうだったが、宗太は反論する気にはなれなかった。


「――確かにキモイわな……」


 制御がまだ慣れていないため、八本の指(・・・・)が関節を無視して蠢いていた。

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