エピローグ 主役不在の物語
自分には逐一、ランゲルハンス島での情報が入ってくる。
聞く限り〔天命の石版〕の現出という真偽不明の事象を端とし、現在島の中央部にて月星隷シンナバグハクが召喚され、見境なく破壊の限りを尽くしている。
島の混沌はますます激化し、もはや誰もが入島の理由など思い出す暇もない。
(我らの予想を遥かに逸脱しているが……)
胸中で予測と現実の差異をすり合わせつつ、金髪翠眼の男――真星皇ジアスユエ・ザナハフューザ=エレルはただ、玉座にてランゲルハンス島で起こる事の成り行きを聞き続ける。
(これは誰の筋書きか?)
ジアスユエが指す『これ』とは何も、ランゲルハンス島で今起こっていることだけではない。
もっと大局的なもの。
それこそ世界の命運そもののだ。
ジアスユエは耳を傾けつつ、思考で過去と未来を繋ぎ合せていく。
(果たして、誰が筆を握っているか……)
それは『天使』か。
はたまた『魔法使い』か。
それとも、別の超常たる何者かか……
(それらの内のどれかなら、まだ救いはある)
思惑を持っての筋書きなら、その考えを見破り、反撃ができる可能性がある。かもしれない、という希望を持てる。
(だが、誰の話でもなければ……)
誰かのストーリーの上で進んでいると思い込み、その流れに身を任せ続けているのだとしたら……
残念ながら、自分は筆を奪える立場にはいない。
そして、自分を中心に世界が回っているわけでもない。
このアルトリエ大陸の真実を知っている以上。
『星約者』である以上。
(問題なのは、我々が何を知らないのかを知っているか、だ)
自分達はこのアルトリエ大陸に住む一般人よりも、遥かに真実に近い場所に立っている。だがそれでも、真実に辿り着く道筋は未だに見えていない。
真実に何があるのか。意味があるのか。それらすら明瞭ではない。
だからこそ、その経過で起こる些末なことを知らなければいけない。
「……だからこそ、お前は島に行くなということだ」
ジアスユエは目の前で跪き、頭を垂れ続ける男に声をかける。
服従の態度にも関わらず、男からは全てを屈服させかねない威圧がある。それは四〇を超えてもなお衰えることのない。むしろ、齢を重ねるごとに増しているとさえ感じる。
【千星騎士団】の最高騎士位――大星将に就くこの男に、ジアスユエは釘を刺すように続ける。
いや自制か。ジアスユエ自身の。
「お前が行けば全ての予測が破綻する。お前を中心に。誰よりも何よりも、世界を変え得る資格を持つ存在なのだからな――」
一息吸い、その一言が答えだと言わんばかりに告げる。
「――そうだろ? 〝ウルストラ〟」




