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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第七章 宝探しが始まる時、参加者は知らず集う
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3.火元は分からないけど、立っているかもしれない煙

 ――そもそも〔天命の石版(トゥプシマティ)〕とは、なんなのか?


 伝説によれば、その魔偽甲(マギカ)は纏いさえすれば世界を支配できるという。

 そこから〔天命の石版(トゥプシマティ)〕とは『魔法』(イグドラシル・ロウ)の制御装置か、それに近しいものだという解釈ができる。


「どうして、そんなものが?」


 ランゲルハンス島東側中央にある拠点に、小走りで進む宗太を始めとした四人。

 ソラノアとフェフェットを後ろに、その前方を走る宗太が隣を走るフェイに訊ねた。


「『魔法使い』が破壊した『魔法』(イグドラシル・ロウ)の一部って話さ。それさえなければ、いくら『魔物』達が殺し合ったところで『魔法』(イグドラシル・ロウ)を完全修復はできない――霧の向こうでは、『天使』達が必死になってそれを探している」

「また、面倒な話になって来たな」

「それだけ『魔法使い』は『魔法』(イグドラシル・ロウ)を憎んでいたのかもしれないね」


 しかもそれを『無望の霧』側へと破棄したというのだから、余程『魔法』(イグドラシル・ロウ)を復活させたくはないのだろう。

 だがそれも、今さっき一変した。

 発端こそ分からぬが、俄かに〝ゴースト〟達が騒ぎ出したのだ。



『〔天命の石版(トゥプシマティ)〕が現れた』と――



「そもそも、〝ゴースト〟と〔天命の石版(トゥプシマティ)〕になんの関係があるんだ?」

「さぁ? 僕らにとって重要なものだと分かっていて、単に騒いでいるのか。それとも彼らの存亡に関わる大事件なのか、ね――何せ、当人達に問うても『なんとなく』だの『大変だから』だの『みんなが騒いでるから』だの。まともな返答なんてまるでないさ」

「やっぱ重要じゃねぇんじゃねか?」


 思わず宗太が半眼で言う。

 その目を見たあと、フェイは肩を竦めて苦笑いを浮かべるだけ。


「でもさ、〝ゴースト〟達が嘘をついている可能性はないのか? 『無望の霧』から俺達を遠ざけたいとかさ」


 現に船上の〝ゴースト〟達は霧に近づかせないと宣言していた。

 さらに今まで見てきた〝ゴースト〟はどうも信用し難い。

 というか、胡散臭い。


 船を下りる中でソラノアから聞いた話では、〝ゴースト〟は七〇年以上前の歴史を知っている場合もある。

 故に、無下にはできないとのこと。

 ただ、それが作り話のような荒唐無稽なものだったり、同じ時代の話でも語り部が違うだけで、全く別の歴史になっていることもあるという。


「もちろん、彼らの話だけでこの事態に危機感を抱いているわけではないさ」

「こそこそとしてたぁ~。【千星(せんせぇー)騎士団】がぁ~。私達との衝突なんて意に反さずぅ~、我が物顔で島中をぉ~、操作し始めてんですよぉ~。お蔭で各所でぇ~小競り合いの報告がぁ~、じゃんじゃん来てるんですよぉ~」


 間延びしたフェフェットの言葉を全て聞き、理解するのは少し疲れる。


「で、それがどう関係しているんですか?」

「『無望の霧』付近での魔偽術(マギス)の量使用は、できる限り必要があるんです」


 フェフェットに返したつもりだったが、答えたのはソラノアだった。

 いや、実際はフェフェットが何かを言おうとしていたが、ソラノアが遮った形だ。

 多分、それだけ時間が惜しいのだろう。


「何が起こるの?」

「何が起こるか分かりません――過去の事例では『無望の霧』に呑み込まれたり、何かによって捜査隊が殺されていたりと……」

「その何が起こるか分からない中で、最も確率が高いのが『天使』による『魔法遣い』召喚」

「はい出た。ニューフレーズ」


 フェイの説明にうんざりと宗太が吐き捨てた。

 それにフェイが失笑し、続ける。


「そのニューフレーズ『魔法遣い』は『天使』の切り札と言ってもいい。まず倒せないからね。逃げるのがせいぜいだ。で、『魔法遣い』が召喚されたら最後。その場所は『天使』の過干渉によって再調査が不可能になる」


『無望の霧』とは人類を阻む絶望の壁である。

 だが同時に、人類を繁栄させる希望の宝箱でもある。

 霧の向こうには、未知で高度の魔偽甲(マギカ)や空白の七〇年を埋める遺物などが見つかる。

〝ゴースト〟も、そこからやって来ているという話もあるとのこと。

 このアルトリエ大陸のちぐはぐな文明の一因を、『無望の霧』から齎されるものも担っている。

 他国が危険を冒してまで躍起になるのは、リターンが大きいためだ――と、ソラノアに教えられた。


「最悪の場合、【千星騎士団に】事実上乗っ取られるっていう、僕らとしてもいただけない事態になりかねない」

「『天使』と【千星騎士団】は繋がっているのか?」

「そうだね。【千星騎士団】は元々『勇者』を倒すという目的のために、『天使』の導きの下で生まれた組織だから」

「で、困るのは『魔物』か? それとも【連星会】か?」

「この場合は【連星会】だね。ルマエラは今回の調査と、そのあとに起きる【ローハ解放戦線】との衝突に便乗して、いくつかの遺物を掠め取ろうとも思っていたわけだし」


 火事場泥棒をしようとしたつもりが、その現場にすら辿り着けぬまま、徒労の挙句に途方に暮れて終わる。

 しかも火の粉は自分に飛び、最悪、全てを被ってその身を焼き尽くしかねない。

 ただ、ルマエラという見たことすらない男の末路など興味はなし、知ったことでもない。


「お前に訊くことじゃないかもしれねぇけど、なんで『天使』はとっとと霧を支配して、てめぇらの腹心の【千星騎士団】に探らせねぇんだ?」

「背に腹は代えられないんじゃないのかな? 【千星騎士団】の物量にも限度はあるし、何より危険だから駒を大量消費しかねない。ほんと、『天使』としては猫の手でも借りたいんじゃないかな?」

「猫を『無望の霧』なんて危なっかしいところに入れようとすんな。愛でろ」

「なんか、やたらと口が悪いね……」


 そりゃ船旅で疲れてんのに、わけも分からず引っ掻き回されてるんだからな。

 そう言葉を口にしなかったのは、言ったところでどうしようもないからだ。

 自分達はこのランゲルハンス島に、バカンスで来ているわけではないのだから。


「といっても、【千星騎士団】内部では『天使』派――使徒議会と真星皇派で、微妙な対立をしているけどね――主に計画戦争後の意見の食い違いで」

「どこもかしこも、ぐっちゃぐちゃだな。もう少し仲良くしろよ。面倒臭いから」


 宗太が思わず吐き捨てる。

 かといって、政治がそう簡単にいかれても困るだろう。


「まぁ、【千星騎士団】が縦横無尽に動き回ってるってだけで、事態はすでに最善よりも最悪に傾いているんだけどね」

「乗っ取られる云々や『天使』がどうたらよりか?」

「そうなんですよぉ~。はっきり言うとぉ~、あのザ・うすらぽんたんズに干渉されないよぉ~、こそこそ調査がやりたいんですぅ~。うっぜぇ~んでぇ~」

「補足しますと『無望の霧』には霧の干渉が濃い時間と薄い時間があるんです。加えて、どこでも調査できるわけじゃなくて。なるべく干渉の薄い場所を選ばないと、数秒で隊が通信も帰還も不能になります」

「そんな理由から、【ローハ解放戦線】が単に帝都側の邪魔をしたくて〝ゴースト〟で流布している可能性もある――大量の〝ゴースト〟と交渉できるかどうかは置いておいて」

「ほんと推測だらけだな」

「実際、唐突な出来事に混乱しているからね」


 色々な情報と人間関係に、宗太は僅かに眉根を寄せる。

 まずは得た情報の優先順位を、整理せねばならないだろう。

 と、そんな心を見透かしてか、フェイが口を開く。


「今、最も避けなければいけないのは『無望の霧』付近での〝魔眼〟との衝突だ。『魔物』同士の超常たる戦いは『無望の霧』を介し、『魔法』(イグドラシル・ロウ)に何を齎すのか想像すらできない――恐らく『天使』でさえ」


 それはつまり、何かが起きる前に『魔法遣い』を召喚し、強引に事態解決を図る可能性があるということだ。


(とはいえ、こんな鬱蒼とした森の中なんだ。互いに図らずも、出くわすことはあるよな)


 何が起こるか分からない場所で、なんなのか分からないものが生息(幽霊だが)し、どんなものか分からないものを探している。

 一秒先など分からぬ世界で。

 そんなただ中で、何を考えているかいまいち掴めないフェイが、ふいにこちらを向いた。

 ばっちり目が合ってしまったのは、正直気持ち悪い。


「そういえばソウタ。右腕は決まったかい?」

「あなたには関係ない話です」


 ほとんど間髪容れずに言い放ったのはソラノアだった。

 その口調には、隠すつもりのない怒りがを纏っている。


「確認したいんですけど、テンユィさんはどういった立場でここにいるんですか?」


 ソラノアとしては宗太の腕をぶっ壊しておいて、何、仲間面しているんだ?――といったところだろうか。

 そう思ったのは、何よりも宗太がそう思っているからだ。


(まぁ、ソラノアからすればリーリカネットやレイグオットさんが作ったもの。ってのもあるしな)


 肩越しにほんの少しだけ振り返ると、ソラノアはフェイの背中をきつく睨みつけていた。


「僕らは初めから『『魔物』を仲間にして無駄な殺し合いは避ける』――これが目的だよ。強いて言うなら『魔物』の味方だ」

「一番、信用できねぇじゃねぇか」

「ん~。なら、〝筋肉しか愛せない悲しき女〟の味方だね。多くの『魔物』を救いたい」


 くるりとわざとらしく半回転し、ソラノアを見つめる。


「結局、あなたは自分の立ち位置を決めず、フラフラしているってことですね?」


 侮蔑に近い瞳を返すソラノアだが、フェイはその目をまじまじと見て僅かに頬を綻ばせる。

 (マゾ)か。

 呆れて溜め息を吐き、改めて進行方向を向く。

 と、木の葉や幹が霞み始めていることに気づいた。


「これって……霧か……?」

「どうなんでしょうか?」

「滅多にここまで霧が広がることはないんでぇ~。もしかしたらぁ~。私達の周りを囲ってるぅ~、キラキラ狂信者(きょぉーしんじゃぁー)ズのせいですかねぇ~?」


 俄かにざわついたのは宗太達ではなく、周りにいる何者かだ。

 宗太とソラノアはそれでようやく囲まれていることを知るが、フェフェットは「うっぜぇ~んでぇ~。首ぐるぐるぅ~、捻じり切りタイムですねぇ~」なんて、言い終えるよりも早く手を組んでいた。

 フェフェットの周りに光の粒子が集まる。


「連なれよ、星々ぃ~――《苦捻絞座(エサーノケ)》ぇ~」


 完成した術図式は再び光の粒子に戻って分裂し、周囲一帯に無作為に貼りつく。

 途端、魔偽術(マギス)は草木など(・・)を次々捻じり切り出した。

 木々や枝、草などが倒れ落ちる音に混じって、苦悶の声が聞こえる。

 その後すぐ、何かが忙しなく動き離れていく音が静寂を濁した。


「どうしましょぉ~? 次は目一杯引き延ばしてぇ~、ぶちぶちっと千切っていきましょぉ~かぁ~?」


 あからさまなフェフェットの警告。

 それに対するアクションは、想像よりも早かった。


「おいおい。とんだ拷問吏がいたもんだな?」


 観念するように諸手を挙げながら、銀の軽装鎧を身に纏う男が現れた。

 これといって特徴のない顔。掘りは深いが髪は薄い。

 苦笑いするこの男が降参したわけでも、ましてや投降したわけでもないことは感じ取れる。


「おっ。〝魔弾〟モーフィスシャイトに〝魔人〟オルクエンデか――〝魔人〟、その節はうちの新人星将がお世話になってみたいだな」

(おい。こいつは『魔物』か?)

《――いや、恐らくは違うだろう。ただの人間のはずだ》


 オルクエンデの返答には確信が伴ってはいなかった。

 それは以前、〝魔炎〟を見抜けなかったことがあるからだろう。


「『魔物』二体に【凶星王の末裔】の美人二人とは、圧倒的に部が悪ぃな」


 その男の言う通り、圧倒的不利に立たされているのはこの敵だ。

 それでも余裕があるのは、何か策があるのか。


(それとも。俺達と同じ力(・・・・・・)を持っているか……)


 じりじりと男の距離がなくなるにつれて、みなの緊張が張り詰めていく。


「俺はネイルトッド・ビンデ」つけられた勲章を強調するように胸を張り、「見ての通り星将だ」


 その宣言と同時。

 急にダイヤモンドダストのような小さなものが周囲にいきなり現れ、無数煌めく。

 それにハッととしたのはソラノア。

 何かを制止しようとソラノアが飛び出す。

 が、それよりも早くネイルトッドがパンッと挙げていた手を組んだ。


「連なれよ星々――《夢迷脈路座(ワケュムーモメ)》!」


 瞬間、一帯が光の粒に包まれる。

 まるでクリスマスのイルミネーションの真ん中に立つように、眩しいほど煌びやかで数が多い。

 しかも、それらはすでに繋がっており、俄かに光の壁に変質して宗太達を分断した。

 眩い壁は天高くまで昇り、前後彼方まで伸びているようだ。


「なっ――!?」


 術図式が全く見えなかった魔偽術(マギス)

 これは明らかに、魔偽術(マギス)の常識を逸脱している。


『術図式を隠蔽する魔偽甲(マギカ)です!』


 壁越しにソラノアが説明する。

 答えを導くことで、余計な混乱を回避させるために。


「そんなもんあんの?」

『千星技術学院で開発されている試作品があります……ですけど、隠蔽時間は数秒ですし、ここまで膨大な構成を隠せるとは……』

「まぁ、当り前の話だが学院の研究は【千星騎士団】に上がるものだからな。我々とて、日々勉強をしているわけさ」

(なら、数秒でこれだけの魔偽術(マギス)を……?)


 魔偽術(マギス)の勉強はまだ習い立てだが、膨大で高度な魔偽術(マギス)を組むには技術がいることを知っている。

 また、比例して時間がかかるのは散々見ている。

 それを覆すのは、やはり人間ではない……?


「おいおい。驚かれても困るぞ?」


 なるべく顔に出さぬようにしていたが、ネイルトッドは宗太の狼狽を確実に見抜いた。

 拳銃のような形の手で、ビシッとこちらを指さし――


「言っておくが、星将ってのは【千星騎士団】でも強いヤツに与えられる、名誉の称号なんだぜ?」


 ――腰に携えた剣を抜き、強く踏み込んだ。

 この対峙は想定している内の最悪ではない。

 ただ、現状がどれほど困難なのか測り切れないのは、どれほど最悪なのだろうか。

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