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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第六章 物語が終わる時、住人は結末後も生き続ける
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3.〝筋肉しか愛せない悲しき女〟ステファニー・ジェイソンの七面倒臭い我儘

 はっきりと聞こえた、その単語。

〝魔炎〟アジュペイトランクリ。

 思いがけない告白に、宗太の全身が粟立つ。


(気づかなかったのか、オルクエンデ?)

《〝魔剣〟とは違って何か特殊な肉体(・・・・・)のせいで、判断がつき難い》

(特殊って?)

《分かれば答えている》


 オルクエンデの発言が、宗太の緊張感をより増幅させる。

 この『魔物』もまた、厄介な相手だと理解できたから。


「俺を殺しに来たのか?」

「……やっぱり話が行っていないみたいね」


 殺気立つ宗太とは対照的に、ステファニーは溜め息を吐き、肩を落とす。

 こちらに聞こえない音量で、ぶつぶつと何かを口にしている。内容こそ分からないが、表情から察するに誰かに対する不平不満か。

 一通り済んだのか。ステファニーがこちらを向く。


「今度の任務――私達【連星会】と一緒に『無望の霧』の調査に同行するって聞いてない?」

「…………」


 宗太が黙るのは、得体も知れない相手――しかも敵対する名。〝魔炎〟と名乗った者――に自分達の任務を話すわけにもいかないため。こちらの動向を伺うために嘘をついている可能性はある。

 一応、ソラノアからさっき聞いたばかりの任務は、アルトリエ大陸北部――【連星会】の屋台骨である商都エングラドの潜入だ。


〝大賢者〟または〝魔偽甲(マギカ)の始祖〟と称されていたシツソン・メナノレル。人類の文化を一気に加速された彼が、密かに遺したという『闇の遺産』。それが存在することの証拠、またはそのものを手に入れることだった。


(果たして、どう出ることが正解か……)


 そんな風に宗太が逡巡していると、テッジエッタがパンッと何かを思い出したかのように膝を叩き、


「あっ! そうそう! あたし、それ言いに来たんだ!」


 なんて素性も知れない女を前にし、あっさりと動向をバラす。

 こちらの思惑を踏み躙る大ポカに、宗太はどう誤魔化すか頭をフル回転させる。

 が、テッジエッタは何故か、宗太ではなく目の端で女を見ていた。


「『遺産を探す』って点においては変わってないけどね」


 テッジエッタがそう言うと、女は小さくだが反応を示した。ただ、動揺というほどでもない。強いて言いうなら、アイコンタクトに近い。

 何を意味するのか。宗太にはまるで分らない。が、『遺産を探す』というキーワードは面識のない(はずの)二人の何かを結びつけているようだ。


「で、話は戻るけど、腕の調整の手伝いって?」

「そうよ! 重要なことを忘れるところだったわ!」


 リーリカネットの面倒臭そうな一言(意外にも、苦手なタイプか?)に、ステファニーは宗太を思いっきり指差した。


「ズバリ! 私と闘えばいいんじゃない!?」


 ステファニー以外の三人の頭上に『?』が浮かぶ。

 何を言っているのか。何を言い出したのか。意図以前に意味が分からない。


「実戦に近い闘いなら、その性能や問題点が分かりそうじゃない!?」


 鼻をスピスピ鳴らすほど興奮しているステファニー。こちらが少しでも口を開けば、すぐにでも飛び込んできそうだ。


「申し訳ないが、僕からもお願いしてもいいかな?」


 と、ステファニーが言う――いや、違う。宗太はそれが男の声であり、彼女の胸の中心辺りから聞こえたことから自らを否定する。


「今度は誰だよ?」

「僕はフェイ・テンユィ――でも〝魔弾〟モーフィスシャイトの方がいいのかな?」


 ひょこっとステファニーの後ろから、中肉中背の眼鏡をかけた優男が顔を出す。見た目は東洋系といった感じ。しかし親近感は湧かない。

 宗太は気配というものを察知できるほど、まだ戦闘経験を積んではいない。

 とはいえ、声がかかるまでこの男がいることに全く気づかないということが、果たしてあり得るのだろうか?

 突如現れた二体目の『魔物』に、宗太は神経より鋭敏にさせる。


「どうして、俺が付き合ってやる必要がある?」

「どうしても駄目かい? いや、あの筋肉バカノジョ――じゃなかった。ステファニーは一度、強敵を見つけると気が済むか、夕日が沈むのを背にして倒れるかしないと、いつまでも鬱陶しいんだよ。分かるかい? 思わず眼球を抉ってやりたくなるウザさって」

「いつもそんな風に思っていたの?」


 爽やかにエグイことを言うフェイに突っ込みを入れたのはステファニー当人。他はやや引いている。


「まさか。いつもじゃないよ、ステファニー」清々しい春風のような笑みをフェイは向けて、「しょっちゅうさ」

「しょっちゅうウザいってこと!?」

「凄いだろ? 筋肉バカかと思いきや割と空気読めるんだ、彼女」


 ずかずかと踏み込んだ割に、さっさとどこかへと置いてきぼりにする二人に対し、宗太はうんざりとする。


「夫婦漫才はもういいか? いい加減、帰らせてもらうぞ。俺は一刻も早く帰りたいんだ」

「朝日が昇ってしまうからね」


 最後の(よけいな)一言はテッジエッタ。


「やはり、理由を作らないと駄目かい?」

「作ったってお断りだ」

「なら、こういうのはどうだい?」こちらの意見など全く持って聞く耳持たず、フェイが続ける。「君がいくら〝魔剣〟の力を手に入れたとしても、二対一で絶対に勝てると言い切れるかい? それともこんな場所で危険な賭けをする? この街の一帯を犠牲にて」


 純粋なで単純な脅迫。

 この二人の確かな素性は定かではない。

 が、本当に【連星会】の人間であるというのなら、このムーンフリークという特異な地(・・・・)で数多の犠牲を出すはずがない。

 単純に考えれば【千星騎士団】と【凶星王の末裔】を敵に回すことになるのだから。

 だが、【連星会】というのが嘘なら。ないしは、そんな肩書などどうでもいいのなら……

 宗太は一つ深呼吸をし、何やらうずうずしているステファニーではなくフェイに。


「『その挑発に乗ってやろうか?』って返してもいいだけど、そっちの方が面倒臭いよな?」

「賢明な判断に感謝するよ」


 宗太がすぐに折れたのは、この二人の狙いが見えないため。

 何もかもが嘘で、〝魔人〟オルエンデを殺すのが目的だとしても、ここは敵の腹の中なのだ。いくら『魔物』が人間を超越しているとしても、人の手で殺せないわけではない。

 つまりは仮に宗太(オルクエンデ)を殺すことはできても、その後が困難であるということ。


(まぁ、当然死んでやるつもりはねぇけど)

《当然だ》


 ただ、こちらもまだこの二体の『魔物』を殺すことはできない。

 全て――それこそ【凶星王の末裔】も含めて――を敵に回すには時期尚早だ。宗太の手駒がなさすぎるのだから。

 それに目の前でやる気満々で屈伸をしている巨大女を見ていると、すこぶるやる気が失せてくる。

 なんか本当にウザい。


「言っておくけど、私は『魔物』の力抜きにしても強いわよ? 何せ、〝筋肉しか愛せない悲しき女〟と呼ばれるほどにまで恐れられているのだから!」

「いや、それ。単なる悪口じゃね?」


 宗太が思わず突っ込むが、ステファニー本人はそれを気に入っているようで自慢げに胸を張ったままだ。


「じゃあ、どこか訓練させてもらえる場所はあるかな? できれば一番頑丈な施設がいいと思うんだ」


 フェイが提案する後ろで、ブンブンとやる気満々に腕を振るステファニー。

『魔物』の力がどれほどなのかまるで見当がつかないが、中途半端な場所では施設が崩壊しかねないということだけは察することができた。

 すると、テッジエッタがにやりとあくどい笑みを浮かべた。


「とっておきの、いい場所があるわよ?」

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