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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第五章 仇敵と相見えた時、悪魔は定めを千切る
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4.「これは悪同士の醜い戦いだ」

 紅く染まるイサラの掌。もはや形のなくなった少女カラオナの肉片を眺め、その肩をわなわなと震わせる。


「もう少し早く出てこいよ。仲間、死んじまったぞ」

「貴様……」


 血肉を抱き締めると、衣服は赤黒く染まった。

 宗太はそのイサラの横を通り過ぎ、社の中へと向かう。


「どこに行く?」

「男女二人が密室でやることなんて決まってるだろ?」

「ふざけるな!」

「冗談くらい巧く返せよ」


 手を振り、宗太は社へと入る。

 部屋は完全に和風な作りであり、異世界という場所にいるせいもあって、なんとも言い難い違和感を覚えた。

 内装は質素なもので板張りの床に神棚と、その真下に鞘に納められた刀が奉られている程度。生活をするための場所ではないのは明らかだ。

 天井も高く、戦うに充分な広さがある。


「早く上がって来いよ。俺もこの身体がまだ本調子じゃないんでね。あの場所で戦ったら、余波で捕虜を殺しかねない」

「どの口が言う!」


 激昂するイサラを、宗太は冴えた頭で分析する。

 どうやら、イサラは雪城宗太という人間ではなく、オルクエンデという『魔物』として捕えている。

 それはこちらにとって、好都合に他ならない。


「それとも何か? 本当は仲間を殺して欲しかったのか?」


 挑発に答えず、イサラは睨みつけたまま階段を上がる。

 宗太は彼女を背にしながら奥へと進み、飾られた刀を手に取った。

 イサラは咄嗟に駆ける。武器破壊を恐れて。

 しかし、宗太はイサラの懸念に反して彼女へと刀を放った。


「ハンデだ。受け取れ」


 放物線を描いて彼女の手に渡る刀。破壊せず、しかも手渡すことにイサラは怪訝に感じているのだろう。

 もちろん意味がある。見下し、相手を煽る他にも。

 それでも一つ問題があるとすれば、それが魔偽甲(マギカ)の可能性があるということだ。

 魔偽甲(マギカ)の危険性は痛いほど分かっている。

 イサラが抜いた刀は、反りがあることから日本刀に近いものなのだろう。つくづく、異世界に於いて宗太の中で異物感が拭えない。

 改めて思う。この世界はなんなのだ、と。


《んなことは、あとで考えろ》


 オルクエンデの注意に、宗太は今、自分が思考すべきことへと切り替える。


「《禁鎖檻座(アキサーク)》」


 術図式が浮かび、星印が部屋の隅々に張り巡らされる。すると、宗太が構成した魔偽術(マギス)は不可視の檻へと変形した。

 これで五分間は、イサラをこの社に閉じ込められる。  


「逃げるとでも思ったか!」


 刀を構え、飛び込んで来るイサラに宗太は次の魔偽術(マギス)を構成する。


「《岩雨座(モシアギ)》!」


 展開された術図式は岩石の雨へと変質し、(やしろ)内に降り注ぐ。

 両者分け隔てなく。無作為に。

 宗太は長時間の時間異層形成はできないと踏み、回避困難な長期広範囲攻撃を仕かけた。無作為な攻撃なら、こちらの時間を刻んだところで関係ない。

 それに対してイサラは素早く反応し、回避しながら両手を組む。


「浅知恵だ! 連なれよ星々――《拒歪座(アヲャク)》!」


 術図式は光の障壁となってイサラを囲う。

 そして、振り落ちる岩がイサラの周りを守るそれは触れると、その軌道が歪んで逸れた。


(ちっ)

《肉体は補強されてないとはいえ、魔力は『魔物』の域か》


 宗太自身の受術耐性の高さによる消耗戦に持ち込もうとしたが、こちらの意図はイサラに瞬時に読まれてしまった。 

岩雨座(モシアギ)》を解除し、宗太はイサラを守る《拒歪座(アヲャク)》に触れる。

 意志を注ぎ、魔偽術(マギス)の壁を剥ぐ。

 それとほぼ同時して。突如、全身甲冑を纏った者が三名、《禁鎖檻座(アキサーク)》を通過して侵入してきた。

 鎧には複雑な文様が刻み込まれている。さながら鎧星隷だ。

 物言わぬ彼らの感情は仮面によって覆われ、全く読み取ることはできない。

 手に持つ大剣を構え、各々が敵に向かってその凶刃を向ける。


「――っ!?」


 真っ直ぐと。イサラへと。

 後方に跳んで横薙ぎに払われた剣を躱し、唐竹割りで振り下ろされたものを刀で往なす。最後の突き立てられた剣尖は、左手で剣の腹を弾いて避けた。


「連なれよ星々!――《太刀鼬座(ツチウツチ)》!」


 イサラを中心に旋風が発生し、近づく者を斬りつける。

 刻まれる鎧は金切り声を上げ続ける。それでもなお構わず、三人組はイサラへと攻撃を測った。


「卑怯者が!」

「誰が一対一って言ったよ!? いいか! これは悪同士の醜い戦いだ! いい加減、自覚しろ!」


 その混戦に宗太自身も加わる。

 宗太は右手を突き出すと《太刀鼬座(ツチウツチ)》に切り裂かれるが、魔偽術(マギス)の解除には成功した。

 それから常に鎧三人の後ろに位置し、宗太は隙を突いて魔偽術(マギス)に光弾を放つ。じりじりと部屋の角に追い詰めながら。

 しかし、イサラには焦りは感じられない。

 ただ意味は、すぐに現れる。


《来たぞ!》

「《固時結座(テコズサ)》!」


 オルクエンデの合図とともに、宗太は魔偽術(マギス)を構成する。すると術図式が目の前に浮かび、光の粒子は彼の中へと解け込んだ。

 宗太は一瞬、身体が(・・・)意識から(・・・・)ずれた(・・・)ような錯覚を得る。

 これはまさに〝魔剣〟の力――『魂の解放』だ。

 しかし、宗太に前のような大きな違和感はない。すぐさま固めた拳をイサラへと振るう。それどころか、鎧の三人さえも何もなかったかのように攻撃をする。


「連なれよ星々――《覇脚座(ケュクヒ)》!」


 イサラは魔偽術(マギス)による超加速の突進で、前を塞ぐ二人の鎧の間を強引に抜ける。

 衝撃に鎧二人は弾き飛ばされ、大きな音を立てて床に倒れた。

 だが、ダメージは細身のイサラの方が大きい。

 盾にしたのだろうか。イサラの左腕は折れ、血だらけになっていた。


(なんとか巧くいったな)


 ぶっつけ本番の作戦に、宗太は小さく安堵した。

 宗太が使った《固時結座(テコズサ)》は、かつて星将ロヒアン・マーチアントが宗太に使おうとした魔偽術(マギス)だ。

 喰らわなかった術なので何を齎すのかは知らなかった。が、オルクエンデにこの戦いに於いて、緊急回避術として使えると説明された。

 対象者の時間的思考を数瞬だけ停止させ、その隙を突く。それは魔偽術(マギス)としては高度な、しかして時間干渉としては低級の術である。


 ただ《固時結座(テコズサ)》は、宗太自身にしかかけていない。

 それがイサラにとって、理解ができない要因だ。

 鎧三人組は何もしていない。可能性があるとすれば、彼らが身に纏っている鎧が魔偽甲(マギカ)ということ。だが、そんな高度なものが存在するのか?――イサラの戸惑いの思考は、手に取るように分かる。そうなるよう、仕組んでいるのだから。

 その間に鎧が起き上がると、その内の一人の仮面が砕け、素顔が露わになった。


「どういう――っ!?」


 その中身にイサラは愕然とし、混乱は酷く膨らむ。

 予想通りの反応に宗太はあえて口角を釣り上げ、悪意の笑みを浮かべた。

 だが、イサラの瞳に宗太は入っていない。彼女は目の前の事態を信じられず、目を離すことができず、真っ白な頭でそれを呟くことしかできなかった。


「……アイロギィ……?」


 暴かれた仮面の下には、死したはずのアイロギィ・スタンクフが確かにいた。

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