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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第五章 仇敵と相見えた時、悪魔は定めを千切る
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3.「もう、やめて……」

 準備は整った。

 覚悟はとうに決めている。

 宗太達は各々道具を手にし、再び社の前に立つ。

 そこにいるのは【千星騎士団】を装った【凶星王の末裔】だけでなく、捕虜の【テーブルスナッチ】メンバーの姿もある。

 その中で宗太が一歩、前に出る。


「おい。イサラ・トリティエ! 少なからず、お前には俺達の光景が分かるんだろう!?」


 距離は近いのだ。本来なら叫ぶ必要はない。

 だが、こちらの態度を見るだけでなく、感じさせねばならない。


「今から三数える間にその結界から出て、俺と戦え! さもなくは、お前の仲間を一人ずつ殺していく!」


 連れてきた捕虜は十四人。男女や年齢などバラバラな彼らは、横一列に座らされている。その恰好はみな共通し、後ろ手に縛られ、猿ぐつわに目隠しをされていた。


「一つ!」


 宗太の怒号にも似たカウントが夜闇に静まる、この神聖な場所に響く。


「二つ!」


 彼ら【テーブルスナッチ】が従順に同行したのは、他の仲間を人質にしているため。

 ここにいる十四人は人質達から完全に隔離していたので、残された者達は人質にされていることを知らない。

 とはいえ、ここまで抵抗がないのは、イサラ・トリティエを信じているのか。それとも【テーブルスナッチ】という組織に命を捧げる覚悟を持っているのか。


「三つ!」


 与えた猶予は終わる。

 分かっていたことだ。いやむしろ、ここですんなりと通らされては、のちに支障が来す。

 宗太は置物のように静かに座す【テーブルスナッチ】の捕虜達を一通り眺めたあと、声を張り上げた。


「残念だったな! どうやらイサラはお前を見捨てたぞ!」


 連れてきた捕虜の内の一人。宗太よりも身長の高く、筋骨隆々の厳つい男の前髪を彼の背後から毟らんばかりに掴み、中腰になるまで持ち上げる。

 宗太は男の右脚の裏腿を踏み躙り、顔を覗き込みながら猿ぐつわを千切るように乱暴に外した。


「お前の名前はなんだ? 俺の機嫌を損ねなければ、仲間にしてやってもいいぞ?」


 しかし、男は苦痛に顔を歪ませるものの、口はきつく閉ざしたまま。決して開けようとしない。


「そうか。その口はいらねぇってことか」


 魔偽術(マギス)によって唇の皮膚を融解させ、強引に癒着させた。

 激痛と身に降りかかった理不尽に、男は涙を流してその場で暴れる。唇が完全にくっついたわけではないので、苦悶の悲鳴はくぐもった形で隙間から洩れる。


「あはははっ! こりゃいい! てめぇの汚ねぇ断末魔を適音で奏でられるな! これは他のやつらを殺す前にやっておくか!」


 宗太は狂ったように笑う。

 それこそ、ソラノアが決して見せることがないと思っていた、オルクエンデの狂喜のように。


「じゃあ、名無しの権兵衛。仲間に見捨てられて死んで来い」


 男を無理矢理立たせる。踏みつけた右脚が震え、まともに立っていられないようだ。

 宗太は社に向かい、その背中を踏みつけるように蹴り飛ばした。

〝魔剣〟による不可視の精神時間干渉は、彼女に近づけば近づくほど強くなると想像する。

 精神的な時差は肉体的感覚からそれを剥離させ、自我を崩壊させる。


 男が躓いたのは、足を縺れさせたわけでも、社の階段に足を取られたからではない。

 顔面から階段に倒れ、動かなくなる名も知らぬ男。

 生きてはいる。ただ、彼が再び何かすることも発することもしないだけで。

 だが宗太は最後を見届けることなく、次の犠牲者の品定めを始めた。


「次は一気に四人くらいで行こう。リミットはそうだな……俺がこいつらを楽しく殺す方法を見つけるまでだな――よし決まった」


 全く間を空けることなく宗太は魔偽術(マギス)を使い、適当に選んだ自分と同年代の男達の猿ぐつわを喉の奥深くまで滑り込ませる。

 気道を塞がれ、男達は苦しみのあまりその場に倒れてもがき始める。しかし、腕を縛られているため

 他の捕虜などお構いなく暴れ回る四人。目や口から体液が零れ始め、顔の色が青白くなっていく。


「思ったより見苦しいな。しかも、これからもっと汚くなっていくんだよな?――ちょっと引くわ~」


 苦しみから逃れようとする男を宗太が蹴る。すると社の階段で倒れていた男に直撃し、双方の肉体が衝撃で弾けた。

 他三人も同様に蹴っ飛ばす。彼らは社の仲間で飛んでいくが、身体がバラバラになることはなかった。

 だがそれでも、三人の精神は壊れた。そして、このまま彼らは苦しみもがくことなく、息を引き取る。

 それは窒息死するまで放置できないという、宗太の些細な良心か。それとも時間はかけていられないという、冷徹な思慮か。


(なんか生き生きしているみたいで、嫌になるな)


 惨たらしいことを平然と行う自分を俯瞰で見、苦笑する。

 もしかしたら、自分は異世界に来て正解だったのかもしれない。

 この現状からするに、あのまま日本にいたら自分は、何かしらの犯罪を行っていたかもしれない――そんな自虐さえもできてしまう。

 そして、宗太は虐殺を進める。性別も年齢も関係なく。ある意味では平等に。

 イサラを煽り、暴虐の限りを尽くして理不尽に奪う。


「もう、やめて……」


 一人。また一人殺していく中で、小さいながらも確かにそれが耳に入った。

 言葉として聞こえたのだ。誰がとは分からずとも、どこからか(・・・・・)は分かる。

 何せ、捕虜の怨嗟と怯えよりも、仲間からの嫌悪と畏怖の方が宗太に突き刺さっているのだから。

 だがそれでも、たとえソラノアにさえ軽蔑されたとしても、宗太はやめることはない。心が折れることはない。


「お前ら、あのアバズレに嫌われてんだな? アイロギィとは兄弟(・・)じゃなかったってことか!?」


 宗太は思いつく下劣なことを口にし、イサラの精神を揺さぶる。

 この行為は、怨敵オルクエンデだからこそ効果がある。

 ただでさえ制御の難しい時間操作に加えて、大きすぎる自身の力。それを精神が不安定な状態で行うのは困難だろう。

 加えて、星約をしている仲間達が死んでいけば、その分け与えていた力はビロゥガタイドに戻り、制御が厳しくなる。

 しかし、捕虜の虐殺は当然のことながら、大陸条約違反だ。

 だがそれも、回避する方法はある。最も(・・)短絡的で(・・・・)残虐な方法(・・・・・)が。


「は~い。じゃあ、次のゲストを頼むね――とびっきり新鮮なのがいいな! 惨たらしく死んでくれるだろうしね!」


 次の捕虜は、この中で最も幼い少女。見た目は中学生くらいだろうか。

 勝利への生贄を突き出したのはジンクだった。目が合わなかったのは、ジンクがそうしたからか。それとも宗太が自然と逸らしたのか。


 その年端もいかない少女は、取り乱すことなくじっと俯く。

【テーブルスナッチ】の勝利のために、命を失うことを厭わないのか。

 この少女がどういった世界を、時間を生きていたのかなど分からない。

 分かることは、今からこの少女を殺すことだ。宗太自身の手で。

 より凄惨さを強調するため、少女の目隠しと猿ぐつわを外す。自分の変わり果てていく姿を目にし、それを絶叫という形で表せさせるために。


「おっ。反抗的な目するじゃん?」


 少女の瞳の奥には決意の火が灯っていた。

 今から自分は、その小さな火を踏み消す。悪夢の光景を展開して。

 宗太がその少女の顔面を鷲掴みした、その時――


「――もうやめろ、オルクエンデ!」


 ついぞ反応を見せなかったイサラが、声を張り上げその場から立ち上がった。


「『剣』は解除した! カラオナを離せ!」


 だが、不可視であり不感覚の攻撃なのだ。言葉だけでは信用できやしない。


「今すぐ戻せ、イサラ! あたしらの命ななんて――」

「聞いてなかったのか!? 俺は出てこいって言ったんだ!」


 カラオナと呼ばれた少女の言葉を遮り、宗太が怒鳴る。

 すると、イサラは言われるがまま室内から出て来た。

 階段を下りれば、足元には原型を失った仲間の亡骸が広がる。


「この悪魔め!」

「お前が言える立場か?」


 忌々しく吐き捨てるイサラに、笑いながら宗太が突っ込む。


「じゃあ、あとは俺が行くから」


 宗太もまた、カラオナの首根っこを掴んだまま進んでいく。

 そして、ビロゥガタイド(イサラ・トリティエ)の下まである程度近づくと、カラオナを投げ飛ばした。魔偽術(マギス)をかけて。

 ビロゥガタイド(イサラ・トリティエ)は咄嗟にカラオナを受け止めようとする――が、目の前で身体の内が膨れ、醜い肉塊になって破裂した。

 彼女に直接的なダメージを与えていない。

 ただ、身体中にこびりついた血と肉片は、内へと浸食して心を蝕むはずだ。


「さて。本祭を始めようじゃないか、ビロゥガタイド」


 確かに、宗太のその歪んだ表情は悪魔そのものだった。

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