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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第五章 仇敵と相見えた時、悪魔は定めを千切る
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1.「〝魔剣〟の本当の力について、お話します」

 半壊した館には今、ノーグとテッジエッタ、ジンクに他数名がいる。リーリカネットなどの一部団員は捕虜や村人の監視に回っていた。

 みなはソラノアの先の戦いについての報告に耳を傾けている。

 ビロゥガタイドとの戦闘経過を話し終えると、ソラノアは〝魔剣〟の――魂を刈り取る剣についての仮説を語り始めた。


「〝魔剣〟の本当の力について、お話します」


 だがこれは彼女が導き出した答えではない。宗太がオルクエンデから聞いたことを、彼女にそのまま伝えたのだ。

 オルクエンデとの対話後、まだ他の者が集まってはいなかった。

 そこで宗太はでソラノアを呼び寄せ、二人きりで話をした。

〝魔人〟の暴走の件は、みなに余計な不安を与えるため伝えない方がいい。

 そう判断した結果、魔偽術(マギス)に疎い宗太が突然賢しく教えるよりも、魔偽術(マギス)の知識に長けたソラノアが言った方が自然だと宗太は思い、彼女もまた納得した。


「恐らくは、時間に干渉する能力なのではないでしょうか?」

「時間だと?」


 ノーグが聞き返すが、それは意味が分からないというよりも、むしろ意味を的確に理解したからこそだろう。

『時間に干渉する力』という説明だけでは全容を把握するのは困難だが、それでも人間の力では到底行えないものだ。

 そして、その異能が程度によっては手を出す前に負けることだってあり得る。

 ノーグの危惧を読み取った上で、ソラノアは話す。


「まずは『魂の解放』の仮説についてです――の前に、基本的なことで申し訳ないんですけど、改めて受術耐性について改めて説明させて下さい」


 子供の内に習うことを改めて語る。

 当り前のことを改めて解説するということはつまり、そこに大きな意味があるということだ。故に、誰も口を挟むことはしなかった。


魔偽術(マギス)を受けた際の受術耐性は大きく三パターンで作用します。一つは単純に、受けた魔偽術(マギス)に対して受術耐性が低い場合。それは当然、敵の魔偽術(マギス)の影響を完全に受けます」


 みなの反応は薄い。

 しかし、ソラノアに向けられた視線は真剣そのもの。


「二つ目は受術耐性が魔偽術(マギス)よりも大きい場合。そこからさらに二つに分岐増します。一つは拒絶反応です。これは魔偽術(マギス)を否定し、受術者への影響を抑える――つまり、ダメージなどが減少される状態です」


 単純に言ってしまえば、ゲームのように守備力が高ければその分、ダメージが減少されるということだ。


「もう一つは受容反応です。これは対魔偽術(マギス)戦で行われることですが、相手の魔偽術(マギス)を敢えて受け、それを理解し、利用しようとすることです」


 ソラノアは一拍置き、「また、自身の強化や治癒などもこの作用です」と補足した。

 間を取り、一度の説明量を抑えながら続けていく。


「これは受術耐性が低い場合と同じように影響を受けますが、調整によって被害は最小に抑えられます。でも……」

「ホウナは自身の強い受術耐性を駆使し、『剣』を解明しようとした――が、その『剣』は受け入れること事態が死を招くということか」


 これは雷星隷キュムケが陥った顛末と酷似している。

 宗太の『消えろ』という魔偽術(マギス)を受けた状態だったため、その後の宗太の極端な魔偽術(マギス)を耐えることができなかった――もちろん、〝魔人〟というブーストがあったからではあるが。


「はい。『魂の解放』は、肉体に対する精神時間にズレを生じさせてしまうのだと思います」

「どういうことだ? そのズレってのは?」

「簡単に言ってしまえば、幽体離脱のようなものです。肉体が自分の思っている位置と、感覚的に存在している肉体がかけ離れた場所にある。そのズレが大きくなると、肉体に戻れなくないという不安によって、精神に多大な負荷をかけ破壊される」


 ジンクの疑問に、ソラノアは自然と回答する。

 アイロギィが『剣』による精神攻撃を仕かける前。

脆崩座(エマウゾ)》によって足場を不安定にさせたのは、肉体の位置をより把握しづらくさせるためだったのだろう。


「加えると、アイロギィは黒い『剣』こそ持っていたけど、それは単なる剣でしかなかった。実際の〝魔剣〟の『剣』は不可視だと思う」


 黒い剣が魂を奪う『剣』と思い込んでいたのは、アイロギィ自身が言っていたからだ。

 宗太自身が語った実体験に、ジンクは小さく顔を強張らせた。


「攻撃を喰らったらアウトってことか? しかも見えないっていう」

「アイロギィの時は、恐らく十全に扱えなかったのではないかと思います。ですが、今は術者が〝魔剣〟ビロゥガタイドになってしまったので分かりません」


 ビロゥガタイドもまた万全の状態とは言えないとようだったが、楽観はできない。

 そもそも、完璧に扱うことのできなかったアイロギィにすら、宗太は手も足も出なかったのだから。


「だが、ユキシロの攻撃が当たらなかったのはどういう理屈だ?」

「一つはやはり、精神時間への干渉です」

「まぁ、簡単に言うと認識位置をずらされていたってこと。不可視不感触の『剣』によって実際の時間よりも前の時間を刻み込まれて、捉えられなかったってわけ」


 ノーグへ説明を加えた宗太は、実にばつの悪そうな顔をする。 

 つまり、籠手の魔偽甲(マギカ)〔アンタイオス〕を発動させて放った魔偽術(マギス)は誘ったのではなく、誘われたということ。まんまと罠に嵌ったのだ。


「もう一つが、空間そのものに対する時間干渉です。アイロギィは一度、時間異層――言い換えるなら一瞬パラレルワールドを形成して物理的に回避しました」

「それがアレってこと?」


 テッジエッタが指差す方向には、イサラ・トリティエが微動だにせず、それこそオルクエンデの暴走時と変わらない姿でいる。

 しかし、彼女には触れることができない。

 ただ、それは当たり前のこと。

 彼女はもう(・・・・・)そこにはいない(・・・・・・・)のだから。

 簡単に言ってしまえば、今目の前にいるイサラ・トリティエは立体映像(ホログラフィ)が投影されているような状況だ。


「これはどっちかって言うと、〝魔剣〟の力が暴走しかけた時の残滓だよ。自らも制御できなかった術図式が『魔法』(イグドラシル・ロウ)に干渉して、この一部の時間を偽っているんだ」

「お前にもできるのか、ユキシロ?」

「いや、ここまで大それたものはできないよ、ジンク。こんな芸当は時間を刻める〝魔剣〟の特典みたいなもんさ。ただでさえ、魔偽術(マギス)に関する知識がない俺にはどう想像していいか、まるで見当もつかない」


 世界を偽る術――魔偽術(マギス)

 だが、この術は万能には程遠い。

 正しく偽りを望まなければ、世界はそう簡単には騙されてはくれない。


「にしても。よくそんなものが見抜けたね、ソラノアは」

「まぁ、アイロギィが見せびらかすように説明してくれたからなんですけどね」


 テッジエッタに苦笑するソラノアだが、そこに含まれた意味を読み取れるのは宗太ぐらいだろう。

〝魔剣〟の一部の事象に関しては人智を超え、いくらソラノアでも即座に判断するのは不可能だ。

 そこで、そういった箇所はアイロギィが喋ったということにした。


『少し悔しいです。結局、私のようなただの人間には、全然分からないことなんですから』


 ソラノアにオルクエンデの見解の全てを話したあとに、彼女は悔しそうにつぶやいた。

 だが、あの短時間でここまで自分の知識として吸収している彼女は、やはり優秀だと宗太は思う。

 そして有能だからこそ、みなを騙すことができている――ソラノアにはやはりつらいかもしれないが。


「だけど、ソラノア。それって私らに勝ち目あんの?」

「多分、何度も使える技じゃないと思う。アイロギィは精神干渉でさえ複数人いる時だったり、危機的状況を回避するために使っていた。時間異層も一度使っていただけで体力や魔力を酷く消耗していたみたいだし」

「だがそれは、あくまでもアイロギィだからでしょ?」

「いや、そう変わりないかもしれない」


 テッジエッタとの会話に、宗太が加わる。

 ただ、これから口にすることもやはり、オルクエンデの解答をなぞらえるに過ぎないが。


「この村で行われている祭り。なんでわざわざ、アイロギィ達も参加するのか。そこに答えはあったんだよ」

「もったいぶるなよ」

「悪かったな、ジンク。で、あれは何も観光客の資金集めなんてもんじゃなくて、多くの星約を結ぶことが目的だったんだ」

「星約?」

「まぁ、『魔法』(イグドラシル・ロウ)や『魔物』に関する契約だな。俺も〝魔人〟として力が使えるんだ」


 この星約を聞いた際、宗太の一つの疑問は解消されていた。

 それは『魔物』同士の殺し合いの勝敗が決した際、どう力が勝者に譲渡されるのか。

 答えは死亡した『魔物』に対し、最も傍にいた者が星約によって力を手にする。

 故に、『魔物』でないモノ(・・)が殺したとしても、また遠距離から殺したとしても、近場にいた者が力を手にしてしまう。なので自らの手で。最接近した状態で倒さなければ、漁夫の利をされる危険がある。


 ――ただ、その星約の主が『魔法使い』なのだろうが、断言ができない。オルクエンデはそう告げた。

 何せ、『魔法使い』はもういないのだから。契約主が消えた状況で果たして、契約は施行され続けるものなのか。それこそ契約文でも見てみない限り、分かりえない。


「〝魔剣〟は俺と違って、イサラ・トリティエの肉体が〝魔剣〟の出力にまるで合っていないんだ。ただでさえ、時間干渉という大きな力を持っているのに。そのままだと力は垂れ流され、やがて〝魔剣〟自身も殺す。それを避けるために多くの星約を結び、力を分与している」

「じゃあ、祭りが行われているのは契約期限切れってことか?」

「そういうことだな。もしかしたら、ジャック・リスフルーバはそれを知っていたのかもしれない。だから、このタイミングでの奇襲を命じた。最も力が不安定になる、この日を狙って」


 だとすれば、ジャック・リスフルーバはどうやってそれを知りえた?

 そして、どうしてそれを伝えなかった?

 疑惑がつき纏うが、それを片づけるのはあとでもいい。現状の問題は別だ。


「で、実際にあそこにはいないんだよな?」

「別の場所で星約を結び直しているんだろうな」

「一体どこで?」


 いくら村とはいえ、八〇〇人近くが住む広さはある。それを隈なく探すのは骨が折れる。加えて急がなければ、この拙い勝機が潰えてしまう。


「いや。イサラ・トリティエがいる場所なら見当がつく」


 みなの焦りが伝播する前に、ノーグが確信を持ってその場所を口にした。




 ノーグが特定したそこは、九十九鳥居の先にある小さな社。【千星騎士団】の襲撃があってもなお、イサラ・トリティエが独りでいたところだ。

 そして彼女の読み通り、イサラ・トリティエは座禅を組み、瞑想していた。

 が――


「場所は分かったけど、解決にはならないな……」


 敵たるイサラ・トリティエが目の前にいてもなお立ち止まるしかないのは、社の中に入ることが(・・・・・)できない(・・・・)から。

 ただそれは先程のように、イサラ・トリティエの幻影が映っているのではない。中へと進もうとしても、社の前を無意識に横切ってしまうのだ。

 適当にその場にあった石を投げ込んでも、身体が明後日の方向へと放ってしまう。

 それはまるで、こちらから避けているかのように。


「これも『魔法』(イグドラシル・ロウ)を偽った結果か?」

「いや、俺達の時間を刻まれて、認識位置をずらされているんだろうな」

「黙視不可の攻撃が、こうしている間にも行われているってわけか?」

「ああ。結界を張ったというよりも、今なおせっせと結界を作っているんだろうな」


 宗太と交わすジンクはどこか歯痒さを滲ませる。

 その一方、テッジエッタが眉根を寄せた。


「少しまずいんじゃない? これって、ある程度の制御ができるようになってることじゃないの?」

「なら早急に破らないとマズイだろ?」

「でも、どうすれば……?」


 現状打破を見出せぬことに危機感を募らせるのは、ジンクやソラノアだけでない。

 言葉や表情には決して出さないであろうが、ノーグでさえ先の見えない暗闇に焦燥を抱いていた。

 それに対し、宗太は一人冷静であった。

 ただ、それを口にすべきか悩んでいた。思いついた打開策を。


(いや、迷っている時間なんてない)


 時間が経てば経つほど、星約は更新されてしまう。万全の状態の〝魔剣〟を倒すのは、宗太には不可能だろう。


「方法はあるよ」

「どんな?」

「何なんてことはない。あいつに通して貰えばいいだけさ」


 テッジエッタへ宗太はできるだけ自然な表情を向ける。つもりだったが、どこか引きつっていた。

 これから自らの口で、この作戦(・・・・)を告げることの意味を重々理解していたから。

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