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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第四章 宿敵と相対した時、魔物は運命と踊る
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エピローグ 青年と〝魔人〟

 ソラノアが冷静を取り戻したあと、宗太はオルクエンデと話をつけると彼女と別れた。

 彼女もまた、目視こそできるが動きのないイサラ・トリティエが、一体どういう状況にいるのか。〝魔剣〟ビロゥガタイドの能力がなんだったのか。それを調べるために、ショーダスと意識の戻らないホウナとともに他の団員を待つことにした。

 宗太はしばし、人目のつかない裏庭を進む。


(何が犠牲にしてでも、だ……)


 自らの弱さに、宗太が吐き捨てる。

 そして何より、想いだけの覚悟だったことが情けない。

 ソラノアを傷つけまいと。泣かしたくはないと思ったのは本心だ。笑っていて欲しいというのは宗太自身の願いでもある。

 だというのに、この体たらく。不甲斐なさ。


(力があるだけじゃ駄目だ)


 月夜が僅かに零れる木々の下で、宗太は胸中で呟く。


(だから、オルクエンデ。教えてくれ。お前の力を)


 語りかけるが、返答はない。

 木の葉が風に揺れる音しか宗太に届かない。


(……聞いてんのか?)


 しばし間を空けたあと再度、訊ねるものの結果は同じ。

 今の今まで行われていた戦いが幻であったかのように、静けさが広がる。


(おい。いるんだろ?)


 いやむしろ、先程までの戦いの顛末が、この静寂か。

 何もかもを破壊し尽くした惨状の、当然の末路なのかもしれない。

 だが、そんなことはどうでもいいのだ。


(おい、オルクエンデ! いい加減に返事しろよ! ガキみたいにいじけてんのか!? それとも、俺に怒られるのが怖いのか!?)

《うるせぇぞ!》

(……お前がな)


 それほど鬱陶しいものでもなかったが、宗太はうんざりと返す。


(つーか、なんだ。凹んでたのか。意外に繊細なんだな)

《……お前もだろ?》

(やっぱ凹んでたんだな)


 意外な一面。というか、そういった感情があるのかと宗太は率直に思った。


《なんなんだ、お前は? どうして、ついさっきお前を裏切ったやつにそうも軽く話しかけられる?》


 訝しむオルクエンデからはどこか、宗太を気持ち悪がるような感情さえ滲む。

 人外の力を使い、振る舞っていたというのに、今の彼はまるで人間のようだ。


(いまいち分かんねぇからな。裏切った動機が。利害は一致していたはずだろ?)


 だからこそ、知るべきなのだろう。〝魔人〟オルクエンデを。

 しばらく無言が続く。

 宗太は瞑目し、オルクエンデの解答を待つ。

 瞼の裏に映るのは暗闇だ。当然、オルクエンデの姿が見えるわけではない。

 しかし、葛藤する様は容易に想像できた。

 何を信じ、どこに進むべきか。

 深い理由や経緯など宗太には分からないが、オルクエンデは確かにそれらを一度失ったのだ。


《……一致なんかしてねぇんだよ》


 悩んだ末。沈黙からの第一声は、真実から始まった。


(どういうことだよ?)

《お前が『魔法使い』となって元の世界へと帰還した時、この世界は――いや、『魔法』(イグドラシル・ロウ)の影響圏内に在る全世界はどうなる?》

「えっ?」

《この世界の現状が、まさか『魔法』(イグドラシル・ロウ)の一部が分断されているからだけだと思っていたのか? 今でこそ『天使』どもが代役を担っているが、あくまでもその場凌ぎだ。『魔法使い』が戻らない限り、世界の破局は必ず訪れる》


 思わず声を漏らした宗太だが、オルクエンデは構わずに説明をする。


《それと忘れていないか? お前の世界もまた、末端とはいえ『魔法』(イグドラシル・ロウ)の影響圏内だということを》


 言われ、ハッとする。

 オルクエンデといえば、宗太が完全に理解するまで言葉を控えていた。


(つまりお前は、俺を『魔法使い』として縛りつけようとしていたってわけか)

《……それで、真実を理解したお前はどうするつもりだ? それでも世界に戻るつもりか?》

(それしか方法がないならな)


 即答できたのは、答えが始めから決まっていたからだ。

『世界を滅ぼさなければ帰れない』――その想定し得る最悪から目を背けないようにするための、ただの虚勢で自制だが。

 だからこそ、宗太はこう言える。


(だけど、諦めるのはまだ早ぇだろ? 何か別の方法があるかもしれない)

《奇跡に縋るつもりか?》

(あればいいとは思うけど、期待はしないさ。奇跡ってのは理不尽に存在するもんなんだしよ)

《理不尽?》

(そうだろ? 俺が戻って来られたのが、まさにそうじゃないか。あの奇跡のようなもんは俺にとっては都合は良かったが、お前にとっちゃ不都合そのものだったろ?)

《あれが奇跡かどうかは怪しいがな》


 宗太はおろかオルクエンデさえ、この状態に戻った理由が分からない。

 ただ、二人が抱く疑問はそれぞれ違うだろう。

 宗太が入れ替わった方法すら分かっていないのに対し、オルクエンデは『元に戻ることがない』という前提があり、それを覆されたのだから。


《だが、それと今抱えている問題は全く違う。『魔法使い』に関する問題は、この世界のシステムそのもの。不変で不壊の根幹だ》

(だから、いちいちお前だけで解決すんな。まずは何も知らねぇ俺に、お前が知っていること全てを晒せ。お前に都合の悪いこと含めて全部な。お前が勝手に諦めて立ち止まられると、まだ進んでもいねぇ俺は、第一歩目すら踏めねぇんだぞ?)


 正直、オルクエンデを説得できるかなど定かではない。

 だがそれでも宗太は叫ぶ。それこそ、まだ一歩も進んでいないのだから。諦めるには早過ぎるのだから。


(いいか、オルクエンデ! 立ち止まってる暇があんなら、どこでもいいから転がってでもまず進め! 立ち上がれねぇなら手を上げろ! 叫んで求めろ! じゃねぇと、俺がこの世界を滅ぼすぞ!)

《この俺を信用するつもりのか?》

(どうだかね? ただ、お前が俺を信用しているくらいには、信用するつもりだけどな)


 信じる信じないは二の次だ。

 今はただ、進むしかないのだ。どんなに険しく、危うい道でも。

 立ち止まれるはずがない。そんな道なら、なおさらに。


《なんだか、お前の方が悪役だな?》

(初めから、正義の味方になったつもりはねぇけどな)


 それにオルクエンデがふっ、と鼻で笑ったのは、この世界に来たきっかけを思い出してだろうか。

 宗太はそんな彼に、どれほどあるかは分からないものの、二者との間にある壁の一つがなくなったのを感じた。


(もう戦いの中で足引っ張んなよ?)

《もう戦いの中で凹むんじゃねぇぞ?》


 そして、宗太はみなの元へと戻る。

 今度こそ〝魔剣〟ビロゥガタイドを倒すために。

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