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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第一章 魔人が生まれた時、青年は道を進む〈上〉
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2.雪城宗太 男 19歳 O型 フリーター 童貞

「答えろ。お前はなんだ?」


 男の問いに、他の白装束達の雰囲気が変わる。

 みな、男の言葉を待っていたのだ。

 白装束達は自分の認識、把握は正しいのか。本当に起こってしまったのか。望んだものか。それとも別か。恐れるものか。敬うものか……

 自分の中で繰り返していた問いを不用意に口に出すことが、恐らくは許されなかったのであろう。

 というよりも、口を開くこと自体、禁じられていたのか。


(で、俺はどう口を開くべきか?)


 宗太は男の問いに対し、目を合わせたまま思案する。

 異世界に召喚されたという、俄かには受け入れ難い事実に直面している。

 それでもなお冷静さを失っていないのは、何者かの呼びかけを始めとした前兆があったからだろう。


 動揺していないわけではない。

 だが、状況把握の方が先決だと言い聞かせれば、多少は自らを誤魔化せる。

 この事態から集めた数少ない情報と状況。そこから繋ぎ合わせるべき言葉――〝魔人〟。

 記憶の淵から、最も重要な単語を拾い上げる。


「そうかもしれない」


 宗太を呼んだ声の主は、『〝魔人〟の力』と口にした。


「どういうことですか?」


 返してきたのは、衰弱していながらも意識がはっきりしてきた少女。「もう大丈夫です」と、腕の中から離れるが、立ち上がれずにその場に座り込む。


「まずその前に。この儀式か何か。これをやったのは君かい? 君が〝魔人〟を喚んだ?」

「……はい」

「だが俺はこの子に直接、喚ばれたんじゃない。この子が召喚するはずだった〝魔人〟を介して召喚された」


 男を見るが、口を開くどころか眉一つ動かさない。

 ただただ、こちらを品定めしている。

 宗太は自らの持つ拙い情報をなんとか組み合わせ、話を続ける。

 想定できる最悪な事態だけは避けるために。


「でも、俺は会ったわけじゃない。声に導かれたんだ。〝魔人〟の声に――まるで(・・・)己が(・・)心のように(・・・・・)


 嘘を最も有効的に使うためには、真実を混ぜることが必須となる。

 そして、分からないことは敢えて晒す。適切な分量を測りながら。


「質問を質問で返すのは悪いけど、あんたらは〝魔人〟の力の全てを知っているのか? いや、そもそも〝魔人〟の何を知っている? それに、この儀式の本当の成功の姿を知っているのか?――少なからず、あんたらが想定していることとは違う事象が今、確かに起こっているよな?」


 これはほとんど勘だ。

 目の前の男はともかく、周りの白装束達は想定していた結果と現実が食い違っていることに動揺している。

 最低限、この何者か達が求めている形の『〝魔人〟の力』とは違うはずだ。

 自分が今すべきなのは、いかに自分が有益な存在なのか。希少な存在なのかと少しでも抱かせること。

 その引っかかりさえあれば、命は繋げる。


「中途半端な儀式。失敗した儀式のせいで、〝魔人〟に関する俺の記憶を失ったかもしれない。あるいは〝魔人〟が俺に何かを求めたのかもしれない」


 視界の端に映る少女が俯くのが分かった。

 失敗と言われ、責任を感じているのだろう。ほんの少し胸の痛みを覚えるが、そんなことに構ってなどいられない。


「それでも〝魔人〟に関する儀式であったことには変わりない。だから俺もまた、少なからず〝魔人〟に関する『何か』であっても、おかしくはないだろ?」


 一通りの弁明は終わりだ。

 あとはこの男がどう動くか。それを待つのは宗太だけではない。

 沈黙が場を支配する。耳に入るのは自らの呼吸音。平静を装っているつもりだったが、心拍とともにいつも以上に速い。


「なるほどな」


 やっと発した男の一言。

 一〇秒にも満たなかったであろうが、酷く長いものに感じられた。

 しかし、安堵はまるでできない。男の瞳は先とまるで変わりがないから。


「確かに、我らには長けた虚偽(・・)を扱える者は重宝する。が、貴様のような『身を守る偽り』などなんの価値もない。我らに必要なのは『敵を滅す偽り』だ」


 ぞわり、と背筋に悪寒が走る。

 この男が何を考えているのか。まるで見えない。

 だというのに、男は何かしらの結論に至ってしまった。


「だから、証明しろ。お前が〝魔人〟であろうともなかろうとも関係ない――」

「お父様!?」


 男がまるで祈りを捧げるかのように両手を組むと、その前に突如として光の粒が次々現れた。大小合わせて、二〇以上はありそうだ。

 すると俄かに、周りの人間の空気が張り詰める。


「吐息は(いかずち)。鬣は刃。爪牙は灼熱の意を持ち、嘶きは禍をもたらす――」


 いまいち掴みづらい言葉の羅列――呪文か?――に呼応するかのように、現れていた光の粒達が次々と繋がっていく。

 まるで、星座のように……

 瞬時に連結が終わり、光の粒は一つの形となる。

 やはり星座のような形へと変化したが、何を表しているのかは分からない――元々、宗太は星座に関しては疎いため、彼の世界にはないものだとは知る由もなかった。


「――愚かなる雷の隷僕よ、星王へと降れ」


 星座の解答でも示すかの如く、腕や脚、顔などが露わとなっていく。

 そして、星座は一匹の獅子へと変身した。

 全身、雷を纏った怪物へ。


《オオオオオオオオオオオオォォォォォォ!》


 獅子は天を仰ぎ、雄叫びを上げる。と、その口から雷が迸り、周囲を見境なく襲う。

 一条の紫電は宗太を避け、後ろにいた白装束を貫いた。直感で悟る。今のは単なる偶然だと。


 俄かにざわつく室内。

 白装束達は各々、男と同じように手を組んで何かを口にする。助けを請うて、神に祈りを捧げているわけではないだろう。

 次から次へと光の粒が現れ、それぞれの前で繋がっていく。


 小さな困難の中で一人、男はそれらからは背を向けて最奥の玉座へと向かう。

 そこには左右一人ずつ、白装束が立っている。背の高い者と低い者がそれぞれ。

 そして、悠々と腰掛け、肘掛に頬杖を突いた。


「さて。どこまで偽れるか、見せてみろ」

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