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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第四章 宿敵と相対した時、魔物は運命と踊る
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プロローグ 戦火の残滓

 半ば強引に、それこそ家屋を破壊してまで、ノーグは村人達を戦闘領域から離れさせていく。

 声を潜めた口汚い言葉こそ浴びるものの、石などはもう投げられない。

 彼女は抵抗した者には、意識を失わない程度に痛めつけたのだから。犯人が分からない場合は連帯責任として無差別に、それこそ女子供、老人など構わず行った。

 それ故に、村人達は完全に抵抗の意志を失っている。

 と、連絡用の魔偽甲(マギカ)〔オレイアス〕が反応する。


《ソラノアです! 今、アイロギィ・スタンフクが現れました!》

「分かった。ソラノアは引き続きユキシロの補佐に当たってくれ。相手は〝魔剣〟だ。くれぐれも自衛が優先だということを忘れるな」

《分かりました》


 ソラノアとの通信が切れると、今度はノーグが他団員の〔オレイアス〕へと繋ぐ。


「総員聞こえるか!? 予定よりも早いが避難が済み次第、各自館に向かってユキシロの助けに入れ!」


 やはり予測通り、最奥の館にアイロギィは潜んでいた。

 当然の結果と言えばお仕舞だが、何故だが引っかかる。

 こちらの都合通り進むことなど、今が初めてではない。むしろ、そうなるために多くの準備をしているわけだから……

 小さく頭を振り、優先すべきことへと意識を向ける。


「フラッパン! ここは任せた! 私は館に向かう!」

「御意!」


 男性団員の一人、小太りのフラッパン・デテに命ずると、〔オレイアス〕をしまい、破壊された街灯の下をノーグは駆ける。

 村の中央よりもやや奥に入ると、ジンク・セダーが敵を殲滅し終え、道の隅で捕えた敵と亡骸をそれぞれ拘束していた。


「ジンク! 私は最短の東側から行く!」

「分かりました! 俺は処理が終わり次第、中央から合流します!」


 それだけを告げ、加勢を急ぐ。

 林道に入ると、頭の天辺から爪先まで黒い外套ですっぽり覆われた、リーリカネット・イオがこそこそと作業をこなしていた。

 彼女は戦闘技術が乏しいため、戦闘には直接参加してはいない。

 代わりに、彼女特製の魔偽甲(マギカ)の罠によって敵の足止めを担っている。

 その直接的な成果が、木々と一緒に括りつけられている者達だ。ざっと見ただけで、一〇近くはいるだろうか。


「トラップ♪ トラップ♪ 陰湿トラップ♪ そりゃ~トラップだから陰湿だ~♪」


 喉が張り裂けるんじゃないかというほど、大きな声で歌うことさえあるリーリカネットだが、今は声を潜めている。

 歌で敵を惹きつけて、罠に嵌める魂胆だろうか。相変わらず芸が細かい。

 事前に登録した人間以外に発動する罠の群れを抜ける。

 すると草の茂みの陰で、なんの性質を持つか分からない魔偽甲(マギカ)(なのかも定かではない)を、リーリカネットがつけていた。


「だっけど♪ うちのは正々堂々♪ 真正面から嵌めちゃいます♪ スポールマンシップ~推~奨~♪」

「引き続き頼んだ、リーリカネット」

「合点承知之助大左衛門(だいさえもん)時紀(ときのり)兼定(かねさだ)!」


 聞き慣れぬ名前を口にしたが、有名な罠師か誰かだろうか。相変わらず博識だ。

 作戦開始から三〇分くらい経過し、敵はほとんど排除されている。拘束されていない者の姿もあるが、疲弊し、戦おうという生気は失われていた。

 暗闇で明かりも乏しいが、地図は当然頭の中に叩き込んでいる。辿り着いた、この村の東側がどういった場所なのかも。


 そこは空気が一変し、どこか厳かで重々しいもの気に変わる。

 無神論者である自分でさえ、不躾に足を踏み入れることを躊躇う。

 その空気の象徴である九十九(つくも)鳥居。無数の鳥居が連なり、苔生す石畳と灯篭は実に幻想的だ。

 人間の地と神々が御座す領域を結ぶ聖道。そこに。いや、その奥にノーグの視線が行く。

 彼女は目を離さぬまま〔オレイアス〕を取り、テッジエッタへと繋ぐ。


「テッジエッタ。悪いが私は遅れる」

《……分かりました。あとは私が引き継ぎます。お気をつけ下さい》


 テッジエッタが理由を訊ねなかったのは、こちらを察してだ。彼女はいち早く情報を把握し、次の展開を組み立てるのが得意だ。

〔オレイアス〕をしまい、両刃剣の魔偽甲(マギカ)〔スキョフニング〕を鞘から抜く。


(この先に何かがいる……)


 所詮は勘でしかない。この刻一刻を争う状況で、無駄足を踏むリスクを背負う必要があるのか……


(いや、だからこそ、だ)


 経験から生み出されるものであるが故に、信用に足りる。

 この人と神を隔てる境界の先に、厄介なものが在ると。

 一歩、領域に入る。

 何かが変わるわけではないが、ノーグは自らの意志を変えた。

 目的のために神聖を侵すことも厭わない、純粋な戦士へと。

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