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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第三章 祭事が行われる時、狂宴は知れず開かれる
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5.肉を削ぎ、命を殺ぐ

(俺は〝魔剣〟ビロゥガタイドを見つけ、奪う)


 作戦が始まり、宗太は最奥の【テーブルスナッチ】が使っているとされる屋敷に向かう。

 後ろに続くソラノアは宗太の戦闘補佐。他の団員はアイロギィ・スタンフクを探すことが目的であるが、それよりも村人を誘導して『魔物』の戦いに巻き込まないようにするのが真の狙いだ。


『宣言する! アイロギィ・スタンフクを差し出せ! さもなくば、我々は【千星騎士団】に仇なす者と見做し掃滅を開始する! 我らは全人類に等しく星の加護を与えたい! 無益な殺生は本意ではない!』


 ノーグが小さな村の隅々に響き渡るように通達している。

 混乱する者と祭りの準備に状況をまだ呑み込めてない者の間を掻き分け、迅速に目的地へと駆ける。


(ジャック・リスフルーバは何を考えている?)


 出会って五日――いや、決意したのは雷星隷を倒した前後だろう――の若造に、貴重な『魔物』の力を好きに使わせている。奪われる危険があるというのに。

 この現状が決して、宗太を信頼しているからではないと断言できる。

 敵に〝魔人〟の力が奪われてもなお、ジャック・リスフルーバの計画に支障がないということだ。


(魔人の力を纏め切ったところで、掻っ攫うってわけか?)


 あの男の狙いは分からないが、少なからず今はその掌の上で踊るしかない。

 その手に刃を突き立てるのは、まだ先の話だ。


 宗太とソラノアは祭りの賑やかさから離れ、人が通らないどころか明かりすら疎らな場所へと移動していく。

 そこにある薄暗く、観光客も通ることを控えそうな不気味さのある林道を抜けた先に、【テーブルスナッチ】の拠点はある。

 そこにあったものは、村には似つかわしくないほど高い塀。屋敷を隔て、周りは厳重に警備がなされている。


「なんだお前達は? 迷ったのか?」 

「いや、用があるんだよ!」


 宗太が手を正面に突き出すと、周囲に無数の星が浮かぶ。

 魔偽術(マギス)は宗太の願い通りを再現し、世界を偽る。

 衝撃波となった魔偽術(マギス)は轟音を伴わせ、数人の護衛と壁を一緒くたに吹き飛ばした。

 屋敷は混乱と混沌に呑み込まれる。


 ある者は土煙に視界を奪われ、またある者は瓦礫や周囲の道具、取引品、人間などの下敷きとなる。

 それを横切り侵入する。敷地の地図は頭に叩き込んだ――身体が強化されたとはいえ、記憶力はさほど変わらなかったので苦労した――ので、見えなくても入り口くらいは分かる。歩幅で距離を測る術はノーグとの訓練で叩き込まれたのだから。


 土煙を抜けると、屋敷の全貌がはっきりとする。

 偏見かもしれないが、村という田舎臭さを抱かせる言葉とはかけ離れた、場違いな高級感を漂わせる。庭も広いことは知っていたが、実際に立つとその大きさを実感する、

『剣の神子』が住む場所だからか、それとも主の趣味か。または【連星会】との会談場所も兼ねているからか。


「そこか! 連なれよ星々――」


 真正面。巨大な窓を守るかのように佇む男が、祈りを捧げるように手を組んで魔偽術(マギス)を構成する。

 魔偽術(マギス)の基礎理論は、頭の中に叩き込んだ。

 男の前に現れる星。それらが繋がり、星座の形へ。

 術図式と呼ばれるそれは、星のように見える星印(せいいん)を配置(それを星印配置と言う)し、それらを呪文という魔力による補助構成を立体交鎖させる――つまりは繋げることで成立する。

 ただ、それをオルクエンデは『簡易』と評した。


「――《飛礫座(クロフ)》」


 男の術図式は礫へと変異し、宗太目がけて飛来する。


「吹っ飛べ!」


 宗太は最も使い慣れた、衝撃波を発生させる魔偽術(マギス)を使用する。

 この宗太の――正確に言えば、オルクエンデの、か――魔偽術(マギス)は星印のみを使って発動させる。

 星印というものには、それ一つに意味がある。そのことからソラノアは、それらを繋げて呪文の役割をさせているのではないかと推測した――対しオルクエンデは『世界を偽っているだけ』としか言わなかったが。


 その特異な術図式は衝撃波となって、男を迫る礫ごと弾き飛ばす。

 窓ガラスは割れ、侵入経路を確保する。

 それは結果として、多くの敵を招くことになるが構わない。

 後ろで防御し、敵を無力化しているソラノアのお蔭で進むことは容易い。

 はっきり言ってしまえば、火力こそ宗太が遥かに上だが、戦闘に関してはソラノアの方が数段上だのだから。


 宗太は近くにいた男の胸ぐらを掴んで力任せに引き込む。バランスを崩し男の横に足を払って宙に浮かす。あとは地に叩き捨てて気絶させた。

 武器を取ろうと背を向けた男には、倒れているテーブルを掴み、後頭部を狙って放り投げた。

 空手で襲って来る者には、その拳の正面から宗太の拳を叩き込む。黒い籠手型の魔偽甲(マギカ)が嵌められた拳を。

 簡単に砕かれたそれを、敵は痛みに思わず抱え込む。

 宗太は無視して、『剣の神子』アイロギィ・スタンフクを探す。


「連なれよ星々――」


 敵が魔偽術(マギス)を展開する。

 星座――術図式とは魔偽術(マギス)の設計図そのものだ。見れば、瞬時に意味を読み取れ、受術耐性さえその魔偽術(マギス)の威力を超えていれば、利用することさえもできる。

 以前、雷星隷キュムケが『消えろ』という宗太の魔偽術(マギス)を敢えて受け、姿を消して利用したことがいい例だ。


「――《火光弾座(アヂエサフ)》」


 が、宗太には全く持って読み取れない。

 術図式の基本は幼い頃から一種の方程式、ないしは九九(くく)のように当り前に習い、暗記するものなのだという。しかし、四日そこらでそれらをゼロから丸暗記するのは残念ながらできなかった。

 だから宗太は、強引に無力化することしかできない。

 迫る火の弾丸に対し、「散れ!」と魔偽術(マギス)をぶつけ、周囲に撒き散らす。

 部屋は燃え上がり、宗太とソラノアは延焼する前に別の部屋へと駆けた。


「アイロギィ・スタンフクを差し出せ! 言っておくが、俺は加減なんてできねぇからな!」


 それを示すかのように宗太は魔偽術(マギス)を構成し、真横を人も物も壁も関係なく衝撃波で破壊する。


(ぶっ壊しまくってるけど、あの中にアイロギィがいるってことはないだろうな)


 慌てふためいているが、頭を失ったという絶望は見えてこない。

 殺到する敵。現状だけでも一〇人以上はいるか。外と中から、さらに駆け寄ってくる。

 部屋が広いとはいえ、動きが制限されつつある。もはや敵が男か女か。子供か大人かなどの判断よりも先に、宗太は敵を捻じ伏せていく。


 周囲を一瞥し、通路と脅威を選別していく。

 その中ではっきりと、近距離でリボルバー式の拳銃を敵がこちらに向けるのを見えた。

 宗太はすぐに距離を詰め、発射される直前に手首を捻じり折る。

 銃口は一八〇度回転し、凶弾は男の喉を貫いた――宗太自身、直撃しても無傷だろうが本能がそれをさせた。

 噴水のように首から血を溢れさせ、絶命する。

 返り血を宗太は少し浴びてしまったが、拭える程度だったので行動に支障はきたさない。


「ソウタさん」

「俺は大丈夫だから」


 ソラノアは果たして、何を心配したのか。

 考える暇もなく、次の敵は現れる。

 サーベルのようなものを振り下ろすが、宗太は籠手の外側で刃を滑らせる。火花と金属同士の嘶きが止まぬ間に、敵の顔面を掴む。アイアンクローのように力を込めると、女は白目を剥き、意識を失った。


「しょうがねぇ! ソラノア! 《昇波円座(アオヒエャス)》を使うよ!」

「はい!」


 ソラノアが近づくと、宗太は半ば乱暴に彼女を抱き寄せる。あの夜のように。密着するように。

 彼女の軽装鎧に包まれていない部分の柔らかさ。香りを、思い出を楽しむ暇などまるでない。


「《昇波円座(アオヒエャス)》!」


 魔偽術(マギス)は見た目こそ簡易魔偽術(マギス)のように星座の形を成しているが、それら全ては星印によって強引に繋げられている。

 故にと、ソラノアは講義の際に言ったが、威力は常人とは比べ物にならないほど強大だということだ。


 中心に立つ宗太と抱えられるソラノア以外へ、下から突き上げられた衝撃波が襲う。

 円状に拡散したそれは、一瞬にして部屋の全てを天上に叩きつけ、重力によって落下する。

 静寂は一瞬だったが、確かに部屋に敵全てが無力化した。加え、巻き起こった風は、先程までいた部屋の火を煽り、炎をより大きくする。

 ソラノアを離し(ちょっと名残惜しい)、宗太は敵を叩き伏せながら次に部屋へと移動する。


「駄目だ! イサラを呼べ! ボスの『(つるぎ)』を使わないと敵わない!」

「そうだ! 呼ばねぇともっと犠牲者が出るぞ!」


 宗太が叫ぶと同時に、正面の壁に細かな星印を配置させた。

 次の瞬間に術図式通りの偽りが現実化し、魔偽術(マギス)によって壁がその奥にあるもの全てと一緒に吹き飛んだ。

 最悪の被害により、最少の犠牲を生む。

 それを理想とするのは仲間の目を意識した行動だが、それ以上に自らを律するため。非道に心が慣れないようにするためだった。


「いいか! 別にお前らのボスの土産に、てめぇらの首を持って行ってやってもいいんだぞ!? それともあれか? ビビッて真っ先に逃げちまったのか!?」


 だが、敵にそれを悟らせるわけにはいかない。

 宗太はいつになくガラの悪いことを口にしながら進む。

 その時だった。

 宗太が立つ場所の真横の壁が弾け、瓦礫とともにそれが現れたのは。


「ソウタさん!」


 ソラノアの叫び声を最後まで聞く頃にはもう、その大きく硬い銀の掌によって宗太の顔が掴まれていた。

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