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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第一章 魔人が生まれた時、青年は道を進む〈上〉
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1.数多の運命が変わる時

 何もない。

 恐らく闇ではない。

 見えないだけ。

 無だ。


《あははははははっ!》


 どこかから笑い声が聞こえる。

 泣いているのか。喜んでいるのか。

 狂っているのか。悲しんでいるのか。

 どれにも当てはまりそうであり、どれとも違うとも思える。


《ああああははははははっ!》


 それは俺を導いた男のものではない。

 それは苦しんでいた少女のものでもない。

 男か女か。人間かそれ以外か。やはり、区別がつかない。


《全ての星は繋がった! 星約はこれで帰結する!》


 そいつが何者かは分からない。

 だが、なんと呼ばれていたのか分かる。


《全ての偽りは露呈され、真実が是正される!――そんな末尾の世界に、我だけが欠席できる! 間に合ったのだ!》



 そう。『魔法使い』だ。


   ◇◆◇◆◇◆


 宗太が瞼を開くと、そこがさっきまでいた自宅ではないということは、すぐに理解できた。

 一〇〇均で買ったマットではなく、何やら文字やら紋様などが描かれた石畳へと変わっているのだから。

 どうやら寝そべっていたらしく、石畳の凹凸と冷たさを二の腕で感じ取る。

 自宅からここまでを繋ぐ記憶は、手を伸ばした瞬間に光に包まれたこと。

 そして、何かの光景を見たのち、目を開ければここにいた。


 感覚としては一瞬の出来事。

 起き上がりがてら背後に気配を感じ、肩越しに振り返る。

 そこには白装束を身に纏った小柄な何者かが蹲っている――さっきの少女だ。


「おい! 大丈夫か!?」


 思わず抱え上げると、勢いでフードが外れた。

 薄紫色をした長い髪の少女は気を失っているのか、腕に重みを与える。それに顔色が酷く蒼白い。

 ひとまず、唾液や血などで汚れた顔を拭う。

 顔を叩いてでも起こすべきかと逡巡していると、視線が集まっていることに気づく。

 見上げれば、すぐ近くに白装束を目深に被る者がいる。


「あんた何してんだよ!? 突っ立てるんじゃなくて、手当の準備とかあるだろ!?」


 一向に手を貸そうとしない白装束達に、宗太は声を上げる。

 しかし、視線を向けるだけで動こうとはまるでしない。

 一帯を見渡すと、バスケットコート一面分よりも少し広いくらいの薄暗い部屋に、白装束が二〇人近くいるだろうか。


 白装束達が浮かべる表情は様々あるが、みなが声を漏らさぬように堪えている。

 まるで、何かを待つかのように。

 そこでようやく、この場に漂う空気の一端を掴んだような気がした。

 こいつらは、目前の状況を呑み込めていない?――みなが何かに動揺、あるいは狼狽している。

 いや、何かではない。


(俺にだ)


 と、服の胸元の辺りを下から引っ張られる。

 視線を落とせば、少女が意識を取り戻したようだ。ただ、瞳の焦点は定まっておらず、小刻みに揺れている。


「……私は……大丈夫です……」 

「いや、大丈夫じゃないだろ?」


 呂律も怪しく、服を摘まむのがやっとといった様子だ。その間も誰一人助けに入らない。

 頼れないことを察し、宗太は出口を探す。


 足元には奇怪な模様がいくつも並び、それらは壁や天井にさえ伸びている。

 しかし、出入り口が見つからない。それどころか窓すらない。

 明かりは部屋中を這う文様が担っている。ただ、照明目的で光っているのではないだろう。

 それらを視線でなぞる途中、


「それが〝魔人〟か?」


 最奥の、他の白装束とは違う、一目見てこの中で偉いと分かる白のローブ姿の男が発する。

 声には、明らかな苛立ちと失望が乗っていた。

 その、たった一言。

 だがそれだけで、こちらの心臓を握られたのではないかと錯覚してしまうほどの威圧感と恐怖を与える。


 男が一歩、近寄る。

 見下げる黒い瞳には、確かにこちらが映っているのだろう。だが、人間を見る目ではない。

 道具か何か。使えるものかどうか。どう使えるのか。それとも捨てるか。そういった類のものだ。


 掘りの深い顔とそこに刻まれた数々の傷。宗太はこれまで見てきた人間の中で、最も恐ろしい顔だと感じたのは、そこだけではない。

 男が醸す雰囲気には、死が纏っているようで仕方ないからだ。

 そんな男が、口を開く。


「お前が物質化した『魔法』(イグドラシル・ロウ)――〝魔人〟オルクエンデか?」

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