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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第二章 魔人が生まれた時、青年は道を進む〈下〉
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エピローグ 正しくも、間違った道

 ソラノアの寝室から離れ、隣のリビングにて寝ることにした宗太。

 テッジエッタなどの知人が泊まりに来ることもあるらしく、布団で眠ることができた――閉めたあとで布団がないことに気づき、逡巡したのちにソラノアの部屋をノックしたのは酷くばつが悪かった。

 ただ、ソラノアの顔色が少し回復していたのを窺えて、宗太は胸を撫で下ろした。


(ほんと、色々とあったな……)


 異世界に召喚され、一日が経った。

 これで目を閉じ、朝を迎えたら元の世界に戻っている。そんな夢オチだったらどれだけいいか。


(なんでだろうな? 異世界に召喚されたなんて言う夢物語みたいなことなのに、起きてもこの世界に居続けることの方が現実的って思えるんだよな……)


 それは恐らく、明確な感覚があったからだろう。

 相手の言葉を判別し、戦い、決意をする。

 事態こそ日常とはかけ離れてはいたが、それでもどこか日常の延長線上にあることだ。


(人まで殺したっていうのに……)


 不思議と殺人に対する感情がいまいち湧かない。恐怖や後悔。興奮や高揚などがあまりない。

 ただただ、冷静に。冷徹に。事態を受け入れることができる。

 敵を倒した。望み描いた通りに。

 それを自覚できる。

 果たしてそれは、異世界の人間だからか。それとも、宗太自身の本性か。または、これから自責に押し潰されて、眠れぬ夜を過ごすのか……


(まぁ、ある意味で眠れぬ夜にはなりそうだけど……)


 宗太はちらりと、寝室へと繋がる扉に目をやる。


(最後の最後のインパクトのお蔭で、色んな記憶と感情が塗り潰されたのかもしれないな)


 ほんの一瞬だけ見えたソラノアの裸体が頭から離れない。

 壁一枚隔てた先で寝ている、ソラノアの身体が。


(忘れろ)


 頭を振り、今日起きた他のことを思い出そうとする。

 だが、少しでもソラノアの顔が浮かぶと、先程の夢のような瞬間が他の記憶を押し倒してやって来る。

 加えて、記憶の整理を遮るのは宗太の本能だけではない。


《抱いちまえばよかったのに。勿体ねぇな。それともあれか? 本番にビビっちまったか? それともいざって時に勃たくなりそうだったか?》

(そんなことをしたら、未練が出るだろ。俺はしたことねぇんだ。どんな感情を抱くか、想像もできない)


 後悔していないわけではない。

 あのまま、成り行きに身を任せればよかったと思っていないはずがない。

 時折、声を殺してはいるものの、ソラノアが啜り泣いていることが分かる。

 抱かずとも、胸を貸してやりたい衝動に駆られる。一晩だけ、一緒に寝たいという欲望はなくし切れない。


 しかし、それでは駄目なのだ。

 甘えや妥協などしてはいけない。自制しなければいけない。

 何故なら、


《まさか、お前の世界に戻るつもりか?》

(当り前だろ)


 そう。この世界から去るのだから。

 この世界の全てと別れるのだから。


(『魔物』の力を全て奪う)

《はははっ! お前、正気か!?》

(正気だから言ってんだろ?)


 この状況に於いて、自分の理想を完全に叶える方法はこれしか見つからない。

 他に救いがあるかもしれないと、楽観的に身を委ねるわけにはいかない。

 自分でやらなければいかないのだ。

 自らで果たさなければいけないのだ。


『魔法』(イグドラシル・ロウ)が伝承通り、世界の全てをどうにかできる力ってんなら、俺の世界に帰ることなんてそう難しくもないだろ? 現に、お前は精神だけだけど連れて来たんだから)


 これから先、自分を取り巻く大きな力に翻弄されるだろう。

 もしかすれば、自分だけの力ではどうしようもない事態になるかもしれない。

 仲間と言ってくれた者達を傷つけるかもしれない。

 ソラノアを失うことになるかもしれない。

 それに、どれほどの時間がかかるかなんて、想像だにできない。


 だが、それでも。

 宗太は、自らに言い聞かせるように決意を口にする。


『魔法』(イグドラシル・ロウ)を手にし、必ず元の世界に帰る」



 たとえ、そのためにこの世界の全てが犠牲になってでも。

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