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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十三章 魔の手が伸びる時、窮地をいかに利するか
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4.ミエナイチカラ ~INVISIBLE ONE~

 暗黒。

 それは宗太の視界が全くないだけでなく、呼吸のし辛さや身体中を圧迫されていることからも連想される。

 気絶はしておらず怪我もない。ただ、確実に次に出る自分の行動が後手であり、かつすぐさま動かねば事態は悪化する。


 前方に襲撃者はいる――宗太が無策に近い賭けをしようとしたその時だった。右足首を()()()()掬い上げられ、瓦礫に身体中をあちこちぶつながら強引に引っ張り出されたのは。


 それが救出ではなく攻撃、ないしは拘束であることは、空中で逆さ吊りにされた瞬間にこれまた強制的に理解させられた。

 宗太の身体は壁や天井、床などの四方八方に叩きつけられたのち、右半身を下げて身構える襲撃者が視界に止まる。そこがこの旅路の到着点。握り固められた巨大な拳へ、身体は真っ直ぐ向かう。

 振り落とされる宗太の身体と、それを打ち抜く襲撃者の拳。完璧なタイミングと到達点から生まれる打撃が宗太の背骨に走った。


 止まる呼吸。白む意識……


「――っ!?」


 肺が酸素を取り込んだ瞬間――単なる感覚だが――、宗太は覚醒する。それは二撃目受けるほんの直前の出来事。

 それでも宗太は身体を捻り、最悪の打点をなんとか外す。が、強力なのには変わりなく、身体が出鱈目に吹っ飛んだ。


 天井か壁か床か。もっと別なものなのか分からないが、顔面を強く打ちつけたところで止まった。

 強化された肉体でなければ骨が粉砕されていたどころか、胴が真っ二つに千切れていたかもしれない。


(さすがに三度目は勘弁だ!)


 まだ掴まれている感覚のある右足首。どういう理屈かは分からないが、次もまたサンドバッグ代わりにされることは明白だ。現に次の瞬間には、身体中が再び滅多打ちされる。

 二度目の背骨の攻撃を外した以上、どこを狙われるか分からないが、もはやそこは半ば運否天賦といったところか。


 上下左右の判断が朧げになったところに迫る、三撃目。軌道から察するに胸部――心臓を打ち抜く算段か。

 宗太はそれに合わせるように、拳を固めた。


「《暴餓獣座(エャスギエガ)》!」


 右腕に纏わる術図式。通常は攻撃や防御を重ねた結果を威力の相乗に使うのだが、こうも一撃が強ければ蓄積も一回で事足りる。

 宗太の拳と、その倍以上あるのではないかと思うほどの拳が衝突する。


 バチンッ、というぶつかり合う音が鼓膜に響く。想定よりも大きくはなかったが、想像以上の不快感と不安を残す異音であった。


 そこから生み出される次の光景。襲撃者の右手が血だらけではあるものの形を成していることに、宗太は愕然とした。仮面の下から唯一覗ける双眸にも、動揺は見受けられない。

 一方の宗太の右手は、もはや原形を留めていないほどぐちゃぐちゃ。『歪な何か』と化しているが焦ることはない。痛みでのた打ち回りたい気持ちはあるものの。


 右手に意識を持って行くと、時間が巻き戻されたかのように不気味に蠢いたのち元の形に戻る。

 月星隷シンナバグハクを星隷擬体した右腕は、訓練の末、宗太の意志で常時腕の形を成すことが可能となっていた。


(つくづく、どうなってるんだよ!?)


 術図式の一切が見えない超常現象。そして強化された肉体から繰り出される、増加した威力を耐え得る肉体。


魔偽術(マギス)ではないこの不可視の力。〝魔剣〟でないとするなら、もはや一択だ――》


 しばらくの間、沈黙していたオルクエンデが脳内で答えを導く。


()()()()()()力を持つ、〝魔手〟ヴィナフォディーエしかいない》

(手の内を隠す?)

《言葉の通りだ。その手に覆われたものの姿を不可視にする――当然、自身も含めてだ》

(――っ!? なら、ますます姿を見せた意味が分からねぇぞ!)


 不可視の力と言う絶対的アドバンテージを有していながら、それをふいにする敵。能力の制限でもあるのか、それとも別の意図か。

〝魔剣〟の時のように、見えているからこその落とし穴に警戒せねばいけないだろう。


(じゃあ、《暴餓獣座(エャスギエガ)》を防いだのは?)

《自身の拳を不可視の手で覆ってでもいたんだろうさ》


 的確に分析するオルクエンデに、ふと宗太はあることに気づく。


(というか、お前は能力全部把握してんのか?)


《いや、元が同じ存在――『魔法』(イグドラシル・ロウ)だからか分からないが、対峙した瞬間に理解するようだな》

(でも、結局『魔物』の正体看破できたの〝魔剣〟しかいねぇじゃねぇか)

《目の前のあいつは、〝魔炎〟以上に中身がごちゃ混ぜなんだよ》


 そこから宗太が浮かんだのは、この〝魔手〟もまた星隷擬体をしている可能性があるということ。

 必殺技ともいえる奥の手をまだ残しているからこそ、あえて姿を曝したのか……?


 同時。宗太は一瞬『ソラノアの正体は?』という疑問が浮かんだが、それを悟られぬよう忘れ去る。

 オルクエンデは思考のある一定の深層部分までは悟れないようであることは、これまでの付き合いからなんとなく察していた。


(で、相手のことが見えてきたはいいものの、対策が全く浮かばねぇな……)


 思考をしている間、〝魔手〟がただこちらの出方を伺っている。

 見た目ではそうでもなかった――黒色の仮面で表情などまるで伺えないが――が、案外ダメージは入っていたのかもしれない。

 宗太が半身構えた時、〝魔手〟が真っ直ぐ突っ込んで来た。

 その巨体から繰り出されるタックルの威力は末恐ろしいだろうが、この身体なら耐え切ることはできるだろう。


 問題は不可視の手だ。

 まずは熱衝撃破で牽制しようと宗太が腕を突き出す。すると〝魔手〟は一切の予備動作なく、まるで()()()()()()()かのように宗太の頭上を飛び越えた。

 背後を取られたという事実にすぐさま振り向くと、宗太の瞳に映ったのは〝魔手〟の遠のく背中。


「………………あ?」


 遁走というわけでもなさそうだが、周囲など目もくれず――疾走するその巨体に触れるだけで周囲の一切は吹っ飛ぶわけだが――〝魔手〟ただただ廊下をかける。

 宗太もすぐに追うが、どういうわけか、どんどん塔を降って行く。


 いよいよ、何がしたいのか分からない。

 本当に逃げるにしても、不可視の手で追撃を妨害するわけでもない。それができないほど追い詰められている様子もないのだ。

 自らが壊した(あと)を辿るように降る〝魔手〟。救助や修復をしていた者達は戻ってきたことに強張っていたが、追撃をするわけでもなかった――被害が全くないわけではないが。


 廊下から階段へ。その繰り返しを数回行ったところで、唐突に〝魔手〟は廊下を曲がり部屋へと入る。そこが窓ガラスが割れた場所だと気づいたのは、〝魔手〟がそこを飛び越えようとした瞬間だった。

 宗太も追うように飛び越える。待ち構えられる覚悟もしていたが、〝魔手〟は宗太など構わずに走り続けていた。


(くそっ! その先には――)


 直線上というわけではないが、行く先の正門方面にはソラノアとザイスグリッツがいる尋問室がある。


(俺から〝魔眼〟へ標的を変えたのか?)


 ザイスグリッツがこの状況を()()()て、事前に避難していることを祈る。


「待てよ、いい加減!」


 走りながら宗太は右腕を突き出すと、熱衝撃波の魔偽術(マギス)が放たれる。充分な広さがある屋外だ。威力を絞る必要はない。

 直撃をするものの、やはり不可視の手で防いだのか〝魔手〟の速度は変わらない。


 帝城塔の正面入り口辺りまで来たところで、その出入り口を囲っていた軍警察が見えた。

 彼らは中にいた職員や軽装の軍警察とは違い、完全武装している。突入をしていなかったのは、帝城塔内の状況が分からなかったからか。それとも……


(いや、そんなことどうでもいいだろ!)


 決定的な思考の間違いを取り戻すべく、宗太は叫んだ。


「全員この場から離れろ! 殺される!」


 宗太が必死に人を払おうとする後ろで、ふう、と〝魔手〟の溜め息が一つ。

 その一言にも満たないような声であったが、それでも少なからず男のものではない。それも()()()()()()()のものであることは分かった。

 だがそれよりもはっきりと理解できたのは、それが合図だということ。己への。徹底した攻撃に出ることのマインドセットであることを。


 しかし、視界には宗太の言葉に耳を貸さない軍警察。無理もないだろう。宗太の正体を知らぬ者達から見れば、こちらはただの青年。力なき、自分達が守るべき対象なのだから。


「君こそ早く逃げ――!」


 注意を促したその男の頭部が吹き飛んだ。額から上を失くしたそれは、周囲に血を撒き散らしながら力なく倒れた。

 これを()()()()()()と判断するか。他の者達の目を見、宗太はすぐさま叫んだ。


「いいから逃げろ! この俺の! 〝魔人〟の言うことが聞けないのか!?」


 初めからこうしておけばよかったと、〝魔手〟を前に悪手しか出していない自分に歯噛みする。


「護衛陣形! 侵入と逃亡を許すな!」


 宗太の呼びかけに対し、すぐさま行動に移す軍警察達。『魔物』との連携をすでに想定していたのか、一切の乱れなく陣形を取り直す。

 が、三〇人以上いる軍警察の人間が次々、身体中のあちこちから血を吹き出しながら倒れていく。


(くそ! どういう攻撃なんだよ!?)


 その損傷に規則性はなく、それこそ身体の一部を吹き飛ばされて欠損する者もいれば、穿たれたかのような穴がいくつもある者。穴だらけになった結果、千切れた者などもいる。

 仮に不可視の手の大きさが大小まちまちだとしても、こういう傷になるのだろうか?


 ただここに来て、〝魔手〟の周囲に煙のようなものが揺らいでいることに気づく。それに少々焦げ臭いような……


「斉射!」


 と、生き残った軍警察が装備していた銃を撃ち始めた。

 銃にあまり聡くない宗太はショットガンの類かと思ったが、一瞬にして放たれた無数の銃弾から、それが短機関銃(サブマシンガン)の類であったことを悟る。

 銃弾の嵐に見舞われる〝魔手〟だが、宗太の魔偽術(マギス)が効かなかったのだから致命傷を与える望みは薄い。


 とはいえ、銃弾を防ぐのに腕を使っているのは間違いない。

 この僅かな間に、成功確率が安定しない手だが、宗太も追撃を仕かける。


(オルクエンデ、頼む!)


 宗太は一度だけ見た術図式――星将ロヒアン・マーチアントが使っていた魔偽甲(マギカ)に施された、物理法則を無視して疑似的に鋭利化する魔偽術(マギス)を構成する。

 超高度な魔偽術(マギス)だが、構成するのはオルクエンデだ。宗太はその思い描かれたものを模写すればいい。とはいえ、再現が困難など複雑過ぎて、二度と見たくもないものだが。

 そしてそれが不可視の手に有効かは、やってみなければ分からない。


「連なれよ星々――《鋭鋼座(エサウオ)》!」


 飛び込み、銃弾を背中に受けながらも、星印が絡みついた手刀を〝魔手〟の顔目がけ突き立てる!

 伸ばした腕は真っ直ぐ〝魔手〟の顔面へ。何かが触れたという感覚がないのは不可視の手の特徴か、《鋭鋼座(エサウオ)》の効果か分からない。

 それに次の瞬間には、認知できない異能によって吹き飛ばされた。


(でも――!)


 触れることはできた。ただし仮面の表面だけではあるが。

 宗太が立ち上がると同時、〝魔手〟の仮面が半分に割れて地面に落ちる。

 剥がれた仮面の下。

 隠す素振りもない、剥き出しになった暗殺者の顔を宗太は見、俄かには受け入れられなかった。


 仮面の下の素顔。

 黒面が剥がれたというのに、未だ黒い顔。と、潰れた鼻。彫りの深い顔に、突き出た口。その顔中を追う黒い体毛……

 それは明らかに人間のものではなく――




「ゴリラじゃねぇか!」




 ――ゴリラだった。

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