家出少年、その三
やっぱり、なんか遭難とかしちゃった場合とか野宿しなきゃいけなくなっちゃった場合を考えて非常食の調達は大事だよ。
こんなところに非常食あるのかなーって思ったけど、あるところにはあるものなのか。
むしろお店に置いてあったのはほぼ乾物だった件について、やっぱり文明開化してないな。
冷蔵庫とか無いのか、冷蔵庫輸入した方が良いよ。
電気代とか無いから、たまーにちょっとの魔力をぶっ込めば良いだけだから。
幻想世界はエコだな、でもあれか……まだ冷蔵庫は高いか。
エネルギー源が魔石だもんな、魔石は高いもんな。
それに魔法工学はまだ発展しきってないもんな。
ケーブルとか繋いだり引いたりしたいところだけど、この世界は野生動物が非常にお強い、食いちぎられるな。
漁に出た後なら、鮮魚も並ぶって店の人は言ってた。
まあでも乾物が多くて助かった、大量購入したらお店の人が喜んでた。
一口味見してみたけど、煮干しみたいだな……これ。
これで出汁とか取れるんじゃね?
……なんか、ちょっと楽しくなってきたぞ。
ごちゃごちゃしてる店の中を見てると、なんか草が置いてあった。
薬草らしい、お酒と混ぜ合わせてすり潰して塗薬にするんだとか……打ち身に良く効くらしい。
なんかこれと似た薬草を知ってるけど、ちょっと違う感じがする。
薬草辞典とか持ち歩いてる僕はドルガー家次期当主の鏡だな、誰か褒めても良いんだよ。
というか荷物入れまくっても重くならない魔法バッグ最高です。
「あった、……カトゥカヴァニか」
効能も似てるし、カトゥカヴァニなんだろうな。
いや、でも僕の知ってるカトゥカヴァニとはちょっと形違くない?
本に書いてあるやつとも少し違うし、というかこれは臭いがキツイ。
触った感じも違うし……。
「これって食べられます?」
「食べられるけど、不味くて喰えたもんじゃねぇぞ?」
味見した結果、確かに不味い。
でもカトゥカヴァニとはちょっと味が違うんだな。
とにかく苦い、でも後を引く苦さじゃなくってその後にさわやかな風味が来て仄かな甘みがあるね。
そもそもカトゥカヴァニは毒性が強くて普通は食べられないからな……。
でも僕は食べたよ、味を知っておくのは重要とか訳分かんない事を養父と養母に言われて食べさせられたよ。
そのあとトイレに引き籠った過去を僕は絶対忘れないね。
クリーヴォフとアミスティルなんて死んでしまえ……。
これはカトゥカヴァニと同じ種類の草なのか、それともカトゥカヴァニが違う環境で育つとこうなるのか……調べる必要性があるな。
本を見た限りだと、カトゥカヴァニと同じ種はみんな強い毒性を持ってるみたいなんだけど。
これも保存魔法掛けてお持ち帰りだな、やっぱり外出は良い事だったんだな。
……あ、僕は魔法薬学は嫌いじゃないよ。勉強は嫌いだけど。
「なんだい、坊ちゃんは……あれか、医者の先生かい?」
「魔法薬学士ですけど」
「へぇー! よくわかんねぇけどすごい先生なんだなぁ、若いのにすごいねェ」
ごめんなさい、本当はまだ魔法薬学士じゃないです。
その内に絶対になりますけど。
この薬草には名前が無いらしい、じゃあ仮名でクアニ・カヴァニって名前でもつけとくか。
古言語なんてほぼ覚えてないけど、クアニが類似品って意味なのは知ってる。
店から出たけど、宿は高いからいいや。
男なら潔く野宿しようぜ、なんて馬鹿な事を考えながらティーヴァリを出るよ。
ヤバイなー口の中が超さわやかだわー、息キレイだよ。
近くの山にクアニ・カヴァニは自生してるらしいから、その山をちょっと調べてからエミュニア遺跡に行こう。
山を越えた先のジャングルっぽいとこにあるらしいからね。
エミュニア遺跡周辺は人が住んでた痕跡が見れて面白いって、あの白いのも言ってたし。
あと店主曰く山の中にケニケニって呼ばれてるジャガイモみたいな芋も自生してるらしいし、それも見てみたい。
美味しい芋らしい、でも山の中には魔物が居るからあんまり行かないそうだ。
ケニケニ……美味しいなら持ち帰って増やしたい。
勿論クアニ・カヴァニもね、毒性が無いならカトゥカヴァニを使うよりも安全に薬が作れる訳だしね。
魔物が居るのは心配だけど、僕も一応は魔法使いな訳だし。
そもそも魔法薬学士として興味ある薬草が在るのに調べに行かないなんて、ダメですよねー。
それに煮干し出汁でケニケニの煮物を作るんだ……、鍋と包丁はあるからな。
「……なんか超楽しくなってきた、豪遊しようとか言ってたけどこっちの方が有意義に過ごせるかも」
それに……薬草大人買いはけっこうお金掛かる。
どっかで豪遊するなんて不純な旅よりは、薬草や食についての追求をする旅の方がカッコいい。
だってなんか、博士っぽくね? 魔法薬学士っぽくね?
僕をちょっと見下してるっぽいイズマに自慢してやるんだからな。
もしケニケニの煮物が美味しかったら、イズマにも食べさせてやろう。
なんだかんだ言って、アイツにはお世話になってるからな……。
――家出少年山吹陸斗、その三




