家出少年、その六
真っ暗な洞窟内を進めば、子蜘蛛が大量に居て他の魔物は居なかった。
……あれ? ……これってヤバいんじゃない?
山の調査してる時に気付いたんだけど、この山には小型の魔物しか現在棲んでないっぽいんだよね。
大型の魔物の足跡とか、糞とかは最近のは無かったし……。
大型になればなるほど知能が高くなるし、もしかしてギルドが遺跡調査に来てるから何処かに逃げたのかもしれない。
でも遺跡の調査がどれほど長引くか分からないけど、大型の魔物が帰って来る前に子蜘蛛が大きくなったら生態系に影響が出るよね?
さらに奥に進めば、大きな体の土蜘蛛がひっくり返っていた。
これが現在の子蜘蛛達の栄養なのかもしれない、でもこれが無くなったら子蜘蛛達はここから出て外に餌を求めるよね?
土蜘蛛は小食だけど、こんなに居たら足りないよね。
雑食性だから、餌が足りなくなったらフルーツとか草花を食べる訳だし……。
大型の他の魔物が居ないから、天敵も居ないわけでしょ?
かわいそうだけど、ギルドの方に報告しなきゃな……。
流石にこの地を不毛の地にしたくない。
まだまだ色々と見た事もない薬草があるかもしれないのに、調べ尽くす前に食べ尽くされたら困る……。
それに、その餌が無くなったらティーヴァリとか近くの村を襲うと思うし……。
この蝙蝠に感謝なんてしたくないけど、コイツが居なかったら僕は此処まで入らなかっただろうし、子蜘蛛について分からなかったよね。
ちょっと……感謝してやるか。
だが絶対にお前とは契約しないし、使い魔にもしないからな。
魔法薬学士としては、薬草を大事にしないとね、良心が痛むけどそんな良心は捨てないといけないね。
僕が香水を吹きかけた土蜘蛛は母親だったのか。
子蜘蛛達は魔物避けのおかげか、近付いては来なかった。
暫く歩けばまた土が積んであった、でもそれも天上までは達していない。
この蝙蝠みたいな飛行する魔物をおびき寄せる為に、完全に封をしてないのかも。
洞窟を出ると草木の様子は違っており、ますます多湿になっていて暑い。
走ったらすぐに体力を消耗しそうだし、……仕方ないこの蝙蝠は無視の方向で。
熱帯といった雰囲気で、洞窟前は久しく人が通っていない様で獣道しかない。
獣道を通って行けば、森林の合間に煉瓦造りの家があったのか痕跡が微かに残っている。その残り具合から見て、意外と最近まで人の営みがあった様に感じられた。
これは確かに面白いかもしれない。
結構いい具合に残ってる家が見えて、近付こうと草木を掻き分ければ朽ちてほぼ形を成してない骨の様な物が散乱しているのが見えた。
もしかしたら魔物か、それか野盗に襲撃されてこの町は無くなってしまったのかもしれないな。
家に入れば、もう風化してしまったのか外郭しか残っていない。
だがこの家の人は信仰深かったのか、家の壁に大きなタペストリーが飾られているがそれだけが鮮やかな色を保ったまま時間が止まっている。
魔法が掛けられているのは一目瞭然だった。
美しく鮮やかな青い大きな体躯の蜂が太陽を思わせる様な朱色の翅を広げている。
ベッコウバチだな、これは正しくベッコウバチです。
その下にはベッコウバチに祈る人々と、大量の蜘蛛が居た。
……なるほど、昔からこの地は土蜘蛛が大量発生しやすく、ベッコウバチの様な魔物が棲んでたのかな? 大酒のみの神様が、実はベッコウバチの様な魔物……とか?
でも確かに土蜘蛛が異常繁殖したら、ヤバイよな……。
何でも食べるから人を襲って畑は荒らすし、家畜も襲うし、山の草木も食べるよな。
臆病な魔物だけど、食べるものに困ったらそうなるよな。
「テニュクァニスーミュフクセァフレンガァルアドルニィ、ビィアークーシュノエミュニアスビア」
「……突然何言ってんの? というかついてくんな」
「酷いなー、別について行っても良いでしょー! 大きな蜂は太陽に嫌われて封じられてしまった、だから私達は甘いお酒の館で祈ります……ですよ?」
「書いてあるじゃん」って言われてもね、僕は幻想文字以上に古言語はわかんねーんだよ。
たしかに下の方になんか模様みたいなのがあるけど、一見して文字だって分かるのは魔人か半人か魔法に通じてるか天才だけだっつーの。
くそっ、なんかごめんとか謝るんじゃねぇし。
僕が惨めみたいじゃん。
「それでね、ニスーミュフクセァエミュニアアムディチノ、エミュニーアニスーミュデヴィフって下に書いてあるから、この蜂は甘いお酒が好き、甘いお酒は蜂蜜で作りますって意味になるよ」
「へぇ」
「テフクァニアガァルア、ビィアレイニィエミュニアスビア、土蜘蛛はお酒が嫌い、だから私達を守ってくれるのは甘いお酒の館しかありません……かな」
「ふーん」
「……ちゃんと聞いてた?」
「聞いてた聞いてた、アミスティル奥様の香水はアルコール分が高いってことでしょ?」
「何それ、どういう意味なの」
あんなに苦しんでたんだから、アルコール分が高いに違いない。
つまりエミュニア遺跡で祭ってた神様はベッコウバチで、ベッコウバチは蜂蜜酒が好きなんだな。そんでベッコウバチが土蜘蛛を減らしてくれるから、信仰してた訳だな。
でも太陽……、きっとこの場合はあれだな。
太陽は精霊のフレアマリー・バーミリオンの事だな、太陽の精霊の不興を買って封印された訳だな。
なんて傍迷惑な話だ、何が不満だったか知らないけど封印すんな。
というかマジで封印されてんの? 封印跡地……見てみたいかも。
これはマジでエミュニア遺跡に行くしかねーな。
僕の好奇心を煽るよ、やっぱり家の中で勉強するだけじゃ分かんないこともあるよね!
というか今までが勉強詰めだったから悪いんだよ、休息も入れるべき。
僕にだって夏休みが必要だよ。
大学行けるぐらいにまで仕上げて、早く跡を継いでもらいたいらしいけどそんなの無理なんだよ!
というか、初めて僕は幻想世界に居る実感を覚えたかも。
すぐにドルガー家に養子に行っちゃった所為で外の世界を僕は知らなかったし、魔法が使えるって言っても現実世界でも似た様な事は出来てたし。
やっぱり、冒険は浪漫だよ。男には浪漫が必要なんだよ、よく分かんないけど。
「リーディア、今すっごく良い顔してた……いや、してましたよ!」
「あ……? というか僕お前に名前名乗ってないんだけど、あともう要らないから、どっか行け」
「ひどーい、ちょーひどーい。旅は道連れって言うじゃないですかぁー!」
その喋り方はお前が考えた下僕口調か、うざい。
自然に喋れよ……うぜぇ、というかどっか行け。
僕は今、えーっと……ロンリーウルフなの!
ロンリーウルフだから、使い魔も下僕も何もいらないんだよ。
孤独を愛する男なんだよ……、あ……なんか僕、今すっごい痛い感じ。
内心での独り言だから許されるけど、実際に言ったら超痛いね。
とにかく、僕は一人で良いの!
――家出少年山吹陸斗、その六




