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Still,  作者: ラヴィ太
幕間
20/20

使者とは

「シータ。ねぇってば、聞いてるの?」

「ん。何だっけ?」

「だーかーらー。何であの子を助けたのか、って聞いてるのよ」

「別に助けたわけじゃないさ」

「じゃあどうして」




 剥き出しのコンクリート地面が広がり、見渡す限りの空、空、空。

 周りには赤、黄色、緑、紫、色とりどりのカラフルな球体が積もって山を成している。ビルの3階位はあるだろうか。触れればぶよぶよとした反発が返ってきて、三歳児には丁度良い玩具になりそうだ。

 まるで童話の中のような世界。生気の無い色彩に支配されている、人によっては地獄とも天国とも揶揄する、不思議な空間。

 野外の置かれたこげ茶色の長テーブルに、男性と女性が向かい合って腰を下ろしている。カラフル球体に囲まれて、視界が眩しくなりそうだ。

 シータと呼ばれた青年は無表情を崩さずに、面倒くさそうに答えた。




「前にも言っただろう? 魂を狩るだけが僕の仕事じゃないんだって」

「そんなの知ってるわ。同業者だもの」




 シータはまぁそうだろうな、と頷きながら続きを話す。




「死んだと思った人間二人に近づいてみたら、男の方の魂だけ彷徨っているのに気づいた。もちろん身体はもう助かりようも無い位に致命傷だったけど」

「それは初耳ね」

 突然の告白に口調だけは驚きを内包しながらも上品に返す女性、オルタもまた、無表情を保ったままであった。



「女の子の方はもう手遅れだったの?」

「それがさ……なんて言うか、正直よく分からないんだ」

「どういう事?」

 ここで初めて彼女の表情が変わった。不思議そうに彼を見つめる。その瞳はシータの内面を探っているように見えて、どこか居心地の悪さを感じた。



「身体はほぼ無傷だった。でもよく見てみると生体反応が全く無かったんだ」

 思い出すように空へ視線を投げると、乳白色の空が見つめ返してきた。いびつな雲の形は、つい数日前の事故現場での記憶を刺激し、曖昧にぶら下がっていたそれを揺り起こす。

 砂埃の舞う道路に制服姿の少女が横たわっている。気を失っている、というよりも心自体にぽっかりと穴が空いて、身体は起動することを諦めている印象だった。置物のようにただそこに置いてあるだけ。

「まるで……魂だけ最初から無かったみたいに」

「それって、つまり」

 オルタは少し考える仕草をした。

 彼女の中で結論が出るより先にシータが答える。

「そう。事故の衝撃で魂だけが抜け落ちたんだろうね」



 彼女も予想していたことだったのか、そっか、と寂しそうに顔をわずかに伏せた。その拍子に赤いショートボブが揺れる。





 彼らは魂を狩る”使者”

 物言わぬ屍が発生した場合に、天界から現れて身体に残された魂を抜き取っていく。

 その時初めて、その肉体は心身共に『死』を迎える。




 抜き取られた魂はどうなるか。


 使者によって天界へ運ばれていくのだ。

 運ばれた魂は、また別の肉体へ新たな命を吹き込んでいく。


 そうして命は廻り廻っていく。

 永遠に続く輪廻。


 もし、何かの不備で輪廻が上手くいかない場合、魂の絶対数が減少することになる。

 そうならないために正しく管理するのが彼らの役目でもある。



「でも、そしたら……あの娘の魂は今も何処かで彷徨っているってことじゃない?」

 オルタの意見に、彼は頷いた。

「その通り。ただ……辺りには見つからなかった」

「早く保護しなさいよ」

 少し責める色合いが彼女の口調に含まれているような気がした。

 彼女は真面目できっちりとした性格だ。だからこそ不手際とも取れるこの事態を、早く収束させたいと思っているのかも知れない。

「分かってるって。けど、見つからないんじゃ保護しようが無い」

「まぁ、このダダっ広い下界じゃあね。でも早くしないと……」

「うん」





 言葉はそこで区切られ、





「肉体と固着していない魂は――」





 彼はいくつかの言葉を吐いた。

 口が発声にそって蠢く。

 けれど、語尾が異様に小さく、彼女は聴き取れなかったかもしれない。

 まるで言霊を意図的に避けようとしてるかのようだった。 


 それでもオルタは訊き返しはしない。

 聴こえなくても分かったのだろう。

 使者にとっては当たり前でありふれている、至極当然の決まりごと。文脈だけで十分なのだ。

花粉症で鼻がずびーずばー


ども。作者です。

ここまでお読みいただきありがとうございます(ぺこり

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当作者の短編です。「Still,」との関連性はありません。
お時間ある時にでも、覗いてやってくださいまし。
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