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Still,  作者: ラヴィ太
序章
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プロローグ

 透けるような青空の下、男は歩行者用通路を歩いていた。足取りは淡々としてるが、どこか夢遊病者のような頼りなさ。彼が横を向けばそこは国道。行き交う車体が見える。

 西本明(にしもとあきら)は深い深い溜息をついた。このまま自分は社会復帰出来るんだろうか、と諦めにも似たその空気は、誰に届くこともなく霧散していく。



 明は現在、IT企業の正社員である。毎日の終電近くまでの残業と、ひと時の休息すら与えてくれない休日出勤。果ては上司からの理不尽なまでのパワハラ。IT業界には仕事内容にもよるが、忙しさに波がある。

「いつか終わる」そう思いながら日々を過ごしてきた。それが3ヶ月続いた。



 何故、今日のような平日に意味も無く歩き回っているのか。結局耐え切れなかったのだ。荒れ狂う忙殺とクライアントからの重圧。日増しに病んでいく自身の心。心療内科へ通う自分。明はほんの2ヶ月前を思い返してみる。



 ある平日の朝。明は布団から出ることが出来なかった。正確には身体を満足に動かす事ができなかった。気だるい身体と醒めない脳は、きっと疲れからくる風邪かなにかだろう、という結論に至った。

 2時間ほど経ってようやく身体が動くようになってきた。会社へは体調不良で遅刻する旨の連絡を入れて、朝食も食べずに家を出発した。

 その日は多少の辛さはあったものの、問題なく業務を終わらせることが出来た。

 翌朝も昨日と同様、身体が動かずに布団から出られなかった。二日連続で遅刻するとなると、上司に何を言われるか分かったものではない。そんな考えが過ぎり、余計に出勤しなくてはと思った。しかしその使命感とは逆に吐き気まで催してきた。耐え切れずに嘔吐してしまい、フローリングの床を汚してしまった。



 後日病院へ行って判明したのは、身体には異常が無いことだった。となれば残る可能性は、簡易な検査では解明しにくい難解な病気か、あるいは心の問題かどちらかであった。それを聞いて明は「あぁ、きっと後者だな」と他人事のように思った。心当たりが多すぎたのだ。そうして心療内科への通院が始まった。



 国道を眺めながら明は思った。自分はこの世界に居てもいいのか、と。毎日忙殺されるだけの毎日で、日々の楽しみもない。

「それならいっそ……」呟いた声はまるで自分が発した声じゃない気がした。最後までは言いたくない。一瞬巡った思考を、軽く頭を振って打ち消した。自分にそんな勇気は無いはずだ。




 そう考えた瞬間――




「危ない・・・・・・っ!!」




 誰かの声が響いた。

 彼は考え事をしながら歩いていたために、道を大きく外していた。

 気づいた時には道路の真中に居た。

 明の目前には急ブレーキを掛けながらも猛然と迫るトラック。

 彼は動かなかった。目を瞑る。それは傍目には襲い来るトラックに驚いて動けなくなっているようにも見えた。



 明はふいに腕を掴まれる感触に気づいた。はっとして目を開けると制服に身を包んだ少女が、彼を歩行者用通路へ引きずろうとしていたのだ。

 自分なんか助けなくて良いから、この娘を危険から遠ざけなければ、と思った。

 次の瞬間に明はふわりとした浮遊感を感じた。彼の網膜には、見知らぬ男を真剣な表情で助けようとする少女の顔が、焼き付いた。

 そうして明は意識を手放した。

初めまして!

初の連載ですが、マイペースにやっていきます。

よろしくお願いします。

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当作者の短編です。「Still,」との関連性はありません。
お時間ある時にでも、覗いてやってくださいまし。
わたしとケイと彼とサクラ

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