第47話 こたつとみかん
鍋をした日から数日後。
朝から冷たい風が吹いていて、昼を過ぎても部屋の中はなかなか暖まらなかった。
拓也はリビングの床に座りながら、ふと思い出したように押し入れの方を見る。
「そろそろ出すか」
「なにを?」
「こたつ」
「こたつ?」
ノエルが顔を上げる。
「見た方が早いよ」
拓也は押し入れからこたつ布団を引っ張り出し、ローテーブルの上を片づけ始めた。
テーブルを少し持ち上げて布団を挟み、天板を戻す。いつものローテーブルが厚い布団に囲まれると、ノエルが近くまで来た。
「これがこたつ?」
「そう。中あったかくなるんだよ」
拓也が電源を入れて、そのまま足を中へ入れる。
「あー……やっぱいいな」
すぐには何も変わらないが、しばらくすると布団の中へ少しずつ暖かさが広がってきた。
ノエルは拓也の隣まで来て、布団の隙間から中を覗き込む。
「入ってみれば?」
少し迷ったあと、ノエルは頭から布団の中へ入り、そのまま身体ごと潜っていった。
「気持ちいい?」
「うん」
少しして、反対側の布団が動き、ノエルが顔だけ外へ出した。
「暖かいだろ」
「うん! これいいね!」
「寒くなくてもこういうのは好きなんだな」
「だってあったかいもん」
「まあ、そうだよな」
ノエルはそのまま身体をこたつの中へ残し、すっかり落ち着いた様子で伏せている。
拓也も足を伸ばし、テレビをつけた。
しばらく二人で何となく画面を見ていたところで、拓也はテーブルの端に置いてあった袋を引き寄せる。
「そういや、これもあった」
「なに?」
「みかん」
袋から一つ取り出して皮をむく。
柑橘の匂いが広がると、ノエルがすぐそちらへ顔を向けた。
「食べる?」
「うん」
拓也は一房取ってノエルへ渡した。
ノエルは口に入れ、少し噛んでから目を細める。
「甘い!」
「当たりだったな」
「もう一個!」
「早いな」
もう一房渡す。
ノエルはそれもすぐに食べ終わり、そのまま拓也の手元を見る。
「まだ食べる?」
「うん」
「俺まだ全然食えてないんだけど」
「じゃあゆっくりでいいよ」
「剥くの俺だからな?」
ノエルは空になった皮を見てから、また拓也へ顔を向けた。
「お願い」
「はいはい」
拓也は笑いながら二個目を手に取った。
皮をむいてはノエルへ渡し、自分も一房食べる。それを繰り返しているうちに、みかんの皮だけが少しずつ増えていく。
「ノエル、食うの早いって」
「おいしいから!」
「俺が追いつかない」
ノエルは何も言わず、こたつに入ったまま拓也の手元をじっと見ている。
「そんな見られたら急かされてる気になるんだけど」
拓也は笑いながらもう一房むいて、ノエルへ渡した。
テレビでは昼の番組が流れていたが、二人とも半分くらいしか見ていなかった。
しばらくすると、拓也がふと思い出して立ち上がる。
「もう一個、こたつで食うとうまいやつあるぞ」
冷凍庫からアイスを二つ取り出して戻ってくると、ノエルが不思議そうに見る。
「こたつでアイス食べるの?」
「そう。これがいいんだよ」
拓也は自分の分を開けながらこたつへ戻った。ノエルの分も開けて、ノエルへ渡す。
「こたつ入って食うアイスはうまいぞ」
ノエルはアイスを一口食べる。
冷たさに少しだけ目を細めたあと、すぐにもう一口食べた。
「おいしい!」
「だろ?」
「でも冷たい」
「そりゃアイスだからな」
「でもここあったかい」
「だからいいんだって」
ノエルはもう一度こたつの中へ身体を深く入れ、そのままアイスを食べ続けた。
拓也も隣で食べながら、テレビへ目を戻す。
みかんの甘い匂いが残る部屋で、暖かいこたつに入りながら冷たいアイスを食べる。
「なんか冬って感じするな」
「冬?」
「こたつ入って、みかん食べて、アイス食って」
ノエルは少し考えるようにしてから、満足そうに身体を丸めた。
「僕、冬好きかも」
「こたつが好きなだけじゃない?」
「こたつも好き」
「否定しないんだな」
アイスを食べ終わっても、ノエルはこたつから出る気配がなかった。
拓也も同じだった。
テレビの番組が一つ終わり、次の番組が始まっても、二人ともそのまま動かない。
「……そろそろなんかする?」
「僕ここにいる」
「だよな」
拓也はそう言ったあと、自分も立ち上がることなく背中をソファへ預けた。
「俺ももうちょっとここでいいや」
ノエルはこたつの中から尻尾を一度だけ動かした。
外では冷たい風が吹いていたが、二人はしばらくこたつから出なかった。
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