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リナリアの幻想~動物の心はわかるけど、君の心はわからない~  作者: スズキアカネ
乱れる乙女心

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私たちの進路選択


「君達はまだ4年生だけど、もうそろそろ進路選択について考えなくてはならない」


 と、先生に言われたとき、私は卒業を意識してしまった。

 少なくともあと2年は学校に在籍しなきゃいけないけど、まばたきしている間にあっという間に卒業の日を迎えてしまいそうな気がする。


 先生に提出するようにと言われ、書いた進路希望。

 私はまだ漠然とした夢しかなくて、動物に関わる仕事、としか書けなかった。


「リナリア、なんて書いたー?」


 席に着いたまま、進路希望表を見下ろしていた私の元にやってきたイルゼはじゃーんと自分の進路希望表を見せびらかしてきた。


「私はね、卒業したらすぐに一人暮らしをするつもりよ。いつまでもおじいちゃんのところでお世話にはなれないし。一人でも生きていけるように安定した職に就かなきゃ。そうなれば魔法魔術省に就職かなぁって思ってる」


 魔術師の人気の就職先はやはりお役所だ。他にも特殊な機関もあるにはあるけど、目立つところで言えば魔法庁か魔法魔術省の二択になる。

 ただ、国王直属となる魔法庁は魔術師の中から一握りの超優秀な人たちが入る場所なので、一般平民魔術師は地域密着型の各領に散らばる省へ入省することが多いそうだ。


 人によっては得意の技能を活用して自営業をする魔術師もいるけど、その場合は完全に自分一人の力でやって行かなきゃならない。よって実家が太いとか能力に自信がない限りは、安定保障の役所に勤める人が多い。


「…私は動物に関わる仕事がしたい。自分の能力を生かしたいの。術を使わずに動物の声がわかる自分にしか出来ないことがきっとあると思うから」


 この学校に入る前からずっと抱いてきた夢。

 自分のこの能力を活かせる仕事をしたい。


 私の場合は動物に関わる仕事が希望なので、この国に限定せずとも、求められれば隣国のエスメラルダやグラナーダの関係機関へ就職する可能性もある。これからおいおい探していこうかなとは思っている段階なので、具体的な就職希望先はまだ決まっていない。


「リナリアらしいわ。あなたにピッタリのすてきな夢ね。それでニーナは?」

「私はイルゼと同じく魔法魔術省へ就職したいと考えているわ」

「あら、ニーナのことだから孤児院の運営に関わりたがると思っていた」


 イルゼの意外そうな反応に私も同意した。

 大巫女様を敬愛して、孤児院に深く感謝しているニーナのことだから卒業したらそういう仕事をして恩返しするのかなって思っていたのに。

 するとニーナは普段はあまり変わらない表情に、何かを企むような笑みを浮かべた。


「それは私に課せられた使命ではないもの。私がすべきなのは魔術師として働くこと。まぁ、納税ね。言ってしまえば、孤児院の職員よりも、魔法魔術省の下っ端の方が収入がいいのよ」

「なるほど」


 ニーナらしい回答に私もイルゼも納得せざるを得なかった。

 収入は大事だよね、うん。

 確かに孤児院の職員は適性云々は置いておいて、魔力がない人でも出来る仕事なので、魔術師であるニーナがやる必要はない。ニーナは魔術師として稼いで、一般よりも高い税金を納めることで社会貢献をしようと考えているのだろう。そうすれば自分と同じ境遇の子供達を救えるし、恩返しにもなるから。


 すごい。イルゼもニーナもしっかり未来を見据えている。

 私なんかまだまだ漠然とした未来しか思い描いていないのに……


「クライネルト君はどうなの?」


 進路希望表を見下ろしてため息を吐きかけていると、イルゼが別の方向に顔を向けてルーカスに問い掛けていた。


「僕は大学校に進むよ。いろいろ学びたいことはあるけど……将来的には教職に興味があるんだ。魔法魔術学校の教師か、大学校の教員か、どちらかは決め兼ねているけどね」


 彼の返答に私はガバリと顔をあげた。

 そうだったんだ。大学校進学までは聞いていたけどそのさらに先のことまでは聞いていなかった。


「あー、ぽいぽい!」

「クライネルト君には天職かもね」


 私の尻拭いもとい、お世話役として長年指導してきたルーカスはクラスメイトの手助けもしてあげることが多い。そんな彼なら学生達を未来へ導く教師という職業がピッタリだろうというのは私にもわかる。

 だけど、私はちょっと気になった。


「でもルーカス、お家はいいの? あなたは跡継ぎなんでしょう?」


 教師はそこそこ時間を拘束される。大丈夫なの?

 ルーカスのことだから涼しい顔で仕事をこなしそうだけど、それでもなんだか心配になってしまった。


「我が家には貴族みたいに義務があるわけじゃないから、そんなに気負うことはないよ。僕の父も叔父も希望する職に就いているし」


 そ、そうなんだ……それなら……


「そういえばルーカスのご両親の話ってあまり聞かないわ。何をされているの?」

「僕の父は研究機関で研究員をしているよ。気ままなヒラ研究員さ。母はそんな父について世界を旅して回っている」


 意外だ。

 ルーカスのお父さんといえば旧家クライネルト家の本家当主だから、家の中で小難しそうな書類仕事をしてそうな印象だったのに、結構活動的なんだ。

 ルーカスがどっちかといえば本の虫で引きこもって読書している印象しかなかったので、想像と全然違った。


「僕の両親は世界中を旅するのが好きなんだ。僕が魔法魔術学校に入学してからは旅行三昧でね、各地で見つけた珍しい動植物の研究をして、学会で発表しているんだよ」

「へぇ……そうなんだ」


 ルーカスはお父さんのことをヒラ研究員とか言うけど、それも面倒な肩書が邪魔だからって昇進を断ってそうな気がする。貴族の義務が面倒だって断っているクライネルト家の人だもの。ヒラのままが楽とか思ってそう。元々資産家だというからお金には困っていないだろうし……うん、絶対にそうだ。


「両親ともどもリナリアの通心術士の能力に並々ならぬ興味を抱いているみたいだよ。機会があれば紹介するよ」

「え、あ……う、うん」


 急にそんなこと言われても戸惑ってしまうじゃないか。

 そういえば以前ブレンさんが話していたな、クライネルト家で私が話題になっているって……

 これまでの自分の歴史を思い出すと、あんまりいいことを話してもらえていない気がして不安になってきた。


「リナリアが初めて基礎魔法を使ったときに希少薬草を大量に生やしたと話したら、ものすごく羨ましがっていたよ」


 やっぱり。そんなことまで話してるんだ……


「私のこと、ご両親に変な風に話していないでしょうね」


 私の知らないところで変わり者だと印象づいているのとか嫌なんだけど。


「面白そうな子だって言っていたよ」


 ジト目でルーカスを見上げると、ルーカスは不思議そうな顔をしていた。私は複雑な気分に陥って黙り込んだのである。



「みんな、進路希望表を回収するから持ってきて」


 面白いって褒め言葉なのだろうか……ともやもやしていると、進路希望表を回収すると今日の当番が声をかけてきたので、私は席を立って進路希望表を持っていこうとした。


「ついでに持っていってあげるよ」


 ルーカスが私やイルゼ、ニーナの進路希望表をまとめて持って行ってくれると言うので私たちはお言葉に甘えてお願いすることにした。


 ──ビュォッ


 ルーカスに自分の進路希望表を手渡そうとしたその時、換気のために開け放っていた窓から一陣の風が吹いた。

 一枚の小さな紙切れは手から離れ、風に乗って窓の外へと飛んでいこうとしていた。


「あっ!」


 とっさに私は紙を追いかけた。

 窓枠に手をかけて、限界まで腕を伸ばす。届かない。もっと腕を伸ばさなきゃ。


「リナリア!」


 窓枠に乗り上がり過ぎたのだろう。

 体勢を崩した私の身体はぐらりと傾いて、6階建ての校舎である4階部分から転落した。

 前のめりに落ちていく中、背後でルーカスの悲鳴のような叫びが聞こえた気がした。


 このまま落下したら、運が悪くて死ぬだろう。

 だけど慌てること勿れ。私は魔術師の卵なんだ。

 落ち着いて身体を浮かせるんだ。鳥になった気分で飛行術を操って空を飛ぶんだ。


「我に従う、風の元素達よ…」


 風を感じながら、飛行術を唱えようとした私の身体に変化が起きたのはその直後だった。


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