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リナリアの幻想~動物の心はわかるけど、君の心はわからない~  作者: スズキアカネ
この恋に気づいて

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格好の獲物らしい私


 ルーカスからネックレスを贈られた私はまだ戸惑いの最中にいた。

 デコルテで輝く青い宝石は明かりに照らされてキラキラと輝く。その宝石はまるで彼の瞳の色のようで、変に意識してしまう。


「ダンスは踊れる?」

「わ、私、貴族様にまぎれて踊る自信がないわ」


 何だかいつもの調子がでない。いつもならなにも考えずにぽんぽん言葉が出てくるのに、今は彼の瞳を見るだけで胸が苦しくなる。そのせいで声が上擦ったけど、ルーカスは気にしていないみたいだった。


「隅っこの方なら大丈夫さ。行こう」

「ちょっ…!」


 彼は私の手を取ると、ぐいぐいとダンスフロアにリードして行った。私はいろんな意味で焦って、貴族の人たちに文句を言われるんじゃないかと思っていたけど、実際に踊りはじめたらそんな不安はどこかへ飛んでいってしまった。


 身体を支えられ、音楽に合わせてステップを踏む。相手の足を踏むとかステップの手順を気にする必要もなかった。ルーカスは踊るのがとても上手で、もたつく事なく自然に踊れた。会話がなくても気まずくなんてない。

 先ほどまでの緊張は何処へ。私達は笑い合いながらダンスを踊った。


 まわりに大勢の人がいるのに、この場にはルーカスしかいないみたいだった。ルーカスは私のことをお姫様のように扱うもんだから、本当に自分がお姫様になった気分だった。

 気分が高揚して、見えるものすべてがキラキラ輝いて見えた。きっとそれはルーカスがいるからだ。


 曲が終わるとルーカスはダンスを止め、私の手を取ってどこかへ誘導しはじめた。ダンスはこれでおしまいだろうか。なんだか寂しい。もっと踊りたいと物足りない気持ちになるのは私だけだろうか。

 私たちはどのくらい踊ったのだろう。ダンスフロアから離れた途端どっと疲れが押し寄せてきた。


 気のせいだろうか──なんだか、視線を感じる。


 やっぱり平民がダンスフロアで踊っちゃいけなかったんじゃ……とちらりと周りをみると、私はぎょっとした。

 私達を見てくる人は貴族平民関係なかった。めちゃくちゃ注目を浴びている。


 その中に鋭い視線が含まれている。……知らない貴族のお姫様達に睨まれているような気がする。一部、知っているお姫様の視線も含まれていたけど。


 今夜のパーティーのために着飾ったであろう黒髪の彼女の視線が一際鋭かった。

 嫉妬に濡れた焦げ茶の瞳はまっすぐに私に注がれていた。彼女の視線に私がぎくりとしていると、ヌッと人影が視界を遮った。


「お次は私と踊ってくれないか?」


 私に向けて手を差し出してきたのは、さっきの特別塔所属のお貴族様だ。

 え、なんで私をダンスに誘ってるの…? 手を取るべきなんだろうかと私が困惑していると、彼の手をルーカスがパシリと叩き落としていた。


「お断りします」

「何故、クライネルト君が断るんだい? 私はそちらの美しいお嬢さんをお誘いしてるのだけど」


 ルーカスは私と貴族子息を引き離すように間に割って入ると、相手を牽制するように睨みつけていた。


「リナリア、僕は彼と話をするから、ヘルマンさんたちの元へ行くんだ。絶対に彼女たちから離れるな」

「う、うん」


 ぐるりと会場を見渡せば、隅の方にイルゼとニーナの姿があった。

 急かされる形で追い払われた私は、ドレスの裾を踏まない様に気をつけながら友人たちの元へ駆け寄ったのだが……私を出迎えたイルゼは妙にニヤニヤしていた。通常通りのニーナとの対比がすごい。


「お邪魔かと思って声をかけなかったけど、まさか踊り出すとは思わなかったわ」

「それはルーカスが」


 私から踊りに誘ったんじゃないと言うと、イルゼが「照れるな照れるな」と肘でつついてきた。

 別に照れてなんか……まぁ、ダンスは楽しかったけどさ。


「2人ともとても目立っていたわ。上手に踊れていたから自信持って」


 私が目立つんじゃなくて、ダンス相手がルーカスだから目立っていたんだと思う……

 会場の熱気にやられたのだろうか。妙に顔が熱い。頬の熱を冷まそうと手のひらでパタパタ仰いでいると、イルゼが私の胸元に顔を近づけてきた。

 

「それ、オーダーメイドじゃない?」


 彼女の関心はルーカスがくれたネックレスに移る。つられて私の意識もそちらに向かった。


「えぇ? 高くないってルーカスは言ってたよ」

「クライネルト君の家は庶民とは一線を画すから基準が違うと思うわ」


 オーダーメイドだと金額が膨らむでしょ、とニーナに淡々と返され、もしかしたらそうかもしれないという気持ちにさせられた。い、一体いくらなんだろうこれ。

 だけど本人に金額のことを聞くのは野暮ってものだし、一度受け取ったものを返却するのは失礼に当たるし……どうしたものか。


「君、一般塔の子だよね、名前はなんていうの?」

「……え? えぇと、リナリア・ブルームです」


 考え事をしていたら、また貴族っぽい男性に話し掛けられた。一瞬誰に声をかけているのかわからなくて、両隣にいたイルゼとニーナを見比べたが、ふたりの視線は私に集中している。男性も私を見て尋ねている風だったので恐る恐る名前を名乗ると、相手は微笑んだ。

 な、なんだろう、交流パーティらしく交流しようと歩み寄って来てくれたのだろうか……


「よかったら向こうで」

「彼女になにか御用ですか?」


 しかし彼が次の言葉を紡ぐ前にまたルーカスが間に割って入ってきて妨害してきた。

 私を無視して、貴族様と言葉を交わして追い払うルーカスは……一体何をしているのだろうか。


「余裕ないのね、クライネルト君」


 それをみていたニーナが意味深にフフと笑う。イルゼもそれに同意みたいでしたり顔で頷いている。ルーカスはそれに対して苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「保護者じゃないんだから、そこまでしなくてもいいのよ」


 心配なのかも知れないけど、ちょっと過敏過ぎると思う。そう思って言うと、ルーカスはますます渋い顔をする。


「君はボーッとしてついていきそうだから、このくらいでちょうどいい」

「そんなことないわ!」


 子どもじゃないんだから、なにも考えずについていくわけがないじゃない。私とあなた、同じ年齢なのに子ども扱いが過ぎない?


「前にも言ったけど、平民の魔術師が養子縁組して貴族に嫁ぐこともあるんだ。見目麗しい君は格好の獲物なんだよ」


 見目麗しいルーカスに見目麗しいと言われて私は固まる。そしてじわじわとむずがゆい気持ちに襲われて恥ずかしくなってきた。


「み、見目麗しいってそんな大袈裟な……」


 う、うれしいけど、そんな急に褒められると恥ずかしい。


「大袈裟じゃないよ。それほど貴族間の血の濃さは問題とされている。新しい魔術師の血が必要なんだ。天賦の才能持ちの君の血を取り込みたいという貴族は、探せばいくらでも現れるよ」

「えぇ…」


 単純に私の容姿を褒めてくれただけじゃなかった。今も根深い貴族の魔力至上主義に私が取り込まれてしまうかもしれないことを心配しての発言だったらしい。


「クライネルト君の言ってることは正しいわ。後ろ盾のない平民は利用されやすいのよ。大人しく忠告を聞き入れたほうがいいわ」


 ニーナもルーカスと同意見みたいだ。

 怖いこと言わないで。楽しかった気持ちがしぼんでしまうじゃないの。一緒に話を聞いていたイルゼまでも表情が強張って、私の側を離れないように私の腕にギュッと抱き着いてきた。


 警戒したイルゼとニーナが私の周りを固め、退場の際はルーカスがエスコートしてくれた。ご丁寧に女子寮まで送ってくれて、厳戒体制のまま見送られた。

 さっきまでお姫様気分だったのに、今じゃ要人警護を受けているような心境になってしまった。


 今日は特別塔の生徒たちとの交流パーティーのはずなのに、結局いつも話す親しい友人達と過ごすこととなり、新しい人との交流はあまりできなかった。

 こうして交流パーティは幕を閉じたのである。


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