領地へ向けて
準備が整い、いよいよ領地へ出発することになりました。
使用人全員が並び、見送ってくれます。
お兄様が挨拶をします。
「急だが、しばらく領地へ向かうことになった。
慌ただしく準備してくれてありがとう。
みんな、屋敷を頼むね。うん、ディも一言言ってあげて?」
「えーっと?これを言っても良いのかしら?
みんなが居たから生きてこれたと思うの。ありがとうね」
アンが号泣しています。
セバスも泣きそうです。
「ではそろそろ参りましょう」
伯爵様が促します。
みんなが伯爵様を睨みます。やめておきなさい、使用人は立場が弱いのよ?
「「では、いってきます」」
「「「「「いってらっしゃいませ!!」」」」」
使用人一同が一斉にお辞儀をしてお見送りしてくれます。
お兄様のエスコートで馬車に乗り込み小窓から顔を出します。
「みんな、顔を上げて!」
お兄様が叫びます。
「私達の笑顔、覚えていて!」
お兄様とうなずきあって、
「「ありがとう!!」」
笑顔で手を振ると、馬車が動き出します。
「ぼっちゃま!」「お嬢様ぁぁ」「俺、そっちに移動願い出すッス!!」「んなぁ!?」「アリかそれ?」「私も」「マジ、ずりぃ」
ちょっと、最後はぎゃぁぎゃぁと、侯爵家の使用人としての態度は良いのかしら?と思わなくもなかったけど、
私もお兄様も、笑ってしまった。
「オイオイ、好かれてるじゃないか。話と全然違うぞ?」
馬に乗り並走する伯爵様の呟きは、御者役のシラヌイ様だけが聞いていたようです。
「お兄様、私達、愛されてましたわ」
お兄様と馬車の中でぎゅっとしました。
「「もちろんです」」
先に馬車に乗っていた先生とセリが声を合わせて同意します。
「僭越ながら」
先生が話し出します。
「使用人一同、お嬢様が母親からの暴力に耐え、エミリオ様が幼いながら仕事をしているのをずっと見ておりました。何も出来ない自分達が悔しかったのです。だから、せめて自分達の仕事は完璧に、煩わせる事なくお支えしようと仕事は一生懸命やっていたのですよ。それに〝ありがとう〞と感謝を伝えてくれるのがお二人でした」
「え、僕?ディはよく言ってたけど」
「エミリオ様は、お嬢様が、嬉しそうにしていると、それが使用人の入れたお茶であるとか、庭の花であるとかでも〝ディが喜んでる!よくやった!!〞と褒めていたではないですか。
それも嬉しかったのですよ。使用人の仕事を認めて感謝を伝えてくれる貴族は、王都では、ほぼ居ないと思いますよ?」
先生が言うと
「しかも、顔が良い」
セリがボソっと呟きます。
「ワハハハ、確かに!
可愛い子供から〝ありがとう〞と言われて落ちない大人は少なくとも、侯爵家の使用人には、居なかったですな!」
「あ!」「一人居る!!」
「「ギャリクソン!!」」
お兄様と声がかぶります。
「そうでしたな!なるほど、お二人の顔にもなびかないとは、アレは非常に手強いですな!」
先生やセリのお陰で、余り悲壮感なく馬車の旅は始まり、
かつ、同行者が子供とお年寄りのみ、という、体力に問題有りまくりに見える布陣です。(実際は、双子以外、辺境出身者しか居ませんが)
しかも、急いで出発させられたのです。
少なくとも、宿には泊まると思ってたのですよ、ええ、私達含め、セリ達も。
伯爵様は最初、鬼畜仕様でした。野営して馬車の中で寝ろ、と言ってきたのです。
全員ぶちギレました。
しかし、ここでシラヌイ様(並びにセリと隠れたワサビ達)を暴れさせてはいけません。
先生、頑張りました。
現侯爵をクズと言っておきながら、自分は子供と年寄りのみの移動を強要しておいて、食事の準備もろくにさせずに出発させ、宿にも泊まらせない、食事抜き、アンタの方がよっぽど鬼畜じゃろう?!アンタの騎士道どこ行った?!
うん。おっしゃる通りですわね。
だって、私達、仮にも高位貴族の後継ぎの子供ですのよ?
普通、計画練って、宿を予約して、護衛も沢山引き連れて、万全の体制で旅するでしょうに。
それが、護衛もなし、携帯食の用意もなく、夜具の用意もない中で野営しろとか言う馬車の旅。
少なく見積もっても鬼畜ですわ。
なので、私とお兄様もちょこっと演出してみました。
涙目で、二人でぎゅっと抱きしめあってみたのです。
イタイケナ子供を虐める大人の男、しかも騎士、の構図ですわね?
騎士道の風上にも置けませんわね?
伯爵様、苦虫を噛み潰したような顔をしてますわ。
ウフフ、私達、宿と食事を勝ち取りましたわ!!
そして、ちょっとゆっくりめに進み、2泊は必要だろう、下手したら3泊、ということになりました。
「上々の出来ですな。時間稼ぎにも成功しました。センバ商会の連絡網も行き渡るでしょう。
これで、ワサビ達も少しは楽になると良いのですが」
先生、ワサビ達の体調も気にしてくださっていたのですね!さすがですわ!!




