辺境伯御当主様
翌日、先触れ通り、辺境伯様と先生が我が家にお越し下さった。
しかし、母親は家に居なかった。
早々に商会の打ち合わせだと、出掛けていった。
「王家に一目置かれている辺境伯より、愛人を優先する。
なんというか、予想通りすぎて、笑えてくるよ。
〝父親がアレなのに母親だけ責任を負えなんて言わないわよね?〞って、子供に責任を負わせてどうするんだよ。
ディ、二人でおもてなしするしかないね」
「両親がこれ以上の失態を犯しようがないという安心感と取りましょう!」
「…ディの前向きさが僕の救いだよ。
さぁ、皆、お出迎えしよう!」
いよいよ、辺境伯御当主様との対面ですわ。
……この状況はなんでしょう?
右肩にお兄様、左肩に私を乗せて、辺境伯様が訓練場へ向かっています。
後ろには、先生が「ここまで制御出来ないと思いませんでした。辺境伯様、本気ですか?!」
と、叫びながら付いてきます。
「テン爺!俺は本気だ!こんな小さな子の健気な姿見て、だまってられるか!!!」
「貴方様の悪い所です!まずは、きちんとお二人からお話を聞くのが先です!!
貴方様のやりたい事ではなく、お二人の希望を聞いて下さい!!」
先生がそう叫ぶと、辺境伯様はピタっと止まって「確かに」とつぶやいた。
「君達はどうしたいのだ?」
そう言って、ご自分が肩に乗せたので、目線がほぼ同じ、左右にある私達の顔を見た。
事の起こりは、エントランスで辺境伯様をお出迎えした時の事。
お兄様が一歩前へ出て
「ようこそお越し下さいました、センバ辺境伯様」
そう言ってご挨拶したので、私も、半歩後ろでカーテシーをしてお言葉を待った。
なかなかお声が掛からない。
頭を上げれないんだけど。ツライんだけど。
すると、先生の声がして
「辺境伯様!貴方がお声をかけなければあの子達は頭をあげられません!」
「…おおぅ!すまん!!楽にしてくれ!こんなに小さな子がこんなに綺麗な挨拶をするなど、初めて見た!
というか、ちょっと待て、親はおらんのか?!
なぜ、この子らが俺を出迎えるのだ?普通は部屋に入って、親から紹介を受けるものだろう?!」
普通はね、普通は。
なんせほら、我が家だから。
お兄様と顔を見合せて、苦笑いして、辺境伯様に顔を向けた。
辺境伯様は、黒髪黒目の体の大きなムキムキマッチョだった。
「ですから、この家は、大人が居ないものと考えて下さいと、昨日説明しましたでしょう!聞いてなかったのですか?!」
「いや、聞いては、いた、確かに、聞いた!が、想像できるか、こんなこと?!
大人が、いや使用人達も顔をしかめているのだな。
親が居ないものというのは、こういう事なのか……
いや、ちょっと待て、ご存命であるよな?!」
「生存確認は取れていますね」
「ちょっと待て坊主、なかなか辛辣だな?!娘に言われたら、俺は泣く自信があるぞ?」
「ウフフフ」
「嬢ちゃん、ようやく笑ったな。子供は大いに笑うべきだ。
うむ、俺も落ち着いてきたぞ。
そうか、君達がホスト役なのだな。ならば、それに応じた対応をせねばな」
そう言って辺境伯様は姿勢を正し、まっすぐに私達を見た。
「丁寧な出迎え、痛み入る。
私は辺境伯当主、ニワトコ・センバだ。よろしく頼む」
辺境伯様は、ニパっと笑ってお兄様に握手を求めてきた。
お兄様と握手を交わした辺境伯様は、次に、私の手を取り「素敵なご挨拶をありがとう、立派なレディ」と言って下さった。
その瞬間、これまでの努力が無駄じゃなかったと、認められたと、鼻の奥がツンとした。
すると、辺境伯様は私とお兄様の頭をわしゃわしゃとなで始めたのだ。
「うむ!この子らを俺が育てよう!訓練場にいくぞ!」
お兄様と私をヒョイヒョイと肩に乗せ「ちゃんと掴まっていなさい」そう言って、玄関から出てしまったのだ。




