れっつ えんじょい
先生から師匠に格上げした鑑定師匠のおかげで、魔法の習得に向けた練習の方向性がなんとなくわかった。
後は、実践あるのみではないかしら!
早速、お兄様に練習の許可をいただかなくちゃ。
ベルを鳴らして、アンを呼ぶ。
「アン、お兄様にご相談があるの。いつならお時間頂けるかしら?」
「お伺いして参ります」
「ありがとう。私、書庫へ行ってるから、お願いね」
「かしこまりました」
お兄様との時間まで、書庫で、鑑定師匠のカモフラージュを探さなきゃ。
腐っても侯爵家、書庫には沢山の書物があった。
お兄様が家の事も見るようになった2年前から、書庫の掃除と整理整頓も行き届かせるようになった。
調べものをしようとして書庫に入ったお兄様は、くしゃみが止まらなくなった上に、欲しい資料がどこにあるのか全く分からなかったらしい。
ギャリクソンが言うには、領地に居る侯爵は使っていたが、父親は物心ついて以降 、使った事が無いとのこと。
もったいない。
ってか、ちゃんと子供の教育しろよ。
まぁ、あの親の事はいいや。
魔法の本、まっほうのほ~ん♪
私は鼻歌を歌いながら、本を探した。
1時間後、あるにはあった。
初級編、魔力を感じること、魔力を体に循環させること、魔力を1ヵ所に集めて放出すること。
要約すると、1行で終わることを、回りくどい言い方で1冊にまで引き伸ばして書いてあった。
これが貴族の言い回しなの?!とてつもなく面倒なんですけど?!
そして、属性魔法の発動方法についての記述はなかった。
先祖代々受け継ぐものだから、一般的な書物じゃなくて、やっぱり、日記的な物とか、家の歴史とかを探すべきかしらねぇ。
更に1時間後、現侯爵のお祖父様にあたる人の弟の日誌というか、報告書を見つけた。
この方は、侯爵領の軍事を担当していたらしく、魔物の報告、討伐の仕方など、後世のために記す、と書いてある。そこで使われていた魔法は、ウィンドショット・カッター・ウォールだった。やっぱり、この3つしかないみたい。新しい魔法を開発中だとは書いてたけど、これ、部屋でじっくり読んでみようかしら。
カモフラージュに良いんじゃないかしら。
お兄様ぐらいの神童っぷりなら、これ読んだだけで魔法を理解したって言っても納得されるんじゃないかしら。
夕食後、お兄様が私の部屋にやって来てくださった。
「ディ、相談があるんだって?」
「お兄様!!わざわざお越し下さったのですか?!私からお伺いしましたのに」
そう言って、ぎゅっと抱きついてしまうのは様式美だろう。
「良いの、僕が来たかったから。ああ、僕のディ。ホッとするぅ」
「お兄様、もしや、お仕事また増えましたの?」
「増えてはいない、かな。母親と同じだよ。ギャリクソンが侯爵に、魔法の訓練が入るから、これ以上の仕事は無理だと言ってくれたからね。ただ、講師がねぇ、見つからない。あの侯爵にしてあの親が出来上がってる。親子揃って格下の家門に横柄だったんだと。僕達その子供だろ?あんまり関わりたくないと、警戒されてるんだろうなぁ。こんな所まで、クズの影響が出ると思わなかった」
「お兄様、もう、良いですわ。私達だけでやりましょう?
私にはお兄様と鑑定師匠がいますもの、何でも出来ますわ!!
れっつえんじょいですわ!」
「か、鑑定師匠?!何じょい?」
「合言葉は、えんじょいですわ!
ええ!教えを乞うのですから、先生でしょう?その格上で、師匠ですわ!」
「いや、確かに教えを乞うなら、先生だけど、え?鑑定に師匠ってつける?ディのセンスがちょっと心配にもなってきたけど、ディが楽しそうなら、まぁ、良いか?…良いのか?ここで、妥協して良いのか?センスって言葉選び?えんじょいって、何?」
「お兄様、何をぶつぶつ言ってますの?
聞いてくださいまし。
鑑定師匠が言うには、魔法は、魔力を手のひらに集めて、放出することで起きるそうですわ。
で、その際に原理をイメージして現象を言葉にすることがきっかけで発動するのですわ」
「…は?」
「ですから、まず、魔力を手のひらに集めて」「いや、そうじゃない!」「そうなんですってば」
「ああ、違う、魔法の発動手順が違うじゃなくて、いや、もう本当に、師匠じゃないか。魔法の発動手順さえ教えてくれるなんて、講師要らないって、本当だったよ。」
「ですから、そう申し上げてますでしょう?」
「ハハハハ、ディ、最高だよ。いやもう、本当、僕達だけで、いや、ディだけでいいね」
「何をおっしゃってるんですか。私だけじゃダメですわ。
私には、一番お兄様が必要ですのよ、まだ、わかって下さらないんですの?」
コテンっと、私は首をかしげると
お兄様は、泣きそうな顔で、私をぎゅっとしてくれた。




