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余命90日の花嫁は死神と共に永遠を生きる  作者: 響ぴあの


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第9話 運命の赤い糸

 葵は死ぬなら死ぬで仕方ないというスタンスを崩さない。

 本人曰く、今まで好き勝手に生きてきたから、悔いはないとのことだ。

 でも、未練があるから死神が担当となったはず。

 昔から本音を言わない葵の未練は誰にもわからなかった。

 恋愛感情のことはお互いに解決したから、もっと別なことだと思う。


 葵はあれから青い色のメッシュを髪に入れた。

 自己主張したいとか、前からやってみたかったとかそういった理由だった。


 今日は珍しく至も朝から学校に来て高校生をやっている。

 最近は、至も極力学校に来るようにしているようだ。

 死神の仕事も対象者が今は葵ということもあり、むしろ学校にいたほうが仕事になるという判断でもあった。

 死神族は国からの特別扱いを受けているため、仕事のために学校を休んでも問題はないらしい。

 死神族は基本的に知能指数が高く理解力が高いため、授業に出なくとも教科書を読むだけで知識の吸収は可能らしい。羨ましい限りの能力の高さ。


 葵のことがあるにもかかわらず、触れてもいいと言ってから、至は時を選ばず歌恋に触れるようになった。

 恥ずかしいという感情があまりないらしい。

 朝はおはようの挨拶と共に、歌恋の頬に触れる。

 本当はキスをしたいと言われたが、さすがに家族や使用人が見ている中でキスをする勇気はなかった。


 基本県外で仕事をしている弟の(いくさ)が最近は実家に入り浸っている。

 仕事の対象者がこちらの地域らしい。

 至と顔は似ているけれど、弟の戦は一言で言うとちゃらいというのが第一印象だ。

 死神族は一途だと言われているが、まだ十六歳の戦には運命の人がいないらしい。

 どこかにいる運命の人に出会うまで、自由にたくさんの女性と恋愛したいというのが彼の考えだ。


 至は性格的にモテていたけれど、恋愛はしてこなかった。

 戦はモテることをいいことに、複数の女性と交際をする。

 歌恋は少しそんな戦に苦手意識があった。

 女好きでも、運命の人に出会えれば、女遊びが止まるというのが死神族らしい。

 人間の場合は、遊び人は結婚しても遊び人ということもあるけれど、死神族は違うらしい。


「おはよう。おねーさま。俺に姉ができるなんて夢のようだよ」

 朝から女好き全開の戦。

 最近は仕事で他県にいっていることが多く、久々の帰宅だった。

 長男は基本的に本家周辺の仕事を担い、次男は遠い地域の仕事を担うことが普通らしい。


 噂では、他県の数だけ彼女がいるとか、歳は何歳でも年上でもいいらしいとか、そんなことが耳に入る。

 兄弟なのにこんなにも違うなんて、少し驚く。

 顔立ちは似ていて、弟もイケメンぶりは負けてはいない。

 総合的に見て、歌恋は誠実な至のほうが好きだとは思う。

 落ち着いたまなざしや責任感や軽はずみなことを言わないところは信頼に値する。

 戦も高校には所属しているが、仕事のために、出席日数は少ない。

 死神族の偏差値はすこぶる高く、頭脳明晰のため、試験にパスして進級するのが認められているらしい。

 至同様戦も戦闘能力にはたけているらしいが、勤勉に体を鍛えているのは至のほうだ。

 努力が苦手な戦に運命の相手は現れるのだろうか。


「今回は兄貴が青龍の息子のことで忙しいから、俺が仕事を引き受けることになったんだけど、対象者は朱雀家の長女、美央さんだ」

 戦が平然とした様子で話す。


 心臓がキリッと痛む。

 この前会ったばかりの葵への救世主になる人が死ぬことになっている?

 あんなに元気だったのに、どうやって助ければいい?

 血の気が一気に引いていくのを感じていた。


「朱雀の長女が対象者とは困ったものだな。青龍葵のために彼女にお願いに行ったんだけどな」


「その後、俺が余命九十日だと告げに行ったんだけど、表情一つ変えずにただうなずいたんだよ。あの年齢であの落ち着きは滅多にいないぞ」

 戦も驚く朱雀美央の落ち着き。


「青龍も朱雀も元は四神の分家になる。そういったことを受け入れる器を持っているんだろう」


「美人なんだけどさ、冷たい感じがするんだよな」


「葵なら、多分彼女を助けることができると思うんだよね。そうすれば、二人はお互いに命を支えて生きられると思う」


「でも、朱雀美央は簡単に青龍を助けようとしないから、色々と面倒だよな」

 美央も自分の寿命のためならば、葵と取引をするのだろうか。


「久々に学校行ってくる」

 戦はここら辺では有名な進学校であるお金持ちが多い私立高校に在籍している。


 戦は最初からサボる気満々だった。

「なんだかめんどくさいな、とりあえず近くの公園でサボるとするか」


 自前のバスケットボールを持参した戦は、バスケットゴールのある公園へ向かう。

 至と違い、勤勉ではない戦は、死神族ということを活かし、存分に学校をサボっていた。


 戦は本当は普通の生活に憧れていた。

 部活を頑張ったり、体育祭や文化祭で友達とわいわい騒いだり、そんな生活に憧れていた。

 でも、現実は死にゆく人間を相手に仕事をしなければならず、運命の相手も自分では選べない。

 学校も自分だけ特別措置で行かなくても問題はない。

 高校生である意味があるのかもわからなかった。

 顔が良く、お金を持っている戦には女性が勝手に寄ってきた。

 そのせいで、よからぬ噂が付きまとっていることも知っている。


 好きになった人もいたが、運命の赤い糸が見えないため、将来的に結ばれることはないことに気づきながら恋愛の真似事をしていた。死神族は赤い糸が結ばれている運命の相手と結婚しなければいけない。

 その相手の顔が好みでなくとも、性格や趣味が合わなくとも、結婚しなければいけない。


「四神なんてめんどくせぇ」

 怒りをボールにぶつけて、一人でバスケをしてみる。

 部活に入っても仕事があって練習に参加できないから諦めてきた。

 長男の至は不満を持った様子もなく、死神の仕事をこなしている。

 でも、戦は違う。普通の高校生になりたかった。


「学校サボっていいと思ってるの?」

「誰だよ?」


 突如現れた女子高生らしき少女。どうやらバスケットボールを持っているあたり練習にきたらしい。


「その銀髪、四神の次男はうちの高校じゃ有名だよね。滅多に学校に来ないから拝めたら超ラッキーなんて言ってる女子も多いんだけどね」


「だから、自己紹介してくれないと、わかんないんだけど」


「私は五条紗月(ごじょうさつき)。あなたと同じ高校。ほとんど学校に来ないから、同じクラスになっても会ってなかったね」


 なんだこの派手な不良女は。

 遊びにはこの手の軽そうなタイプを選んでいた。

 でも、運命の相手には勝手な期待をしていたから、多分おしとやかな女性と結婚するのだと思い込んでいた。

 周囲の花嫁たちが気品があるとかお嬢様タイプが多かったのもある。


「そっちこそサボってるじゃないか」

「今日は振り替え休日で高校休みなんだけど」


 戦は仕事があり、学校行事に参加していなかったので、すっかり忘れていた。

 まじめに制服を着ている自分が恥ずかしくもある。

 恥ずかしくなり、下を向く。

 横に立っている女は、さっぱりした気の強そうな感じがする。

 少し悪そうな感じの派手な女は髪が長いストレートヘアだった。

 校則違反であろう茶色い髪の毛はあの高校だと目立つと思う。

 ほとんど高校へ行っていないから、実は高校のことについては、あまり知らないのだが。


「バスケ上手だね。部活やればいいのに」

「俺は仕事が忙しいんだよ」

「全都道府県に彼女がいて忙しいっていう噂も聞くけどね」


 茶髪の女は苦手なタイプかもしれないと思う。

 でも、紗月の指を見た時に、戦の全ては変化した。

 彼女の薬指に赤い糸が確かに見えた。

 実際につながっているわけではないが、戦に向かって糸は伸びていた。

 死神にしか見えない運命の赤い糸だった。


 ずっと待っていた相手が目の前にいる。でも、なぜかがっかりしていた。


 どんな人が運命の相手なのか、ずっと想像していた。

 勝手な想像が膨らんでいた。


 相手は当然ながら、お嬢様タイプのおとなしい感じの女子のような気がしていた。

 それも、戦のことをずっと密かに思っていたとかそういう勝手な想像だった。


「おまえ、恋人とかいるのか?」

 突然運命の相手と言っても怖がられることが多いと聞いていたので、とりあえず質問してみる。

 とは言っても初対面でこんなことを聞くのは失礼なのかもしれないが。


「彼氏はいるけど」

 さらに戦はがっかりする。

 運命の相手ならば当然彼氏がいたことがなく、お互い好みのタイプで結婚まっしぐらだと思っていた。

 正直冴えないと思われる普通を絵にかいたような歌恋のことを至は溺愛している。

 二人は相思相愛だ。

 でも、ここで運命の人だなんて言ったら、フラれること間違いなしだ。


「彼氏とは言っても、ちょっとDV系だし、別れたいとは思ってるんだ」

 紗月の顔が少しばかり曇る。


「DVってドメスティックバイオレンスのことか?」

 更に衝撃を受ける戦。


「デートDVって聞くでしょ。お金も貸しても返ってこないしね。根は悪い人じゃないんだけど」


「根が悪くないのにDVかよ。おまえ本当にいいのか?」


「いくらクラスメイトでも、あんたに干渉する義理はないでしょ」


 バスケットボールを投げる紗月。


「そんな茶髪で先生に注意されるんじゃないのか? あの学校は校則には厳しいだろ。俺の場合生まれつきの銀髪の死神だから、問題はないけどさ」


「近々学校を辞めるつもりなんだ」


「はぁ?」


 せっかく運命の相手に出会ったのに、まだ全然好きになっていないのに、辞めるのかよと苛立つ。

 至のように相手を見た瞬間恋に落ちると思っていた。

 普通、死神族はそうだと言われている。

 なのに、なぜ戦は恋に落ちていないんだろうと疑問が浮かぶ。

 もしかして、運命の赤い糸は何かの間違いなのかもしれないとも思う。


「うちの会社が倒産したんだ。あそこはセレブなお金持ちが通う学校だから、学費の安い公立に転校するんだ」


「それは困る。まだ全然好きになってないのに、転校されては困るんだよ」


「どういう意味?」


「ようやく見つけた運命の花嫁のはずなんだよ。確かに赤い糸が見えるんだ。でも、全然一目惚れとか好きだとは思えないんだよ。そもそも、俺のタイプではないし」


「失礼な奴」

 あからさまに不機嫌になりつつも、死神の花嫁という言葉に驚きを隠せない。

 この世界には死神の花嫁となる女性がいて、この国を夫婦で支え合い、人の最期を見届ける選ばれた女性がいるということは知っていた。死神にしか見えない赤い糸というのも知っていた。


「私も四神のことなんて好きじゃないけど。彼氏もいるし」


「DV男なんて別れちまえ。俺と婚約したら、実家の会社を立て直すこともできるぞ」


「でも、お互い全然好きとかそういう気持ちにはなってないよね」


 そこは二人とも沈黙だった。好きになっていないという事実は言わなくともわかっていた。


「私は、浮気するような複数女がいる男は好きじゃない」


「死神は相手を見つけたら浮気をしないこととなっているんだ。その掟を破ると俺はこの世界から消えることになっているらしい」


「なにそれ?」


「死神族は夫婦仲をとても大切にする種族なんだ。浮気なんてしたら、同族に殺されるんだよ」


「だから、相手が見つかる前に遊んでいたってわけか」


「遊びとは言っても、お茶するとか映画に行くとか友達としての付き合いなんだけど、噂に尾ひれがついて、彼女が複数人いるとか遊び人扱いになってるのは正直むかつく。俺は、死にゆく人のために日々仕事をしてるんだよ」


「おい、紗月、誰だよそのチャラそうな男は」

 後ろから来たのは不良面の目つきの悪そうな男だった。


「クラスメイトだよ。偶然会っただけ」


「俺は紗月の彼氏だ。幼なじみで、誰よりも、紗月のことはわかってるからな」


「幼なじみだから両思いとか空想の物語の世界にしかないって俺は思ってる。それに、時間の長さなんて関係ないって思ってる」

 戦は睨みつけた。


「俺は、かわいらしいおしとやかな女を死神の花嫁として迎えるつもりだった。でも、俺の運命の花嫁は不良じみたおしとやかとは正反対なかわいげのない女だったらしい」

 紗月のことを見る。


「ちょっと、四神、人のこと馬鹿にしてるの?」

 紗月は怒る。


「五条紗月は死神の花嫁なんだ。好きじゃないが、嫁にもらう義務があるんだよ」

 普通少女漫画なんかだったら、ここで甘い告白になるのだろうが、とんでもないプロポーズだった。


「四神ってあの死神族の四神なのか?」

 紗月の彼氏が少し驚いた顔をする。


「そうだよ。でも、私、彼氏である大ちゃんは根がいい奴だって思ってるし、私のことを好きだと言ってくれるから大好きなんだよ」


「俺は、死神なんかよりも価値がある男だからな。わかってるじゃないか。紗月、帰るぞ」

 大ちゃんと呼ばれる男はにやりと勝利を確信する。


 戦は不良男に負けたと思った。


「金、貸してくれないか。倍にして返すからさ」

 早速彼女にお金をたかろうとしている。


「うち、会社が倒産してお金がないから無理だよ。前に貸した分も返してよ」

 困惑している紗月。


「おい、おまえ、俺の言うことが聞けないのか」

 豹変する彼氏は紗月になぐりかかりそうになった。

 その時、腕にあざが見えた。彼氏の暴力によるものかもしれないと思った戦は咄嗟に、彼女を守るため、風で大ちゃんと呼ばれている彼氏を飛ばした。風とはいっても、一般的に殴ったのと同じくらいの衝撃と痛みが伴う。死神の力は普通の人間ではとてもかなわないものだった。


「おまえ、彼女にそんなことするなんて許されないぞ。だったら紗月は俺がもらう」


 死神の本能なのか運命の相手を守るという気持ちが、好きという気持ちと関係なく動いたらしい。

 彼氏はそのまま倒れ、しばらくは立ち上がれそうもなかった。


「五条紗月、俺の花嫁になれ。好きとかそういうことは後回しだ。とりあえず、お互いを知ってみないか」


「四神戦のことを知って嫌いになるかもよ」

 美しい死神を目の前にしてそんなことを言える紗月はかなりの度胸がある。


「それはこっちのセリフだ。俺の理想は高いんだ。あの男よりは人格がマシだということは保証してやる」


「あんたみたいなモテるのわかってるような美男子は全然好みじゃないけど、どうしてもっていうなら、とりあえず契約結婚として考えてやってもいいけど」


「よろしくな」


 戦は今まで何人もの女性に告白され、時間を共にしたが、初めての感情が生まれていることに気づく。

 顔や性格が理想像とは違っていても、運命の相手というのは死神の血が愛しくさせてしまうらしい。





 あれ以来、葵と美央も連絡を取っていた。お互いのことを知り、美央の寿命についても葵は知ることとなった。


「俺でよかったら、延命の力で美央のことを助けたいと思う。特に条件はない。時々近況を教えてもらうということは一生してもらうことにはなるが、いいか」


「葵くんのことを助けるのに一つ条件があるの。朱雀の家では延命した相手と結婚しなければいけないの。だから、簡単にあなたを助けるとは言えなかった」

 申し訳なさそうな美央。


「青龍の家にはそういった取り決めはないから、美央には自由に恋愛してもらってもかまわない」


「朱雀の家の異能の力は限定されていて、配偶者となる人にしか使えないから、あまり有能じゃないのよ」


「じゃあ、形式だけの結婚としよう。本当に好きな男に事情を話し、美央はその男と一緒になればいい」


「これでウィンウィンって言いたいわけ?」


「まぁ、無理に俺は生きる意味もないから、延命しなくてもいいんだ。でも、美央、おまえは生きろ」


「何を格好つけてるの? 契約するなら、正式に婚約しましょう」


「は?」


 葵のきょとんとした大きな瞳に驚いた様子は隠せなかった。


「あなたが以前歌恋さんを好きだったということも、今も忘れられないこともわかってる」


 能力で葵の過去を読んだらしい。


「最初は愛想のない堅い女だと思った。でも、毎日話していたら、今まで出会った女の中で一番愛おしい奴だと思った」


 その言葉に美央はとても驚いた顔をした。

 いつもそんな言葉を言わない葵が初めてかわいいとか愛おしいなんていう言葉を放ったからだった。

 いつも自分のことよりも相手のことを考えるところが葵のいいところだ。

 それは歌恋に対しても同じだ。

 彼女を一番幸せにできるのは葵ではなく至だということは金銭面や愛情などを含めて判断した事実だ。

 現に、葵は金銭面で養うことはできず、寄り添うことしかできなかった。


 契約結婚して、他の人と幸せになれなんて命がかかっていても心から言える人は少ない。

 そんな葵に美央が惹かれていたのは間違いなかった。


 四神以外の分家には運命の人を見分ける力はほとんど残ってはいない。

 でも、人柄や温かさを測ることはできる。

 二人が結婚前提で付き合うことになった。延命の契約を結んだ事実。

 戦は担当となった朱雀美央にそのことを聞き、至は担当である青龍葵にそのことを聞いた。


 そのことを聞いた歌恋は本当によかったと胸をなでおろした。

 葵と美央は命をきっかけに結ばれた。

 葵と美央は異能の力があるので、赤い糸がうっすらと見えていた。

 運命の人だということは気づいていながら、お互いを知っていた。

 でも、運命なんて言う言葉で束縛したくはなかった。




 後日、弟の戦が彼女を紹介すると連れてきた。

 一応契約の花嫁ということになっているらしいが、戦はいつもとは違う様子だった。

 いつもよりも念入りに髪の毛を整え、正装である和服に身を包んでいた。

 歌恋の時は、急だったこともあり、四神の家に来た時には至も着物に着替える暇はなかったが、何か大切なことがあるときは、正装として着物を着るのがしきたりらしい。


 四神の家に来て、すぐに歌恋の専用の着物を作ってもらった。歌恋の体型や肌に合う色を見繕った完全なるオーダーメイドだ。金額は聞かなかったが、花嫁用の着物に出し惜しみはしないということだったので、相当な金額だと思う。怖くて聞くことができなかった。四神家の財力があれば、そんなことはたいした出費ではないらしい。


 歌恋も妹となる花嫁を迎えるにあたって、美しい桜の柄をあしらった薄紅色の着物を着た。四神家に来てから、基本的な礼儀作法や着物の着方など、世話人の筆頭である年配の女性、華絵さんが教えてくれた。厳しくも温かい女性だ。髪をアップにして正装した歌恋は至と目が合った。


「本当にきれいだ」

 至は本気で褒めてくれている。

 二人は全力で照れてしまう。


「戦にもとうとう花嫁がみつかったらしいな」


「一応契約結婚ってことになってるけどな。彼女はまだ俺のことを好きになってないし、俺もまだ彼女のことを本気で好きになってないしな」


「そのわりには念入りに髪の毛をセットしているではないか」

 痛い所を突かれたような顔をして、戦は別にといいつつ、彼女を迎えに車で向かった。


 しばらくすると、彼女がやってきた。

 彼女は制服姿で手入れの行き届いた茶髪のロングヘア―だった。

「こちらは契約花嫁の五条紗月さん」

「はじめまして。よろしくおねがいします」


 至の父と母の美しさと若さにやはり驚いた様子で、本当にお父さんとお母さんですかと確認していた。

 死神族とその配偶者は、ほとんど歳を取らない。

 厳密に言えばゆるやかに歳は取るけれど、普通の人よりも速度が遅く、その結果長く生きるということらしい。


「私、まだ出会ったばかりでまだ愛とかそういう感情は持ってないんですが、少しずつ好きになれたら契約花嫁じゃなくて、本当の花嫁になれるかもしれないって思ってます」


 その発言に素直じゃない戦は、嬉しい気持ちを隠しているようだった。

「俺もお前みたいな女は好きではないが、俺には運命の赤い糸が見えるんだ。花嫁として迎えるのは仕方がないことだからな」

 普段は女性に優しい戦だが、彼女には少し冷たいような気がする。


「結婚するのは何歳と決められているわけではないから、長くお付き合いをしてお互いを知ればいい。もし、好きになれないときは、無理に花嫁になる必要はないから」


 当主であるお父さんの物腰は柔らかい。

 こんなに財力があり、権力があるのに、偉そうにしていることもなく、厳格なタイプでもない。


「私たち夫婦はひとめぼれだったから、すぐに婚約したけど、花嫁になる人間はなぜか運命である相手を好きになるのよ。それは、四神の歴史を知ればわかると思うわ。運命の赤い糸というのはなぜか惹かれる相手にしか結ばれていないのよ」


 お母さんもいつも優しく美しい。

 元々人間だったとはいうけれど、死神族の中にいて違和感のない美しさだ。


「俺らの場合は、その定義はあてはまらないかもしれないけどな」

 戦は照れたように言う。


「でも、毎日連絡くれる戦ってマメだよね。高校も一緒だし、私に好きな人ができたら必死に阻止してきそうだよね」

 死神の血には抗えない。

 きっともう戦は、紗月に惚れている。

 運命の相手を見つけたら、好きになる。その感情が理屈じゃないというのは本当らしい。

 私たち人間も赤い糸が見えないだけで、人を大好きになることは多々ある。それはご縁と呼ばれるものだ。

 一生を添い遂げることも多い。

 その相手は運命の人で、その感情は理屈ではない。

 死神族も人間も同じだ。


「四神歌恋です。まだ結婚していませんが、大好きな彼の名字になることを決めているので、四神の名前を使わせてください。ただの人間ですが、死神の花嫁になることを決意しました」


 歌恋の自己紹介に至はとてもうれしそうな顔をして、手を握った。

 運命の人はいるんだ。

 あんなにいじわるな家族とも縁を切り、今は穏やかな生活を送っている。


「運命の赤い糸は本物だよ。絶対に惹かれあうことになってるんだから」


 その言葉に紗月は戦のほうを見て、微笑んだ。

 見えないけれど、ご縁の糸は存在していて、死神と花嫁を結び付けているということを確信した。


「ずっとそばにいてね」

 歌恋は最近は甘えた言葉を言えるようになった。

 そういったことを言うとすごく至は喜んでくれる。

 他の人には絶対に見せない笑顔を向けてくれる。


「無愛想な兄貴が花嫁の目の前だと優しい顔をするんだな」

 戦がつっこむ。

 至は戦のように想いを隠さないし、いつも本音で接するので、当然だという顔をする。


「花嫁が見つかったから、次男の戦もこの家で死神の仕事に専念できるわね。だって、花嫁の近くに住むことが死神族では当たり前のことだから」


「じゃあ俺は普通に高校に通ったりできるんだな」


「仕事をしながらだが、今までよりも普通の高校生活を送ることは可能だ」

 父の言葉に戦は嬉しそうにした。

 普通の高校生活を送りたいと願っていた至。一番のご褒美なのかもしれない。


「部活やってみようかな」

「いいじゃん。応援するよ」

 二人の息はぴったりで、まるで歌恋と至のようだ。


「花嫁に選んでくれてありがとう」

 歌恋は改めてお礼を言う。


「俺が選んだわけじゃない。俺たちが結ばれていたのは必然だからな」


 優しい至と共に歌恋は穏やかな生活を手に入れた。

 

「ありがとう。これからもよろしくね」


 これからも消えゆく命を私たちは見つめて生きていかなければいけない。

 それが死神の定めであり宿命だからだ。

 そんな彼に寄り添って生きていきたい。

 きっとたくさんの出会いと別れがあり、心を痛めながら生きていく。

 でも、死神である至の花嫁の使命は、彼の痛みを少しでも分かち合うことだと思う。


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