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余命90日の花嫁は死神と共に永遠を生きる  作者: 響ぴあの


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8/11

第8話 葵の余命

「青龍葵。おまえの命は近々尽きる。青龍の家は延命の力があるなら、神の末裔である身内を頼ってお前を助けたい」


 至が死神として対象者の葵に告げた。

 ずっと知っていたけど、本人に伝えたくはなかった。

 余命九十日になったとき、伝えることが義務らしい。


「死ぬまでは自殺とかできない力が有効になるっていうのはほんとかな」


 もっと重く受け止めると思っていたのに、葵はひょうひょうとしていた。


 カッターナイフを自分の体に当てても切ることができない。

 死神の加護が働いている。

 かくいう歌恋も死神の加護で生きている。

 永遠に近い時を生きるのは死神の力のお陰だ。


「じゃあ、俺、今無敵だな」

 カッターナイフをくるりと回し、明るい表情を向ける。

 想像していたのとは違う葵の様子に少しだけ安堵した。

 歌恋も思わずにこりと笑う。


「歌恋にはもう俺がいなくても四神がいるから大丈夫だよな」

 こんな時にも他人の心配をする葵はいい人だ。


「私たち、葵の親戚で異能を持つ能力者を探し出そうと思ってるの」


「もう能力者は絶えたときいているから無駄だよ」

 いつもけだるげな感じを醸し出す葵。


「能力は生まれつきではなく、ある程度大きくなってから出ることが多いと聞いた」

 至は死神手帳を取り出し、何か考えているようだった。


「実は親戚で異能を持っていそうな人間を見つけたんだ」


 至は仕事が早く、いつも深夜まで何か調べ物をしている事が多い。

 葵のために一生懸命な姿。

 全力で仕事に打ち込む姿は、四神家には法律が通用しない家系を担う姿を垣間見れる。

 それくらい仕事を一生懸命やっているのが至。彼の体をいたわる気持ちになる。



 その時は、歌恋にまた魔の手がしのびよることをまだ知らなかった。

 あの妹が、負けたままで引き下がるわけがなかった。

 あの執着心と負けず嫌いをすっかり忘れてしまうくらい平和な時間を過ごしていたのかもしれない。

 

 その頃、夏香は親に行き所のない不満をぶつけていた。


「ねぇ、なんで死神なんかに家族を壊されてるの? 私たちは四人で家族なのに、勝手にさらわれて家族として抗議するほうがいいと思うの」


「でも、本人が四神家に嫁ぐと合意しているしね」

 視線を泳がせながら夏香の母は言葉を発した。

 偽物の娘がいない本当の親子水入らずになったことを一番喜んでいたのは母だった。


「お姉ちゃんを説得してうちに戻そうよ」

 いじめる対象を戻し、また不幸のどん底に陥れたい。その一心だった。


「でも、お金をたくさんうちに融資してくれているわけだしな」

 歌恋の父はお金がもらえればどうでもいいという様子だった。

 でも、夏香は当たる相手がいなくなり、姉の方が幸せな人生を歩むことが約束されている事実を許せなかった。

 姉のほどこしのお金というのもプライドが許さなかった。


 四神至が夏香になびかないということはよくわかった。それならば、彼から姉を奪えばいい。元通りの地獄の生活になんとか説得して戻ってもらおう。それが、夏香が夏香らしく生きる術だった。性格の悪い夏香は家に当たる対象が親しかいなくなったということに物足りなさを感じていた。もっと幸せになるためには誰かの不幸をみなければいけない、そんな人間だった。


「とにかく、お姉ちゃんを戻すように四神の家に説得しましょう。家族というのは一番大事なんだから。結婚はもっと大人になってからでいいじゃない。とりあえずお互いに別居しながら婚約してればいいでしょ」


 もとの家に戻れば、毎日いじめても、姉の歌恋はきっと誰にも相談しない。

 今までも誰にも相談しないから大ごとにはならなかった。

 婚約とは言っても、あまり接点が無くなれば、破談になることもあるかもしれない。

 破談になるように仕向けるんだから。

 妹である夏香の心は復讐でもなんでもないが、とにかく荒んでいた。

 でも、本人にとっては生まれ持ったもので、それが普通だった。

 つまり性格が悪いと言うのが一番わかりやすい。


「私、お姉ちゃんが他の男性と親しくしているの見ちゃったんだよね」


「そんな……それは本当なのか? 裏切りの花嫁の末路は悲惨なことになるんだぞ」


 父は顔をしかめていた。

 溺愛してくれる死神を敵に回した花嫁が昔いたという伝承がある。

 その花嫁は昔から好きだった人を忘れられず、密かに逢瀬を重ねていた。

 その昔、四神の家系はもっと人数が多かったらしい。

 故に死神と出会うことも、花嫁になることも今よりは多かったと聞く。


「花嫁は死神によって婚約を破棄されたっていうじゃない。その女性と相手の男性は人様から後ろ指を指され、仕事もなく飢え死にしたというじゃない。でも、死を操っているのは死神でしょ。婚約者だった死神が殺したんじゃないかという話も聞くよね」


 大昔の伝承だから、そんなことは確認できない。

 四神の家に日本の法律は通用しないというのが昔からならば、何か手をまわして仕事をできないようにした可能性もある。裏を返せば恐ろしい存在だ。


「あんな怖い一族を敵に回すなんてありえないよね」

「それならば、こちらから婚約を解消するように言ったほうがいいのかもしれないね」

 母はすぐに娘の言うことを聞いてしまう。


「これを見てよ」

 夏祭りの時に二人きりで葵と一緒にいた時に隠し撮りしたものだ。

 角度によってはキスしているように見える時に撮影した写真。

 実際はキスをしているわけではないが、二人の顔が近いというのは事実だった。

 何かあるだろうと頑張って張り込んだ甲斐があった。

 夏香は不敵な笑みを浮かべる。

 絶対に粗はある。何でもないとしても、葵が好意をもっているのならば、浮気にしてしまえばいい。

 でっちあげることは得意だった。


 死神は執拗に嫉妬をする。逆鱗に触れたらどうなるかわからない。

 考えただけで笑いがこみ上げてくる。

 死神は葵と姉のことを疑っている様子だった。

 そのことも調査はしている。

 歌恋の高校にいる男子高校生と親しくなり、お金を払って探偵のように報告させていた。

 夏香の容姿は大抵の男が落ちる。

 なのに、四神至だけは絶対になびかないのが悔しかった。

 よりによって、姉の歌恋を溺愛するということが許せなかった。

 少しでも疑いがあれば黒にしてしまえばいい。


「至さんの携帯電話ですよね。妹の夏香です」

 この番号も至のクラスの高校生に教えてもらったものだ。


「何の用だ?」

「私たち親戚になるわけでしょ。電話をしたっていいじゃないですか。今日は折り入って連絡があって。青龍葵という幼なじみと姉の関係が気になったもので、写真を送らせてもらいますね」

 電話を勝手に切る夏香。


 添付された写真には夏祭りの青龍葵と歌恋の姿が映っていた。

 キスしていたと誤解されてもおかしくない角度。親し気な様子が遠目に映っていた。


 至は冷静な気持ちを保とうとする。

 人一倍嫉妬深い死神族の血が怒りを目覚めさせないように、ただ画像を見た。

 妹の悪態は知っていた。きっと姉への嫌がらせだろうということはわかっていた。

 でも、至はつい歌恋に冷たく接してしまう。


「おはよう」

 その言葉に答えずにただじっと目を見る。

 至はどうしても嫉妬の気持ちを抑えられなかった。

 自分がいないときに二人はどんな会話をしたのかとても気になっていた。

 でも、今は自分の婚約者であり、彼女を一番愛しているのは自分だと自負していた。


「歌恋は俺のこと好きか?」

 朝から急に聞かれるとなんとも言えない恥ずかしい気持ちになる。


「やっぱり生きたいから俺と結婚するなんて言ったのか? 他に好きな人がいたりするのか?」


「至のことが好きだよ。それ以外の人と結婚するつもりはないよ」

 やっぱり恥ずかしい。頬が染まる。


「至は優しくて私のことを想ってくれる。こんな素敵な人を好きにならないはずはないでしょ」


「青龍葵のことは本当にもういいのか?」


「昔好きだと思っていたことはあったけど、今は違うよ」


 その言葉に至は我に返った。


「今後、歌恋の妹がいやがらせをしてくる可能性が高い。気をつけろ。歌恋は俺が守るから」

「私、そんなに好かれるほどいい女ではないんだけどね」

「俺にとってはいい女だよ」


 これは溺愛されているという表現が合っているのかもしれない。

 心がムズムズする。


「俺はこんなにも嫉妬深い男だったんだな。自分に嫌気がする」

 相変わらずのイケメンな顔が少しだけ歪む。


「嫉妬する意味がわからないよ。結婚は至としか考えていないわけだし」


「でも、ちょっとでも好きだったという男が目の前にいたら比較してしまうんだよ」


 顔を赤らめる。歌恋のことで一喜一憂する至は少しばかりかわいい。

 死神族は運命の人という言葉で片づけられてしまう。

 もっとかわいい女の子はたくさんいるのに、彼は歌恋を選んでくれた。

 歌恋を見つめるときの至は、死神の仕事の時の彼とは全然違う。まるで別人だ。

 顔を赤らめたり嫉妬したり、普通以上の純粋な男の子だ。

 今まで家族のことでも苦労していたし、至との結婚はご褒美なのかもしれない。

 歌恋の場合一般的な神様ではなく、死神様のご褒美だ。


 妹のことは不安があったけど、至が結界を張って外部から簡単に他人が入れないように自宅まわりは包囲されていた。安心感はあったけど、妹のことだし、あの親だから、何をしでかすかわからない。


 直接四神の家に入れないため、手紙が実家から届いた。内容は、婚約を解消して娘を実家に戻してほしいというものだった。多分、妹が親に頼んで断り切れない親は仕方なく書いたのだろう。本当は歌恋がいないほうが実家の親は幸せだということはわかっていた。


 実の父も妻に嫌われたくないと歌恋に冷たくする始末。夏香がわがままで、夏香の母は娘のいいなり。お金さえ入ればいいという考えの親。売られたも同然の身だと思っていた。あの人たちには愛情という概念が欠落している。あんなにいい息子を捨てて歌恋の父を選んだお義母さん。漣はとてもいい人間だった。彼がグレるのは親が原因だったのだろうと思う。今の母を見たくないというのは、きっと幼少期の想い出のままでいてほしいということだろう。


 別な家庭ができて、歌恋はそこの一員で義理の家族の集合体。家族からのいじめは抜け出すことは難しい。両親ともどもが味方になってくれない場合は更に脱出することは難しい。最低限の親としての役目をまっとうすれば、他人は文句が言えない。子どもには抜け出す術がない。辛い毎日だった。


 目の前には至がいる。彼と出会って幸せという言葉が身に沁みる。

 本当は九十日で死んでもいいというくらい荒んでいた。

 でも、彼と出会って、もっと生きたいと思えるようになっていた。


 葵もきっと私以上に生きたいはずなのに。

 どうしてこんなに無力なんだろう。

 死神の力はどうして延命できないんだろう。

 もっと万人を救えたら幸福なのに。

 行き場のない苦しさともどかしさに押しつぶされそうになる。


「俺は歌恋に笑っていてほしいんだ。葵の力になれる人間をピックアップしている。希望はゼロじゃない」

 少し根拠のある自信が垣間見れる。

 もしかしたら、落ち込んでるのわかるのかな。

 顔に出やすいって言われるからたいていの人は気づくとは思うんだけど。

 嘘がつけない性格は至に心配をさせてしまう。


「実は、朱雀の家系にも命を延命できる力を持つ者がいると聞いた。基本分家した四家には命を司る力があるんだ。もちろん、本家である四神ほどの力はないがな」


「さすが四神家は何でも調べられるんだね」


「元をたどれば遠い親戚だし、今は生き残りが少ない一族だから調べることは簡単だ」


 さっきまでの拗ねた感じはなく、いつも通りのカッコいい至に戻っていた。

 あんな顔をすることは珍しい。

 歌恋はあの表情を間近で見れる希少な存在なのかもしれない。

 ちょっとした優越感。


「俺は、歌恋のためにならどんな犠牲もいとわない。だから、全力で君を守ってみせるから」

 抱きしめようとする手を至は引っ込める。

 今でも遠慮しているみたいだ。


「もうあなたのものなんだから、触れていいんだよ」

 こちらから、至の胸のあたりをぎゅっと抱きしめる。

 至には贅肉がなく、引き締まっていて、体は筋肉のせいか思ったよりも固い。


「でも、結婚前の女性がこんなに異性にくっつくのはいかがなものかと」

 至は案外古風で奥手らしい。


「減るもんじゃないんだから、ぎゅっとさせてよ。私は至のものなんだから、至だけはくっついてもいいんだよ」

 遠慮がちに優しく触れる至。

 優しくぎゅっと抱きしめられる。

 あんな写真のことは、これで忘れられるような気がした。

 お祭りでの二人の時間。実際は、葵との初恋を片付けるための時間だった。

 妹の嫌がらせがこれから執拗に来たとしても、今なら跳ね返せると思う。

 二人の絆や信頼がより深まっているから。


「もし、不安になったら何でも言ってね」

「もちろん。歌恋も俺に何でも言ってほしい」


 優しい瞳が私を見つめる。

 こんなにドキドキすることは初めてだ。

 これがときめきなのかもしれない。じんわりと実感する。


「南の朱雀家に女子高生がいて、その者が幼少期から特別な力を持つ異能の子どもだと噂になっていたとのことだ。今は人間社会に溶け込むために普通の高校生をやっているらしいが、能力が消えることはない。朱雀美央(すざくみお)と接触してみようと思っている」


 至のタブレットには朱雀美央の情報が入っていた。写真も添付されている。

 この制服は進学校の百合ヶ丘学園の制服だ。

 頭のよさそうな優等生美人というのが第一印象だ。

 高嶺の花と言われていそうな容姿と雰囲気を纏っていた。

 しっかりしていそうだし、美人で能力が高そうだなと思ってしまう。


「実はアポイントをとっていて、朱雀の家に行くことになっている。一緒に来るか?」

「もちろん一緒に行くよ。だって死神は基本、花嫁と仕事をすることが普通なんでしょ。私はこれからずっと至の力になるって決めたんだから。辛いこともずっと分け合って生きていこうよ」


 これは、歌恋が勝手に決めたことだ。死神の花嫁は夫の手伝いをしていきていくことが古くからのしきたりだと聞いた。何もできないけど、至のために一緒に苦楽を分かち合いたい。それが歌恋のねがいだった。せめてもの恩返しでもあった。


 つらい生活から助けてくれた至。死ぬことになっていた歌恋の命を救ってくれたのは至だった。この世界でもっと生きたいと思わせてくれたのも至だった。ずっと一緒に生きていきたいと思っていた。至の愛は重いと世間は言うのかもしれない。でも、愛を知らない歌恋にはちょうどいい重さだった。今まで愛されてこなかった分、彼が愛してくれる。この世界で生きている意味を初めて理解できたような気がしたのは至の愛だった。


 ずっと一緒に生きていきたい。


「一緒に行こう。今から着替えてくるから、歌恋も好きな洋服に着替えて準備してくれ」


 至が用意してくれた洋服は様々な種類があり、まるで衣裳部屋だ。部屋一個分が歌恋の衣装で埋まっている。

 靴もバッグもそこには様々な物が用意されていた。


 まるで幼少期に読んだシンデレラの衣装みたいなドレスも用意してある。

 靴もヒールが高いパンプスからローファーからスニーカーまで何でもある。

 色や形のバリエーションも豊富だ。

 歌恋のサイズに合わせて用意したというのだから、さすが四神の家だ。

 今まで服を選ぶほど持っていなかった歌恋は服選びに悩んでしまった。


 普通に着れそうな服で、かわいらしいものを選びたかったが、色やデザインの組合せが慣れていないせいか難しかった。


 世話係の女性に相談すると快くアドバイスしてくれた。今流行しているデザインの説明から、用途別に提案してくれる。洋服屋の店員さんが常駐してアドバイスしてくれているような感じだ。


 世話係の女性は元々アパレル関係に勤務していた人を四神家で雇ったらしい。

 それぞれの得意分野を持っている人間を世話人として雇い、家政婦のように身の回りのことを世話させているとか。

 贅沢な生活だと思うのは一般的な感覚だろう。

 ずっと一般的な感覚を失わないで生きていけたら幸せだなと思う。

 どんなにいい生活でも満足できない人間はきっと不幸せだと思うから。


 結局初めて伺う家に行くのにふさわしいと提案された紺を基調にしたワンピースを選んだ。

 白い襟がきちんとした感じを出しているということらしい。

 裾は長すぎず短すぎずの長さで、靴下も紺色のくるぶしが隠れるくらいの丈のもの。

 ぴったりのサイズ。これはいつの間に至がサイズを把握したのだろうと不思議でならない。

 もし、サイズが変わったらここの洋服は総入れ替えになるのだろうか。

 そんなことを考える。お金に困らないこの家なら何でもありなのだろう。

 ましてやこの家に嫁ぐことになった女性を丁寧にもてなすのは当然のことなのだろう。


 ずっと孤独だったのに、今は至がいる。

 遠い親戚にあたる朱雀の家はどんな家なのだろう。

 そして、葵のことを助けてくれるのだろうか。

 優等生美人の対応もとても心配だった。

 もし断られたら、と思ってしまうのは今までの苦労の人生故のマイナス思考なのかもしれない。


「大丈夫かな?」

 至を下から見上げて聞いてしまう。


「心配するな」

 至は余裕の表情で至専用の車に私を手招きした。

 車に乗って、三十分以上が過ぎる。


「そろそろだな。アポイントはとってあるから大丈夫だ」


 山のてっぺんにそびえる豪邸。

 ホテルのようにも見えるが、あれが朱雀の家らしい。

 死神族の分家なのに、思った以上豪華な建物で委縮してしまう。


「今でも能力がある者が生まれる可能性がある一族だから、国から補助金がでているんだ。ずっと昔から国とは密接なかかわりを持った神の力を持つ一族が俺たちなんだよ。今でも国の仕事を請け負っているのは本当だ」


 異能の一族。生死以外にも不思議な力を持つと聞く。

 至も掌から炎を出し、攻撃する力を持っているとは聞いている。

 人の死を操ることもできる国を影から守ってきた一族なのだろう。


 山道を車で登ると、そこには絶景が広がっていた。

 町が一望できる。空気も酸素濃度が高くおいしく感じる。


 チャイムを押すと使用人が出てきた。

「約束していた四神至だ」


 使用人は恐れおののいた様子を隠せないようだったが、丁寧にお辞儀をして中へ案内した。

 分厚い絨毯が敷き詰められた床。中央階段には、大きな目を引くデザインの時計が掛けられていた。

 奥へ通されると白く長いテーブルがあり、そこに写真で見た朱雀美央が座っていた。

 カーテン越しに光に包まれた朱雀美央は写真で見るより美しく神々しい。

 二人に座るように促し、紅茶とお菓子が用意されていた。

 おしゃれなホテルのアフタヌーンティーに出てくるケーキスタンド。

 こんなのは写真でしか見たたことがない。

 カラフルなお菓子やケーキが並べられていた。


「はじめまして。朱雀美央と申します」

 女子高校生とは思えない落ち着きがあった。

 お嬢様という感じは最近死神の花嫁となった歌恋とは大違いだ。


「はじめまして。四神家次期当主四神至と申します。隣にいるのは花嫁となる予定の歌恋です」


「歌恋と申します。最近婚約者となったため、まだ至らぬ点がありますが、よろしくお願いします」


「今日伺ったのは、青龍家の長男であり歌恋の同級生である青龍葵についてご相談がありまして」


「わかっています。私は予知能力も備えておりますので、そちらの事情は把握しております」


 この人、予知能力も持っているなんてすごいな。至も心が読める力があったし、やっぱりこの一族は違うんだ。


「それなら話は早い。是非、力になってほしい」

「お願いします」


 頭を下げた。


「もちろん、遠い親戚となる青龍家の長男の寿命を延ばしてあげたいとは思っております。しかし、どのような人間なのかを知った上で、という条件があります。延命するということはその人の人生を変えてしまう。もっと言えば、この国の人生、周囲の人生を変えてしまいます。死んだはずだった人間が長生きすることによって結婚や子どもがうまれることのリスクを考えたことはありますか」


 どういう意味だろう。二つ返事で快諾してくれると思い込んでいた。


「例えば、死んでいれば何も起こらなかったのに、その人間のせいで誰かが死ぬことがあるかもしれない。生まれるはずのなかった子どものせいで、周囲の誰かの人生を変えることもある。更に言えば国を揺るがすことがあるかもしれない。そういったリスクを知った上で延命をしなければいけません。私は本来は延命には反対なんです」


 たしかに、その人のせいで誰かの人生が大きく変わることがある。

 たとえば葵が交通事故を起こせば、誰かが死ぬこともある。

 葵の子どもが犯罪者にならないとは断言できない。

 多分、そういったリスクを言っているのだろう。


「そのリスクは承知の上でお願いに来ています」

 珍しく至は下でに出ている。

 歌恋を悲しませないためなのかもしれない。


「一度青龍葵と会わせていただけませんか」


「今すぐにでも葵をここに連れてきます」


「四神家の次期当主のあなた様が直々に来ていただいているのに、このような御無礼をお許しください」


 丁寧なお辞儀。やっぱり至は特別な地位の死神なんだ。

 

「こういわれることはわかっていたので、部下に青龍葵を迎えにいかせております」


 至は仕事ができる。次のことを考えて動いている。私が相棒で大丈夫なのか不安なのは否めない。

 二人は用意された香りがいい紅茶とお菓子をいただいた。

 こんなに豪華なケーキスタンドに用意されたケーキを食べるのは初めてだった。

 ケーキを食べたのはいつぶりだろうか。

 子供会で用意されたイチゴが乗ったショートケーキを食べたのが最後かもしれない。

 あれからもう五年は経っている。

 親は歌恋のためにはケーキを用意してくれなかった。

 もちろん誕生日祝いも妹だけ。

 差別された生活。

 色々考えていたら涙があふれてきた。

 仕事中なのに。


「大丈夫か」

 至がハンカチを差し出す。優しい人だな。普段は冷徹だと周囲に言われているけど、歌恋だけにはとても優しい。


 ベルの音が響く。

「青龍葵さんがいらっしゃったようね」

 使用人が対応しているようだ。

 この家は広いので、玄関からこの部屋までは距離がある。

 しばらくすると使用人に案内された葵がやってきた。

 詳しい理由は聞いていないらしく、普段着のジーパンにシャツブラウスという格好だった。

 髪の毛も特別整えた様子はなく、いつも通り。

 でも、着飾らなくても女子に人気がある容姿は隠せてはいなかった。


「はじめまして朱雀美央と申します」

 じっくりと葵を見つめ、観察する美央。


「はじめまして青龍葵です」

 なにがなんだかわからない様子の葵はどうしたらいいのかわからない様子だった。


「青龍、おまえの寿命を延命できる者を探し出した。おまえと同じ年齢の朱雀家の一人娘であり次期当主の美央さんだ」


「朱雀ってことは四神の分家のひとつか……」


「四神の分家には未だに異能を持つ者がいる」


「私は延命の力があります。でも、簡単に延命というものをするべきではないと思っています。四神家の次期当主直々のお願いだったため、対象者と会ってみることにしました」


「ありがとう。二人とも。でも、俺も運命に抗うなんておかしいとは思ってるんだよ」


「でも、あなたは死ぬべき人じゃないと思う」

 歌恋はこれ以上大切な人が死ぬことを選びたくなかった。

 見ているだけで何もできないことは辛かった。


「青龍葵さん、あなたは生きたいのですか?」


「生きたいと言えば生きたいけど、死ぬ運命なら仕方がないと思ってるよ」


「今回は遠い親戚である青龍家の長男だと聞いていたからお話を伺おうと思いました。青龍家は昔から国を助けてきた家です。あなたの異能の力が今後有益な力になるということも期待しているのです」


「朱雀美央さん、あなたは年齢の割に落ち着いてるな」


「あなたも死の宣告の割には随分落ち着いていますね」


「親戚とは言っても遠すぎるからほぼ血縁はないわけだ。俺はこんな感じで普通の高校生をやってる。今後異能の力で貢献できる保証もない」


「でも、あなたには延命の力を持っているということは知っています。それが自分には使えないだけだということも」


「ただ、この力を使ったことはない。やっぱり安易に誰かを助けることは未来を変えることになるからな。俺は普通の人間として生きていきたかったから」


「そうですか。私の力を使った場合、私と定期的に面会する義務が生じますがよろしいですか?」


「定期的な面会?」


「私の責任があるからです。あなたが悪いことをするようだったら、延命の力を切るためです。この世にいて悪い影響を与える者を生かすことはできません。あなたはこれからやりたいことはありますか?」

 厳しい表情をする朱雀美央。


「だから、普通の人間として生活したいってだけでさ」


「わかりました。これは私の連絡先です。しばらくテレビ電話で毎日連絡をしましょう。その上で決めさせていただきます」


「毎日電話って付き合ってるみたいなこと言うんだな」


「な、なにを言っているのですか。これは私の使命であり責務なんです」

 少しばかり美央が取り乱す。

 ずっと機械のように淡々としゃべる美央は真面目過ぎるのかもしれない。


「毎日電話する暇があるなんて、友達いないんじゃないか?」

 葵が真面目な顔で切り込む。


「失礼ですね。私は仕事を全うしているだけです。友達は少しはいます」

「少しね」

 葵が強調すると美央は少し恥ずかしそうな顔をする。


「私は頭が固い人間だと言われます。私自身友達の必要性を感じていないんです」


「たしかに優等生面だからな。でも、根っこはすごくいい人だってことはわかるから、案外友達になりたいって思ってる奴はいると思うぞ」


「そうでしょうか」

「俺だったら、誠実な奴と友達になったほうがいいと思うけどな」


 完璧に見えた優等生も実は友達がいないことに負い目を感じているという事実。

 二人は案外違うタイプだけど、気が合うかもしれないと思った。

 そして、まだ葵の生きる保証がされていなことに少しばかり不安が残った。


 連絡先を交換した後、葵は甘党なので、置いてあったデザートを完食してしまった。

「あなた余命わずかなのに、そんなにもよく食欲がありますね」

 美央は呆れた顔をする。


「今生きてるうちに食べたいものは食べておきたいからさ。健康な人もいつ死ぬかわからないだろ。ましてや高齢になればいつ死ぬかわからないからな。俺は本能のままに生きる」


 妙に説得力のある意見を真顔で葵は述べる。

 美央の顔に珍しく笑顔が垣間見れた。


 三人で帰宅することになった。もちろん助手席は葵。後ろのシートには歌恋と至。

 至は極力葵に近づけたくないらしい。

 こんなにイケメンで美しい顔をしているのだから、もっと自信を持っていてもおかしくないし、もっと美人を花嫁にしてもおかしくないのに。死神の感覚は誰にもわからない。

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