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余命90日の花嫁は死神と共に永遠を生きる  作者: 響ぴあの


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第5話 漣と明日香の夏祭り

 明日香は夏の一大イベントをとても楽しみにしていた。今までも小学校の時に漣と一緒にいったお祭りを懐かしいと感じていた。あの時は友達もいて、漣もいて、みんなで祭りの屋台に行ったなと回想していた。


 自然と口角が上がっている。浴衣の動画で着方を勉強して、なんとか形にはなった。髪型はアップにするには長さが足りないので、かんざしをつけてみる。今日のために新調したものばかりだ。なけなしのお小遣い貯金をはたいて戦闘モードに入る。おしゃれを完璧にすることを戦闘モードと勝手によんでいる。戦闘をするわけではないが、道行く人と闘っているのは事実だ。あんなにかわいいメイクをした女子にはかなわないとか、明日香は勝手に自分で勝ち負けを判定していた。


 こんな風になったのは、漣のせいだった。漣はかっこいいタイプで結構人気があった。ちょっと悪そうな感じがいいとか鋭い瞳に惚れたという噂を聞いた。


 明日香が惚れた理由は漣の優しいまなざしや態度だった。いつも隣で見ていたから本質がよくわかっていた。自分よりわかっていない女子と漣が付き合ったらどうしようかずっと悩んでいた。かと言って告白なんてできるはずもなかった。今の関係が一番心地いい。


 漣は母のことで心に傷を負った。漣の母は新しい家族を作ってしまった。彼は一番愛情に飢えている人だった。だから、家族として支えられるという関係になることはとてもうれしかった。彼の欠けたものが修正されることを祈って日々過ごしていた。終わらない日常は楽しいことばかりだった。


 明日香は母から漣の父と新しい家族になることにしたと言われたときに、本当に嬉しかった。漣のことが好きだと思っていた。好きの形はわからないけれど、ずっと思い続けた人。今日はなんだか特別な気がする。一生忘れられない想い出になるような気がする。いつも通りに勝手にうちに上がり込んで待ってる彼。いつも通りのTシャツにワイドパンツでスマホを見ている。視線の先は私がいいのに。どんどん欲張りになる。


「どうかな。浴衣似合う?」

 微笑みを作ってみると意外にもあっさり、漣は答えた。

「似合うな」


 いつもなら、馬子にも衣裳だな。なんていうのに。どういう風の吹き回しなんだろ。


「せっかくの夏休みだし、今日は目いっぱい楽しもうな」

 彼の方から楽しもうなんて言うのはかなり珍しい。

 雷雨にでも遭うのではないかと思ってしまう。

 彼の視線を独占していることがこんなにも嬉しいなんて。

 ずっとそばにいたいと思ってしまう。


「うん。楽しもう。わたがし食べたいよね」

 とりあえず出たワードがわたがしだなんて、気が利いた話題が出せないもどかしさがあった。

 話し下手な明日香が唯一話せる男子が漣だった。

 居心地がいい存在だった。


「俺はお好み焼きが食べたいかな」

 一緒に歩いていると恋人に見えるだろうか。

 そんなことを考えていて明日香は勝手に恥ずかしくなる。


「会場で食べるために、お腹すかせていったほうがいいね」


 ペットボトルを差し出される。相変わらず昔から気が利く漣。


「水分は取れよ。今日は猛暑日だから、脱水になったら困るだろ」

 さりげなく気を遣ってくれる。


「漣はこの前告白された女子とどうなったの? 付き合うの」

 ずっと気になっていたことを聞いてみる。もし付き合うなら明日香となんて出かけてないとは思うんだけど、やっぱり怖いと思う。漣が誰かのものになってしまうなんて。これを聞かなきゃ夏は始まらないとも思う。緊張しながら返答を待つ。


「付き合ってないよ」

 優しいまなざしだった。漣は何かを覚ったような落ち着きを最近感じる。

 その言葉に安堵する。本人が完全否定してくれたことで一層夏を心地よく過ごせそうだ。外に出るとたそがれ時の空気が全開だった。日が長くて、冬ならばとっくに暗くなっているであろう時間なのに、全然日が落ちる気配はない。昼間とは違う穏やかな暑さ。ひぐらしの声が心地いい夕暮れ。


 夏祭りへ一緒に行く至と歌恋。どうして急にあの二人と漣と仲良くなったのかはわからない。

 至は美しいし、歌恋もかわいらしい。お似合いの二人だと思う。

 二人とも優しいし、一緒にいて楽しい。

 ダブルデートみたいな展開になるなんて少し前には予想もしていないことだった。


 歌恋と一緒に歩いていたら、はぐれてしまった。

 なんとか漣とは合流できたけど、至ともはぐれてしまった。

 やっぱり人混みは苦手だ。


「はぐれちまったから、二人で楽しまないか? あっちは二人できっと楽しんでるって」

 どこか遠い目をしている。いつのまにか骨格がしっかりした漣の後ろ姿。なんだか寂しそうな背中だった。


「わたがしうまそうだな」

 ちぎって漣の口に運ぶ。今日はなんだか距離が近い。


「花火が始まるね」

 花火を見るために席を取っている人たちがたくさんいた。

 花火が上がる方向にみんなの視線が集まっていた。


「一瞬の美しさのために花火職人の人は全力で制作するんだよね」

「一瞬でも、こんなに大勢を楽しませるエンタメってそうそうないと思う。俺は花火みたいな人生も悪くないって思うんだ」

「花火みたいな人生? なにそれ」

「花火みたいに一瞬でも豪華絢爛に生きられた方が俺らしいってことだ」

「たしかに華やかで美しくみんなを虜にできるのは最高だよね」

「最高の人生を歩むというのは悪くないかもしれないな。もし、俺が早く死んでしまったとしても、おまえは幸せになるんだぞ」

「なによそれ。一緒に幸せにならないとダメだから」

「運命の人が今後現れたら、チャンスを逃さず幸せになれ」

「漣がいない前提なのは何?」

「例えばの話だよ」

 少し焦った感じの漣が話題を変えた。


 漣がいない世界。明日香には想像もできなかった。ずっとお隣で顔を合わせることが当たり前の人。

 いつもいる人がいない世界は想像外だった。

 別な誰かとお互いが結婚してもずっといてくれるような気がしていた。


「俺は今日この日を忘れない」

「私も」

 沈黙の中、花火の音が響き渡る。

 二人きりである贅沢な時間。


「私は赤い色の光の色が好きだな」

「俺は青とか緑の光の色が好きだな」

「漣は青系の持ち物が多いよね。服も寒色系な印象だし」

「明日香は赤とかエネルギッシュな色を着こなしてるよな」

「最後にでかい瀧のような花火で締めくくられるな。あの二人もどっかで楽しんでるんだろうし、適当に何か食べて帰るか」

 最後に特大の大きな音と光が空に舞い流れていく。


「この夏やりたかったことがひとつできた。ありがとな」

「何? 今日は変だよ」


 聞こえないふりをして漣は店の方へ歩き出す。


「射的でもするか」

「でも、あれって当たらなくできてるんだよね」

「射的の漣と呼ばれているたんだから、任せろ」

「初耳だよ」

「まあ、ここは任せろ」


 お金を払い、構える漣。

 結構様になってるな。

 三回勝負のまずは一回目。

 ドン。弾は当たったのに倒れない。やっぱり倒れないようになってるんだ。

 二回目。

 倒れそうで倒れない。

 三回目。

 一瞬弾が光ったような気がする。速度と威力が今までよりも不自然に大きい。

 倒れた。欲しいと言っていたぬいぐるみが倒れた。


「おめでとう。さすが射的の漣だな」

 振り返るとそこに至が立っていた。


 おじさんは意外そうな顔をして

「おめでとう。ぬいぐるみだよ」

 渋々と手渡した。


「至、おまえ何かしたんだろ」

 漣が問う。


「少しばかり、威力を増すように力を加えただけだ。あのぬいぐるみは倒れないようになってたみたいなんでね」

 二人が話している内容は周囲のざわめきであまり聞き取れなかったけど、漣が明日香に手渡したぬいぐるみは最高のプレゼントになった。


「歌恋ちゃんは?」

「二人も居場所をしらないのか?」

「てっきり至くんと一緒にいるんだと思ってたから。わたがし買いに行ってはぐれちゃったんだよね」

「心配だな。少し探してみるよ」


 至は本当に心配そうな顔をしていた。

 祭りも終わり、人もまばらになっていた。屋台も店じまいの時間。そんな時、青龍葵と歌恋が歩いてきた。


「歌恋、心配したぞ」

 至は本当に心配していた様子だった。


「ごめん、はぐれた時に葵に会って、みんなを探すのを手伝ってもらってたの」

「なぜ青龍がいるんだ?」

 不機嫌な至。敵視丸出しだ。


「俺も友達とはぐれてたから一緒に探してただけだ」

 葵は何食わぬ顔をする。


「ふーん。探しながら、花火を一緒に見てたのか」

 至はやきもちを妬いている様子だった。


「花火の時も探していただけだから、四神が心配するようなことは何もない」

 怪訝そうな顔の至。すぐ不機嫌が顔に出る。

 結果的にその場で解散となり、漣と明日香、至と歌恋が一緒に帰宅した。


 漣と明日香は帰り道にある小さな公園の横を歩いていた。

「少し公園で話してから帰らない?」

「今度行く海の計画でも立てようか」

 公園には小さな滑り台とブランコがある。こじんまりとした地域の人のためという感じの公園だ。

 ここはあまり夜は人がいないので、広く感じる。

 昼間の喧騒は今はない。

 祭りの後はどこか物悲しいような切なさが漂う。

 虫の声がする。夏から秋にかけて虫の声は自然と変わる。


「祭りのあとは少しさびしいね。でも、漣がいるからさびしくないよ」

「明日香は俺よりもずっとたくさん友達がいる。だから、何かあったら、その人たちを頼れよ」

 その瞳が真剣で、何もつっこめなかった。


「歌恋ちゃんたちは海に行く日時を私たちに合わせてくれるみたい」

「電車で三十分くらいの場所に海があるから、うみの杜海岸がいいだろうな。あそこは一応遊泳可能だし、砂浜も整備されているから、使い勝手もいいし」

「たしかにあそこの海はボランティアや地元の人がいつも砂浜にごみが落ちていないように整備しているよね」

「海の家でうまいもんが食いたいな」

「漣は食べることばっかだなぁ」

「今年の夏はやりたいことをやろうと思ってるから。俺は部活とか打ち込んでいることもないし、たいした趣味もない。でも、こうやって楽しく過ごせたら最高だ」

「私は一応部活はやってるけど、夏休みはほとんどないし、趣味と言える活動もないから、漣とかわらないよ」

「何かに打ち込んでるやつらは羨ましくもあるな。でも、こうやってただ普通の毎日を過ごすことが一番なのかもしれないな」

 海の予定は公園でおおざっぱに決めた。

 あとは至たちに連絡するだけだ。


「手をつながない?」

「なんだよ」

 戸惑う漣。明日香は距離を縮め、手を握った。


「多分、好きなんだと思う」

「多分?」

「色々な意味の好きが混じってるんだよね。家族としても、幼なじみとしても、同級生としても、ご近所としても」

「俺も、おまえのことは嫌いじゃない」

「そこは、好きと言ってほしいな」

「愛の告白するつもりはないから」


 でも、その空間は普通の高校生としての恋愛の空気が確かにあったと思う。

 ただ手をつなぐ、そんな贅沢な時間。


「宿題やった?」

「めんどうだから、やってない」

「これだから、漣は」

 世話焼きなお姉さんになったようなそんな時間だった。

 一瞬手を強く握り、明日香を抱き寄せた漣。

 漣にとってはそれが精一杯の愛情表現だった。


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