第11話 思い出
覚の対象者である松子の恋の話をフミがしてくれた。
松子が親の反対を押し切って、庭師の男と交際を始めた。体が弱い松子は学校にもあまりいけなかったし、家が厳しいから出会いはなかった。そんな時、庭を散歩していると若い新人の庭師がいて、最初は植物について話をしたり天気の話をしている程度だった。次第に、その人と会いたいがために、散歩するようになったらしい。庭師は元気があって、素直でいい人だった。本当は植物の勉強をしたかったけど、家が貧しいから仕事をしなければいけないっていう話だった。
庭師の男は賛平っていう男で、真面目で一生懸命仕事をする人だった。
話し相手がいないから、松子は賛平を慕って病気のことや悩みを打ち明けていた。とは言っても、木の伐採をしながら話を聞いてくれるだけで、とても寡黙な男だった。そんな賛平のことを松子はひどく気に入った。でも、賛平は自分とは身分が違うとか女と交際する気持ちはないっていう理由で最初は断っていたんだ。でも、いつの間にか賛平も松子に惹かれていたんだ。そこには若い男女なんてその二人しかいなかったし、お互い異性と話すこともない生活だったから意識をするのに時間はかからなかった。
それに気づいた松子の親は大変怒って、賛平をクビにしたんだ。それから、使用人も含めて若い男は雇わなくなった。松子から男性を遠ざけるようにした。松子はとても怒って、親と仲が悪くなった。そんな時に、覚が現れた。松子は強い未練があった。それは、好きな人と一緒に過ごしたいという気持ちだった。そのために、仲の良かったフミと死神が協力して、家出をさせたんだ。この国の法律には、いかなるものも死神に逆らうことはできないという一文がある。つまり、松子の親もそれに該当するわけで、死神が二人だけで九十日は過ごさせると言えば逆らうことはできない。たとえそれが未成年を持つ保護者でもこの世へ未練を残すことに賛同する行為は許されない。
家出をして、新しい場所で新しい生活を始めた二人はいつも楽しそうにしていた。全ては覚のお陰だった。住む場所も家具も日用品も食事も全て用意してくれた。そこで、二人は毎日愛のある生活を送っていた。
松子は賛平と親が反対する中、仲睦まじく覚が手配した借家を借りて生活をした。生活用具は覚が用意しており、生活費にも困ることはなかった。未練を残さないようにするために、死神は様々なことをしてくれる。これは、選ばれた者の特権でもあった。お金も住む場所も期限付きの幸せを手に入れることは可能だった。
松子は新妻のように、甲斐甲斐しく賛平の世話をした。料理を作り、洗濯をして、家事を何でもやっていた。松子の体調は嘘みたいに良くなり、病のことなんて忘れていた。このままずっとこのまま生活できるような錯覚に陥るようなこともあった。覚とフミが毎日のように会いに来ていたので、本当に親しい仲となった。幸せそのものだった。賛平は庭師の仕事を辞めたので、残りの時間は覚のおかげで働かなくとも一緒にいることができた。二人はずっと一緒だった。賛平にとっても一番幸せな時間だった。
松子は時々子どもみたいに甘えることがあり、その世話をする賛平はとても楽しそうだった。二人が初めて出かけたデートでは、松子がいつもよりおめかしをして、賛平はとても嬉しそうにしていた。周囲からは新婚夫婦のようにうつっていたのかもしれない。美しい松子を見て、声をかける男性もいたが、賛平が独占欲丸出しで他の男を排除していた。そんな賛平を見て、松子も嬉しそうにしていた。
幸せな時間は永遠ではない。ついに、最期の時が来た。
覚が明日が最期だと告げると、二人は抱き合って眠った。
朝になると、松子の息は止まっていた。
彼女のねがいの通り、賛平の胸の中で死んだという。
最後は選べないが、松子の場合は、偶然眠るように好きな人の一番近くで死ぬことができた。まだ松子の体は温かかった。生きているような気がしたけど、どんなに呼んでも彼女の目が覚めることはなかった。賛平は彼女を抱きしめて号泣した。慟哭というのだろうか。フミは、声をあげて激しく泣く男性を見たのは最初で最後だった。泣きつかれるまで泣いた賛平は最期のお別れをして、何もなくなった。
生きている者には明日があり、未来がある。つまり、生活をして悲しみと向き合い忘れなければいけない。しかし、賛平は器用な男ではなく、新しい仕事に就く気力もなく、実家に帰ったが、ただそこにいるだけの人間となった。もう、死神の支援があるわけでもなく、彼は対象者だったわけではないので、死神からの支援のお金はなかった。実家の親の稼ぎでなんとか生活はしていたが、今でいう引きこもりのような感じだった。彼は生きているが、生きている心地はなく、若いのに未来を感じることができなかった。
残された生きている者が悲しい結果になることが多い。
これは死神が見た残された者によくあることだ。
死んだ人間に未来はないので、そこで列車は止まっている状態だ。
しかし、生きている人間は列車に例えるとずっと止まらずに生きていかなければいけない。葬儀などで忙しくしている時は無我夢中だが、全てが終わって自分と向き合った時に、現実を受け止められなくて自殺する場合もある。
フミは覚と会えなくなり、寂しい毎日を送っていた。
初恋を胸にしまって保育の勉強をした。
女子短大に進学してフミは資格を取るために授業に真剣に取り組んでいた。
優しい死神と出会い恋に落ちたけど、覚には運命の相手が既にいて、恋愛対象として見てもらえなかった事実。覚の仕事の丁寧さや優しさに心を打たれ片思いをしていたフミ。
松子との別れの後、フミは死神への想いを断ち切り、保育の道に進んだ。保育園に就職して、職場の同僚の紹介で出会った男性と結婚した。最初は死神への想いを切ることができず、出会いにも積極的ではなかったが、同僚はそんなフミにぴったりの人がいると熱心に説得した。職場の付き合いもあり、仕方なく喫茶店での待ち合わせに応じた。
覚ほどの美しい男がいるはずもないと思っていたが、現れたのは涼しげな目元をした、クールな印象の男だった。性格も穏やかで顔だちもきれいな人。死神との想い出も根気よく聞いてくれた。フミはだんだん会うのが楽しみになった。
のちに聞いたのだが、偶然保育園の前を通った時に散歩中のフミを見て、紹介してほしいと同僚に頼んだらしい。同僚とは偶然同じ中学校出身で、あまりの根気強さに根負けしたのが本当だとか。見た目とは別に熱いものを持っていたのが涼香の祖父だった。名前は涼介。祖父の涼という字から涼香は名前を一文字もらったらしい。
「涼介さんのことは、きっと覚さん以上に好きになったように思います。私のことを気に入ってくれた涼介さんはとても優しくて、今でも最高の夫だと思ってます」
フミの本音を聞くことができた涼香はとても嬉しそうな顔をした。
それを見た覚もとても嬉しそうな顔をした。
初恋の人ではなく、祖父が一番だというセリフは孫として涼香は嬉しかった。
涼介は若い時に亡くなった。
がんになり、孫に会う前に亡くなった。
発見されたのが末期だったため、抗がん剤をすることもなく、そのまま死ぬのをまった。言い方を変えると、死ぬまでできることをたくさんやって死んだ。その生き方にフミは感銘を受けた。死神がいなくても、自力でやりたいことをやって死んだ涼介の手伝いができたことはとても嬉しいことだった。永遠の別れだとしても、あの世で会えると以前死神の覚が言っていた言葉が励みになった。いつか、松子にも涼介にもまた会える時が来る。その日まで頑張ろうとフミは前向きに生きてきた。
「人間はたくさんのエピソードで構成されているんだ。どの人にも歩んできた道がある。それを知って死神はよりよい最期を提供する。今も変わらない」
至が説明する。響也はうなずいて聞いていた。以前響也が言っていたが、傾聴することは死神の仕事で一番大切らしい。人は聞いてもらうことで、ある程度満足度が上がる。
「松子さんの九十日は今まで立ち会った中でもかなり充実したケースだ。なかなかああうまくはいかない。実際、好きな相手がいないこともあるし、相手が合意していなければ、充実した時間は過ごせない。もし、松子さんが長生きしていたら、彼と共に過ごすという選択は未来永劫なかっただろう」
覚はしみじみと語る。
「賛平さんはどうしているの?」
気になる質問を涼香が投げかける。
「連絡はしていからわからないよ。きっと結婚して幸せに暮らしているかもしれない」
フミはあれ以来賛平とは連絡をとっていなかった。
「実はあのあと、賛平の担当になったんだ」
覚が話し始めた。
「松子さんと同じ病気で十年後に賛平は死んだ。それ以前も自殺未遂事件を起こしたり、賛平にとって松子との後の人生は良いことばかりじゃなかった」
辛そうな顔をする覚。それを聞いた皆が悲しい顔になっていた。
「大変な人生だったんだね。それを見守っていた覚さんも辛かったね」
ねぎらうフミの様子はとても温かなものだった。
若い頃の恋心とは別のもっと深い愛だった。
「好きな人と死に別れるのはとても辛いことなんだよ。残された人間の辛さは何度も見て来た。同じ人間はいない。死んだらかわりがいないからな」
フミは涙を浮かべていた。
実際配偶者に先立たれ、今は独身となったフミ。
至が申し出た。
「じいちゃん。フミさんといい想い出を作ってくれないか。フミさんはずっとあんたのことが忘れられなかったと言っていた」
「こんな私でいいなら、想い出にどこか行こうか。涼香と響也さん、歌恋さん至さんも一緒にね」
フミの申し出に、覚は柔らかな表情をした。覚もやはり美しい顔立ちだ。至も歳を重ねたらこうなるのかもしれない。少し表れたほうれい線も笑った時のしわも含めてとても美しかった。
「早速、今から少し出かけましょう。実はすごくきれいな場所があって連れて行きたいとずっと前から思っていたんですよ」
ずっと前ということは、覚はこの時がくることを予知していたらしい。
偶然ではなく必然とはこのようなことなのかもしれない。
「でも、私なんかのために申し訳ないですよ」
フミは申し訳なさそうな顔をする。
でも、どこか初恋の時代に戻ったみたいな表情だった。
「あなたの過ごしてきた時間を教えてください」
覚が優しく微笑む。フミはその言葉を聞いて嬉しそうな顔をした。
「さて、あんたも私の彼氏になったんだから楽しませなさいよ」
涼香はとても病とは思えないほど勝ち気で、今は死神のおかげで元気になっていた。
響也は優しく彼女をいたわりながらも尽くすつもりのようだ。
死神に仕える者として、その対象となる人間に精一杯の時間を与えようと響也は誓っていた。本当に涼香のことを好きなわけではないのかもしれない、演技なのかもしれない。でも、傍から見たらとてもお似合いのカップルだった。
「さて、お姫様に満足してもらうために俺はできることをやりますよ」
少し大人びている響也だったが、涼香とは歳の差もちょうどいいように見えた。
「私の彼氏になったんだから、ちゃんとしなさいよね」
「じゃあ、次回のデートのプランを考えておきます。今日はトリプルデートですから、先人の知恵にお任せします」
「いくらイケメンだからって調子に乗らないでよね。どうせ彼女いるんでしょ」
涼香はとても冷めていた。
どうせ顔がいい人に相手がいる。
フリーだとしても自分に振り向くはずはない。
ずっと病気という足枷をつけていたので、あまり前向きに物事を考えられない癖がついていた。
「恋人はいませんよ。今はあなただけです」
「私が死んだ後も、ちゃんと想っていてほしいものだわ」
「もちろんです。俺はあなたのことを一生忘れません」
「だいたい、響也は死神でもないくせにこんなことをするの?」
「遠縁で四神に仕える立場なので、至の手伝いをするのが使命なんです」
きりっとした響也の雰囲気は、まるで王子様が迎えに来たかのような華やかさと美しさを秘めていた。きっと相当モテているのだろうと思われる。でも、誠実な人だということはみんな知っているので、彼への信頼は絶大なものだと思う。
仕事も執事っぽいので、スーツが似合う背の高い男性はアニメに存在しそうなたたずまいだ。
「響也は学生なの?」
「今は大学で勉強中ですが、いずれ四神家の会社に所属して仕事をしたいと思っています」
「四神グループの社員なら将来安泰じゃない。いずれ、素敵な人と結婚するのね」
冷めた瞳で睨む涼香。
「一生しないかもしれません。あなたのことがよぎるので」
響也は凛とした表情で結婚しない宣言をする。
さらっと女性の心をくすぐるセリフが出てくる。
はっきり言って至よりも口がうまい。
そして、とても嬉しい顔をする涼香。
リップサービスだということはわかっているけど、なんだか嬉しくなる。
残された時間がわずかだからこそ、良い時間を過ごしたい。もしかしたら、死ぬなんてことは回避できるのではないかという錯覚に陥る。
響也の運転で目的地にたどりついた。
そこは光の幻想公園と呼ばれていて、七色の光が公園を映し出し、光の幻想と呼ばれている。少し離れた場所にあるため、あまり来たことはない。
夜に包まれた公園の木々は美しい光の中に存在していた。
美しい音楽がちょうどいい音色で公園内に響いていた。
音と光のファンタジーと書いてあるだけはある。
こんなに美しい世界があるのだろうか。
息をするのも忘れて見入ってしまう。
夜に包まれた寂しい夜はなかったことにされていた。
ライトアップされた木々は昼間よりも幻想的なものに見えていた。
湖も公園内にあり、水面に映る色合いがさらに幻想的に映し出されていた。
こんなにも美しく優しく深い世界があったのかとため息が出る。
このメンバーでこの場所に来ることができてよかったと皆が思っていた。
「ここは、大昔、賛平たちと来た場所なんだ」
「あの時は、ライトアップなんてなくて、静かな公園だった記憶だよ」
ここにはたくさんの人の想い出が刻まれているんだと改めて感じていた。
人間がいる限り様々なドラマがあって人間模様がある。それぞれに悩みも楽しみもある。人の数だけ物語がある。
「光の列車に乗ろう」
覚が指を差した先には小さな列車があった。それは、公園内にレールが敷かれていて、一周できるというものだった。間近で光を感じて緑を感じることができる一体感を大切に作られているらしい。光のシャワーを浴びながら、木々の芽ぶきを感じられる趣向はとてもロマンチックだった。水面に映る列車はなんだかとても不思議な感じがする。私たちは公園内を一周して戻るだけだが、人生は光の列車と同じような気がした。様々な体験をして行きつく場所は決まっている。元の場所に戻る。それは、死神と出会い、最後は死ぬという当たり前のことに似ていた。
「人生は列車のようなものだ。始発があって、終点がある。それは、死神族に取っても同じこと。人よりも倍生きるとしても、始まりがあって終わりがある。それは同じだ。あっと言う間だという一生だが、人間も死神も同じなんだよ」
覚が言うと説得力がある。やはり、生きてきた深みと長さが違うからかもしれない。
「俺は、歌恋と一緒に汽車に乗ってこれからを生きていく」
至が歌恋を見つめた。歌恋はいつものことながら、恥ずかしくなってしまい目を逸らす。至は歌恋の染まった頬をそっと撫でた。その瞳はとても優しく壊れないように丁寧に割れ物を扱うときのような感じがした。
「至と一緒の列車に乗って生きて行きたいと思ってる」
歌恋は初めて視線を逸らさずちゃんと応えた。
これからもずっと一緒にいたい。心からそう思えたのだから。
「実はフミさんには貸しがあってな。それを返したいと思ってるんだ」
覚がゆっくり話し始めた。
「貸しって?」
「結婚を取り消しされそうになった時、フミさんに色々アドバイスをしてもらったんだ。その結果花嫁に逃げられずに済んだから大恩人なんだよ」
苦笑いをする。そんな時代が覚にもあったらしい。
「諸君に話さなきゃいけないことがある。実は今回で死神を最後の仕事にしようと思っている」
思いもよらぬ覚の告白。死神の仕事を引退するつもりらしい。
「覚さん、辞めちゃうの?」
フミが驚く。
「今はたまにしか仕事はやっていないが、これを最後にする代わりに死神としての能力を最後に使うつもりだ。最後の担当になった者に命を吹き込もうと思う」
「命を吹き込む? そんなことができるの?」
涼香が驚く。
「花嫁が死ぬことになった時に、死神はその力を使う。だから、死神は花嫁と永遠に生きることができるんだ。死神が死んだときに、その効力は切れて、花嫁も同時に死ぬ。夫婦は永遠なんだ。至は今、死ぬはずだった花嫁に延命の力を使っている。死神として役目を終えるときに使うことができるのは、命を与えること。つまり延命措置だ。寿命が元々ない者に与えるので、どの程度生きられるかはわからない。つまり、涼香さんはこの世に生きるみんなと同じスタートラインに立つこととなる」
覚はイケメンな低音な声で丁寧に説明する。
覚の行いは至極イケメンだった。
「病気は? ずっと治らないんだよ」
「死神の命を与えるというのはリセットさせる力があるんだ。治癒させて、延命させる。その代わり能力を酷使するので、私の寿命はかなり縮むと言われているが、大丈夫だ。死神は元々長生きだから、普通の人間の倍は生きる」
涼香は信じられないような顔をした。
「じいちゃんは、これで引退するつもりか。少し早くないか?」
至も本当にいいのか確認する。
死神にとって引退は大きなことだ。
引退することは、死神自身の命が終わりに近づいている時だということも聞いていた。最後に命を吹き込むことで大きく生命を削ることになる。
「ずっと最後はフミさんのためと決めていたんだ。死神の最後は縁のある者に導かれると昔から言われている。至が担当になったのは必然だったんだよ」
「覚さん、最後に私の孫に命を与えてくれるのですか」
フミの目から涙があふれる。
「素敵なプレゼントをありがとうございます。死神の命を最後に与えてくれたのがうちの孫だなんて、なんてお礼を言えばいいのか」
フミと涼香にとっては最高のプレゼントだった。
「ありがとう。これで、あなたともお別れね。もう九十日の縛りはないのだし」
涼香は響也にお礼を言った。いつも高飛車なのに、この時ばかりは静かな物腰だった。実感が沸かないのかもしれない。
「俺は死神じゃないから運命の相手はわからない。赤い糸も見えない。でも、涼香と一緒にいたいとは思ってる。嫌じゃなければ、これからも連絡してほしい」
響也が涼香に想いを伝える。
「私は今まで病気のせいでできなかったことも多い。高校も行き直さないといけないし忙しくなるな。だから、連絡できるかどうかわからないよ。もっとあなたにあった人がいると思うし。あの偏差値の高い大学に行ってるなら、私みたいな高校に行ってない人間よりも響也にふさわしい女子大生とかいるんじゃないの?」
「それは遠回しに断っているのか? 俺はずっと恋愛なんてちゃんとしてきてないからいまいちわからないんだよ」
「私なんかよりも、もっと愛してくれる人がいると思うよ」
「俺はこれからも連絡します。もし嫌じゃなかったら、長生きしたその先で俺と仲良くしてくれませんか」
真剣なまなざしを向ける響也。
普通にかっこいい。
「どうしてもっていうなら考えてもいいけど」
「これは、連絡先です。いつでも連絡してほしい。もっと君のことを知ってみたいと思うから」
響也はクールで大人びた印象が強かった。
こんなにも熱くまっすぐで一途だとは周囲の人間も気づかなかった。
「別に私は知りたいなんて思わないけどね」
そういいつつも悪い気はしないという様子の涼香。
普通あのルックスの男性に真剣に迫られたら嫌な気はしないし、断るような女性はいないと思われる。それくらい完璧な美しさを備えていた。
気の強い涼香のことが気に入ったのか、響也はいつもになく積極的だ。
「友達からだったらいいけど」
「よろしくお願いします」
響也は涼香のてのひらをつかみ甲にキスをした。
その後、涼香が、熟れたりんごの如く真っ赤に顔がのぼせたのは言うまでもない。
男性免疫ゼロの純粋培養なのだから。
光と音色に囲まれて、それぞれのカップルは思い思いの会話をしていた。
覚はフミから覚が知らない時間の出来事を興味深く聞いていた。
亡くなった夫との出会い、出産、仕事、死別のときまで、夫の人柄やどんな出来事があったのかも話をしていた。
フミが昔好きだった相手である覚だが、時を経て、フミにとっては懐かしくも信頼できる相手となっていた。好きの種類が変化しているとフミも感じていた。
孫に死神の力を使ってくれた恩人。その孫は夫の子どもだ。その遺伝子をつなげてくれたのは覚だった。
覚もフミと会わない時間にあったことを話した。
時間が経ってもかけがえのない友達は変わらない。
こんなにも暖かでロマンチックな時間はなかなかない。
きっとこの景色も空気も忘れられない瞬間となると皆が確信した。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。名残惜しいけど、公園も閉園時間になり、解散して、みんなで自宅に帰る。
歌恋と至は手を繋いでいた。
一緒にいればいるほどもっと相手を好きになっていく。
同じ家に同じ車に乗って帰宅する。
二人はいつも一緒だった。
同じブランドの歯ブラシを使い、同じデザインのパジャマを着て最近は同じベッドで寝ることになった。
とは言っても、結婚するまで隣で寝るだけという約束だ。
たまにキスされることもあったし、頬と頬を近づけることはあったけど、それ以上の何かは求めて来ない。それは、至の律儀な性格もあるかもしれない。
歌恋がせめて高校を卒業してからと言ったので、歌恋の気持ちを大切にしたいという配慮があった。
至はそれでもいいと言ってくれた。少しでも長く隣にいたいから、一緒のベッドで寝たいらしい。普通の人間とは違うからなのかもしれないけど、至は忠実にただ毎日隣で眠る。
今ならば松子の気持ちが分かるような気がした。
好きな人の一番そばで最期を迎えたい。
好きな人の腕の中で眠るように死にたい。
「ねぇ、至。いつから私のこと好きだった?」
「一目見た時から、大好きだった」
目を合わせて、はずかしくなるような愛を囁く。
「そういうセリフって恥ずかしくないの?」
「歌恋の喜びが俺の喜びだ。なるべく傍にいたいんだ。寝顔見てるだけでご褒美だから」
初めて歌恋から至の唇にキスをした。
至はびっくりした顔をしたが、その後、歌恋の髪の毛を撫でながら、そっと囁く。
「ずっと俺のそばで支えてほしい。俺はあなたなしでは、もう生きていけそうもないから」
「ずっとあなたを支えさせてください」
二人の心が一番深く交わった瞬間だった。
死神というのは想像していたよりも、ずっと愛情が深くて優しくて美しい存在だ。最愛の人の一番そばにいられる歌恋は世界一幸せだと感じていた。




