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またこのパターン……。

 言うが早いか、彼は自分の腕を引きちぎる。


「じゃあ、これ、あげる」


 にっこり笑って、それを差し出す。


「……いいの?」


 泣いていた少年が、涙を止めて、顔を上げる。


「いいよ。僕は、人間じゃないからさ。こんなのいくらでも生えるんだ」


 化け物の顔と差し出された腕を交互に見て、人間の少年はおそるおそる手を伸ばす。


「重いから気を付けて……」


「う、うん……」


「要らなかったら、捨ててもいいし」


「要らないなんて……」


「要らなくなったら、ゴミだから」


「……」




******


「とか言ってたのが、現実になるなんてなぁ」


 ニヒルな笑みを浮かべて、化け物が言う。


 見た目はあの頃と寸分違わず、若々しいままを保っている。


「そう言ってやるなよ。こいつだって随分役に立ってくれたんだから」


 名残惜しそうにしながら、人間の青年が古い腕を見つめる。


「これを君がくれなきゃ、僕は今頃……」


 ” この世にいない―― “


 そう言いかけた言の葉を寸でのところで、口の中に押し留める。


 永い時を生きる友に、その言葉はご法度だ。まして、自らの腕を何の躊躇もなく、人間に与えるような“ 化け物 ”に。


「で、もう要らないわけだろ? いつまで、大事に抱えてんだよ」


「ちょっと待って。最後の挨拶してるところだから……」


「腕に?」


「そう。腕に」


「……ふぅん」


 化け物は納得いかなそうな顔をしつつも、邪魔はしない。

 人間の友を長年見てきた薬効で、人が妙なものを大切にするのには慣れたようだ。


「ありがとう。ずっと……そばにいてくれて」


 胸に抱きしめた、もう動かなくなった“自分だったモノ”。


 共に旅してきた日々が、自然とまぶたの裏に浮かんでは消える。


「もういいか。あんまり長いと……」


「うん。はい」


 もらった時とは、反対に。


 僕から君へ。“ 君だったモノ ”を、壊れないようにそっと渡す。


「ん」


 言葉少なに応じて、化け物は左手に青い炎を生み出す。


「そんじゃ、おつかれさん。あの世でも達者でな~」


 気軽に言って、右手に持った腕に青い炎を引火させる。


 炎の先が触れた瞬間、腕だったものは一瞬にして黒焦げの灰になる。


 パラパラと地面に落ちる灰が、青い炎に照らされて、キラキラと光る。


「……逝ったね」


「そう、だな」


「……んでさ」


「あぁ」


「これ……。こんなに散らかってさ……」


「うん……」


「どうすんの?」


「ほっとけばいいだろ」


 一瞬の沈黙。


「それ、ダメじゃない?」


「灰、になったんだ。別に悪いもんじゃねぇし」


「うん……、そうなんだけど、そうじゃなくて」


「……人間世界のルール的に、問題なワケ?」


「ポイ捨て……。不法投棄……。懲役……」


「……」


 化け物は改めて、地面に散らかる灰を眺める。


「……拾うか」


「そうだね」


 言うが早いか、化け物は自分の服が汚れるのも気にせずしゃがみこむ。


「先に言え、とか言わないの?」


 おそるおそるといったテイで、人間が聞く。


「言わない。思ってるけど」


「そう」


 人間も、そっと化け物の後ろにしゃがみ込む。

 ……何故か、頬杖をつくような体勢で。


 不穏な気配を感じて、振り返るも時すでに遅し。


「頑張ってね、拾うの」


「お前なぁ……」


 長い付き合いになっても、本当にこういうところは変わらない。

 胡乱な目をして、相棒の胡散臭い笑顔を眺める。


「ふふん」


「腕をやった恩義を忘れたわけじゃあるまいな?」


「腕? うーん、そうだね、ありがと。でも……もう灰になっちゃったから」


 さも“ 君のせいだよ ”と言わんばかりの態度。何でも出来るくせに何にも出来ないムーブをかますその神経。


『これだから、人間の友人は……』


 急に故郷が懐かしくなる。

 故郷にいる時、こんな変な生き物はいなかった。

 それなりに礼儀のある、少なくとも、落ちた灰を一緒に拾うくらいの気を回せる奴ばかりだった。


『これだから、こいつという人間は……』


 きっと、こいつだけだ。こいつだけに違いない。

 変に脅すようなことを言って、周囲を不安の渦に陥れ、本物の悪党を善人に変えてしまう。


 純粋なる、人間という名前の、悪魔。

 天使のような顔をして、やることは全て悪魔の所業。


「はー。分かった。俺が拾えばいいんだろ。燃やしたの俺だから。でも、お前は大人しくしてろよ? くれぐれも、邪魔は……」


 きらーん。



 おかしい。聞こえないはずの効果音が聞こえる。

 俺はまだ、そんなに耄碌していないはず……。たとえ100年超生きていたとしても、まだ俺は若い括りのはずで……。


『フリ、なんだよね!?』


 わくわくしている声がする。

 ワクワクしてる、音がする。


『あー、もうマジで……』


 これから来たる大波乱を予感して、俺の身体が先に脱力する。

 言って聞くような相手じゃない。


『はいはい、了解。もうそれでいいよ』


 こいつとつるむと決めた時から、波乱なんて日常茶飯事になると――とうに決まっていたんだから。


化け物「……俺の方が、人間だと思う。真っ当な、人間だと思う」


人間「え? 腕が無限に生えてくるのは、生物学上、そして医学上、人間じゃないよ?」


化け物「……事実だけで語りやがって」


人間「事実が大事って、家族が言ってた」


化け物「……化け物か」

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