職人のゴミを押し返せ!
1.
我が家が長年利用していたゴミ収集所があった家が、ある日とうとう取り壊された。
古い木造の平屋で、戦後すぐに建てられたような佇まいだった。
その跡地に、ある男が鉄筋の賃貸マンションを建てた。
三階建ての建物だが、白いタイル張りの外壁がやけに新しく、周囲の古い住宅街の中でひときわ浮いて見えた。
髪の毛がモジャモジャで、服装にも無頓着な、どう見ても冴えない風貌をした男が、このマンションのオーナーだった。
それまで使っていた住民が困るだろうと考え、マンション敷地内に設けたゴミ捨て場の使用を、近隣の数軒にだけ特別に許可した。
許可を得たのは5軒ほどの家で、うちもその中に含まれていた。
もっとも、私は最初、そのルールや分別の仕方をまったく知らず、出鱈目な捨て方をしていた。
袋の色も違えば、曜日も無視していたのだ。
ある日の午前中、その男が突然うちの玄関を訪れた。
ドアを開けると、彼は無精髭のまま立っており、神経質そうな目で私を見据えて言った。
「マンションのオーナーです。区役所に言ってもだめで、もう収集所を廃止しようと思ってるんです」
私は驚いて答えた。
「うちは許可をもらってますよ」
彼は即座に首を横に振りながら言い返した。
「許可してません」
私は一瞬、オーナーが世代交代でもしたのかと思った。
「じゃあ、誰が許可したの?」
わたしは母に尋ねた。
「わたしが許可したんです」
彼は声を上ずらせて認めた。
母が冷静に、誰が許可をもらっているかを彼に教えた。
男は一瞬、顔を歪めて私を睨みつけ、そのまま何も言わずに踵を返した。
確かに、私は分別の仕方を知らなかった。
それ以来、清掃事務所のパンフレットを何度も読み込み、燃えるゴミと不燃ゴミ、プラスチック、ペットボトルの区分を徹底的に覚えた。
男が文句を言いに来ることはなくなった。
2.
ところが、ある日のことだった。
私はいつものようにポリ袋を手にマンションのゴミ置き場へ向かった。
まるで待ち伏せしていたかのように、銀色の軽自動車が横から割り込んできた。
運転席のドアが開き、中から見知らぬ女が降りてきた。
彼女は眉間に皺を寄せ、鋭い声で言った。
「なぜ、マンションの住人でない人がゴミを捨てるんですか?」
私は落ち着いた調子で答えた。
「それは特別に許可を貰っているからです」
その女は、あらかじめ事情を知っていたかのように、淡々とした口調で言い放った。
「このマンションは、不動産屋さんが買いました。不動産屋さんに許可を貰ってください」
私は驚いたふりをして声を上げた。
「売った?じゃあ、この集積所はどうなるのか?」
実のところ、すでに別の「手段」を用意していたのである。
私はその「もう一つの方法」で、ゴミを捨てる手続きをとった。
あの女がタイミングを見計らって現れたことからして、彼女が不動産屋の回し者であることは疑いようがない。
マンションの住人なら、外からわざわざ車でやってくる必要などないからだ。
やがて、マンションのゴミ集積所には「マンション居住者専用」という白いパネルが貼られた。
マンションには管理人が常駐するようになった。
だが、このままで済ませるような私ではない。
静かに、次の一手を考え始めていた。
3.
マンションからわずか10メートルしか離れていない空き地に、4軒の一戸建てが新しく建てられる予定になっていた。
その土地は工事が始まってからというもの、毎日のように大工や職人たちが出入りする。
ところが、我が家の敷地は周囲の道からは少し奥まっていて、通りからは死角になる位置にある。
彼らは人目を避けるように、我が家の塀の陰や裏道でたむろし、タバコをふかしたり、飲みかけのペットボトルを平気で放り捨てるのである。
私は自分の家の門扉に一枚の張り紙をした。
「みだりにうろつき、タバコのポイ捨て、ペットボトルの置き捨てなどの非行を為したるものは、社員、家族、子孫を含め、厳罰に処する」
張り紙を見て、今度は家を建設中の大工や職人たちが、マンションの駐車場に集まり、そこでタバコを吸うようになった。
マンションの管理人が慌て、私の家を見に来たようだ。
マンションの駐車場には、「NO SMOKING」と貼り紙がしてあった。
私も英語には自信がある。
だから同じ内容の警告文を、英語でも書いて門の横に貼り出した。
その効果は思った以上だった。
いつの間にか、犬の散歩で立ち寄る者さえも近づかなくなっていた。
これまでこちら側に投げ捨てられていたゴミや迷惑行為を、きれいに押し返した形になったのだ。
マンションの管理人は神経をすり減らし、ノイローゼ気味になったようだ。




