第23球 ビーチ In サッカー⚾
「ふふん、四天王のうち3人をまとめて倒せる日が来るなんてね」
「まーた、宮根ちゃんか……」
突然始まったビーチサッカー対決。
桜木さんが面倒くさそうに話している相手は、次期生徒会長の椅子を狙っている2年生の宮根沙耶。彼女はかなりの人気者らしいが、四天王に入れなかったことを逆恨みにしているらしいという噂を聞いたことがある。
「5人目を太陽、お願いね」
月がニコッと僕に微笑む。
なぜ僕?
大勢の女子生徒の視線にさらされて、ちょっと気持ちが悪くなってきた。
この対決に至る経緯を思い出してみる。
オリエンテーション遠足当日。
学校の前に貸し切りバスが何台も停まっていて驚いた。
一度教室で出席を取った後、すぐにバスへと移動した。
中学時代は、陽キャたちがバスの後ろを占拠し、普通の生徒は前の方に追いやられていた。そして僕たち雑草軍団は、先生と一緒に座るか「第3の席」と呼ばれる折り畳みの補助席によく座っていたことを思い出す。
今日もまた教師の隣だろうと思っていたら、いちばん後ろに座っている亜土に「太陽、こっち来い」と言われて、まさかのクラスのキングが座る最後尾席に座ることができた。
先生からの連絡によると、おやつは1,000円までで、高校生らしい豪華なお菓子が揃えられてうれしい。でも、亜土だけはさらに特別に3,000円分のお菓子を持ってきてもいいと先生に許可されたらしく、日帰りの遠足なのに大きなリュックが座席の前に置かれている。
「亜土さん、志良堂くん、今日は対抗試合とか色々あるからよろしくね」
「……わかった」
「はっはい!」
亜土の隣に座っているクラスの女子が僕と亜土に話しかけてきた。野球部のメンバーや野球に関係する女子以外で初めて話しかけられたのでちょっと驚いた。しかも、クラスの女子が僕をクラスメイトとして認識して名前まで覚えてくれていることに感動した。
ビーチに向かうバスの中では、多くの女子が亜土にお菓子をあげていた。なんだか、亜土はこのクラスの守り神みたいに扱われている。亜土はもらったお菓子をモグモグとずっと口を動かしていた。
目的地に着くと、さっそくクラスごとにどの競技に参加するのか話し合いが始まった。
学校の前に止まっているバスの台数がやけに多いなと思っていたら、2年生や3年生もいる。これって学校全体の行事だったんだ。
僕と亜土は「綱引き」と「ビーチハンドボール」に参加することになった。ビーチハンドボールはすぐに負けてしまったけど、各クラス10人で対戦する綱引きでは僕たちのクラスが校内優勝を果たした。
「えーこれから、部活動対抗ちゃッカーを始めまちゅ」
四天王のひとりである天雲六伽生徒会長が、マイクスタンドに背伸びして一生懸命話している姿を見て、キュンとしすぎて気絶……略してキュン絶した生徒がまわりで次々と倒れていく。
「お待ちください! 天雲さま」
2年生の列からひとり飛び出して生徒会長に近づいていく者がいる。
「あれって宮根沙耶先輩でしょ? いつも四天王に負けてるっていう」
「しぃーーっ!? 聞かれたら目をつけられるよ?」
僕はクラスの1番後ろに立っていて、前の女子たちが小声で話しているのが聞こえた。
「どうちたでちゅか?」
「私たちサッカー部と野球部が勝負することをお許しください!」
「野球部の方はどうでちゅか?」
宮根さんって、生徒会役員でありながらサッカー部にも所属しているらしい。
全校生徒が見守る中、西主将はアワアワと焦ってテンパっているのが見えた。西主将に決めさせるのはちょっと酷だと思う。
「わかりました。その勝負受けます」
「月が出るなら、あたしも出ます」
やっぱり月が返事をした。月に続いて火華も手を挙げる。
「自ら手を挙げるとはいい度胸ですわね、天花寺さん」
「どちらさまですか?」
彼女は昨年卒業した四天王の代わりに自分がなれると思っていたらしく、1年生で四天王になった月に逆恨みをしていると僕の前にいる女子がコソコソと話しているのが聞こえた。
「なっ……アナタ四天王だからって調子に乗ってるんじゃないわよ」
火に油を注ぐどころか、爆弾の導火線に火をつけてしまった。
「まったく、しゃーないね、アタイも参加するよ」
「もちろんボクも出よう」
クラス対抗のハンドボールで圧倒的な強さをみせた桜木さんと、ビーチフラッグで個人優勝した水那さまが手を挙げた。どうやら同じ2年生の暴走を止めてくれるみたい。
ってことは、あと一人は西主将か林野さんかな?
って、あれ? 5人目が名乗り出てこない。
西主将はうつむいているし、林野さんはまるで野球部じゃないみたいに平然としている。安室さんや喜屋武さんは桜木さんに向かって腕でバッテンを作って出場を辞退している。亜土は……なんか無心でお菓子を食べているし、時東さんもいつも通り青ざめている。
「5人目を太陽、お願いね」
月がニッコリ微笑んで僕に言った。
「その子の噂は聞いてるわよ」
周りの視線が痛い。
宮根沙耶が僕に向かって話しかけてきたので、周囲の視線が僕に突き刺さる。どんどん気分が悪くなっていく僕にトドメを刺してきた。
「全然たいしたことないそうじゃないの」
う……もうダメかも。
吐き気が一層強まる中、意外な人物が僕を擁護してくれた。
「宮根センパイ、お言葉ですが、コイツは案外頼りになるヤツです」
火華……。いったいどうして?
「以前、フットサルを一緒にやった時に覚醒したんです」
そういえばそんなことがあった。火華の中学時代の同級生たちとフットサルをして、動けるようになった。
「覚醒? あなた、アニメの見過ぎじゃなくて?」
火華って、年上の美人な人にはおとなしい。今も優しく言い返している。
「ふん、そんなに馬鹿にするならアンタが試したらいい」
林野さんが話に入ってきた?
彼女は野球部の他のメンバーには関心を持たないはずなのに……。
「よろしくて? アナタたちが恥をかくのではなくて?」
「フフッ、よく噛みつく子犬みたいで可愛いね」
「なんですって!? 源水那。四天王だからってエラそうに!」
「源ちゃん、宮根ちゃんを煽らないでやって。ほら? 色々面倒だし」
「桜木茉地、アナタも許さないわ……」
水那さまも桜木さんも、特に悪気はないようだが相手を煽っている。これはもう対決を避けるのは難しいかも。
「いつまで話してるんです? さっさとくだらない試合を済ませましょう」
「天花寺……アナタ、1年生の分際でよくも!」
「年齢は関係ありません、私は野球部の仲間を侮辱したあなたを許しません」
終わった。
完全に勝負をすることになった。
それにしても、みんなって、僕が侮辱されたことに怒ってるのかな?
九家学院女子サッカー部は、野球部よりも実績があって、過去には県予選大会で優勝したこともある強豪チーム。そのサッカー部のレギュラーの中から、選りすぐりのメンバーがこの対戦に臨むようだ。もちろん、2年の宮根沙耶もこの5人の中に入っている。
「審判は私がやります」
天雲生徒会長。美術部なのにビーチサッカーの審判ができるんだ。
「あ、あのー、ビーチサッカーのルールについてですが……」
試合前に時東さんが、ちょっと遠慮がちに声をかけてきた。
サッカーのルールもそこまで分かっているわけではないが、ビーチサッカーはルールが多少違うらしい。
まず1チームは5人だということは元々知っていた。だけど12分×3回だったり、タッチラインを出たらスローインかキックインを選べたり、オフサイドがないのは知らなかった。プレーの再開は4秒以内にしなきゃいけないってというのも気をつけないといけない。
時東さん、頼りになるけどなんで知ってるんだろう?
とりあえず最低限のルールを覚えただけで試合が始まってしまった。試合は簡易なものとし、12分の2回となる。
なるほど。
これはサッカー部が有利だ。
サッカーでいうゴールキーパーであるGKをしている僕は後方から両チームの動きを分析する。
FWの桜木さん、MFの月と水那さま、DFの火華。どのポジションでも相手が優位でなかなかボールを奪えず苦戦している。地面が芝だったら状況も変わるかもしれないけど、砂地だとそうはいかないみたい。
サッカー部のシュートが容赦なく野球部チームのゴールに襲いかかってくる。
でも、GKは僕がやっている。以前、フットサルで学んだゴールキーパーのコツを活かして、片っ端からキャッチしたりパンチしたりしてゴールを守る。でも、折り返し前の11分過ぎに波状攻撃を受けて1点取られてしまった。
「フゥー、サッカーと違って難しいさね~」
「ボクの俊足も見せられないね」
前半が終わり、後半戦が始まる前に軽く作戦会議をする。
いつになく弱気な桜木さんと水那さま。でも大丈夫。この12分間でビーチサッカーの攻略法を見つけたから、それを4人に説明した。
「了解」
「知ってるなら早く言えよ」
「いや、サッカーと違ってタイムアウトがないから」
月は納得したけど、火華に文句を言われた。でもしょうがない、プレー中に大声でアドバイスをするわけにもいかないし。
僕がアドバイスしたのは、ドリブルは小股で細かくタッチして進めること、ボールはなるべく浮かせてコントロールすること、砂地である特性を利用して1対1でプレスして、パスルートを塞ぐことの3点。
前半では、相手が空中に浮かせたボールでいいようにやられてしまったけど、こちらも真似すればいい。ただ、僕のアドバイスは普通ならかなりの練習が必要だけど、彼女たちだから即興でこれを可能とした。
守備の方は幾分かマシになったぐらい。でも、攻撃の方はすごく鋭さが増した。
後半3分。空中に浮かせることによってパスがつながり、シュートコースが開いた瞬間、桜木さんの弾丸シュートが相手ゴールに突き刺さった。続く7分には月が自分でフワフワとボールを空中でトラップして、2人を抜き去り、GKの頭を越えるように浮かせたボールでゴールを決めた。試合終了1分前には水那さまが、砂地での走り方のコツを掴んだみたい。ボールを前方高めに蹴り上げて、自分をマークしていた相手を抜き去り、自分で上げたボールに追いついてヘディングでトドメの1点を加えた。試合の笛が鳴った時点で3対1と野球部が逆転して終わった。
「きぃぃぃ! くやしいぃぃぃっ!?」
「フフッ、くやしがっている姿も子豚ちゃんみたいで可愛いよ」
「源ちゃん、子豚は失礼だって、せめてコウモリくらいにしてあげないと」
「サッカー部の実力はわかりました。もう結構です」
宮根さんがくやしがっている。
3人とも悪気はないんだろうな。でも煽りに煽って、宮根さんは「フヌヌヌヌッ!」と自分の袖を破けるかと思うぐらいガシッと噛みながら、鬼のような形相で3人を睨んでいたが、水那さま、桜木さん、月のトドメの言葉を聞いて「うわぁぁぁぁん」と泣いてどこかに消えていってしまった。




