ゼラの料理旅
戦いが終わり、王都の空が静けさを取り戻した頃。
ゼラは一人、南へと歩を進めていた。向かうは、自らの故郷――トーラ族が暮らす山岳の村、ナグリ高地。
この地は、かつて彼が幼いころに追われた村でもあった。
今では新しい族長が治めており、風通しの良い空気に変わりつつある。
オッサンとミュリカに別れを告げたとき、ゼラは言った。
「また会うさ。今度は、ちゃんと“うまい”って言わせる料理を作ってな」
彼が弟子入りしたのは、「ヤリハの屋根裏」と呼ばれる古い山小屋酒場。
店主は初老の獣人、シカ族の料理人「ボラ」。角を削ぎ、鍋を振るうその姿は、武道家のようでもあった。
最初の一ヶ月、ゼラに与えられた仕事は――
・山菜を摘む
・川魚を捌く
・大鍋を洗う
・食材を運ぶ(背負子で峠越え)
毎日泥だらけ、火傷と筋肉痛に耐える日々。
だが、ゼラは一度も文句を言わなかった。
「黙ってやる」その姿勢は、次第に周囲の信用を勝ち取っていく。
最初の料理当番のある日。
ゼラが出したのは――
「……焼いただけの肉と、塩。あと米」
無言で食べる客たち。
口にはしないが、「マズくはない」――ただ、それだけだった。
その夜、ボラは語る。
「料理ってのはな、味より先に“記憶”なんだよ。
一口で“誰か”を思い出させる……そういうもんを目指せ」
ゼラは考える。
自分が思い出したい“誰か”とは。
そして、誰かに“思い出させたい味”とは。




