いざ王都へ。語られる真実とは
異形の王を討った三人は、道中で各地の異変が収まっていく様を目にする。
魔物たちは減り、暴走していた魔力も落ち着き、人々は平穏を取り戻し始めていた。
王都へ入ったオッサンたちは、民衆に歓声を送られる。だがオッサンの表情は曇ったままだ。
「俺は帰りたいわけじゃねえ。知りたいんだ。この異世界に呼ばれた理由を」
王宮は薄暗く、白金の装飾と冷たい静けさが重苦しい。
謁見の間の王――若く、美しいが、どこか生気のない存在が、オッサンを出迎える。
彼の名は「神永晴樹」
その王は語る。
かつて“異世界勇者”として召喚された日本人。オッサンと同じく「神永晴樹」を名乗っていた男。
幾度も戦い、幾度も死に、魔術による再生を繰り返した彼は、不死に近い存在となる。
しかし代償として心は蝕まれ、自我を喪失し始める。
――勇者として世界を救うたび、“何か”が壊れていった。
ついには、自らの存在を補完するため「過去の自分」、
記憶の中にあった“本来の自分”――つまりオッサンを、召喚させるに至った。
「君は、私の最後の影。意思を持った“終わりの勇者”だった」
背後に控えていた「首無し騎士」が進み出る。
その正体は、王の忠臣であり、かつての王国騎士団長。
人間でありながら王の暴走を止めようとし、反旗を翻した男。
だが、不死身となった王に敵わず、王に“呪い”を刻まれた。
身体と意思を奪われ、「夢の中で勇者を殺し、異世界に送り込む儀式の道具」となった。
「私はあの日、死んだ。だが、せめて願ったのだ――いつか“本物の人間”が、王を止めてくれることを」
オッサンに対する深い謝罪と、
召喚によってこの世界へ連れて来られた罪を、自らの身で償うことを誓う。
「私は、あなたを呼んだ。けれど……その代償が、あまりに重すぎた」
ミュリカとゼラは、この重い真実に言葉を失いながらも、
首無しの騎士を責めることはしなかった。
ついに限界を迎える王の身体。
再生魔術の反動で細胞は崩壊し、肉体が異形と化し始める。
「私は勇者だった。だが、神に近づきすぎた。……それが罰なのだろう」
王は言う。
「君に私のすべてを託すつもりだった。だが、もうそれも不要だ。君は君のまま、歩めばいい」
最後に微笑みを浮かべる王。
その肉体は、魔力の奔流に焼かれ、静かに崩れ落ちた。
「生きてくれ、旅人よ。私は“君”になれなかったが、君は“君自身”になれ」
首無し騎士は静かに跪き、王の亡骸を抱きしめ、そして消える。