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恋愛小説集【企画ものも含まれます】

変わり者の令嬢は警邏隊員を困らせる

作者: ありま氷炎
掲載日:2024/11/14

 

 何をもって虐げられているというのか。

 なぜ黙っているのか。

 それが不思議。


「その手、どうしたの?旦那様に?それはよくないわ。警邏隊を呼んであげる」


 私は街で虐げられているような子を見たら、声をかけるようにしている。

 この町の警邏隊は腐っていない。

 正義の味方だ。

 だから、こういう問題には真摯に対応してくれる。


「また、あのお嬢さんだぜ。いい加減にしてほしいぜ」


 しかし不満な隊員もいて、小さいことは自分で解決しようと思っている。

 例えば、


「恥知らず。なぜ私があなたのような妹を持たないといけないの?」


 貴族にはいろいろな事情がある。

 異母姉妹などは多く、争いも絶えない。

 対等に争っているのであればただの兄弟、姉妹喧嘩。

 だけど、どうみてもいじめているだけのような場合は、口を出す。


「その言い方はよくないと思うわ。サルナルド男爵令嬢」

「また、あなた?私の家の問題に口を出さないでくれる?」


 この姉妹を見るのは今回で三回目だ。

 妹はいつも質素な格好をしていて、びくびくと姉の傍を歩いている。

 調べてみたけど、どうやら、妹は踊り子の子で、踊り子の母親が死んだことによって家に引き取られたみたい。

 磨けばとても輝きそうな見た目の妹、サルナルド男爵令嬢は嫉妬しているのだろう。

 だから彼女に合わないドレスを着せ、その美貌を隠そうとしている。


「サルナルド男爵令嬢。妹さんを私の屋敷で雇っていいかしら?」

「雇う?面白そうね。いいわ。あなたには使用人がふさわしいから」


 雇うといえば、すぐに話に乗ってくると思った。

 予想通り。

 この人は妹が落ちぶれる姿がみたいだけ。


「それでは、今から妹さんを借りるわね」

「今?」

「そう。自己紹介、まだだったわね。私はカルファリシアのシルヴィア。何かいいたいことがあれば屋敷にきて」

「か、カルファリシア?!失礼いたしました。シルヴィア様」

「名前で呼ぶなんて失礼だわ」

「申し訳ありません」


 深々と頭を下げる令嬢を置いて、私は妹の手を引くと歩き出した。


「あ、あの」

「後で説明するわ」


 そう言って、私は彼女を警邏隊の駐屯所に連れて行った。


「シルヴィア様!」


  私の姿をみると警邏隊の多くが嫌そうな顔をする。

 ジェイクもそう。

 だけど、連れがいるとわかったら急いでやってきた。


「その人、誰ですか?」

「サルナルド男爵令嬢よ。姉にいじめられていたから連れてきたの」

「またですか?なんでもこちらに問題を投げるのはやめてほしいです」

「ひどいわね。今回はこの子はうちに連れていくから大丈夫よ。家から迎えが来るはずだから、こちらに来ただけ」

「引き取る?令嬢を?また難儀な」


 ジェイクは眉を寄せてうなる。

 それを見て妹のほうは不安そうにうつむいた。


「ジェイク。この子を悲しまさせないで。ほら、見て。この子。がりがりでしょう?多分、家でも食事を満足に与えられてなかったはずよ。これでも何か文句あるの?」

「ありません」


 ジェイクは文句を垂れるのをやめると私を事務所に案内した。それから迎えが来て、私は妹エイミーを屋敷に連れて行った。

 エイミーのことを私は侍女として雇った。けれども教育を受けさせるようにして、将来的にどこかに行きたいならいけるようにと思った。

 貴族と結婚するならば、教育は大切だ。

 もし平民を選ぶならあれだけど。


 一か月後、私は彼女を連れて警邏隊の駐屯所を訪れた。

 するとジェイクたちの驚いた顔。

 磨けば綺麗と思った彼女はやっぱりそうだった。

 しかも性格もおとなしくて、深窓の令嬢がいればエイミーのような人だと思う。


「あの時はありがとうございました」

「別に、俺は何もしてないし」


 エイミーが頭を下げると、ジェイクは頬を赤くして首を横にふる。

 胸がチリっと痛む。

 ジェイクがそんな風な態度を取るなんて。


「シルヴィア嬢。本当に良いことをしましたね。あの時とは大違いだ」


 ジェイクはにかっと私に笑いかける。

 彼の飾らない笑顔が好きだった。

 けれども、頬を赤くした彼の印象が強くて、彼の笑顔もなんだか薄れてしまう。


「今日も街を見てくるわ」

「シルヴィア嬢。一人では危ないから。俺が一緒についていきます」

「必要ないわ。エイミーの傍についていて」

「いや、俺じゃなくても」

「はいはい!僕がエイミー様の傍にいますからご安心を」


 ジェイクが言い終わらないうちに警邏の隊員の一人がやってきた。


「ほら、俺がいなくてもいいでしょう?さあ、シルヴィア嬢。行きましょう。今日はどんな問題が転がっていますかね」

「面白そうに言わないで」

「すみません」


 なに。

 ドキドキする。

 ジェイクと一緒に歩くのは初めてでないし、これは私の警備。仕事よ。

 私のお父様に怒られるから。

 私のお父様は警邏隊の隊長へルヴァン様の幼馴染。だから私がこうして街に降りると警邏隊を頼る。前はへルヴァン様がいるときだけだったけど、ジェイクと知り合いになってから、いつでも来れるようになった。

 だけど、ジェイクがいる時だけど。

 お父様はジェイクだけは信用しているみたい。


「こら!」


 万引きしている子供が、ジェイクを見ると逃げ出した。

 警邏の制服着ているから、捕まるんだと思ったのね。


「お嬢様、ちょっと」

「え?」


 突然抱き上げられた。

 まるでお姫様のように。

 そうして彼は走り出す。


「なんだ、あんた!それで俺を捕まえられると思ったのか!」


 スリをした子供がぎょっとして叫ぶ。


「試してみるか?」


 ジェイクは私を抱きかかえたままなのに、子供に追いついた。


「え、待って!」


 両手が私によってふさがれたジェイクの取る行動は一つで、彼は子供を足蹴にした。

 子供は転んで、とても痛そうだった。


「離して!」

「あ、うん」


 ジェイクはあっさり私を地面に卸してくれた。

 駆け寄ろうとしたけれども、子供は元気そうだ。すぐに地面から立ちあがる。


「ほら、もう終わり」


 ジェイクは一瞬で子供に歩み寄り、両手を縛り上げ、そのポケットからお金の入った布袋をいくつか取り出す。


「一つ、二つ、三つ!三つか!」

「離せ!」

「駐屯所まで来てもらうぞ」


 暴れる子どもあっさり捕まえて、私たちは駐屯所に戻ることになった。


「まあ」


 転んで傷ついた子供を見ると、エミリーがすぐに怪我の手当てをし始めた。

 こういうところもエミリーは素晴らしい。

 ジェイクも驚いたように、エミリーを見ている。

 その横顔を見ていると、やっぱり胸がちりっと焦がれる。


 子供は母親が病気で、そのために治療費が必要でスリをしているらしい。

 でも犯罪は犯罪。

 彼の年齢でも働けそうな場所を探そうしたら、駐屯地の厨房が下ごしらえをする子を探していたらしく、すぐに彼は採用された。

 彼の盗んだお金は駐屯所が預かり、持ち主に返すようだ。

 持ち主はこの子の証言をもとに、簡単な人物画を隊員の一人に描いてもらった。


 それからも、私はエミリーと一緒に駐屯地にきた。エミリーは駐屯地に残り、私はジェイクと出かける。問題はいつも起きるわけじゃなくて、何もない日は一緒にお茶を飲んだりした。


「私、おかしいかしら」

「どこかですか?」

「ほら、こうやって街に出かけて問題を探すこと。私はなぜか虐げられている人を見ると助けたくなるの。もしここで私が助けなければもっとひどいことになるから」

「そうなんですね」

「おかしいわよね」

「いいえ、おかしくないですよ。シルヴィア様のそういうところ好きですよ。俺」

「ジェイク。私はこういう事を真顔でサラっと言えるあなたが苦手よ」


 最近彼はこういうことを言ってくる。

 嬉しいけど、とても困る。


「シルヴィア様はまだ婚約者がいないとか。俺じゃだめですか?」


 そんなことたくさん考えたことがある。

 だけど、彼は平民だ。無理。


「俺、隊長の養子になろうと思っているんです」

「へルヴァン様の?」

「そうです。そうすれば、俺も貴族だ。だから大丈夫でしょう?」

「ジェイクは、それでいいの?というか、なぜ私を?」

「シルヴィア様は可愛いです。なんていうか、最初から可愛いなあと」

「可愛い……。私が?」


 可愛いなんてお父様以外に言われたことがなかった。

 私は社交界ではどうやら鉄の女と呼ばれているらしいし。


「本当は、シルヴィア様が平民になってくださるとうれしいのですが、それは隊長が泣いてらっしゃったので無理です」

「へルヴァン様が、泣いてらっしゃった?」

「へルヴァン様が、怒られるから、それはやめてくれって泣いてました」


 お父様……。

 きっとへルヴァン様に何か言ったのだわ。


「だから、俺は頑張って貴族なります。だけど警邏はやめたくない。隊長みたいになりたい。シルヴィア様とも一緒にいたいです。だめでしょうか」

「だめじゃないと思うけど。本当に、ジェイクはいいの?私で、エイミーじゃなくて?」

「どうしてそこにエイミー様が?」

「だって赤くなっていたじゃない。私の時は違ったのに」

「それはまあ、仕方ないことです。あの変わりように驚かない人はいないと思います」

「そうね。でもエイミーじゃなくていいの?」

「はい。俺はあなたがいいです。シルヴィア様」


 ジェイクは微笑むと、私の手の甲を取り、キスを落とす。


「ジェイク!」

「予約です。待っててください」


 それは彼の宣言だった。

 へルヴァン様の養子になって彼は、お父様に挨拶にきた。

 挨拶の数時間でげっそりやせたへルヴァン様とジェイク。

 だけれども、私は無事に彼の婚約者になった。


 社交界の噂はよくない。

 だけど構わない。

 私は結婚してからも、ジェイクと一緒に街を歩き続け、問題を解決して歩く。

 解決は余計なお世話だったかもしれない。

 だけど、もしかしたら、その人の救いになったかもしれない。

 

 最初は私の結婚は嫌な噂話しかなかったけれども、私たちの活動が陛下の耳に入ったあたりから、風向きが変わり始めた。

 エミリーはパーティーで見染められて伯爵令嬢になった。

 一応実家には挨拶に行ったらしいけど、ひどいもので、結局籍を抜いたみたい。

 だけど、その訪問のことは社交界で噂になって、サルナルド男爵は没落した。まるで小説みたいな話。

 エミリーはあの日私に出会ってよかったと何度も言ってくれる。

 だから、私は自己満足かもしれないけど、街で問題をみるとジェイクと一緒に解決を試みる。


 影で私たちは世直し夫婦とか呼ばれているみたいだけど、そんな大層な名前はいただけない。

 それはまるで、XXみたいだから。

 

 私は前世の記憶がある。だから世直しと聞くとあれを思い出す。

 だけど、私には印籠もなにもないし、そんな力もない。

 前世の記憶があるから、色々想像してしまう。

 長年虐げられた先には幸せがあるかもしれない。

 だけど、その過程はいらない。

 本当に辛くなる前に救い出してあげたい。

 可能な限り。

 

 ジェイクはそんな私を支えてくれるとてもいい旦那様だ。

 前世で死んだ記憶は思い出したくないものだけど、今はとても幸せだ。

 だからほかの人にも幸せになってほしい。


(おしまい)


 

 



 







 

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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 楽しいお話でした。 街中を回るということでは、遠山の金さんぽくもあります。
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