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クルイデル・エンファの憂鬱

 クルイデル・エンファは、悩んでいた。


 帝国軍第三魔法師団副団長補佐代理という、多数の部下を抱えるにしても微妙な立場である彼。

 つい手を出してしまった奴隷女の子が魔法適正があるのが分かり、庶子として家に入れる事にした。上手くいけば魔法師団で使い潰せる駒として、上司に上納できた筈であった。

 その子が一年前、十四の時に高熱を出し、魔法が使えなくなってしまった。

 そんな事があるはずないと、医者にも看せたが原因は分からず。色んな調査をしてみたが、結局不明のまま。ただ、魔力値だけが異常に高い事が分かった。


 一般市民で30〜50。

 魔法師団新入団員で250程度。

 自分の魔力値が621。

 師団長で1200〜1500と聞いている。

 帝国一の魔力値を持つ第一魔法師団長で3500。


 なのに、6793。

 六千超えの魔力値。

 引取った時は、803だったというのに……。

 なのに魔法が使えない。


 上納の夢は破れた。

 それでも、まだ手があった。

 クラフダンジョンの餌にするという手。

 クラフダンジョンは、帝都に一番近く、最も深いとされるダンジョン。

 帝国貴族暗黙知であるが、クラフダンジョンは造られたダンジョンである。造られたといっても、始めは偶然であった。異民族の処理場が、いつの間にかダンジョン化したのだ。

 異民族達の血と肉と魔力がコアとなり、ダンジョンを形成した。


 高位魔族の死体からダンジョンが生まれたという噂を聞いた事があったが、まさか異民族からダンジョンが生まれるなんてことがあるなんて……。

 だが、このダンジョンは帝都にとって僥倖だった。

 ダンジョンは、富を生む。


 当初、二層程だったダンジョンは、度重なる異民族狩りにより遂には、六十九層。国内でも屈指のダンジョンとなった。どれ程の異民族の命が使われたのだろう。

「所詮、異民族だしな」

 ふと、口からこぼれた。


 このダンジョンに高い魔力の供給することは、貴族にとっての誉れだ。過去に、六十八層から六十九層に広がる時に異民族を投げ入れていたラキナゲ家は、多額の報奨金と共に、子爵から伯爵に陞爵された。

「あれは運が良かっただけだ」

 あの子を……6793の魔力値を放り込めば、七十層に広がったはず。

「クソ忌々しい」


 駒が無くなったのなら、まぁそれだけだった。

 悪いのは、失敗した事。同行した執事長のシツナットと下働きの三名が死に、次男であるチクナルデルを含む四人が生き残った──精神と身体に障害を残してだ。その上、下賜されていた地図まで失ってしまうとは…………。


 チクナルデルは、左目が白濁し視力を失っている。左耳も聴こえていないようだ。その上、極端に暗がりを怖がるようになってしまった。どこかで消すしかないだろう。

「大体がバンシーなんぞ、叫ばれる前に殺すか、耳栓しとけば何の問題もなかったろうに……」

 悔やまれる。

 ただ、ヒナギ山は、ほぼモンスターが出ないはず……。


「シツナット、酒を──」

 言いかけて言葉を止めた。

 執事長である彼はもういない。


 『運がない』


 そう思いながら、酒を取るために立ち上がった。

 

【昊ノ燈です】


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